上 下
102 / 311

建国祭⑧

しおりを挟む
 ……あ、これ駄目な奴。俺の名を勝手にあげられていることは腹立たしいけど、それ以上に狐お姉さんが心配過ぎる。
 狐お姉さん、もうこれ以上ヴィダルスに何も言わないで。よく見て、他の取り巻きがいやーな感じでニヤニヤしてるよ。こいつら、絶対ヴィダルスのことお姉さんより理解してるうえで、この表情してんだよ。性格悪っ。
 ええと、アストルディアは……うわあ、もう結構離れてる。いくらアストルディアでも、この混雑の中、他の人を傷つけずに戻って来ることはできなさそうだから、割と積んだ。
 ハラハラしながら狐お姉さんの動向を見守ってると、狐お姉さんは何故か嬉しそうに頬を薔薇色に染めて、ヴィダルスの裸の胸に手を這わせだした。

『もちろんです! ヴィダルス様も、去年の熱い一夜を覚えてらっしゃるでしょう? 私は獣人としてそれほど力はありませんが、房中術には自信がありますの。今年もヴィダルス様に、全てを忘れられる夢のような夜を過ごさせてみせますわ』

 あ"あ"あ"あ"あ"あ"ー……これ、ヴィダルスの笑顔を、そのまま好意的に受け取っちゃった奴ぅうう!
 何であの見下しMAXな笑顔見て、そんなポジティブに受け取れるの!? 『お前程度』とか言われてんのよ!? お姉さん、実は天然なかわいい人なの!? セクシー狐美女が、実は天然かわいいとかいいな! できれば俺の童貞もらってほし……じゃなくて、じゃなくて。

 これ……マジでやばいかも。
 
『ーー房中術だぁ? そんなんでエドワードが忘れられるわけねぇだろ。クソが』

 絶対零度のヴィダルスの声が、耳元で響いた。

『ぐぅっ……』

 苦しそうな狐お姉さんの呻き声と共に、周囲がざわめきだす。

「おい……あの狐女、ヴィダルス様を怒らせたみたいだぞ」

「何をしでかしたかわからねぇが……下手したらあれ、殺されるんじゃねぇか?」  

 ざわめく群衆の向こうで、絶対零度の眼差しのヴィダルスが、狐お姉さんの首を片手で鷲掴みにして持ち上げているのが見えた。

『俺の片手すら振りほどけねぇ雑魚が、よくもまあ、エドワードを忘れさせるなんてほざけたな。あいつは親善試合で俺に勝った男だぞ? 魔力も強さも、てめぇなんかとは格が違うんだ』

『離……苦し……』

『あいつは、「俺のエレナ」じゃねぇ。「俺のエドワード」だ。本物のエレナだって、あいつほど俺を興奮させねぇだろうよ。エドワードは、俺の唯一。ただ一人の番だ。それをてめぇごときが忘れさせられるだって?』

『……ぐ……が……』

 ……誰がてめぇの番だ。俺はアストルディア以外に番になることを了承した覚えはねぇぞ。

 ヴィダルスがクソみたいな戯言をほざいている間にも、首を圧迫されている狐お姉さんの顔はどんどん土気色に変わっていく。
 獣人は人間より頑丈ではあるけど、このまま放っておいたら窒息死してしまいそうだ。いや、その前に首が折れるか?

『いい気味~。弱いうえに頭も悪い狐が、一度ヴィダルス様に抱かれたくらいで調子に乗ってウザかったんだよねー』

『髪のまだら模様が汚いとか言われたし』

『ヴィダルス様の番面して、僕達のことを側室扱いしてきたし』

『『このまま死ねばいいのに』』

 ……わかってはいたが、他の取り巻き共はヴィダルスを取りなす気はなさそうだ。
 まあ、狐お姉さんも狐お姉さんで性格悪そうだから、一概に他の取り巻きが悪だとも思えなくはなってはきたが。

「……女に暴力ふるって、イキッてんじゃねぇよ。クソが」

 獣人はある意味では男女同権で、彼らからすれば俺の考えのが異質なのかもしれない。
 けれど俺は前世も今世も、か弱い女性は男が守るべきという価値観に育って来たわけで。
 2メートル近くある巨漢に、俺よりも小さな女性が首を絞められているのは、とてもじゃないけど見過ごせない。……そのせいで、面倒臭いことになるとわかってはいるけど。

『っ!?』

 人混みに紛れて放った火炎魔法は、計算通りヴィダルスの腕を焼き、狐お姉さんを取り落とさせることに成功した。一応風魔法で狐お姉さんの体は受け止めたから、恐らく怪我は負ってないはず。

『……エドワード?』

 ……さあて。どう逃げようかね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

【完結】魔力至上主義の異世界に転生した魔力なしの俺は、依存系最強魔法使いに溺愛される

秘喰鳥(性癖:両片思い&すれ違いBL)
BL
【概要】 哀れな魔力なし転生少年が可愛くて手中に収めたい、魔法階級社会の頂点に君臨する霊体最強魔法使い(ズレてるが良識持ち) VS 加虐本能を持つ魔法使いに飼われるのが怖いので、さっさと自立したい人間不信魔力なし転生少年 \ファイ!/ ■作品傾向:両片思い&ハピエン確約のすれ違い(たまにイチャイチャ) ■性癖:異世界ファンタジー×身分差×魔法契約 力の差に怯えながらも、不器用ながらも優しい攻めに受けが絆されていく異世界BLです。 【詳しいあらすじ】 魔法至上主義の世界で、魔法が使えない転生少年オルディールに価値はない。 優秀な魔法使いである弟に売られかけたオルディールは逃げ出すも、そこは魔法の為に人の姿を捨てた者が徘徊する王国だった。 オルディールは偶然出会った最強魔法使いスヴィーレネスに救われるが、今度は彼に攫われた上に監禁されてしまう。 しかし彼は諦めておらず、スヴィーレネスの元で魔法を覚えて逃走することを決意していた。

弟、異世界転移する。

ツキコ
BL
兄依存の弟が突然異世界転移して可愛がられるお話。たぶん。 のんびり進行なゆるBL

僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした

なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。 「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」 高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。 そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに… その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。 ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。 かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで… ハッピーエンドです。 R18の場面には※をつけます。

僕のユニークスキルはお菓子を出すことです

野鳥
BL
魔法のある世界で、異世界転生した主人公の唯一使えるユニークスキルがお菓子を出すことだった。 あれ?これって材料費なしでお菓子屋さん出来るのでは?? お菓子無双を夢見る主人公です。 ******** 小説は読み専なので、思い立った時にしか書けないです。 基本全ての小説は不定期に書いておりますので、ご了承くださいませー。 ショートショートじゃ終わらないので短編に切り替えます……こんなはずじゃ…( `ᾥ´ )クッ 本編完結しました〜

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

敵国軍人に惚れられたんだけど、女装がばれたらやばい。

水瀬かずか
BL
ルカは、革命軍を支援していた父親が軍に捕まったせいで、軍から逃亡・潜伏中だった。 どうやって潜伏するかって? 女装である。 そしたら女装が美人過ぎて、イケオジの大佐にめちゃくちゃ口説かれるはめになった。 これってさぁ……、女装がバレたら、ヤバくない……? ムーンライトノベルズさまにて公開中の物の加筆修正版(ただし性行為抜き)です。 表紙にR18表記がされていますが、作品はR15です。 illustration 吉杜玖美さま

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

処理中です...