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君と創る未来①
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どうもセネーバには、猿やゴリラの獣人は存在しないみたいで。獣人の子ども達からすれば、毛の生えてない人間特有の耳は、かなり衝撃的な形状だったらしい。
アニカの「さわってみてもいい?」の一言を皮切りに、子ども達が群がる群がる。好奇心旺盛な子ども達はまとめてモフモフしたいくらいに大変愛らしかったのだけど、アストルディアの冷たい視線が継続していた為、涙を飲んで極力触らないように耐えた。
魔物とは言え、一応同じ兎型のやつから切断した耳を、アニカは嫌がるかなとも思ったけど、全然そんなことはなかった。同じ種族の動物に関してはちょっと複雑な気持ちになるらしいが、魔物の場合はまったく別物と認識してるらしい。「耳が4本になった!」と、頭につけてきゃあきゃあ笑っていた。とてもきゃわいい。
大型な兎の魔物はセネーバには存在しないようで、どんな魔物だったか、どんな風に倒したのかと詳しく聞いてくる子どももいて、まったく話は尽きなかった。気がついた時には、俺を人間だって怖がってた年少の子も、俺の膝を枕にして眠ってたし。ありがたや、ありがたや。
惜しまれながらも、また来ることを約束して孤児院を出て、今に至る。
本当はそのまま学校に戻る気だったんだけど、夕方には祭りの花火があがるらしくて。アストルディアが、他の獣人が滅多に寄り付かない穴場を知っているということだったので、せっかくなので案内してもらっている。……辺りにまったく人気がない、完全なる獣道を。
「……なあ。アスティ。お前が見せたかったの、あの子達なんだろう」
なんとなく、アストルディアが俺を祭りに連れ出した理由がわかった気がする。
「俺が知らない獣人の一面を見せる為に、お前は俺を祭りに連れ出したんだ」
「……ああ、そうだ」
手を繋いだまま、二人で険しい岩場をのぼる。
俺とアストルディアじゃなければ、回り込んだ方がよほど早そうな道だけど、アストルディアは当然みたいに進むので俺も当然のように後に続かせてもらってる。
……これが俺以外の奴とのデートだったら、0点どころかマイナスのエスコートだぞ。アスティ。
「もしエディが一人で孤児院に行かなったとしても、サーカスを見終えたら、どこかしらの孤児院には一緒に向かう予定だった。肉食獣人や大型草食獣人ばかりの学校では見えない世界を、お前に見せたかった」
あの学校に通うことができる生徒は、貴族、もしくは裕福な家庭の平民の子どもだ。
セネーバにおける、肉食獣人と小型草食獣人との格差が、それだけでも垣間見ることができる。
「……ほら。ここだ。エディ。ここからセネーバの王都が一望できる」
到着したのは、切り立った崖の上。
夕闇が迫る暗い空の下には、セネーバの夜景が広がっている。
「明るい所が、貴族や裕福な商人達が住む地域で、暗い所が貧困層が住む地域。そして、もっとも明るい場所が城の周辺だ」
ネーバ山の麓から少し離れた所が一番明るく、そこから遠ざかるほどに暗くなっていっている。
貧困層には、十分な灯りをともすことができるだけのお金がないのだ。
「この格差こそが、今のセネーバの一番の問題であり、変えねばならない部分だと思っている。その為に真っ先に変える必要があるのは、強さこそを至上とする我が国の民の意識だ」
「そういえば……別の大陸には草食獣人達の国があるという話は本当なのか?」
「ああ。俺は王族として、国を代表し草食獣人達の国を訪問したことがある。彼らは体格や魔力の量に関わらず、みな自らの種族に誇りを持っていた。強い者が弱いものを蔑み、弱いものが自らを卑下するセネーバの民とはまったく違う」
「私なんか」と言っていた、アニカの悲しそうな姿を思い出して、胸が締めつけられた。
生まれてきた国が違えば、あの子があんな顔をすることもなかったのかもしれない。
アニカの「さわってみてもいい?」の一言を皮切りに、子ども達が群がる群がる。好奇心旺盛な子ども達はまとめてモフモフしたいくらいに大変愛らしかったのだけど、アストルディアの冷たい視線が継続していた為、涙を飲んで極力触らないように耐えた。
魔物とは言え、一応同じ兎型のやつから切断した耳を、アニカは嫌がるかなとも思ったけど、全然そんなことはなかった。同じ種族の動物に関してはちょっと複雑な気持ちになるらしいが、魔物の場合はまったく別物と認識してるらしい。「耳が4本になった!」と、頭につけてきゃあきゃあ笑っていた。とてもきゃわいい。
大型な兎の魔物はセネーバには存在しないようで、どんな魔物だったか、どんな風に倒したのかと詳しく聞いてくる子どももいて、まったく話は尽きなかった。気がついた時には、俺を人間だって怖がってた年少の子も、俺の膝を枕にして眠ってたし。ありがたや、ありがたや。
惜しまれながらも、また来ることを約束して孤児院を出て、今に至る。
本当はそのまま学校に戻る気だったんだけど、夕方には祭りの花火があがるらしくて。アストルディアが、他の獣人が滅多に寄り付かない穴場を知っているということだったので、せっかくなので案内してもらっている。……辺りにまったく人気がない、完全なる獣道を。
「……なあ。アスティ。お前が見せたかったの、あの子達なんだろう」
なんとなく、アストルディアが俺を祭りに連れ出した理由がわかった気がする。
「俺が知らない獣人の一面を見せる為に、お前は俺を祭りに連れ出したんだ」
「……ああ、そうだ」
手を繋いだまま、二人で険しい岩場をのぼる。
俺とアストルディアじゃなければ、回り込んだ方がよほど早そうな道だけど、アストルディアは当然みたいに進むので俺も当然のように後に続かせてもらってる。
……これが俺以外の奴とのデートだったら、0点どころかマイナスのエスコートだぞ。アスティ。
「もしエディが一人で孤児院に行かなったとしても、サーカスを見終えたら、どこかしらの孤児院には一緒に向かう予定だった。肉食獣人や大型草食獣人ばかりの学校では見えない世界を、お前に見せたかった」
あの学校に通うことができる生徒は、貴族、もしくは裕福な家庭の平民の子どもだ。
セネーバにおける、肉食獣人と小型草食獣人との格差が、それだけでも垣間見ることができる。
「……ほら。ここだ。エディ。ここからセネーバの王都が一望できる」
到着したのは、切り立った崖の上。
夕闇が迫る暗い空の下には、セネーバの夜景が広がっている。
「明るい所が、貴族や裕福な商人達が住む地域で、暗い所が貧困層が住む地域。そして、もっとも明るい場所が城の周辺だ」
ネーバ山の麓から少し離れた所が一番明るく、そこから遠ざかるほどに暗くなっていっている。
貧困層には、十分な灯りをともすことができるだけのお金がないのだ。
「この格差こそが、今のセネーバの一番の問題であり、変えねばならない部分だと思っている。その為に真っ先に変える必要があるのは、強さこそを至上とする我が国の民の意識だ」
「そういえば……別の大陸には草食獣人達の国があるという話は本当なのか?」
「ああ。俺は王族として、国を代表し草食獣人達の国を訪問したことがある。彼らは体格や魔力の量に関わらず、みな自らの種族に誇りを持っていた。強い者が弱いものを蔑み、弱いものが自らを卑下するセネーバの民とはまったく違う」
「私なんか」と言っていた、アニカの悲しそうな姿を思い出して、胸が締めつけられた。
生まれてきた国が違えば、あの子があんな顔をすることもなかったのかもしれない。
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