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魔石交易①

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 一瞬ここで今までと違った対応をすれば、ヴィダルスの熱も冷めるかも、と思ったりもしたが。
 どんな対応をしても、強制力が働きそうな気がしたので、結局今まで通りの塩対応を貫くことにした。

 警告はした。それでもヴィダルスが破滅の道を選ぶなら、もうどうしようもない。いざと言う時は本人の希望通り、俺がこの手でヴィダルスを殺そう。
 それが運命に踊らされているヴィダルスの為に、俺ができる唯一のことだ。

 これ以上話していても埒が明かない気がしたので、ヴィダルスを見据えたまま、片手で転移魔法陣を描く。対象を俺一人に指定すれば、どれほど密着されていても問題なく転移できる。

「……じゃあな。ヴィダルス。一年半後に限らず、叶うことならもう二度とお前と会わないことを願ってるよ。お前自身の為にもな」

 転移魔法陣が発動する瞬間、ヴィダルスは不敵に笑った。

「……今にお前も、わかるさ。エドワード。お前は絶対に、運命からは逃げられない」

 呪いのような言葉だった。

「ーー俺は必ず、あの夢を実現させてみせる」



「……ちょっと、エディ、遅いよ~。王太子の僕を待たせるなんて、いい度胸だね。この貸しは大きいよ」

 次の瞬間、目の前にはわざとらしく頬を膨らませたクリスの姿があった。

「……悪い。ヴィダルスに捕まってた」

「そんなん、予想の範囲内でしょ? それを想定して、早めに出てきてよ」

「無茶言うなよ……」

「はいはい。そう言った話は帰国後にいくらでもできますから、後にしてください。取り敢えず、転移魔法を発動させてもいいですか? 私も他の【影】の仕事が控えているので」

「ちょっと、ダンテ、対応が雑じゃない? 僕はお前のご主人様で、王太子だよ?」

『クビにしよう、クビにしよう! クリスの下僕は俺だけで十分だもん』

「満足に力も制御できない闇使いは黙ってなさい。……あ、すみません。未熟過ぎて勝手に力が発動してしまうから、普段から筆談でしか話せない貴方に黙ってろだなんて、失言でしたね」

『殺すぞ、クソ影』

 ……あ、やっぱりジェフとダンテは仲が悪いのね。ジェフが軽くあしらわれてる辺り、立場や能力的にはダンテの方が上っぽいけど。

 ダンテが転移魔法の準備をしている間、さっきのヴィダルスが言っていた「夢」という言葉について改めて考える。

 「あの夢を実現させてみせる」、なあ。……アストルディアの言っていた「悪夢」といい、もしかしたら女神、「夢」という形で二人に介入してねぇか?

 アストルディアが見たのが悪夢で、ヴィダルスが見たのが叶えたいと思うような良い夢という時点で腑に落ちないものがあるが、何となく間違っていない気がする。

 だとしたら、どうして女神は、そんな夢を二人に見せた? 状況を引っかき廻して、観察して楽しむ為?

 前世の妹ならやりかねないとも思うし、あいつはそんな奴じゃないと思う自分もいる。
 女神の意図なのか、前世妹に関する記憶はかなり穴開きで、今の俺にはどちらが正しいのか判断ができないが。

「さあ、準備できましたよ。魔法陣に乗ってください」

 ダンテの言葉に一旦考えるのをやめて、描かれた魔法陣へと足を進める。
 アストルディアに問いただせばその真意がはかれるかもとも思ったけど、今は取り敢えず保留することにした。
 今はそんなことよりも考えなければならないことがいくらでもある。

 ふと視線を落とすと、左手の薬指にはアストルディアとの揃いの指輪が、右手の薬指にはヴィダルスの噛み痕がついているのが見えた。
 地球では、国によって結婚指輪を右手の薬指にはめることもあるらしい。
 
 ひどく苦いものが湧き上がるのを感じながら、魔法陣の上に乗っかった。
 


「……駄目だ。許可しない」


「何故ですか、父上。これはクリストファー第一王子主導の計画で、王家の許可を既に得ているものです! もっとも地理的に優位なネルドゥース辺境伯領が参入しないで、どうするのですか!」

 帰国後。単身で辺境伯領へ戻った俺は、即刻領主の執務室に押し入り、頭ガチガチクソ親父の説得にかかっていた。

「セネーバとの魔石交易に着手すれば、必ず辺境伯領は発展します! 私がセネーバに留学している間に、父上はそれがわからないほど耄碌なさったんですか?」






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