上 下
144 / 311

変わった物②

しおりを挟む
 二人の関係は相変わらずなようで、何より。

「……でも、それだけたくさんの伝手を得れたってことは、それだけ多くの情報も得れたってことでしょ? 対獣人戦の攻略法とか、ね。それでも、計画は変わらないの?」

 小声で囁かれた言葉に、一瞬びくりと体が跳ねた。

 獣人の身体強化は個人差があり、強い獣人の身体強化は魔法ですら弾くけど、それほどでもない場合は物理攻撃でも十分に倒せる。
 魔力譲渡を行えば一時的に大抵の獣人の身体強化を緩めることはできるし、求愛と思わせて動揺を誘うことも可能。
 属性が攻撃に反映されない獣人がほとんどである為、物理攻撃が通じないアンデッドモンスターを倒せるものもほとんどいない……つまり、アンデッドモンスターを使役できるネクロマンサーならば、大抵の獣人に対して無双できる。

 これらの事実を鑑みても、兵団長や王族クラスの実力の獣人はともかく、一般的な獣人ならば、リシス王国の一般兵でも十分対抗できるだろう。
 そして兵団長や王族クラスであったとしても、悪役チート持ちの俺ならば倒せる可能性はとても高い。……ただ一人、【女神の愛の呪い】で勝てないことを宿命づけられた、アストルディア以外ならば。
 つまりアストルディアさえ完全に掌握してしまえば、たとえ未来に戦争が起こったとしても、原作とは違い人間側が勝利する可能性が高いのだ。もし俺が、その気になりさえすれば。
 そしてそのことに、恐らくクリスも気づいている。

「はい。計画を変えるつもりはありません。私はとにかく、絶対に戦争は起こしたくはないのです」

「戦争を起こした方が、リシス王国や、辺境伯領に利益があったとしても?」

「その利益に目がくらんで獣人を奴隷化した結果が、半世紀前の敗戦でしょう。たとえ戦争で一時的に領地が潤ったとしても、やがてそのしっぺ返しを受ける時がやって来ます。長い目で見れば、平和的に共存した方が、大きな利益になるはずです」

 迷うまでもない問いだ。どれだけ人間に有利な情報を得ても、どれだけ運命の時が近づいてきていても、これだけは絶対に変わらない。

 戦争は嫌だ。辺境伯領の民が犠牲になるのはもちろんだけど、最近ではますますセネーバ側で犠牲者がでることにも耐えられなくなってきた。
 だって、獣人も人間も、何も変わらないんだ。悪い奴もいれば良い奴もいて……そして俺は交流を通じて「良い奴ら」のことも、たくさんたくさん知ってしまった。
 自分が死ぬことは、それほど怖くない。数多の罪のない人達の死の責任を追わなければならないことが、今も変わらず怖くて仕方ない。

 だから、俺は必ず戦争を止めてみせる。リシス王国の敗戦の運命を変えるのではなく、セネーバとリシス王国が戦争をせずに共存できる道を、切り拓くんだ。

「……それを聞いて、安心したよ。今のエディに考えを改められたら、さすがの僕でも戦争は止められないだろうからね」

「それで? 結局二国間の交易は再開できそうなんですか」

「ああ。先日、正式に条約を結んだようだよ。全てはアストルディアの後押しのおかげさ」

「アストルディア第二王子が?」

「そうだよ。彼がセネーバ最大の懸念事項を解決したんだ」

 クリス曰く。交易を再開するに当たって、セネーバがもっとも懸念したのは、転移魔法を使える魔法士の存在だったという。
 交易の体で、セネーバを訪れて座標を記録した転移魔法使いが、後日数多の兵を引き連れて国内に転移して奇襲をかけてくる可能性を、セネーバは恐れたのだ。

「リシス王国で転移魔法を使えるものは少ないですし、同時に転移させられる人間の数もそれほど多くはないはずですが……」

「そうだね。リシス王国民の僕らはそれを知ってるけど、残念ながらセネーバの上層部にそれを証明する術はなかったんだよ。何せ半世紀前の戦争では、獣人兵から逃げる為に数百人をネーバ山の向こうに同時転移させた強者がいたと記録に残ってたらしいからね。どこまで本当かはわからないけど」

「っ数百っ!?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談? 本気? 二人の結末は? 美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

心からの愛してる

マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。 全寮制男子校 嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります ※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?

家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている

香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。 異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。 途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。 「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!

処理中です...