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好きな指にはめてくれ
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唖然としているアストルディアの手の中に、残ったもう一つの指輪を握り込ませて、左手を差し出す。
「好きな指にはめてくれ。アスティ。……そしてどの指にはめようと、1年後には薬指にはめ直すと約束してくれ。その約束があれば、俺はお前が隣りにいない辺境伯領でも頑張れるはずだから」
左手の薬指にはめて欲しいなんて、簡単に言えるような状況ではないのはわかってる。
それでも俺は約束が欲しかった。1年後に再会して共に生きるという約束が。
その約束さえあれば、きっと俺はアストルディアが隣りにいない辺境伯領でも未来を変える為に1人で頑張れると思ったから。
「お前がはめる指を選ばせてくれると言うのなら……1年後であろうが、今であろうが、俺の気持ちは変わらない」
指輪を手に取ったアストルディアが、当然のように俺の左手の薬指にそれをはめた。
そのままその場に片膝をついたアストルディアは、俺の手を取り、ぴったりと指にはまったその指輪に優しく口づけを落とした。
「お前は俺の番、俺の唯一だ。俺は必ず、お前と共に生きることができる未来を切り拓いてみせる。だから、どうかその時を待っていてくれ」
「……嫌に決まってんだろ」
「エディ?」
ボッと毛並みを逆立てたアストルディアに、不敵に笑いかける。
「ただ待ってるだけなんて、絶対に嫌だ。一緒に未来を切り拓くんだよ。アスティ。二人で運命を変えるんだ」
そう言って俺もアストルディアの左手を手にとり、そっと左手の指輪に口づけた。
「ーーきっと、今後はセネーバの未来も大きく変わってくることだろう。それが良いものなのか、悪いものであるのかは、人によって違ってくるとは思う」
卒業生の代表として、壇上に立つアストルディアをクラスメイトに囲まれながらまっすぐ見据える。
「ただ一つ、言えるのは。変化そのものを恐れるな、と言うことだ。ここ百年の間でも、我々獣人が生きる環境は大きく変動してきた。どれほど不変を願ったとしても、時は流れ、取り巻く世界は変わっていく。時代に取り残されたまま不変に囚われ続けることは、衰退を許すことでもある。変わりゆく環境に適応し、強かに生きろ。同じ学び舎で過ごした俺達には皆、その力があると俺は信じている」
卒業式のスピーチなんて、大抵の人は話半分で聞き逃す退屈なものだと思っていた。
けれど周囲の人間達は、皆一様に真剣な眼差しでアストルディアのスピーチに聞き入っていた。
アストルディアのスピーチはけして奇抜な内容ではなかったが、聞いたものを奮い立たせるような、不思議な力が宿っているように思えた。
恐らくこの言葉の重みこそが、アストルディアの王の素質の一つなのだろう。建国祭の時に聞いた、王太子カーディンクルのスピーチからは感じられなかったものだ。
ーーきっと、アストルディアは王太子である兄を蹴落として、王になる。
たとえ本人が辞退したとしても、周囲がけしてそれを許さないだろう。
変えようと奔走している運命が、再び本来の方向に流れていくのを感じながら、一人唇を噛む。
……大丈夫。アストルディアが王になれば、それだけ戦争が止めやすくなるだけだ。計画には、何も問題はない。
握った拳の中に汗が滲み出ていくのを感じながら、熱に浮かされたようにスピーチを終えたアストルディアを讃える生徒達の声を、黙って聞いていた。
「……やだよー。俺、エド様と離れたくねぇよー! エド様の美味い飯が食えねぇ日々なんて、考えらんないもん。エド様も、セネーバの王宮兵になってくれよー」
「……いや、さすがに他国の人間が王宮兵になるのは、無理があるっしょ」
「エド様が王宮兵になってくれれば、俺も嬉しいけどね。さすがに無理だから、アンゼ。俺と一緒なだけで満足してよ」
「だって、タンクと俺は配属違うじゃねぇか! 俺の配属先、ランドルーク家の人が最初に配属されるのが暗黙の了解なっている部隊らしくて、配属変わらねぇ限り、来年ヴィダルス様が入ってくんだよぉ! 絶対嫌だあああああああ」
「いや、でもヴィダルス様はランドルーク家当主目指してるらしいから、兵団入るとは限らないし……」
「いやいやー。情報収集甘いよ、タンク。ランドルーク家当主になる条件として、兵団で成果をあげることも含まれてるって有名な話じゃん。あと、王族は元々力がすごいから、所属してすぐに部隊長に任命されたりもするし。来年は恐らく、ヴィダルス様はアンゼの上司だね」
「うわ……アンゼ、ご愁傷様。」
「うわあああん! エド様、ついて来てくれよお! エド様いれば、ヴィダルス様もきっとそこまで横暴じゃなくなるはずだから!」
「……無茶言わないでください」
「好きな指にはめてくれ。アスティ。……そしてどの指にはめようと、1年後には薬指にはめ直すと約束してくれ。その約束があれば、俺はお前が隣りにいない辺境伯領でも頑張れるはずだから」
左手の薬指にはめて欲しいなんて、簡単に言えるような状況ではないのはわかってる。
それでも俺は約束が欲しかった。1年後に再会して共に生きるという約束が。
その約束さえあれば、きっと俺はアストルディアが隣りにいない辺境伯領でも未来を変える為に1人で頑張れると思ったから。
「お前がはめる指を選ばせてくれると言うのなら……1年後であろうが、今であろうが、俺の気持ちは変わらない」
指輪を手に取ったアストルディアが、当然のように俺の左手の薬指にそれをはめた。
そのままその場に片膝をついたアストルディアは、俺の手を取り、ぴったりと指にはまったその指輪に優しく口づけを落とした。
「お前は俺の番、俺の唯一だ。俺は必ず、お前と共に生きることができる未来を切り拓いてみせる。だから、どうかその時を待っていてくれ」
「……嫌に決まってんだろ」
「エディ?」
ボッと毛並みを逆立てたアストルディアに、不敵に笑いかける。
「ただ待ってるだけなんて、絶対に嫌だ。一緒に未来を切り拓くんだよ。アスティ。二人で運命を変えるんだ」
そう言って俺もアストルディアの左手を手にとり、そっと左手の指輪に口づけた。
「ーーきっと、今後はセネーバの未来も大きく変わってくることだろう。それが良いものなのか、悪いものであるのかは、人によって違ってくるとは思う」
卒業生の代表として、壇上に立つアストルディアをクラスメイトに囲まれながらまっすぐ見据える。
「ただ一つ、言えるのは。変化そのものを恐れるな、と言うことだ。ここ百年の間でも、我々獣人が生きる環境は大きく変動してきた。どれほど不変を願ったとしても、時は流れ、取り巻く世界は変わっていく。時代に取り残されたまま不変に囚われ続けることは、衰退を許すことでもある。変わりゆく環境に適応し、強かに生きろ。同じ学び舎で過ごした俺達には皆、その力があると俺は信じている」
卒業式のスピーチなんて、大抵の人は話半分で聞き逃す退屈なものだと思っていた。
けれど周囲の人間達は、皆一様に真剣な眼差しでアストルディアのスピーチに聞き入っていた。
アストルディアのスピーチはけして奇抜な内容ではなかったが、聞いたものを奮い立たせるような、不思議な力が宿っているように思えた。
恐らくこの言葉の重みこそが、アストルディアの王の素質の一つなのだろう。建国祭の時に聞いた、王太子カーディンクルのスピーチからは感じられなかったものだ。
ーーきっと、アストルディアは王太子である兄を蹴落として、王になる。
たとえ本人が辞退したとしても、周囲がけしてそれを許さないだろう。
変えようと奔走している運命が、再び本来の方向に流れていくのを感じながら、一人唇を噛む。
……大丈夫。アストルディアが王になれば、それだけ戦争が止めやすくなるだけだ。計画には、何も問題はない。
握った拳の中に汗が滲み出ていくのを感じながら、熱に浮かされたようにスピーチを終えたアストルディアを讃える生徒達の声を、黙って聞いていた。
「……やだよー。俺、エド様と離れたくねぇよー! エド様の美味い飯が食えねぇ日々なんて、考えらんないもん。エド様も、セネーバの王宮兵になってくれよー」
「……いや、さすがに他国の人間が王宮兵になるのは、無理があるっしょ」
「エド様が王宮兵になってくれれば、俺も嬉しいけどね。さすがに無理だから、アンゼ。俺と一緒なだけで満足してよ」
「だって、タンクと俺は配属違うじゃねぇか! 俺の配属先、ランドルーク家の人が最初に配属されるのが暗黙の了解なっている部隊らしくて、配属変わらねぇ限り、来年ヴィダルス様が入ってくんだよぉ! 絶対嫌だあああああああ」
「いや、でもヴィダルス様はランドルーク家当主目指してるらしいから、兵団入るとは限らないし……」
「いやいやー。情報収集甘いよ、タンク。ランドルーク家当主になる条件として、兵団で成果をあげることも含まれてるって有名な話じゃん。あと、王族は元々力がすごいから、所属してすぐに部隊長に任命されたりもするし。来年は恐らく、ヴィダルス様はアンゼの上司だね」
「うわ……アンゼ、ご愁傷様。」
「うわあああん! エド様、ついて来てくれよお! エド様いれば、ヴィダルス様もきっとそこまで横暴じゃなくなるはずだから!」
「……無茶言わないでください」
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