俺の悪役チートは獣人殿下には通じない

空飛ぶひよこ

文字の大きさ
上 下
124 / 311

アン・ポン・タン

しおりを挟む
 さて、BL小説の獣人、それも顔が獣面なケモ度高めの獣人を想像した時、普通はどんな種族を想像するだろうか。
 大抵の人は犬科か猫科、もしくは兎のどれかだと思う。ちょっとマニアックなところで、リスや鼠などのげっ歯類や、クマ。搾乳プレイ目当てで牛(……これはどっちかと言うと、男向けなイメージではあるが)ハンサム草食獣代表、鹿。あと獣人と言っていいのか微妙ではあるけど、蛇やトカゲ、鳥なんかも一定のマニアからの熱い需要があると思う。
 しかし、残念ながらこのアン・ポン・タンはそんなBL的な需要からは、なかなか遠いとこにいる奴らなのだ。

「……あなた達、こんなところでお昼を食べてたんですね」

「ひえっ! エドワード様!」

 ぴょーんと飛び上がった小柄な男の名前は、アンゼベルグ。種族はクズリ。クロアナグマや、ウルヴァリンとも呼ばれるイタチ科の動物だ。
 小柄で可愛らしい見かけに反して、獰猛。大型の動物を木の上から奇襲して殺傷したり、ヒグマやオオカミの獲物を奪うこともあるという。飼育下でホッキョクグマを殺傷した事例もあるとか。

「エ、エドワード様。こんなところに、何のご用でー?」

 引きつった愛想笑いを浮かべてるポンダーヤウルの種族は鰐。恐らく、種類はクロコダイルの……イリエワニかな?
 言わずと知れた獰猛な動物であり、セネーバでは遠巻きにされがちな爬虫類系獣人ではあっても、鰐獣人は特に一目置かれ高い地位を築いているらしい。
 水に潜んで獲物を待ち、沿岸に水を飲み来たタイミングで飛び掛かって、強靭な顎で水の中に引きずりこみ、デスロールで肉を食いちぎる。陸に出たら無力と思われるかもだが、実は足も人間よりよほど速いらしい。
 そんなメジャーでカッコいいワニではあるけど、ケモ度が高いBL受けはあんまりな気がする。
 獣面?状態の見た目は、何てか少年心をくすぐる感じではあるんだけど、腐女子がこれで萌えられるのかと思ったら……よくわからないとしか言いようがない。口が長いからなあ。どうしても。

「お、俺達何も悪いこと企んでないですよ! もう二度とエドワード様をどうこうしようだなんて、思いませんから!」

 フガフガと必死で言い募るタンクルッツは、カバの獣人だ。のんびり屋で間抜けと思うなかれ。カバは前世の世界ではライオンより危険だと恐れられていた、獰猛な草食獣なのだ。テリトリーを侵せば、ライオンだろうと容赦なく発達した犬歯で撃退。足も泳ぎも速く、一度怒らせたら追いかけ回された末に1トンの顎の力で襲われるという恐怖。
 ……以上、前世で見てた動物番組からの知識でした。

 まあ、そんなBL獣人のメジャーではないとは言え、それぞれ強い動物の種族だし、実際三人とも魔力も力もなかなかなもんだったのだが。この三人には致命的な弱点があった。

「「「どうか、どうか、お見逃しを~」」」

「……クラスメイトとして、ただ普通に話しかけただけなんですけど」

 三人揃ってアンポンタンな名の通り、三人とも悲しいくらいにアホだったのである。種族じゃなくて、こいつら個人がね。
 もうね。授業の試合の時にちょっとフェイント使っただけで、簡単に引っかかる、引っかかる。
 元々強いこともあってイキっていたこいつらの長い鼻、バッキバキに折ってやりましたよ。いや、実際に鼻が長いのクズリのアンゼベルグしかいないけど。ワニとカバは、ほぼ穴だし。
 その結果、なんかめちゃくちゃ怯えられるようになって、今に至るわけである。

「何か私に対して誤解がありそうですし、せっかくなのでこの機会に親睦深めましょうか。お昼ご一緒しても?」

「え……」

「それは……」

「ご飯の味がしなくなりそうだし……」

「ご一緒しても良いですよね?」

「「「はい、喜んで!」」」

 にっこり笑って、有無を言わせず了承させる。
 ……さあて、こっからどうやって懐柔してくかね。




しおりを挟む
感想 160

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた

マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。 主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。 しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。 平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。 タイトルを変えました。 前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。 急に変えてしまい、すみません。  

【BL】こんな恋、したくなかった

のらねことすていぬ
BL
【貴族×貴族。明るい人気者×暗め引っ込み思案。】  人付き合いの苦手なルース(受け)は、貴族学校に居た頃からずっと人気者のギルバート(攻め)に恋をしていた。だけど彼はきらきらと輝く人気者で、この恋心はそっと己の中で葬り去るつもりだった。  ある日、彼が成り上がりの令嬢に恋をしていると聞く。苦しい気持ちを抑えつつ、二人の恋を応援しようとするルースだが……。 ※ご都合主義、ハッピーエンド

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する

SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので) ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

処理中です...