138 / 311
ワニの村①
しおりを挟む
不意に、生温かいものが、うなじのあたりに滴り落ちてきた。
「……エディと子どもと、幸せな家庭を築くことができるなら、俺は何だってする。何だって、だ……」
「……アスティ」
後ろからうなじに顔を埋められているから、首をねじって振り返っても、アストルディアの顔は見えない。
けれど、何となく「泣いているのか?」とは、聞いてはいけない気がして。
俺は無言で、腹に回されていたアストルディアの手を取り、そっと触れるだけのキスを落とした。
「……ポンダー。次はこっちです。こっちを岩盤で補強しておいてください」
「はいはーい。ここね」
「おい、人間の兄ちゃん。ここはどうすればいい?」
「そこは最初は獣人の方が手作業でするのは難しいと思うので、私が魔法で先にやります。後でまた補強をお願いするので、貴方はポンダーを手伝ってください」
「わかった。じゃあ、頼んだ」
「エド様ー、次は何をすりゃいい?」
「アンゼはあまり力仕事向きではないですからね。補強が終わった所で、脆そうな所はないかチェックしてください」
「エド様、俺は?」
「タンクは、このまま獣化した状態で、赤土を混ぜた粘土が剥き出しになった所を、とにかく踏み固め続けてください。くれぐれも、アンゼだけは踏まないように気をつけて」
「はーい。獣化してると1トン以上あるからね。アンゼ、小さいから、ぺしゃんこになっちゃう」
「ふ、踏まれる前に、避けるわ!」
週末。俺はアンポンタンと共にワニ獣人の村に出向いて、村の比較的若いワニ獣人達と共に、洪水対策の調整池の工事を行っていた。
最初は専門書を渡して、やり方のノウハウだけを教えようかと思っていたのだけど、リシス王国流の手順にそのまま則ると結構魔法が必要だったし、何よりアホなポンダーは俺の説明してることを全く理解してない様子だったので、結局俺自らがアンポンタンをお供に引き連れて作業することになったのだった。
作りたいのは、雨によって川の水が一定の高さを超えた時に、水を流すことのできる調整池と、それと川の水を繋げる水路。洪水の時の状況を聞いていると、なかなかの浸水具合なので、できるだけ調整池は大きくしたい。
まずは俺の土魔法と獣人の手作業で、水路と池になる辺りを掘り出し、底と外壁に赤土と粘土を混ぜたものを塗って、ひたすら叩いて(底に関してはウエイトのある獣人達が踏んで)空気を抜き、伸ばして固める。その上にさらに岩盤を敷いて補強したうえで、俺が土魔法でそれらをさらに定着させるまでが一手順。
魔法なしでもできるはできるかもしれないが、そのせいで強度が落ちて結局水害対策にならなかったら困るので、恩の押し売りも兼ねて敢えて魔法も使わせてもらう。この世界、コンクリートみたいな便利な素材発見されてないしね。
「しっかし、魔法と言うのは、便利なもんだな」
俺が土魔法で岩盤を定着させたのを見た、ポンダーのおじさん……いや、はとこの親って言ってたか? が、関心したように呟く。
「いつ外れてもおかしくないような状態の岩盤が、あっちゅうまに、くっついて固まっちまった! 人間は、みんな、兄ちゃんみたいにすげえ魔法が使えんのかい?」
「いや、土魔法特化の土木工事のプロの方もいるはいますけどね。私レベルの魔法を使える人間は、ほんの一握りですよ」
「おじさん、エド様は人間の中でも、規格外なんだってー。なんせ、親善試合でヴィダルス様を倒しちゃったのよ」
「ヴィ、ヴィダルス様を!? ポンダー、お前、この兄ちゃんにちゃんと求婚したのか? 嫁にしたら、すげえ子ども生まれっぞ!」
「いやいやいや、ヴィダルス様を倒しちゃったせいで、エド様、ヴィダルス様に完全にターゲットロックされちゃってんだって。まあ、その前から、十分ご執心だったけど。ただでさえ最近ヴィダルス様から睨まれてんのに、求婚なんかしたら殺されちゃうー」
「……そ、そうか。じゃあ、仕方ないな」
「……エディと子どもと、幸せな家庭を築くことができるなら、俺は何だってする。何だって、だ……」
「……アスティ」
後ろからうなじに顔を埋められているから、首をねじって振り返っても、アストルディアの顔は見えない。
けれど、何となく「泣いているのか?」とは、聞いてはいけない気がして。
俺は無言で、腹に回されていたアストルディアの手を取り、そっと触れるだけのキスを落とした。
「……ポンダー。次はこっちです。こっちを岩盤で補強しておいてください」
「はいはーい。ここね」
「おい、人間の兄ちゃん。ここはどうすればいい?」
「そこは最初は獣人の方が手作業でするのは難しいと思うので、私が魔法で先にやります。後でまた補強をお願いするので、貴方はポンダーを手伝ってください」
「わかった。じゃあ、頼んだ」
「エド様ー、次は何をすりゃいい?」
「アンゼはあまり力仕事向きではないですからね。補強が終わった所で、脆そうな所はないかチェックしてください」
「エド様、俺は?」
「タンクは、このまま獣化した状態で、赤土を混ぜた粘土が剥き出しになった所を、とにかく踏み固め続けてください。くれぐれも、アンゼだけは踏まないように気をつけて」
「はーい。獣化してると1トン以上あるからね。アンゼ、小さいから、ぺしゃんこになっちゃう」
「ふ、踏まれる前に、避けるわ!」
週末。俺はアンポンタンと共にワニ獣人の村に出向いて、村の比較的若いワニ獣人達と共に、洪水対策の調整池の工事を行っていた。
最初は専門書を渡して、やり方のノウハウだけを教えようかと思っていたのだけど、リシス王国流の手順にそのまま則ると結構魔法が必要だったし、何よりアホなポンダーは俺の説明してることを全く理解してない様子だったので、結局俺自らがアンポンタンをお供に引き連れて作業することになったのだった。
作りたいのは、雨によって川の水が一定の高さを超えた時に、水を流すことのできる調整池と、それと川の水を繋げる水路。洪水の時の状況を聞いていると、なかなかの浸水具合なので、できるだけ調整池は大きくしたい。
まずは俺の土魔法と獣人の手作業で、水路と池になる辺りを掘り出し、底と外壁に赤土と粘土を混ぜたものを塗って、ひたすら叩いて(底に関してはウエイトのある獣人達が踏んで)空気を抜き、伸ばして固める。その上にさらに岩盤を敷いて補強したうえで、俺が土魔法でそれらをさらに定着させるまでが一手順。
魔法なしでもできるはできるかもしれないが、そのせいで強度が落ちて結局水害対策にならなかったら困るので、恩の押し売りも兼ねて敢えて魔法も使わせてもらう。この世界、コンクリートみたいな便利な素材発見されてないしね。
「しっかし、魔法と言うのは、便利なもんだな」
俺が土魔法で岩盤を定着させたのを見た、ポンダーのおじさん……いや、はとこの親って言ってたか? が、関心したように呟く。
「いつ外れてもおかしくないような状態の岩盤が、あっちゅうまに、くっついて固まっちまった! 人間は、みんな、兄ちゃんみたいにすげえ魔法が使えんのかい?」
「いや、土魔法特化の土木工事のプロの方もいるはいますけどね。私レベルの魔法を使える人間は、ほんの一握りですよ」
「おじさん、エド様は人間の中でも、規格外なんだってー。なんせ、親善試合でヴィダルス様を倒しちゃったのよ」
「ヴィ、ヴィダルス様を!? ポンダー、お前、この兄ちゃんにちゃんと求婚したのか? 嫁にしたら、すげえ子ども生まれっぞ!」
「いやいやいや、ヴィダルス様を倒しちゃったせいで、エド様、ヴィダルス様に完全にターゲットロックされちゃってんだって。まあ、その前から、十分ご執心だったけど。ただでさえ最近ヴィダルス様から睨まれてんのに、求婚なんかしたら殺されちゃうー」
「……そ、そうか。じゃあ、仕方ないな」
627
お気に入りに追加
2,079
あなたにおすすめの小説
【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます
猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」
「いや、するわけないだろ!」
相川優也(25)
主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。
碧スバル(21)
指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。
「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」
「スバル、お前なにいってんの……?」
冗談? 本気? 二人の結末は?
美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....
心からの愛してる
マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。
全寮制男子校
嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります
※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください
家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている
香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。
異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。
途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。
「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる