俺の悪役チートは獣人殿下には通じない

空飛ぶひよこ

文字の大きさ
上 下
97 / 311

建国祭③

しおりを挟む
 昔ダンテに、「何故人は、獣人を嫌うのか」と聞いたことがあった。
 身体構造の違いに対する生理的な嫌悪に、宗教的迫害要因。豊かな土地を奪われた過去因縁に、それを起因としたリシス王国の貧困。
 その時ダンテから聞いた答えは、当時の俺にはとても覆せそうにない、絶望的なもののように思えた。
 しかし、リシス王国の貧困問題は、俺やクリスの努力のかいがあって、この数年で劇的に改善したわけで。
 宗教的迫害は、あくまでレンリネド主導のものであり、リシス王国には今もそこまで根付いていない。
 過去の因縁を体験談として知っている世代は老い、現在では発言力を弱めつつある。
 その上で、身体的構造の違いに由来する嫌悪感が、獣人が同性に対する婚姻を強要さえしなければ、人化した状態の容姿が整っているというだけで薄まる問題なのだとしたら。 
 リシス王国の人間が獣人を嫌う理由は、今やほとんどないと考えてもいいのではないか。

 ……いやいや、人化した獣人の姿が想像した以上に美形だったからって、さすがにそう考えるのは早計過ぎるだろう。
 俺やダンテが思いつかない、他の要因もあるだろうし。……ん? そういや、あの時ダンテは真っ先になんて言ったんだっけ。
 なんか、とても重要なことを忘れているような……。

「ひゃっ!」

 不意に首元に冷たいものをあてられ、変な声が出た。

「エディ。色々思い悩むのはいいが、今日は祭りだ。せっかくだから、楽しむといい」

「えと、これは?」

「最近セネーバで人気のジュースだ。店主が氷属性に特化したものに頼んで、大量の氷を作ってもらったようで、我が国で提供されるものにしてはかなり冷えている。氷魔法が使えるものがいる人間の国では珍しくもないかもしれないが、セネーバではこの冷たさが馳走なんだ」
 
 確かに、セネーバ来てからあまり冷たいもの口にしてないな。今の季節はまだいいけど、もうちょい暑くなったらキツイかも。
 いや、逆に氷魔法で、他の生徒に恩を売るチャンスか? 氷属性付与された魔道具の販売ルート開拓できるかもだし。今度クリスに相談してみっか。
 それにしても氷属性が特化した獣人、ねえ……もしかして、それって、どっかの兵団長さんだったりしない? めちゃくちゃいい人そうだったし、店主に泣きつかれたら何だかんだで引き受けそうな気がするんだけど。

「……ありがとう」

 ひんやり冷えた陶器のグラスの中には、バナナとブルーベリーを合わせたスムージーのようなジュースが入っていた。
 中には潰した氷も混ぜられているのか、シャクシャクした少し歯に沁みる食感が楽しい。スムージーというより、シェイクだな。

「立派なカップだけど……これ、持って帰っていいの?」

「容器代も料金に含まれているんだ。飲んだ後に店に持っていけば、その分の料金を返却してくれるが、どうする?」

 つまり、デポジットか。
 料金返却する手間がかかるけど、前世みたいに気軽に紙コップを使えないみたいな環境では良いんだろうな。辺境伯領のお祭りでは、竹みたいな切るだけでコップみたいになる植物使って、処分は顧客任せだったけど。

「ごちそう様! 美味しかった」

「なら、良かった。他にも色々出店があるが、食べてみるか? お前が以前作ってくれたコロッケもあるぞ」

「え? セネーバにもコロッケあったの?」

「いや。お前が作ってくれたコロッケのレシピを、王宮の料理人に伝えたら、第二王子の好物として急速に国内に広まった」

「…………」

「エディ?」

 ーー俺がセネーバ国内で、コロッケ無双するチャンスがあああああ!!!!

 くそっ……王子様なアストルディアには、独自レシピの重要性がわからなかったか。
 いや、元々のレシピ自体が前世の世界のどっかの誰の独自レシピだから、本来は俺が権利を訴えられることでもないんだけど。そもそもアストルディアは、コロッケのレシピが俺の独自レシピじゃなくて、リシス王国における一般家庭料理だと思ってた可能性もあるしな。
 でも……悔すぅい! 縁日でも売られるくらいにセネーバでメジャーになるなら、もっと上手い活用方法あったのにいいい!!!
しおりを挟む
感想 160

あなたにおすすめの小説

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた

マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。 主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。 しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。 平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。 タイトルを変えました。 前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。 急に変えてしまい、すみません。  

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8) 和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。 この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか? 鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。 もうすぐ主人公が転校してくる。 僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。 これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。 片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。

処理中です...