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原作アストルディア③
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腹に回されたアストルディアの手が、こわばった。
「結局戦争は止められなくて、俺とお前が戦うことになって、俺はお前に負けて……ヴィダルスの性奴隷にされる。悲惨な状況に狂った俺はお前を殺したいくらい憎むようになって、息子を暗殺者に育てあげてお前を殺させようとするんだ。けれど俺じゃない番を戦争で亡くしていたお前は、俺の息子と惹かれあい、俺を殺して結ばれる……それが正しい運命なのだと言ったら、お前はどうする」
「言っただろう。エディ」
アストルディアが後ろから、俺の手を強く握った。
「お前と共に生きられない運命なぞ、いらない。お前に俺の番になれと言ったあの時よりも、今はより強くそう思っている」
迷いがない、はっきりとした答えだった。
「……それに、お前が告げた正しい運命は、お前が思っている以上に悍ましいものだ。他の狼獣人がその話を聞けば、その正しい運命とやらの俺を嫌悪することだろう」
「どういう意味だ?」
「番を亡くした狼獣人は、狂う。番の後を追うか、代替を求めて禁忌を犯すか、必死に狂気を押さえ込みながらただただ死を待ち望むか……狂気の現れ方にこそ差はあっても、みな一様に狂う。正しい運命とやらの俺も、番を亡くした時点で狂っているはずだ」
……原作アストルディア、そんな狂っている感じとか別にしなかったけどなあ。
感情は凍りついて心を閉ざしてはいたけど、基本的に冷静だったし。主人公が暗殺者とわかっても、諦められない恋情……いや、劣情か? にめっちゃ心乱されてる感はあったから、そう言う意味ではおかしくなってたと言えるかもしれないけど。寧ろあれは「感情を亡くした王に、再び感情が芽生えだした」みたいな前向きな描写だったはずだし。
「運命を変えるぞ。エディ。……お前の話を聞いて、ますます強く、そうしなければならないと思った」
俺が番であることを確かめるように、アストルデは繰り返しうなじの噛み跡を甘噛みする。
「俺はお前を、絶対に離したりしない。他の誰にも渡さないし、俺より先に死なせたりもしない。……お前も、いつか生まれてくるお前と俺の子も、必ず俺が幸せにしてみせる」
まるで自分に言い聞かせているみたいな言葉だった。
「だからエディ。どうかお前も、運命なんてものに囚われず、ずっと俺の側で共に生きてくれ」
冬の終わりと共に、その日はやって来た。
「ーー今日でいよいよ、卒業だなあ。アスティ」
「…………ああ、そうだな」
と言っても、俺はリシス王国に帰国後、試験に合格して初めて正式に卒業資格を得るわけだけど。
絶対合格するからと、一足早く卒業式が行われるセネーバで、ちゃっかり卒業生に混ざって送り出してもらうことになっている。1年間同じクラスで過ごした奴らと、どうせなら一緒に卒業したいじゃん。
「その……話したいことと言うのは」
「ああ。クリスから、卒業祝いと今後の餞にって、これもらったんだ。俺とアスティにって」
「これは……指輪か?」
「指輪型の魔道具だって。以前頭の毛をもらって、魔法で声を届けたことがあっただろう? あの時は一方通行でしか言葉を送れなかったけど、これを使えばどれだけ遠い場所にいたとしても会話ができるんだってさ」
そんな電話のような魔道具が存在していたことを知らなかったから、クリスに説明された時は驚いた。
クリスの手駒の一人が、開発したばかりの最新式の魔道具らしい。鑑定さんを通して確認しても、特に裏はなさそうだったのでありがたくちょうだいした。
装備する人間の指の太さに合わせて形状が変わる2つのシルバーのリングのうちの一つを、摘んでアストルディアに差し出す。
「左手を出してくれ。アスティ」
そしてそのまま、差し出されたアストルディアの左手の薬指に指輪をはめた。
「セネーバにも、リシス王国にもない慣習だけど……遠い遠い場所にあるとある国では、結婚の証として左手の薬指に揃いの指輪を嵌めるらしい。結婚式で、互いに指輪を嵌めさせあって、永遠の愛を神に誓うんだ」
「結局戦争は止められなくて、俺とお前が戦うことになって、俺はお前に負けて……ヴィダルスの性奴隷にされる。悲惨な状況に狂った俺はお前を殺したいくらい憎むようになって、息子を暗殺者に育てあげてお前を殺させようとするんだ。けれど俺じゃない番を戦争で亡くしていたお前は、俺の息子と惹かれあい、俺を殺して結ばれる……それが正しい運命なのだと言ったら、お前はどうする」
「言っただろう。エディ」
アストルディアが後ろから、俺の手を強く握った。
「お前と共に生きられない運命なぞ、いらない。お前に俺の番になれと言ったあの時よりも、今はより強くそう思っている」
迷いがない、はっきりとした答えだった。
「……それに、お前が告げた正しい運命は、お前が思っている以上に悍ましいものだ。他の狼獣人がその話を聞けば、その正しい運命とやらの俺を嫌悪することだろう」
「どういう意味だ?」
「番を亡くした狼獣人は、狂う。番の後を追うか、代替を求めて禁忌を犯すか、必死に狂気を押さえ込みながらただただ死を待ち望むか……狂気の現れ方にこそ差はあっても、みな一様に狂う。正しい運命とやらの俺も、番を亡くした時点で狂っているはずだ」
……原作アストルディア、そんな狂っている感じとか別にしなかったけどなあ。
感情は凍りついて心を閉ざしてはいたけど、基本的に冷静だったし。主人公が暗殺者とわかっても、諦められない恋情……いや、劣情か? にめっちゃ心乱されてる感はあったから、そう言う意味ではおかしくなってたと言えるかもしれないけど。寧ろあれは「感情を亡くした王に、再び感情が芽生えだした」みたいな前向きな描写だったはずだし。
「運命を変えるぞ。エディ。……お前の話を聞いて、ますます強く、そうしなければならないと思った」
俺が番であることを確かめるように、アストルデは繰り返しうなじの噛み跡を甘噛みする。
「俺はお前を、絶対に離したりしない。他の誰にも渡さないし、俺より先に死なせたりもしない。……お前も、いつか生まれてくるお前と俺の子も、必ず俺が幸せにしてみせる」
まるで自分に言い聞かせているみたいな言葉だった。
「だからエディ。どうかお前も、運命なんてものに囚われず、ずっと俺の側で共に生きてくれ」
冬の終わりと共に、その日はやって来た。
「ーー今日でいよいよ、卒業だなあ。アスティ」
「…………ああ、そうだな」
と言っても、俺はリシス王国に帰国後、試験に合格して初めて正式に卒業資格を得るわけだけど。
絶対合格するからと、一足早く卒業式が行われるセネーバで、ちゃっかり卒業生に混ざって送り出してもらうことになっている。1年間同じクラスで過ごした奴らと、どうせなら一緒に卒業したいじゃん。
「その……話したいことと言うのは」
「ああ。クリスから、卒業祝いと今後の餞にって、これもらったんだ。俺とアスティにって」
「これは……指輪か?」
「指輪型の魔道具だって。以前頭の毛をもらって、魔法で声を届けたことがあっただろう? あの時は一方通行でしか言葉を送れなかったけど、これを使えばどれだけ遠い場所にいたとしても会話ができるんだってさ」
そんな電話のような魔道具が存在していたことを知らなかったから、クリスに説明された時は驚いた。
クリスの手駒の一人が、開発したばかりの最新式の魔道具らしい。鑑定さんを通して確認しても、特に裏はなさそうだったのでありがたくちょうだいした。
装備する人間の指の太さに合わせて形状が変わる2つのシルバーのリングのうちの一つを、摘んでアストルディアに差し出す。
「左手を出してくれ。アスティ」
そしてそのまま、差し出されたアストルディアの左手の薬指に指輪をはめた。
「セネーバにも、リシス王国にもない慣習だけど……遠い遠い場所にあるとある国では、結婚の証として左手の薬指に揃いの指輪を嵌めるらしい。結婚式で、互いに指輪を嵌めさせあって、永遠の愛を神に誓うんだ」
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