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変わった物②
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二人の関係は相変わらずなようで、何より。
「……でも、それだけたくさんの伝手を得れたってことは、それだけ多くの情報も得れたってことでしょ? 対獣人戦の攻略法とか、ね。それでも、計画は変わらないの?」
小声で囁かれた言葉に、一瞬びくりと体が跳ねた。
獣人の身体強化は個人差があり、強い獣人の身体強化は魔法ですら弾くけど、それほどでもない場合は物理攻撃でも十分に倒せる。
魔力譲渡を行えば一時的に大抵の獣人の身体強化を緩めることはできるし、求愛と思わせて動揺を誘うことも可能。
属性が攻撃に反映されない獣人がほとんどである為、物理攻撃が通じないアンデッドモンスターを倒せるものもほとんどいない……つまり、アンデッドモンスターを使役できるネクロマンサーならば、大抵の獣人に対して無双できる。
これらの事実を鑑みても、兵団長や王族クラスの実力の獣人はともかく、一般的な獣人ならば、リシス王国の一般兵でも十分対抗できるだろう。
そして兵団長や王族クラスであったとしても、悪役チート持ちの俺ならば倒せる可能性はとても高い。……ただ一人、【女神の愛の呪い】で勝てないことを宿命づけられた、アストルディア以外ならば。
つまりアストルディアさえ完全に掌握してしまえば、たとえ未来に戦争が起こったとしても、原作とは違い人間側が勝利する可能性が高いのだ。もし俺が、その気になりさえすれば。
そしてそのことに、恐らくクリスも気づいている。
「はい。計画を変えるつもりはありません。私はとにかく、絶対に戦争は起こしたくはないのです」
「戦争を起こした方が、リシス王国や、辺境伯領に利益があったとしても?」
「その利益に目がくらんで獣人を奴隷化した結果が、半世紀前の敗戦でしょう。たとえ戦争で一時的に領地が潤ったとしても、やがてそのしっぺ返しを受ける時がやって来ます。長い目で見れば、平和的に共存した方が、大きな利益になるはずです」
迷うまでもない問いだ。どれだけ人間に有利な情報を得ても、どれだけ運命の時が近づいてきていても、これだけは絶対に変わらない。
戦争は嫌だ。辺境伯領の民が犠牲になるのはもちろんだけど、最近ではますますセネーバ側で犠牲者がでることにも耐えられなくなってきた。
だって、獣人も人間も、何も変わらないんだ。悪い奴もいれば良い奴もいて……そして俺は交流を通じて「良い奴ら」のことも、たくさんたくさん知ってしまった。
自分が死ぬことは、それほど怖くない。数多の罪のない人達の死の責任を追わなければならないことが、今も変わらず怖くて仕方ない。
だから、俺は必ず戦争を止めてみせる。リシス王国の敗戦の運命を変えるのではなく、セネーバとリシス王国が戦争をせずに共存できる道を、切り拓くんだ。
「……それを聞いて、安心したよ。今のエディに考えを改められたら、さすがの僕でも戦争は止められないだろうからね」
「それで? 結局二国間の交易は再開できそうなんですか」
「ああ。先日、正式に条約を結んだようだよ。全てはアストルディアの後押しのおかげさ」
「アストルディア第二王子が?」
「そうだよ。彼がセネーバ最大の懸念事項を解決したんだ」
クリス曰く。交易を再開するに当たって、セネーバがもっとも懸念したのは、転移魔法を使える魔法士の存在だったという。
交易の体で、セネーバを訪れて座標を記録した転移魔法使いが、後日数多の兵を引き連れて国内に転移して奇襲をかけてくる可能性を、セネーバは恐れたのだ。
「リシス王国で転移魔法を使えるものは少ないですし、同時に転移させられる人間の数もそれほど多くはないはずですが……」
「そうだね。リシス王国民の僕らはそれを知ってるけど、残念ながらセネーバの上層部にそれを証明する術はなかったんだよ。何せ半世紀前の戦争では、獣人兵から逃げる為に数百人をネーバ山の向こうに同時転移させた強者がいたと記録に残ってたらしいからね。どこまで本当かはわからないけど」
「っ数百っ!?」
「……でも、それだけたくさんの伝手を得れたってことは、それだけ多くの情報も得れたってことでしょ? 対獣人戦の攻略法とか、ね。それでも、計画は変わらないの?」
小声で囁かれた言葉に、一瞬びくりと体が跳ねた。
獣人の身体強化は個人差があり、強い獣人の身体強化は魔法ですら弾くけど、それほどでもない場合は物理攻撃でも十分に倒せる。
魔力譲渡を行えば一時的に大抵の獣人の身体強化を緩めることはできるし、求愛と思わせて動揺を誘うことも可能。
属性が攻撃に反映されない獣人がほとんどである為、物理攻撃が通じないアンデッドモンスターを倒せるものもほとんどいない……つまり、アンデッドモンスターを使役できるネクロマンサーならば、大抵の獣人に対して無双できる。
これらの事実を鑑みても、兵団長や王族クラスの実力の獣人はともかく、一般的な獣人ならば、リシス王国の一般兵でも十分対抗できるだろう。
そして兵団長や王族クラスであったとしても、悪役チート持ちの俺ならば倒せる可能性はとても高い。……ただ一人、【女神の愛の呪い】で勝てないことを宿命づけられた、アストルディア以外ならば。
つまりアストルディアさえ完全に掌握してしまえば、たとえ未来に戦争が起こったとしても、原作とは違い人間側が勝利する可能性が高いのだ。もし俺が、その気になりさえすれば。
そしてそのことに、恐らくクリスも気づいている。
「はい。計画を変えるつもりはありません。私はとにかく、絶対に戦争は起こしたくはないのです」
「戦争を起こした方が、リシス王国や、辺境伯領に利益があったとしても?」
「その利益に目がくらんで獣人を奴隷化した結果が、半世紀前の敗戦でしょう。たとえ戦争で一時的に領地が潤ったとしても、やがてそのしっぺ返しを受ける時がやって来ます。長い目で見れば、平和的に共存した方が、大きな利益になるはずです」
迷うまでもない問いだ。どれだけ人間に有利な情報を得ても、どれだけ運命の時が近づいてきていても、これだけは絶対に変わらない。
戦争は嫌だ。辺境伯領の民が犠牲になるのはもちろんだけど、最近ではますますセネーバ側で犠牲者がでることにも耐えられなくなってきた。
だって、獣人も人間も、何も変わらないんだ。悪い奴もいれば良い奴もいて……そして俺は交流を通じて「良い奴ら」のことも、たくさんたくさん知ってしまった。
自分が死ぬことは、それほど怖くない。数多の罪のない人達の死の責任を追わなければならないことが、今も変わらず怖くて仕方ない。
だから、俺は必ず戦争を止めてみせる。リシス王国の敗戦の運命を変えるのではなく、セネーバとリシス王国が戦争をせずに共存できる道を、切り拓くんだ。
「……それを聞いて、安心したよ。今のエディに考えを改められたら、さすがの僕でも戦争は止められないだろうからね」
「それで? 結局二国間の交易は再開できそうなんですか」
「ああ。先日、正式に条約を結んだようだよ。全てはアストルディアの後押しのおかげさ」
「アストルディア第二王子が?」
「そうだよ。彼がセネーバ最大の懸念事項を解決したんだ」
クリス曰く。交易を再開するに当たって、セネーバがもっとも懸念したのは、転移魔法を使える魔法士の存在だったという。
交易の体で、セネーバを訪れて座標を記録した転移魔法使いが、後日数多の兵を引き連れて国内に転移して奇襲をかけてくる可能性を、セネーバは恐れたのだ。
「リシス王国で転移魔法を使えるものは少ないですし、同時に転移させられる人間の数もそれほど多くはないはずですが……」
「そうだね。リシス王国民の僕らはそれを知ってるけど、残念ながらセネーバの上層部にそれを証明する術はなかったんだよ。何せ半世紀前の戦争では、獣人兵から逃げる為に数百人をネーバ山の向こうに同時転移させた強者がいたと記録に残ってたらしいからね。どこまで本当かはわからないけど」
「っ数百っ!?」
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