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建国祭③
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昔ダンテに、「何故人は、獣人を嫌うのか」と聞いたことがあった。
身体構造の違いに対する生理的な嫌悪に、宗教的迫害要因。豊かな土地を奪われた過去因縁に、それを起因としたリシス王国の貧困。
その時ダンテから聞いた答えは、当時の俺にはとても覆せそうにない、絶望的なもののように思えた。
しかし、リシス王国の貧困問題は、俺やクリスの努力のかいがあって、この数年で劇的に改善したわけで。
宗教的迫害は、あくまでレンリネド主導のものであり、リシス王国には今もそこまで根付いていない。
過去の因縁を体験談として知っている世代は老い、現在では発言力を弱めつつある。
その上で、身体的構造の違いに由来する嫌悪感が、獣人が同性に対する婚姻を強要さえしなければ、人化した状態の容姿が整っているというだけで薄まる問題なのだとしたら。
リシス王国の人間が獣人を嫌う理由は、今やほとんどないと考えてもいいのではないか。
……いやいや、人化した獣人の姿が想像した以上に美形だったからって、さすがにそう考えるのは早計過ぎるだろう。
俺やダンテが思いつかない、他の要因もあるだろうし。……ん? そういや、あの時ダンテは真っ先になんて言ったんだっけ。
なんか、とても重要なことを忘れているような……。
「ひゃっ!」
不意に首元に冷たいものをあてられ、変な声が出た。
「エディ。色々思い悩むのはいいが、今日は祭りだ。せっかくだから、楽しむといい」
「えと、これは?」
「最近セネーバで人気のジュースだ。店主が氷属性に特化したものに頼んで、大量の氷を作ってもらったようで、我が国で提供されるものにしてはかなり冷えている。氷魔法が使えるものがいる人間の国では珍しくもないかもしれないが、セネーバではこの冷たさが馳走なんだ」
確かに、セネーバ来てからあまり冷たいもの口にしてないな。今の季節はまだいいけど、もうちょい暑くなったらキツイかも。
いや、逆に氷魔法で、他の生徒に恩を売るチャンスか? 氷属性付与された魔道具の販売ルート開拓できるかもだし。今度クリスに相談してみっか。
それにしても氷属性が特化した獣人、ねえ……もしかして、それって、どっかの兵団長さんだったりしない? めちゃくちゃいい人そうだったし、店主に泣きつかれたら何だかんだで引き受けそうな気がするんだけど。
「……ありがとう」
ひんやり冷えた陶器のグラスの中には、バナナとブルーベリーを合わせたスムージーのようなジュースが入っていた。
中には潰した氷も混ぜられているのか、シャクシャクした少し歯に沁みる食感が楽しい。スムージーというより、シェイクだな。
「立派なカップだけど……これ、持って帰っていいの?」
「容器代も料金に含まれているんだ。飲んだ後に店に持っていけば、その分の料金を返却してくれるが、どうする?」
つまり、デポジットか。
料金返却する手間がかかるけど、前世みたいに気軽に紙コップを使えないみたいな環境では良いんだろうな。辺境伯領のお祭りでは、竹みたいな切るだけでコップみたいになる植物使って、処分は顧客任せだったけど。
「ごちそう様! 美味しかった」
「なら、良かった。他にも色々出店があるが、食べてみるか? お前が以前作ってくれたコロッケもあるぞ」
「え? セネーバにもコロッケあったの?」
「いや。お前が作ってくれたコロッケのレシピを、王宮の料理人に伝えたら、第二王子の好物として急速に国内に広まった」
「…………」
「エディ?」
ーー俺がセネーバ国内で、コロッケ無双するチャンスがあああああ!!!!
くそっ……王子様なアストルディアには、独自レシピの重要性がわからなかったか。
いや、元々のレシピ自体が前世の世界のどっかの誰の独自レシピだから、本来は俺が権利を訴えられることでもないんだけど。そもそもアストルディアは、コロッケのレシピが俺の独自レシピじゃなくて、リシス王国における一般家庭料理だと思ってた可能性もあるしな。
でも……悔すぅい! 縁日でも売られるくらいにセネーバでメジャーになるなら、もっと上手い活用方法あったのにいいい!!!
身体構造の違いに対する生理的な嫌悪に、宗教的迫害要因。豊かな土地を奪われた過去因縁に、それを起因としたリシス王国の貧困。
その時ダンテから聞いた答えは、当時の俺にはとても覆せそうにない、絶望的なもののように思えた。
しかし、リシス王国の貧困問題は、俺やクリスの努力のかいがあって、この数年で劇的に改善したわけで。
宗教的迫害は、あくまでレンリネド主導のものであり、リシス王国には今もそこまで根付いていない。
過去の因縁を体験談として知っている世代は老い、現在では発言力を弱めつつある。
その上で、身体的構造の違いに由来する嫌悪感が、獣人が同性に対する婚姻を強要さえしなければ、人化した状態の容姿が整っているというだけで薄まる問題なのだとしたら。
リシス王国の人間が獣人を嫌う理由は、今やほとんどないと考えてもいいのではないか。
……いやいや、人化した獣人の姿が想像した以上に美形だったからって、さすがにそう考えるのは早計過ぎるだろう。
俺やダンテが思いつかない、他の要因もあるだろうし。……ん? そういや、あの時ダンテは真っ先になんて言ったんだっけ。
なんか、とても重要なことを忘れているような……。
「ひゃっ!」
不意に首元に冷たいものをあてられ、変な声が出た。
「エディ。色々思い悩むのはいいが、今日は祭りだ。せっかくだから、楽しむといい」
「えと、これは?」
「最近セネーバで人気のジュースだ。店主が氷属性に特化したものに頼んで、大量の氷を作ってもらったようで、我が国で提供されるものにしてはかなり冷えている。氷魔法が使えるものがいる人間の国では珍しくもないかもしれないが、セネーバではこの冷たさが馳走なんだ」
確かに、セネーバ来てからあまり冷たいもの口にしてないな。今の季節はまだいいけど、もうちょい暑くなったらキツイかも。
いや、逆に氷魔法で、他の生徒に恩を売るチャンスか? 氷属性付与された魔道具の販売ルート開拓できるかもだし。今度クリスに相談してみっか。
それにしても氷属性が特化した獣人、ねえ……もしかして、それって、どっかの兵団長さんだったりしない? めちゃくちゃいい人そうだったし、店主に泣きつかれたら何だかんだで引き受けそうな気がするんだけど。
「……ありがとう」
ひんやり冷えた陶器のグラスの中には、バナナとブルーベリーを合わせたスムージーのようなジュースが入っていた。
中には潰した氷も混ぜられているのか、シャクシャクした少し歯に沁みる食感が楽しい。スムージーというより、シェイクだな。
「立派なカップだけど……これ、持って帰っていいの?」
「容器代も料金に含まれているんだ。飲んだ後に店に持っていけば、その分の料金を返却してくれるが、どうする?」
つまり、デポジットか。
料金返却する手間がかかるけど、前世みたいに気軽に紙コップを使えないみたいな環境では良いんだろうな。辺境伯領のお祭りでは、竹みたいな切るだけでコップみたいになる植物使って、処分は顧客任せだったけど。
「ごちそう様! 美味しかった」
「なら、良かった。他にも色々出店があるが、食べてみるか? お前が以前作ってくれたコロッケもあるぞ」
「え? セネーバにもコロッケあったの?」
「いや。お前が作ってくれたコロッケのレシピを、王宮の料理人に伝えたら、第二王子の好物として急速に国内に広まった」
「…………」
「エディ?」
ーー俺がセネーバ国内で、コロッケ無双するチャンスがあああああ!!!!
くそっ……王子様なアストルディアには、独自レシピの重要性がわからなかったか。
いや、元々のレシピ自体が前世の世界のどっかの誰の独自レシピだから、本来は俺が権利を訴えられることでもないんだけど。そもそもアストルディアは、コロッケのレシピが俺の独自レシピじゃなくて、リシス王国における一般家庭料理だと思ってた可能性もあるしな。
でも……悔すぅい! 縁日でも売られるくらいにセネーバでメジャーになるなら、もっと上手い活用方法あったのにいいい!!!
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