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変わった物①
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「な、なあ。エド様。ポンダーとタンクの集落の洪水対策工事手伝ったって聞いたんだけど」
「はい。手伝いましたが、何か?」
「っ頼む! うちの集落の工事も手伝ってくれ! やらなきゃやらなきゃってみんな思ってんのに、誰も腰上げねーんだよ!」
「そうですね。貴方の集落、鉱石場があって鳥獣人に宝石類を卸してましたよね?」
「そ、そうだけど、さすがに宝石でお礼は……」
「いえ、売る宛がないと捨てている鉱石の中に、魔石が含まれてないか一度見学させて欲しいだけです。交易が再開できたら、買い取りさせていただきたくて。もちろん、市場における適正価格で、です。そちらとしても売れるものが増えるなら、悪い話じゃないでしょう?」
「そういうことなら、喜んで!」
「それじゃあ次の休日くらいに都合つけますけど、力仕事が出来る人の収集と材料の確保はお願いしますね。粘土と赤土は土魔法で生成できますけど、岩盤は用意してもらわないと難しいので」
「わかった! 恩に着るよ!」
「あ、あのー。エド様。アンゼの田舎で、ゴースト退治したって噂、本当ですか?」
「はい。洞窟にゴーストが住み着いたせいで、貴重な薬草が採取できなくなったとアンゼに泣きつかれまして。アンデッド系は物理攻撃は効きませんが、聖属性もしくは無属性持ちなら退治は簡単ですから」
「お願いします! うちの納屋に住み着いたゴーストも退治してください! こんな個人的なこと王族に頼めないし、困ってたんです!」
「そうですねぇ。貴方の村、確か珍しい果物の産地でしたよね? 交易開始したら取引できないか、交渉の場を設けてくださるなら、喜んでお引き受けします」
「こ、交渉の場だけでいいんですか?」
「ええ。それで断られるなら、仕方ない話ですから」
「村長は、うちのじいちゃんです! 場を設けるくらいなら、約束できます!」
「じゃあ、次の次の休日でいいですかね? お家の方の都合も確認しておいてください」
「エド様、実は俺も頼みたいことが……」
「こんなこと相談して良いかわからないんだけど、エド様ならできるかなって……」
「ーーいやあ。引くくらい順調に、交易の伝手とシンパを増やしているね。エディ。数ヶ月前までの人間不信っぷりが嘘みたい」
ニヤニヤと笑いながらからかってくるクリスに、肩を竦める。
「残念ながら、人間不信は健在ですよ。なので、リスクを分散することにしたんです。できるだけ多くの獣人に恩を売っておけば、数打てば当たるで、誰かは恩返ししてくれるかもしれないでしょう」
そう開き直ってみれば、伝手を作るのは簡単だった。元々辺境伯領でやっていたことだ。人脈作りも、交渉も、単に商売だと思えば寧ろ得意分野だと言える。
結局俺は、逃げられないかもしれない未来に怯えて、獣人と関わることに臆病になってただけなのだ。
何があっても、誰に裏切られても、アストルディアだけは俺の味方でいてくれると思ったら、何も怖くなくなった。……嘘。やっぱり俺のせいで戦争で犠牲になる人が出るのは、変わらず怖い。だけど、まだ発生してない未来にまで怯えなくてもいいかなって気にはなった。
「でもやり過ぎて、辺境伯領が他の領に睨まれる結果になっても知らないよ? そもそも国交が再開するかもまだ確定じゃないし」
「その辺りは、クリスが何とかしてくれるんでしょう?」
仕返しとばかりに、俺はにっこりと「いい」笑顔を浮かべた。
「私はクリスのこと、『信じて』ますから」
途端にクリスはげんなりと心底嫌そうな顔をした。
「……うわ。動揺もしないとか、かわいくなーい。人間不信は、数少ないエディのかわいいとこだったのに、それさえも克服しちゃったら、ほとんど付け込める欠点なくなっちゃうじゃん。人間あまり欠点なさ過ぎても、魅力がないよ?」
『安心して、クリス! 俺は欠点ばかりだから、かわいいよ!』
「はいはい。ジェフはそのウザいとこ、少しは改めて」
「はい。手伝いましたが、何か?」
「っ頼む! うちの集落の工事も手伝ってくれ! やらなきゃやらなきゃってみんな思ってんのに、誰も腰上げねーんだよ!」
「そうですね。貴方の集落、鉱石場があって鳥獣人に宝石類を卸してましたよね?」
「そ、そうだけど、さすがに宝石でお礼は……」
「いえ、売る宛がないと捨てている鉱石の中に、魔石が含まれてないか一度見学させて欲しいだけです。交易が再開できたら、買い取りさせていただきたくて。もちろん、市場における適正価格で、です。そちらとしても売れるものが増えるなら、悪い話じゃないでしょう?」
「そういうことなら、喜んで!」
「それじゃあ次の休日くらいに都合つけますけど、力仕事が出来る人の収集と材料の確保はお願いしますね。粘土と赤土は土魔法で生成できますけど、岩盤は用意してもらわないと難しいので」
「わかった! 恩に着るよ!」
「あ、あのー。エド様。アンゼの田舎で、ゴースト退治したって噂、本当ですか?」
「はい。洞窟にゴーストが住み着いたせいで、貴重な薬草が採取できなくなったとアンゼに泣きつかれまして。アンデッド系は物理攻撃は効きませんが、聖属性もしくは無属性持ちなら退治は簡単ですから」
「お願いします! うちの納屋に住み着いたゴーストも退治してください! こんな個人的なこと王族に頼めないし、困ってたんです!」
「そうですねぇ。貴方の村、確か珍しい果物の産地でしたよね? 交易開始したら取引できないか、交渉の場を設けてくださるなら、喜んでお引き受けします」
「こ、交渉の場だけでいいんですか?」
「ええ。それで断られるなら、仕方ない話ですから」
「村長は、うちのじいちゃんです! 場を設けるくらいなら、約束できます!」
「じゃあ、次の次の休日でいいですかね? お家の方の都合も確認しておいてください」
「エド様、実は俺も頼みたいことが……」
「こんなこと相談して良いかわからないんだけど、エド様ならできるかなって……」
「ーーいやあ。引くくらい順調に、交易の伝手とシンパを増やしているね。エディ。数ヶ月前までの人間不信っぷりが嘘みたい」
ニヤニヤと笑いながらからかってくるクリスに、肩を竦める。
「残念ながら、人間不信は健在ですよ。なので、リスクを分散することにしたんです。できるだけ多くの獣人に恩を売っておけば、数打てば当たるで、誰かは恩返ししてくれるかもしれないでしょう」
そう開き直ってみれば、伝手を作るのは簡単だった。元々辺境伯領でやっていたことだ。人脈作りも、交渉も、単に商売だと思えば寧ろ得意分野だと言える。
結局俺は、逃げられないかもしれない未来に怯えて、獣人と関わることに臆病になってただけなのだ。
何があっても、誰に裏切られても、アストルディアだけは俺の味方でいてくれると思ったら、何も怖くなくなった。……嘘。やっぱり俺のせいで戦争で犠牲になる人が出るのは、変わらず怖い。だけど、まだ発生してない未来にまで怯えなくてもいいかなって気にはなった。
「でもやり過ぎて、辺境伯領が他の領に睨まれる結果になっても知らないよ? そもそも国交が再開するかもまだ確定じゃないし」
「その辺りは、クリスが何とかしてくれるんでしょう?」
仕返しとばかりに、俺はにっこりと「いい」笑顔を浮かべた。
「私はクリスのこと、『信じて』ますから」
途端にクリスはげんなりと心底嫌そうな顔をした。
「……うわ。動揺もしないとか、かわいくなーい。人間不信は、数少ないエディのかわいいとこだったのに、それさえも克服しちゃったら、ほとんど付け込める欠点なくなっちゃうじゃん。人間あまり欠点なさ過ぎても、魅力がないよ?」
『安心して、クリス! 俺は欠点ばかりだから、かわいいよ!』
「はいはい。ジェフはそのウザいとこ、少しは改めて」
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