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建国祭⑤

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 俺とアストルディアが到着した頃には、広場はたくさんの人化した獣人達でごった返していた。
 中央には木で組み立てられた高い櫓が建てられていて、その上に美しく豪奢な衣装を纏った二人の獣人が佇んでいるのが見えた。

「え、と……あの二人が」 

「俺の母と、兄だ」

 俺だけに聞こえるような囁き声で、アストルディアが答えた。
 ということは……女王エルディアと、王太子カーディンクルか。
 獅子獣人の王太子カーディンクルは、線の細い甘いマスクの優男だった。着痩せするタイプなのか、遠目から見ると女王エルディアと変わらない体格に見える。
 アストルディアと同じ長い白銀の髪を三つ編みにして結い上げ、涙ボクロのある垂れた目を細めて微笑んでいる姿は優美ではあるが、獅子獣人……というか肉食系大型獣人のイメージからは程遠い。可愛らしい丸い耳がちょこんと頭に乗っているからこそ、よけいに。
 ……力こそ至上な獣人達に、あまり人気がない理由がわかるような気がする。いや、弱そうに見えてめっちゃ強い可能性も否定できないが……。
 一方エルディアは、厳格な雰囲気を纏った真っ黒い狼獣人の女性だった。広場に集まった人達はもちろん、カーディンクルも人化しているのに、彼女だけは獣面状態のままだ。
 真っ黒な狼獣人と言えばヴィダルスのイメージがあったし、獣面状態なら区別がつかないかもと思っていたが、こうして見ると全然違う。
 体格が全く違うと言うのもあるが、なんと言うか……。

「アスティに似てるな」

 不思議だ。毛皮が真っ黒でただでさえ顔立ちは分かりにくいうえに、遠目だというのに、不思議とそう思った。
 お犬様モードのアストルディアに、そっくりだと。

「……人間には人化してない獣人の顔は判別しづらいだろうに、良くわかったな。色合いこそ兄弟揃って父の色を引き継いだが、種族同様俺は母似で、兄は父似なんだ」

 自嘲するように、アストルディアは目を伏せた。

 「そして母は、祖父アルデフィアの生き写しだと言われている。……だからこそ、母は建国祭であっても、けして人化はしない」

「…………」

「そんな母に倣い、母が女王になって以降は国民も滅多に人化を行わなくなった。一年に一度、建国の英雄である祖父を讃えるこの建国祭の日以外では」

「ーー愛するセネーバ国民の皆様。一年に一度の建国祭を楽しんでいらっしゃいますか?」 

 俺がアストルディアの言葉に反応するよりも先に、エルディア女王のスピーチが始まった。

「敬愛する我が父、アルデフィアが人間の支配から獣人を開放して、57年の歳月が経ちました。人間の奴隷として虐げられた時代の屈辱を知っているものも少なくなってきておりますが、それでも我が父の偉業を疑うものはおりませんでしょう。今日は建国の英雄である亡き父を讃え、戦いの必要ない時代に生まれた喜びを噛み締めながら大いに盛り上がってください。……くれぐれも、獣人としての誇りを忘れない範囲で」

 短くて率直なスピーチだった。
 リシス王国の王族のスピーチなら、詩や美辞麗句を交えて、もっとくどくどと続いたことだろう。
 だが、セネーバの国民にはこれで十分だったらしい。  
 途端に歓声があがり、あちこちから女王を讃える声がする。

「続いて王太子である私からも一言~。みんな、楽しんでね~」

 へらりとした笑みと共にカーディンクルが告げた言葉には、パラパラと拍手があがるだけだった。……ろ、露骨過ぎないか。セネーバ国民。本当に人気ないのな。王太子。

「……それじゃあ、出口が混む前に行くか」

「え、話しかけに行ったりしないの?」

「そのつもりなら、最初から変装なぞしてない」

 ……それもそうか。女王に話しかけたりしたら、普通に正体ばれちゃうしね。

「……まあ、たとえ変装してなかったとしても、話しかけなかっただろうがな」

 


 
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