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ワニの村②

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 いや、何でそこで引き合いに出されるのが、ヴィダルスなんだ。俺の番はアストルディアだぞ。ヴィダルスより、ずっと強いんだ。しかも王子様なんだぞ!
 ……とはもちろん言えないので、とりあえず「……私は応える気はないですけどね」と苦笑いをして、お茶を濁す。
 くそ、俺の番はアストルディアだって、めちゃくちゃ表明したいー! ついでにアンポンタンの前で敬語キャラ貫くの最近アホらしくなって来たから、アストルディアの前と同じようにめちゃくちゃ素で接したーい!
 ……アホで単純だけど、ほんとかわいい奴らなんだよ。こっちが取り繕ってんのが、申し訳なくなるくらいに。でもアホだから、俺が素のままで接したりアストルディアの番だってことバラしたら、悪気なくペロッと他の奴らに言っちゃいそうなんだよ。あくまでもうっかり。言えん、言えん。

「……それにさあ、俺、今嫁さんにしたいって思ってる子、別にいるし」

 ポッと頬を赤らめて、乙女のように両手で顔を押さえる二足歩行ワニ(とてもシュール)の、瞳孔が縦に長い瞳の先にいるのは……楽しげに笑いながら、ドスドスと地面を豪快に踏み固める四足歩行のカバ(めちゃくちゃシュール)の姿が。……へ?

「……いやあ、さり気に魔力相性いいんじゃね、とは前から思ってたし、性格もすげえ合うなあって思ってたんだよね。でも、絶対向こうも雌側なる気なさそうだし、爬虫類は嫌かなって思って諦めてたんだけど……童貞喪失した後ならエッチしてもいいとか、これ完全に脈あるよね。俺の嫁になってもいいってことだよね」

 ……いや、それタンクも、ポンダーが雌側の前提で話してね? と、思ったけど、言えない。
 めちゃくちゃ軽くセックス予約してるなあと思ってたのに、思った以上に本気だった恋するワニに、今まで全く気づいてなかった俺が何て言えよう。てか、俺、マジで男同士の恋愛センサーポンコツだな。

「カバの嫁さんか! 住居環境似てるし、魔力も力も強いし、最高だな! 絶対物にしろよ、ポンダー」

「うふふ~、でしょでしょ! とりあえず、タンクは王宮兵団入りたいみたいだから、タンクが産んだ子どもを俺が村で育てるのもいーかなーなんて思って。ほら、新兵は基本長期休みの時以外は、兵団の寮で生活しないといけないっしょ? 子育てでキャリア断絶とかかわいそうだし、この村だって高齢化深刻だし。俺が村で仕事しながら子ども育てて、休日に戻ってきた奥さん孝行すれば最高かなあって思ってたりするんだよね。タンクは三男だし、去年長男が嫁さん迎えたみたいで、卒業後実家に戻る選択肢はないって言ってたし」

「そこまで将来について、深く考えてるなんて……ポンダー、お前大人になったなあ」

 いや、付き合ってすらいないのに、深く将来について考え過ぎだろ。そして、そこまで考えているのに、ポンダーが子どもを産むという選択肢はないのな。

「いけー! タンク号! 蹂躙するのじゃー!」

「ははあ! アンゼ様ノオオセノママニー……なあんちゃって」

 補強のチェックに飽きたらしいアンゼを背中に乗せて、ガキ丸出しでぎゃはぎゃは笑いながら地ならしをしているタンクを見ながら、合掌する。……何となくだが、もうタンクは逃げられない気がする。
 アンポンタンの中で一番魔力が高く実力もあるのはタンクだが、一番コミュ力が高くて口がうまいのはポンダーだ。けして頭がいいわけでも腹黒というわけでもないんだが、何だかんだで話しているうちに周りがタンクの望み通りに動いてしまいがちだったりする。俺が今ここで汗水垂らして働いているのが、その証拠だ。
 ポンダーが本気で口説いたら、タンクは絶対丸めこまれる。これはもう、予想ではなく、確信だ。
 ……え? アンゼは何が一番かって? えーと、その、まあ……一番かわいいんじゃないか。うん。一応三人のうちではリーダー的な存在だし。
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