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クリスの本音

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 突然のクリスのデレに、思わず身構える。
 ……一体何を企んでるんだ。次は。
 そんな気持ちがもろ顔に出ていたのか、クリスは眉をハの字にして苦笑した。

「いやだな。そんなに警戒しないでよ。本心を口にしただけなのに」

「……私を魅了して、都合の良い駒にしようとしてる訳じゃなく?」

「数ヶ月前ならともかく、今のエディは無理だよ。付けいれる心の隙間が、なくなっちゃったから。僕とすれば、それが良かったのか悪かったのか微妙なとこだけどね」

 ……魅了なんかしないとは、言わないのな。お前はそう言う奴だよ。

「忘れないで、エディ。僕はエディの絶対的な味方ではないけど、『戦争を回避したい』と言う気持ちは本心なんだ。いざと言う時はリシス王国の為に辺境伯領を切り捨てるけど、積極的に切り捨てるつもりはない。辺境伯領も、僕が守りたいリシス王国の一部だからね。だから基本的には、僕は君の味方さ」

「……知ってますよ。そんなこと。だから『信じてる』って言ったんです」

 クリスがリシス王国を想う気持ちは本物だし、今彼が口にしたことにも一切嘘はない。そう思えるくらいには、俺はクリスを信頼している。
 クリスがいなければ、交易を再開することもできないまま、問答無用で戦争に突入していたことだろう。

「俺も、クリスにはすごく感謝してるし……大切な友人だと思ってるよ」

 この気持ちには、嘘はない。
 すごくすごく感謝してるし、心から気は許せなくても、それでも俺はクリスを大切な友人だと思っている。
 クリスが困ってたら……辺境伯領とセネーバに実害がない範囲ではあるけれど……できることは何だってしてやりたいと思うくらいに。

 俺の言葉に、クリスはニヤリと人の悪い笑みを浮かべた。

「エディ、口調」

「あ」

「せっかく色んな獣人とも親しくなったわけだし、その下手な敬語キャラもやめたらー? 敬語使わなくても、一応演技はできるでしょう? 敬語キャラより、もっと下手くそだけど。せっかくだから敬語無しの演技力を磨く訓練しなよ」

 ……くそぅ。さらっと第二モードの演技もバレバレだって暗に伝えてくんなよ。
 やっぱ、こいつ嫌いー。いや、友人として、好きは好きだけどー。でも、嫌いなとこは嫌いー。

 歯噛みする俺を前にニヤニヤ笑っていたクリスだが、不意に真顔になった。

「卒業まで、あと少し。準備期間はまもなく終わって、これからが本番だよ」

「……はい」  

「一緒に世界を変えよう。エディ。……きっと、僕たちならそれができるさ」

 いつだって自信満々なクリスの声が、少しだけ震えていた。
 俺の共感を得る為にわざと声を震わせたのか、思わず本当の気持ちが漏れてしまったのか……わからないけど、何故か不思議と後者だと思った。
 前世の記憶を持ってないのにも関わらず、チート級の頭脳と能力を持ったクリスも、まだ18歳。未知の未来に挑むことが怖くないはずがないのだ。……それを、周りに知られないようにしてるだけで。
 声が震えていることを突っ込んだら、二度とクリスは本音を見せてくれない気がして。小さく笑って、クリスの手を握る。

「ええ。……必ず」

『ちょっとエディ。俺のクリスに勝手に触らないでー。それは俺の特権だよー』

「どうしても、クリスの手を握り締めたくなったんで。同時にジェフの手も握るんで、許してください」

『何その、謎説得。まあ、エディなら特別許してあげる。エディは、クリスと似てるからね~』

 性格も顔も全く違うけど、それでも俺とクリスの根本はよく似てる。
 俺が辺境伯領を第一に考えるように、クリスはリシス王国を第一に考える。……どれだけ他に大事なものができても、その優先順位だけは変えられない。
 結局俺達は誰よりも、生まれ持った使命に縛られているのだ。だからこそ、互いに絶対的な味方になれない代わりに、互いを誰よりも理解できる友人になれる。






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