155 / 311
魔石交易①
しおりを挟む
一瞬ここで今までと違った対応をすれば、ヴィダルスの熱も冷めるかも、と思ったりもしたが。
どんな対応をしても、強制力が働きそうな気がしたので、結局今まで通りの塩対応を貫くことにした。
警告はした。それでもヴィダルスが破滅の道を選ぶなら、もうどうしようもない。いざと言う時は本人の希望通り、俺がこの手でヴィダルスを殺そう。
それが運命に踊らされているヴィダルスの為に、俺ができる唯一のことだ。
これ以上話していても埒が明かない気がしたので、ヴィダルスを見据えたまま、片手で転移魔法陣を描く。対象を俺一人に指定すれば、どれほど密着されていても問題なく転移できる。
「……じゃあな。ヴィダルス。一年半後に限らず、叶うことならもう二度とお前と会わないことを願ってるよ。お前自身の為にもな」
転移魔法陣が発動する瞬間、ヴィダルスは不敵に笑った。
「……今にお前も、わかるさ。エドワード。お前は絶対に、運命からは逃げられない」
呪いのような言葉だった。
「ーー俺は必ず、あの夢を実現させてみせる」
「……ちょっと、エディ、遅いよ~。王太子の僕を待たせるなんて、いい度胸だね。この貸しは大きいよ」
次の瞬間、目の前にはわざとらしく頬を膨らませたクリスの姿があった。
「……悪い。ヴィダルスに捕まってた」
「そんなん、予想の範囲内でしょ? それを想定して、早めに出てきてよ」
「無茶言うなよ……」
「はいはい。そう言った話は帰国後にいくらでもできますから、後にしてください。取り敢えず、転移魔法を発動させてもいいですか? 私も他の【影】の仕事が控えているので」
「ちょっと、ダンテ、対応が雑じゃない? 僕はお前のご主人様で、王太子だよ?」
『クビにしよう、クビにしよう! クリスの下僕は俺だけで十分だもん』
「満足に力も制御できない闇使いは黙ってなさい。……あ、すみません。未熟過ぎて勝手に力が発動してしまうから、普段から筆談でしか話せない貴方に黙ってろだなんて、失言でしたね」
『殺すぞ、クソ影』
……あ、やっぱりジェフとダンテは仲が悪いのね。ジェフが軽くあしらわれてる辺り、立場や能力的にはダンテの方が上っぽいけど。
ダンテが転移魔法の準備をしている間、さっきのヴィダルスが言っていた「夢」という言葉について改めて考える。
「あの夢を実現させてみせる」、なあ。……アストルディアの言っていた「悪夢」といい、もしかしたら女神、「夢」という形で二人に介入してねぇか?
アストルディアが見たのが悪夢で、ヴィダルスが見たのが叶えたいと思うような良い夢という時点で腑に落ちないものがあるが、何となく間違っていない気がする。
だとしたら、どうして女神は、そんな夢を二人に見せた? 状況を引っかき廻して、観察して楽しむ為?
前世の妹ならやりかねないとも思うし、あいつはそんな奴じゃないと思う自分もいる。
女神の意図なのか、前世妹に関する記憶はかなり穴開きで、今の俺にはどちらが正しいのか判断ができないが。
「さあ、準備できましたよ。魔法陣に乗ってください」
ダンテの言葉に一旦考えるのをやめて、描かれた魔法陣へと足を進める。
アストルディアに問いただせばその真意がはかれるかもとも思ったけど、今は取り敢えず保留することにした。
今はそんなことよりも考えなければならないことがいくらでもある。
ふと視線を落とすと、左手の薬指にはアストルディアとの揃いの指輪が、右手の薬指にはヴィダルスの噛み痕がついているのが見えた。
地球では、国によって結婚指輪を右手の薬指にはめることもあるらしい。
ひどく苦いものが湧き上がるのを感じながら、魔法陣の上に乗っかった。
「……駄目だ。許可しない」
「何故ですか、父上。これはクリストファー第一王子主導の計画で、王家の許可を既に得ているものです! もっとも地理的に優位なネルドゥース辺境伯領が参入しないで、どうするのですか!」
帰国後。単身で辺境伯領へ戻った俺は、即刻領主の執務室に押し入り、頭ガチガチクソ親父の説得にかかっていた。
「セネーバとの魔石交易に着手すれば、必ず辺境伯領は発展します! 私がセネーバに留学している間に、父上はそれがわからないほど耄碌なさったんですか?」
どんな対応をしても、強制力が働きそうな気がしたので、結局今まで通りの塩対応を貫くことにした。
警告はした。それでもヴィダルスが破滅の道を選ぶなら、もうどうしようもない。いざと言う時は本人の希望通り、俺がこの手でヴィダルスを殺そう。
それが運命に踊らされているヴィダルスの為に、俺ができる唯一のことだ。
これ以上話していても埒が明かない気がしたので、ヴィダルスを見据えたまま、片手で転移魔法陣を描く。対象を俺一人に指定すれば、どれほど密着されていても問題なく転移できる。
「……じゃあな。ヴィダルス。一年半後に限らず、叶うことならもう二度とお前と会わないことを願ってるよ。お前自身の為にもな」
転移魔法陣が発動する瞬間、ヴィダルスは不敵に笑った。
「……今にお前も、わかるさ。エドワード。お前は絶対に、運命からは逃げられない」
呪いのような言葉だった。
「ーー俺は必ず、あの夢を実現させてみせる」
「……ちょっと、エディ、遅いよ~。王太子の僕を待たせるなんて、いい度胸だね。この貸しは大きいよ」
次の瞬間、目の前にはわざとらしく頬を膨らませたクリスの姿があった。
「……悪い。ヴィダルスに捕まってた」
「そんなん、予想の範囲内でしょ? それを想定して、早めに出てきてよ」
「無茶言うなよ……」
「はいはい。そう言った話は帰国後にいくらでもできますから、後にしてください。取り敢えず、転移魔法を発動させてもいいですか? 私も他の【影】の仕事が控えているので」
「ちょっと、ダンテ、対応が雑じゃない? 僕はお前のご主人様で、王太子だよ?」
『クビにしよう、クビにしよう! クリスの下僕は俺だけで十分だもん』
「満足に力も制御できない闇使いは黙ってなさい。……あ、すみません。未熟過ぎて勝手に力が発動してしまうから、普段から筆談でしか話せない貴方に黙ってろだなんて、失言でしたね」
『殺すぞ、クソ影』
……あ、やっぱりジェフとダンテは仲が悪いのね。ジェフが軽くあしらわれてる辺り、立場や能力的にはダンテの方が上っぽいけど。
ダンテが転移魔法の準備をしている間、さっきのヴィダルスが言っていた「夢」という言葉について改めて考える。
「あの夢を実現させてみせる」、なあ。……アストルディアの言っていた「悪夢」といい、もしかしたら女神、「夢」という形で二人に介入してねぇか?
アストルディアが見たのが悪夢で、ヴィダルスが見たのが叶えたいと思うような良い夢という時点で腑に落ちないものがあるが、何となく間違っていない気がする。
だとしたら、どうして女神は、そんな夢を二人に見せた? 状況を引っかき廻して、観察して楽しむ為?
前世の妹ならやりかねないとも思うし、あいつはそんな奴じゃないと思う自分もいる。
女神の意図なのか、前世妹に関する記憶はかなり穴開きで、今の俺にはどちらが正しいのか判断ができないが。
「さあ、準備できましたよ。魔法陣に乗ってください」
ダンテの言葉に一旦考えるのをやめて、描かれた魔法陣へと足を進める。
アストルディアに問いただせばその真意がはかれるかもとも思ったけど、今は取り敢えず保留することにした。
今はそんなことよりも考えなければならないことがいくらでもある。
ふと視線を落とすと、左手の薬指にはアストルディアとの揃いの指輪が、右手の薬指にはヴィダルスの噛み痕がついているのが見えた。
地球では、国によって結婚指輪を右手の薬指にはめることもあるらしい。
ひどく苦いものが湧き上がるのを感じながら、魔法陣の上に乗っかった。
「……駄目だ。許可しない」
「何故ですか、父上。これはクリストファー第一王子主導の計画で、王家の許可を既に得ているものです! もっとも地理的に優位なネルドゥース辺境伯領が参入しないで、どうするのですか!」
帰国後。単身で辺境伯領へ戻った俺は、即刻領主の執務室に押し入り、頭ガチガチクソ親父の説得にかかっていた。
「セネーバとの魔石交易に着手すれば、必ず辺境伯領は発展します! 私がセネーバに留学している間に、父上はそれがわからないほど耄碌なさったんですか?」
578
お気に入りに追加
2,088
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
【完結】悪役に転生したのにメインヒロインにガチ恋されている件
エース皇命
ファンタジー
前世で大好きだったファンタジー大作『ロード・オブ・ザ・ヒーロー』の悪役、レッド・モルドロスに転生してしまった桐生英介。もっと努力して意義のある人生を送っておけばよかった、という後悔から、学院で他を圧倒する努力を積み重ねる。
しかし、その一生懸命な姿に、メインヒロインであるシャロットは惚れ、卒業式の日に告白してきて……。
悪役というより、むしろ真っ当に生きようと、ファンタジーの世界で生き抜いていく。
ヒロインとの恋、仲間との友情──あれ? 全然悪役じゃないんだけど! 気づけば主人公になっていた、悪役レッドの物語!
※小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。
小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)
九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。
半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。
そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。
これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。
注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。
*ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます
猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」
「いや、するわけないだろ!」
相川優也(25)
主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。
碧スバル(21)
指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。
「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」
「スバル、お前なにいってんの……?」
冗談? 本気? 二人の結末は?
美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。
異世界へ下宿屋と共にトリップしたようで。
やの有麻
BL
山に囲まれた小さな村で下宿屋を営んでる倉科 静。29歳で独身。
昨日泊めた外国人を玄関の前で見送り家の中へ入ると、疲労が溜まってたのか急に眠くなり玄関の前で倒れてしまった。そして気付いたら住み慣れた下宿屋と共に異世界へとトリップしてしまったらしい!・・・え?どーゆうこと?
前編・後編・あとがきの3話です。1話7~8千文字。0時に更新。
*ご都合主義で適当に書きました。実際にこんな村はありません。
*フィクションです。感想は受付ますが、法律が~国が~など現実を突き詰めないでください。あくまで私が描いた空想世界です。
*男性出産関連の表現がちょっと入ってます。苦手な方はオススメしません。
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~
朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」
普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。
史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。
その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。
外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。
いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。
領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。
彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。
やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。
無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。
(この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる