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ワニの村①
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不意に、生温かいものが、うなじのあたりに滴り落ちてきた。
「……エディと子どもと、幸せな家庭を築くことができるなら、俺は何だってする。何だって、だ……」
「……アスティ」
後ろからうなじに顔を埋められているから、首をねじって振り返っても、アストルディアの顔は見えない。
けれど、何となく「泣いているのか?」とは、聞いてはいけない気がして。
俺は無言で、腹に回されていたアストルディアの手を取り、そっと触れるだけのキスを落とした。
「……ポンダー。次はこっちです。こっちを岩盤で補強しておいてください」
「はいはーい。ここね」
「おい、人間の兄ちゃん。ここはどうすればいい?」
「そこは最初は獣人の方が手作業でするのは難しいと思うので、私が魔法で先にやります。後でまた補強をお願いするので、貴方はポンダーを手伝ってください」
「わかった。じゃあ、頼んだ」
「エド様ー、次は何をすりゃいい?」
「アンゼはあまり力仕事向きではないですからね。補強が終わった所で、脆そうな所はないかチェックしてください」
「エド様、俺は?」
「タンクは、このまま獣化した状態で、赤土を混ぜた粘土が剥き出しになった所を、とにかく踏み固め続けてください。くれぐれも、アンゼだけは踏まないように気をつけて」
「はーい。獣化してると1トン以上あるからね。アンゼ、小さいから、ぺしゃんこになっちゃう」
「ふ、踏まれる前に、避けるわ!」
週末。俺はアンポンタンと共にワニ獣人の村に出向いて、村の比較的若いワニ獣人達と共に、洪水対策の調整池の工事を行っていた。
最初は専門書を渡して、やり方のノウハウだけを教えようかと思っていたのだけど、リシス王国流の手順にそのまま則ると結構魔法が必要だったし、何よりアホなポンダーは俺の説明してることを全く理解してない様子だったので、結局俺自らがアンポンタンをお供に引き連れて作業することになったのだった。
作りたいのは、雨によって川の水が一定の高さを超えた時に、水を流すことのできる調整池と、それと川の水を繋げる水路。洪水の時の状況を聞いていると、なかなかの浸水具合なので、できるだけ調整池は大きくしたい。
まずは俺の土魔法と獣人の手作業で、水路と池になる辺りを掘り出し、底と外壁に赤土と粘土を混ぜたものを塗って、ひたすら叩いて(底に関してはウエイトのある獣人達が踏んで)空気を抜き、伸ばして固める。その上にさらに岩盤を敷いて補強したうえで、俺が土魔法でそれらをさらに定着させるまでが一手順。
魔法なしでもできるはできるかもしれないが、そのせいで強度が落ちて結局水害対策にならなかったら困るので、恩の押し売りも兼ねて敢えて魔法も使わせてもらう。この世界、コンクリートみたいな便利な素材発見されてないしね。
「しっかし、魔法と言うのは、便利なもんだな」
俺が土魔法で岩盤を定着させたのを見た、ポンダーのおじさん……いや、はとこの親って言ってたか? が、関心したように呟く。
「いつ外れてもおかしくないような状態の岩盤が、あっちゅうまに、くっついて固まっちまった! 人間は、みんな、兄ちゃんみたいにすげえ魔法が使えんのかい?」
「いや、土魔法特化の土木工事のプロの方もいるはいますけどね。私レベルの魔法を使える人間は、ほんの一握りですよ」
「おじさん、エド様は人間の中でも、規格外なんだってー。なんせ、親善試合でヴィダルス様を倒しちゃったのよ」
「ヴィ、ヴィダルス様を!? ポンダー、お前、この兄ちゃんにちゃんと求婚したのか? 嫁にしたら、すげえ子ども生まれっぞ!」
「いやいやいや、ヴィダルス様を倒しちゃったせいで、エド様、ヴィダルス様に完全にターゲットロックされちゃってんだって。まあ、その前から、十分ご執心だったけど。ただでさえ最近ヴィダルス様から睨まれてんのに、求婚なんかしたら殺されちゃうー」
「……そ、そうか。じゃあ、仕方ないな」
「……エディと子どもと、幸せな家庭を築くことができるなら、俺は何だってする。何だって、だ……」
「……アスティ」
後ろからうなじに顔を埋められているから、首をねじって振り返っても、アストルディアの顔は見えない。
けれど、何となく「泣いているのか?」とは、聞いてはいけない気がして。
俺は無言で、腹に回されていたアストルディアの手を取り、そっと触れるだけのキスを落とした。
「……ポンダー。次はこっちです。こっちを岩盤で補強しておいてください」
「はいはーい。ここね」
「おい、人間の兄ちゃん。ここはどうすればいい?」
「そこは最初は獣人の方が手作業でするのは難しいと思うので、私が魔法で先にやります。後でまた補強をお願いするので、貴方はポンダーを手伝ってください」
「わかった。じゃあ、頼んだ」
「エド様ー、次は何をすりゃいい?」
「アンゼはあまり力仕事向きではないですからね。補強が終わった所で、脆そうな所はないかチェックしてください」
「エド様、俺は?」
「タンクは、このまま獣化した状態で、赤土を混ぜた粘土が剥き出しになった所を、とにかく踏み固め続けてください。くれぐれも、アンゼだけは踏まないように気をつけて」
「はーい。獣化してると1トン以上あるからね。アンゼ、小さいから、ぺしゃんこになっちゃう」
「ふ、踏まれる前に、避けるわ!」
週末。俺はアンポンタンと共にワニ獣人の村に出向いて、村の比較的若いワニ獣人達と共に、洪水対策の調整池の工事を行っていた。
最初は専門書を渡して、やり方のノウハウだけを教えようかと思っていたのだけど、リシス王国流の手順にそのまま則ると結構魔法が必要だったし、何よりアホなポンダーは俺の説明してることを全く理解してない様子だったので、結局俺自らがアンポンタンをお供に引き連れて作業することになったのだった。
作りたいのは、雨によって川の水が一定の高さを超えた時に、水を流すことのできる調整池と、それと川の水を繋げる水路。洪水の時の状況を聞いていると、なかなかの浸水具合なので、できるだけ調整池は大きくしたい。
まずは俺の土魔法と獣人の手作業で、水路と池になる辺りを掘り出し、底と外壁に赤土と粘土を混ぜたものを塗って、ひたすら叩いて(底に関してはウエイトのある獣人達が踏んで)空気を抜き、伸ばして固める。その上にさらに岩盤を敷いて補強したうえで、俺が土魔法でそれらをさらに定着させるまでが一手順。
魔法なしでもできるはできるかもしれないが、そのせいで強度が落ちて結局水害対策にならなかったら困るので、恩の押し売りも兼ねて敢えて魔法も使わせてもらう。この世界、コンクリートみたいな便利な素材発見されてないしね。
「しっかし、魔法と言うのは、便利なもんだな」
俺が土魔法で岩盤を定着させたのを見た、ポンダーのおじさん……いや、はとこの親って言ってたか? が、関心したように呟く。
「いつ外れてもおかしくないような状態の岩盤が、あっちゅうまに、くっついて固まっちまった! 人間は、みんな、兄ちゃんみたいにすげえ魔法が使えんのかい?」
「いや、土魔法特化の土木工事のプロの方もいるはいますけどね。私レベルの魔法を使える人間は、ほんの一握りですよ」
「おじさん、エド様は人間の中でも、規格外なんだってー。なんせ、親善試合でヴィダルス様を倒しちゃったのよ」
「ヴィ、ヴィダルス様を!? ポンダー、お前、この兄ちゃんにちゃんと求婚したのか? 嫁にしたら、すげえ子ども生まれっぞ!」
「いやいやいや、ヴィダルス様を倒しちゃったせいで、エド様、ヴィダルス様に完全にターゲットロックされちゃってんだって。まあ、その前から、十分ご執心だったけど。ただでさえ最近ヴィダルス様から睨まれてんのに、求婚なんかしたら殺されちゃうー」
「……そ、そうか。じゃあ、仕方ないな」
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