100 / 311
建国祭⑥
しおりを挟む
その一瞬、アストルディアが抱える闇の一端が垣間見えた気がした。
「……王配のニルカグル様は参加してなかったな」
「70半ばの父は、奴隷だった十代の頃の無理が祟って、体のあちこちに問題が生じていてな。滅多に人前には立たない。仮に立てたとしても、母がそれを望むとも思えないが」
「女王陛下はその……まだお若いように見えたけど」
「父と母は34歳離れている。親子どころか、祖父と孫でもおかしくはない年齢差だ。体の弱いエレナを心配した祖父アルデフィアが、エレナの懇願に折れて子を作ることを同意したのは40になってからだったらしいが、父はさらに遅い。5つ上の兄が生まれた時には既に50代半ば、俺に至って60手前にできた子どもだ」
アストルディアの家系について聞いた時点で想像がついていたし、歴史の教科書を参考に実際の差も既に割り出していたが、改めて聞いてもエグい年の差だ。
政略結婚が当たり前の貴族では、たまにあることではあるけど、どうしても女王エルディアに同情してしまう。……いや、番に対する愛情が深い狼獣人ならば、これくらいの年齢差も問題はないのだろうか。それにしては、あまり夫婦仲が良いという話は聞かないのだが。
「……お前の家族について、俺は詳しく聞いても許されるのか」
「番が聞いて悪いことなぞ、何もない」
隠している闇に踏み込んでも許されるのかと言外に問うと、アストルディアは即答した。
「だが、話して愉快な話ではないのも確かだ。今はそれよりも、お前と過ごせる祭りの時間を楽しみたい。いつかきちんと説明するが、然るべき時が来るまで待っていて欲しい」
「……わかった」
本当に来るんだろうな……その然るべき時。
そんな疑いを込めた視線にも、アストルディアは逸らすことなく真っ直ぐ見返してきた。
……はいはい、信じてやりますよ。俺は狼獣人のお前にとって、唯一無二の番ですもんね。
「それにしても……どこを見渡しても美形ばっかりだけど、慣れるとやっぱりアスティが一番美形だな。何てかオーラが違う感じ?」
仕方ないから話を変えてやると、アストルディアはホッとしたようにため息を吐いた。
「美醜なぞどうでもいいと思ってたが、エディにそう言ってもらえるのは嬉しいな」
「こんだけ美形が渋滞してるのに、アスティなら絶対見つけ出せる自信あるもん。……しかし、ずいぶん道が混んで来たな。向こうに何かあるのか?」
「ああ。あちらにはサーカスの特設ステージがあるんだ」
「サーカス?」
魔法が一般的な国だと、どうしても感動が薄れるのか、リシス王国にはサーカスのような興行は存在しなかった。
けれど、そうか、身体強化が売りの獣人なら、サーカスがあったとしてもおかしくはないのか。人間より基礎的身体能力が高い獣人が、他の獣人からお金を取れるような業を披露するんだ。どれだけすごいものを見せてくれるんだろう。
……俺、前世で結構サーカスとか憧れてたんだよね。児童小説か何かに出てきたんだと思うけど。いつか妹と二人で見に行きたいけど、妹がサーカスから攫われちゃったらどうしようなんて、本気で悩んだりして。
結局、その後前世でサーカス一緒に見に行けたのかな。そこまでは思い出せねーや。
「それって事前にチケット買ってなくても、見に行けるの?」
「ああ。席が保証されない代わりに、当日券しかないはずだ。……見たいか?」
「見たい!」
「じゃあ、行ってみよう。はぐれないよう、手は離すなよ」
特設ステージに向かっていく人の流れに身を任せるように、アストルディアと手を繋いで進んで行く。
獣人国のサーカスって、どんなんかなー。空中ブランコとか、綱渡りとかやっぱりあんのかな。
獣化して火の輪くぐりは、普通にやりそう。
ルンルンで向かっていくと、不意にアストルディアが足を止めた。
「アスティ? こんなところで止まると危ない……」
「……ついてないな。まさか、アレがいるとは」
舌打ちしたアストルディアの視線の先。向こうからやってくる逆方向の流れの中には、金髪碧眼の美男美女に囲まれた黒髪の男がいた。
身長や、体格はアストルディアと同じくらいだろうか。三角耳がついた長い黒髪を無造作に結い上げた男の顔は、他の獣人同様に……というかアストルディア同様に他の獣人より無駄にオーラがある美形ではあるけど、何か傲慢そうでムカつく顔をしている。何故か上半身は裸で、無駄に美しいもっこり割れた筋肉を露わにしてるし。何だあの変態。
「……王配のニルカグル様は参加してなかったな」
「70半ばの父は、奴隷だった十代の頃の無理が祟って、体のあちこちに問題が生じていてな。滅多に人前には立たない。仮に立てたとしても、母がそれを望むとも思えないが」
「女王陛下はその……まだお若いように見えたけど」
「父と母は34歳離れている。親子どころか、祖父と孫でもおかしくはない年齢差だ。体の弱いエレナを心配した祖父アルデフィアが、エレナの懇願に折れて子を作ることを同意したのは40になってからだったらしいが、父はさらに遅い。5つ上の兄が生まれた時には既に50代半ば、俺に至って60手前にできた子どもだ」
アストルディアの家系について聞いた時点で想像がついていたし、歴史の教科書を参考に実際の差も既に割り出していたが、改めて聞いてもエグい年の差だ。
政略結婚が当たり前の貴族では、たまにあることではあるけど、どうしても女王エルディアに同情してしまう。……いや、番に対する愛情が深い狼獣人ならば、これくらいの年齢差も問題はないのだろうか。それにしては、あまり夫婦仲が良いという話は聞かないのだが。
「……お前の家族について、俺は詳しく聞いても許されるのか」
「番が聞いて悪いことなぞ、何もない」
隠している闇に踏み込んでも許されるのかと言外に問うと、アストルディアは即答した。
「だが、話して愉快な話ではないのも確かだ。今はそれよりも、お前と過ごせる祭りの時間を楽しみたい。いつかきちんと説明するが、然るべき時が来るまで待っていて欲しい」
「……わかった」
本当に来るんだろうな……その然るべき時。
そんな疑いを込めた視線にも、アストルディアは逸らすことなく真っ直ぐ見返してきた。
……はいはい、信じてやりますよ。俺は狼獣人のお前にとって、唯一無二の番ですもんね。
「それにしても……どこを見渡しても美形ばっかりだけど、慣れるとやっぱりアスティが一番美形だな。何てかオーラが違う感じ?」
仕方ないから話を変えてやると、アストルディアはホッとしたようにため息を吐いた。
「美醜なぞどうでもいいと思ってたが、エディにそう言ってもらえるのは嬉しいな」
「こんだけ美形が渋滞してるのに、アスティなら絶対見つけ出せる自信あるもん。……しかし、ずいぶん道が混んで来たな。向こうに何かあるのか?」
「ああ。あちらにはサーカスの特設ステージがあるんだ」
「サーカス?」
魔法が一般的な国だと、どうしても感動が薄れるのか、リシス王国にはサーカスのような興行は存在しなかった。
けれど、そうか、身体強化が売りの獣人なら、サーカスがあったとしてもおかしくはないのか。人間より基礎的身体能力が高い獣人が、他の獣人からお金を取れるような業を披露するんだ。どれだけすごいものを見せてくれるんだろう。
……俺、前世で結構サーカスとか憧れてたんだよね。児童小説か何かに出てきたんだと思うけど。いつか妹と二人で見に行きたいけど、妹がサーカスから攫われちゃったらどうしようなんて、本気で悩んだりして。
結局、その後前世でサーカス一緒に見に行けたのかな。そこまでは思い出せねーや。
「それって事前にチケット買ってなくても、見に行けるの?」
「ああ。席が保証されない代わりに、当日券しかないはずだ。……見たいか?」
「見たい!」
「じゃあ、行ってみよう。はぐれないよう、手は離すなよ」
特設ステージに向かっていく人の流れに身を任せるように、アストルディアと手を繋いで進んで行く。
獣人国のサーカスって、どんなんかなー。空中ブランコとか、綱渡りとかやっぱりあんのかな。
獣化して火の輪くぐりは、普通にやりそう。
ルンルンで向かっていくと、不意にアストルディアが足を止めた。
「アスティ? こんなところで止まると危ない……」
「……ついてないな。まさか、アレがいるとは」
舌打ちしたアストルディアの視線の先。向こうからやってくる逆方向の流れの中には、金髪碧眼の美男美女に囲まれた黒髪の男がいた。
身長や、体格はアストルディアと同じくらいだろうか。三角耳がついた長い黒髪を無造作に結い上げた男の顔は、他の獣人同様に……というかアストルディア同様に他の獣人より無駄にオーラがある美形ではあるけど、何か傲慢そうでムカつく顔をしている。何故か上半身は裸で、無駄に美しいもっこり割れた筋肉を露わにしてるし。何だあの変態。
244
お気に入りに追加
2,088
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役に転生したのにメインヒロインにガチ恋されている件
エース皇命
ファンタジー
前世で大好きだったファンタジー大作『ロード・オブ・ザ・ヒーロー』の悪役、レッド・モルドロスに転生してしまった桐生英介。もっと努力して意義のある人生を送っておけばよかった、という後悔から、学院で他を圧倒する努力を積み重ねる。
しかし、その一生懸命な姿に、メインヒロインであるシャロットは惚れ、卒業式の日に告白してきて……。
悪役というより、むしろ真っ当に生きようと、ファンタジーの世界で生き抜いていく。
ヒロインとの恋、仲間との友情──あれ? 全然悪役じゃないんだけど! 気づけば主人公になっていた、悪役レッドの物語!
※小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。
小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)
九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。
半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。
そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。
これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。
注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。
*ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
異世界へ下宿屋と共にトリップしたようで。
やの有麻
BL
山に囲まれた小さな村で下宿屋を営んでる倉科 静。29歳で独身。
昨日泊めた外国人を玄関の前で見送り家の中へ入ると、疲労が溜まってたのか急に眠くなり玄関の前で倒れてしまった。そして気付いたら住み慣れた下宿屋と共に異世界へとトリップしてしまったらしい!・・・え?どーゆうこと?
前編・後編・あとがきの3話です。1話7~8千文字。0時に更新。
*ご都合主義で適当に書きました。実際にこんな村はありません。
*フィクションです。感想は受付ますが、法律が~国が~など現実を突き詰めないでください。あくまで私が描いた空想世界です。
*男性出産関連の表現がちょっと入ってます。苦手な方はオススメしません。
【完結】『ルカ』
瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。
倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。
クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。
そんなある日、クロを知る青年が現れ……?
貴族の青年×記憶喪失の青年です。
※自サイトでも掲載しています。
2021年6月28日 本編完結
【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます
猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」
「いや、するわけないだろ!」
相川優也(25)
主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。
碧スバル(21)
指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。
「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」
「スバル、お前なにいってんの……?」
冗談? 本気? 二人の結末は?
美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。
【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる
木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8)
和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。
この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか?
鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。
もうすぐ主人公が転校してくる。
僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。
これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。
片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる