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兎の騎士⑦
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「……え、ええと、じゃあ」
これ以上あまり関わりたくない人種だと悟ったので、それだけ言い残して、言われた通り左の道に進む。……ここまで言って、さすがに罠はないだろ。仮に罠だったとしても、転移魔法使うだけだし。
身分が高い双子が頭を下げたからか、ギャラリーは驚愕の面持ちで道を開けてくれた。
進んで行くうちに人気のない裏路地に着いたので、そこでようやくアニカの消音魔法を消すことができた。
「……あれ!? 音が聞こえるようになった。さっきまで、全然聞こえなかったのに」
「ごめんね。喧嘩の音をアニカに聞かせたくなかったから、一時的に音を消してたんだ」
「騎士さまの国の人は、そんなこともできるのね。すごいなあ」
頭上で感嘆の声をあげるアニカに、怯えた様子はなく。そのことに、少しだけホッとする。
「……ごめんね。アニカ。アニカを喧嘩に巻き込んじゃった」
「何で謝るの? 向こうが一方的に暴力をふるってきたんだから、やり返して当然だよ」
「怖くなかった?」
「騎士さまがいたから、怖くなかったよ。……それより騎士さま、すごく、すごく格好良かった!」
小さな体で、後頭部をぎゅうっと抱き締められ、ほわりと心が温かくなった。
「……ありがとう。アニカ」
「アニカ! あれほど、一人でお祭りに行ってはいけないと……え?」
アニカに案内された古い孤児院の扉を開けるなり、血相を変えて飛び出してきた羊獣人の先生は、一緒に来た俺の姿を見るなりポカンと口を開いた。
「……どなた、ですか?」
「兎の騎士さまよ! お金を取られそうになった私のこと助けてくれて、お菓子まで買ってくれたの!」
「兎の、騎士?」
「? ニア先生が言ったのよ。海の向こうには、兎の騎士さまがいるって」
「……あ、ああ」
……どうやら兎の騎士の話は、幼い兎獣人のアニカを慰めるための、先生の作り話だったっぽいな。
困惑する先生に、人当たりの良い笑みを向けて、肩車していたアニカをおろした。
「……祭りで大人の獣人に絡まれていたアニカが心配で、保護してここまで送ってきました。この子が買いたがったお菓子に加えて、俺からもお土産に買ったものもあるので、よろしければ孤児院の皆さんで召し上がってください」
「え? 今、お菓子をどこから? え?」
ますます混乱している先生の耳元に口を寄せて、こっそり真実を告げる。
「……実は俺、目立たないように獣人の変装をしている人間の留学生なんです。今のは魔法で……」
「……あ~! ああ、そういうことでしたの!」
……良かった。人間の留学生の存在は、この人も知ってたっぽい。
「すみません。兎獣人の方を貶めるつもりとかはなく……ただ、人間の姿だとどうしても目立ってしまうので」
「いえいえいえ! そういう事情でしたら、お気になさらず! ……それより、アニカが大人の獣人に絡まれていたって」
「人化できない兎獣人だと言うだけで、スリをしたと決めつけられて、複数の大人の獣人からお金を取られそうになっていたので、救出しました」
「っだから祭りは危ないって、あんなに言ったのに……! ありがとうございます。貴方はアニカの恩人です」
「いえ、そんな」
「いえ、本当に。……小型の草食獣人がどれだけひどい目に遭ったとしても、誰も助けてくれないどころか、『弱い癖にこんなところに来た奴が悪い』と言われる世の中ですもの」
悲しそうにうつむくニア先生の言葉に、胸が締め付けられた。……そういえば、この人も人化はしていない。
「狭くて騒がしい所ですが、良かったらお茶を飲んで行ってください。……ふふふ。甘いお菓子なんて、久しぶり。きっと子ども達も喜びますわ」
「それでね! 騎士さまが、ぴょーんって高く飛んで! いじわるな犬のお兄ちゃんを踏み潰しちゃったのよ!」
「えー、嘘だあ」
「大人でも、兎獣人がそんなことできるわけないよ」
「嘘じゃないもん! 騎士さまはすごいんだもん! ハイエナやラーテルのおじさん達なんて、触っただけで倒しちゃったのよ」
「……ますますうそっぽい」
「本当だもん! 何でみんな信じてくれないの!?」
これ以上あまり関わりたくない人種だと悟ったので、それだけ言い残して、言われた通り左の道に進む。……ここまで言って、さすがに罠はないだろ。仮に罠だったとしても、転移魔法使うだけだし。
身分が高い双子が頭を下げたからか、ギャラリーは驚愕の面持ちで道を開けてくれた。
進んで行くうちに人気のない裏路地に着いたので、そこでようやくアニカの消音魔法を消すことができた。
「……あれ!? 音が聞こえるようになった。さっきまで、全然聞こえなかったのに」
「ごめんね。喧嘩の音をアニカに聞かせたくなかったから、一時的に音を消してたんだ」
「騎士さまの国の人は、そんなこともできるのね。すごいなあ」
頭上で感嘆の声をあげるアニカに、怯えた様子はなく。そのことに、少しだけホッとする。
「……ごめんね。アニカ。アニカを喧嘩に巻き込んじゃった」
「何で謝るの? 向こうが一方的に暴力をふるってきたんだから、やり返して当然だよ」
「怖くなかった?」
「騎士さまがいたから、怖くなかったよ。……それより騎士さま、すごく、すごく格好良かった!」
小さな体で、後頭部をぎゅうっと抱き締められ、ほわりと心が温かくなった。
「……ありがとう。アニカ」
「アニカ! あれほど、一人でお祭りに行ってはいけないと……え?」
アニカに案内された古い孤児院の扉を開けるなり、血相を変えて飛び出してきた羊獣人の先生は、一緒に来た俺の姿を見るなりポカンと口を開いた。
「……どなた、ですか?」
「兎の騎士さまよ! お金を取られそうになった私のこと助けてくれて、お菓子まで買ってくれたの!」
「兎の、騎士?」
「? ニア先生が言ったのよ。海の向こうには、兎の騎士さまがいるって」
「……あ、ああ」
……どうやら兎の騎士の話は、幼い兎獣人のアニカを慰めるための、先生の作り話だったっぽいな。
困惑する先生に、人当たりの良い笑みを向けて、肩車していたアニカをおろした。
「……祭りで大人の獣人に絡まれていたアニカが心配で、保護してここまで送ってきました。この子が買いたがったお菓子に加えて、俺からもお土産に買ったものもあるので、よろしければ孤児院の皆さんで召し上がってください」
「え? 今、お菓子をどこから? え?」
ますます混乱している先生の耳元に口を寄せて、こっそり真実を告げる。
「……実は俺、目立たないように獣人の変装をしている人間の留学生なんです。今のは魔法で……」
「……あ~! ああ、そういうことでしたの!」
……良かった。人間の留学生の存在は、この人も知ってたっぽい。
「すみません。兎獣人の方を貶めるつもりとかはなく……ただ、人間の姿だとどうしても目立ってしまうので」
「いえいえいえ! そういう事情でしたら、お気になさらず! ……それより、アニカが大人の獣人に絡まれていたって」
「人化できない兎獣人だと言うだけで、スリをしたと決めつけられて、複数の大人の獣人からお金を取られそうになっていたので、救出しました」
「っだから祭りは危ないって、あんなに言ったのに……! ありがとうございます。貴方はアニカの恩人です」
「いえ、そんな」
「いえ、本当に。……小型の草食獣人がどれだけひどい目に遭ったとしても、誰も助けてくれないどころか、『弱い癖にこんなところに来た奴が悪い』と言われる世の中ですもの」
悲しそうにうつむくニア先生の言葉に、胸が締め付けられた。……そういえば、この人も人化はしていない。
「狭くて騒がしい所ですが、良かったらお茶を飲んで行ってください。……ふふふ。甘いお菓子なんて、久しぶり。きっと子ども達も喜びますわ」
「それでね! 騎士さまが、ぴょーんって高く飛んで! いじわるな犬のお兄ちゃんを踏み潰しちゃったのよ!」
「えー、嘘だあ」
「大人でも、兎獣人がそんなことできるわけないよ」
「嘘じゃないもん! 騎士さまはすごいんだもん! ハイエナやラーテルのおじさん達なんて、触っただけで倒しちゃったのよ」
「……ますますうそっぽい」
「本当だもん! 何でみんな信じてくれないの!?」
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