俺の悪役チートは獣人殿下には通じない

空飛ぶひよこ

文字の大きさ
上 下
114 / 311

君と創る未来①

しおりを挟む
 どうもセネーバには、猿やゴリラの獣人は存在しないみたいで。獣人の子ども達からすれば、毛の生えてない人間特有の耳は、かなり衝撃的な形状だったらしい。
 アニカの「さわってみてもいい?」の一言を皮切りに、子ども達が群がる群がる。好奇心旺盛な子ども達はまとめてモフモフしたいくらいに大変愛らしかったのだけど、アストルディアの冷たい視線が継続していた為、涙を飲んで極力触らないように耐えた。
 魔物とは言え、一応同じ兎型のやつから切断した耳を、アニカは嫌がるかなとも思ったけど、全然そんなことはなかった。同じ種族の動物に関してはちょっと複雑な気持ちになるらしいが、魔物の場合はまったく別物と認識してるらしい。「耳が4本になった!」と、頭につけてきゃあきゃあ笑っていた。とてもきゃわいい。
 大型な兎の魔物はセネーバには存在しないようで、どんな魔物だったか、どんな風に倒したのかと詳しく聞いてくる子どももいて、まったく話は尽きなかった。気がついた時には、俺を人間だって怖がってた年少の子も、俺の膝を枕にして眠ってたし。ありがたや、ありがたや。

 惜しまれながらも、また来ることを約束して孤児院を出て、今に至る。
 本当はそのまま学校に戻る気だったんだけど、夕方には祭りの花火があがるらしくて。アストルディアが、他の獣人が滅多に寄り付かない穴場を知っているということだったので、せっかくなので案内してもらっている。……辺りにまったく人気がない、完全なる獣道を。
 
「……なあ。アスティ。お前が見せたかったの、あの子達なんだろう」

 なんとなく、アストルディアが俺を祭りに連れ出した理由がわかった気がする。

「俺が知らない獣人の一面を見せる為に、お前は俺を祭りに連れ出したんだ」

「……ああ、そうだ」

 手を繋いだまま、二人で険しい岩場をのぼる。
 俺とアストルディアじゃなければ、回り込んだ方がよほど早そうな道だけど、アストルディアは当然みたいに進むので俺も当然のように後に続かせてもらってる。
 ……これが俺以外の奴とのデートだったら、0点どころかマイナスのエスコートだぞ。アスティ。

「もしエディが一人で孤児院に行かなったとしても、サーカスを見終えたら、どこかしらの孤児院には一緒に向かう予定だった。肉食獣人や大型草食獣人ばかりの学校では見えない世界を、お前に見せたかった」

 あの学校に通うことができる生徒は、貴族、もしくは裕福な家庭の平民の子どもだ。
 セネーバにおける、肉食獣人と小型草食獣人との格差が、それだけでも垣間見ることができる。

「……ほら。ここだ。エディ。ここからセネーバの王都が一望できる」

 到着したのは、切り立った崖の上。
 夕闇が迫る暗い空の下には、セネーバの夜景が広がっている。

「明るい所が、貴族や裕福な商人達が住む地域で、暗い所が貧困層が住む地域。そして、もっとも明るい場所が城の周辺だ」

 ネーバ山の麓から少し離れた所が一番明るく、そこから遠ざかるほどに暗くなっていっている。
 貧困層には、十分な灯りをともすことができるだけのお金がないのだ。

「この格差こそが、今のセネーバの一番の問題であり、変えねばならない部分だと思っている。その為に真っ先に変える必要があるのは、強さこそを至上とする我が国の民の意識だ」 

「そういえば……別の大陸には草食獣人達の国があるという話は本当なのか?」

「ああ。俺は王族として、国を代表し草食獣人達の国を訪問したことがある。彼らは体格や魔力の量に関わらず、みな自らの種族に誇りを持っていた。強い者が弱いものを蔑み、弱いものが自らを卑下するセネーバの民とはまったく違う」

 「私なんか」と言っていた、アニカの悲しそうな姿を思い出して、胸が締めつけられた。
 生まれてきた国が違えば、あの子があんな顔をすることもなかったのかもしれない。

 


しおりを挟む
感想 160

あなたにおすすめの小説

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた! どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。 そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?! いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?! 会社員男性と、異世界獣人のお話。 ※6話で完結します。さくっと読めます。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

弱すぎると勇者パーティーを追放されたハズなんですが……なんで追いかけてきてんだよ勇者ァ!

灯璃
BL
「あなたは弱すぎる! お荷物なのよ! よって、一刻も早くこのパーティーを抜けてちょうだい!」 そう言われ、勇者パーティーから追放された冒険者のメルク。 リーダーの勇者アレスが戻る前に、元仲間たちに追い立てられるようにパーティーを抜けた。 だが数日後、何故か勇者がメルクを探しているという噂を酒場で聞く。が、既に故郷に帰ってスローライフを送ろうとしていたメルクは、絶対に見つからないと決意した。 みたいな追放ものの皮を被った、頭おかしい執着攻めもの。 追いかけてくるまで説明ハイリマァス ※完結致しました!お読みいただきありがとうございました! ※11/20 短編(いちまんじ)新しく書きました! ※12/14 どうしてもIF話書きたくなったので、書きました!これにて本当にお終いにします。ありがとうございました!

陛下の前で婚約破棄!………でも実は……(笑)

ミクリ21
BL
陛下を祝う誕生パーティーにて。 僕の婚約者のセレンが、僕に婚約破棄だと言い出した。 隣には、婚約者の僕ではなく元平民少女のアイルがいる。 僕を断罪するセレンに、僕は涙を流す。 でも、実はこれには訳がある。 知らないのは、アイルだけ………。 さぁ、楽しい楽しい劇の始まりさ〜♪

処理中です...