上 下
154 / 311

右手薬指の宣誓②

しおりを挟む
 俺の血に塗れた口を、べろりと舌で舐めながら、ヴィダルスが嗤う。
 ヴィダルスの牙の餌食になった俺の右手の薬指は、骨まで噛みちぎられて、皮だけでつながっている状態だった。
 皮まで切れたら、再生がより困難になる。慌ててもげかけた指を切断面にくっつけて、聖魔法を唱える。

「っ……痕が」

 俺の実力なら、たとえ腕が引き千切られても、すぐに聖魔法を唱えれば痕を残さず治すことができる。
 それなのに、回復した俺の右手の薬指には、ミミズ腫れのように、噛みちぎられた跡がくっきり残ったままだった。
 アストルディアにつけられた、うなじの噛み痕のように。

「それは、予約の証だ。エドワード。お前がどれだけ拒絶しようが、たとえ俺以外と番ってようが、一年半後には必ずお前のうなじを噛んでお前を番にする。無理やりでも、お前を俺のもんにする。本当は今すぐそうしてぇが、残念ながらまだ力不足だからな。その指の跡だけで満足してやるよ」

 にいっと歯を剥き出しにして、ヴィダルスは狂気に満ちた笑みを浮かべた。

「お前が俺の求愛に応えてくれるのなら、大切に大切にしてやるつもりだったが、どこまでも拒絶するなら仕方ねぇ。一年半後もお前が同じ言葉を口にするようなら、そん時は鎖に繋いで、ランドルーク家の地下牢に閉じ込めて飼ってやるよ。服も着せねぇ、他の誰にも会わせねぇ。ただ俺が望んだ時に股開いて、ガキを孕むだけの存在まで堕としてから、俺だけを愛するように調教してやる。安心しろ。正妻扱いでも、性奴隷扱いでも、番は番だ。俺は、一生お前だけを愛してやるよ」

 ぞくりと、鳥肌が立った。
 まるで俺が自ら、原作通りヴィダルスの性奴隷になる道を選んでしまったような気がして。

「……考え直せ。ヴィダルス。今ならまだ間に合う。お前がうなじを噛んでない今なら、まだ別の番を選べるんだ」

 敬語をやめて、まっすぐにヴィダルスを見据えた。

「俺を番にしたら、お前は必ず不幸になるぞ。そうなれば遠くない未来に俺は闇魔法に飲まれ、お前を操って破滅に導く。絶対にだ。悪いことを言わないから、他を当たれ。王族であるお前の番になりたい奴なんていくらでもいるだろ」

 心からの俺の忠告に、ヴィダルスは心底嬉しそうに目を細めた。

「やっと敬語をやめて、素を出したなァ。エドワード。確かにお前の闇魔法? はやべぇ。すでに一度やられてっしなァ」

「じゃあ……」

「でも、だから何だって言うんだ? お前が俺を闇魔法で破滅させる時は、お前も闇魔法に飲まれて破滅してんだろお? 最高じゃねぇか」

 当然のように返された言葉に、絶句する。

「番と共に生きられねぇ平穏な人生よか、番と共に破滅して共に死ねる人生の方がずっと幸福だ。狼獣人なら、みなそう思う。……つくづく種族の業って奴は恐ろしいぜ。俺の獅子獣人の血は、どこ行ったんだよ」

 喉を鳴らして笑いながら、ヴィダルスは俺の手を取り、ベロリと薬指の噛み跡を舐めた。

「俺を諦めさせたきゃ、俺を殺せ。エドワード。俺は生きてる限り、お前を追いかけ続ける。お前は俺の唯一の番で、命を懸けるに値する獲物だからなァ」

「……それが、定められた運命だからか」

「俺がそう決めたからだ。そしてお前が、そう決めさせた。お前が、どこかで俺の愛を受け入れていたら。お前が、親善試合で俺と戦う前に負けていたら。決勝戦で、俺を負かさなかったら。きっとお前への想いはここまで育たなかった。全部お前のせいだ。エドワード。必ず、責任は取ってもらう。お前の体と、人生でよお」

 ……それが全て、女神によって操作された感情だって言っても、ヴィダルスはけして認めはしないんだろうな。
 本当にどこまでも、かわいそうな奴だ。

「お前が何て言おうが、俺の気持ちは変わらないし、お前が俺の野望を邪魔するようなら、容赦なく殺してやる」
しおりを挟む
感想 160

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

【完結】悪役に転生したのにメインヒロインにガチ恋されている件

エース皇命
ファンタジー
 前世で大好きだったファンタジー大作『ロード・オブ・ザ・ヒーロー』の悪役、レッド・モルドロスに転生してしまった桐生英介。もっと努力して意義のある人生を送っておけばよかった、という後悔から、学院で他を圧倒する努力を積み重ねる。  しかし、その一生懸命な姿に、メインヒロインであるシャロットは惚れ、卒業式の日に告白してきて……。  悪役というより、むしろ真っ当に生きようと、ファンタジーの世界で生き抜いていく。  ヒロインとの恋、仲間との友情──あれ? 全然悪役じゃないんだけど! 気づけば主人公になっていた、悪役レッドの物語! ※小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)

九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。 半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。 そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。 これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。 注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。 *ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談? 本気? 二人の結末は? 美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

異世界へ下宿屋と共にトリップしたようで。

やの有麻
BL
山に囲まれた小さな村で下宿屋を営んでる倉科 静。29歳で独身。 昨日泊めた外国人を玄関の前で見送り家の中へ入ると、疲労が溜まってたのか急に眠くなり玄関の前で倒れてしまった。そして気付いたら住み慣れた下宿屋と共に異世界へとトリップしてしまったらしい!・・・え?どーゆうこと? 前編・後編・あとがきの3話です。1話7~8千文字。0時に更新。 *ご都合主義で適当に書きました。実際にこんな村はありません。 *フィクションです。感想は受付ますが、法律が~国が~など現実を突き詰めないでください。あくまで私が描いた空想世界です。 *男性出産関連の表現がちょっと入ってます。苦手な方はオススメしません。

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

処理中です...