94 / 311
国交の為の取引材料は⑤
しおりを挟む
小さく鼻を鳴らしながら、アストルディアはため息を吐く。
「だが俺からすれば、獣人に対する認識に相違があるように思う。……もっともそれは俺の願望の可能性もあるがな」
「……それはどういう意味?」
「説明するのは簡単だが、先入観のないエディの意見も聞きたい。元々誘うつもりだったしな。次の休日は、何か予定はあるか」
「特に予定はないけど……」
基本的にクリスからの要請がない限り、休日は転移魔法でネーバ山にこもって鍛錬をしている。
転移魔法を使って辺境伯領で色々動くことも考えたが、セネーバの許可なしに頻繁に国を出入りするのは問題だし、かと言って許可を取ったら取ったで痛くもない腹を探られることになる。クリスからも、リシス王国に戻る時は必ず自分の許可を取ってからと釘を刺された。
セネーバ国内の現状を調査するにしても、人間である俺は目立ち過ぎて、学校外を歩き回ることを歓迎されていない。クリスは学校内でできた伝手をうまく使って、色々調査しているようだけど……あ、なんかまた、自分の能力の低さが浮き彫りになってきた気がする。
結果、俺の休日は基本的に修行三昧。あとはせいぜい学校の図書館の本を片っ端から読み込んで、情報収集するくらいのことしかしていない。だから、予定を合わせようと思えば、いくらでも合わせられる。
「良かった。なら、次の休日は俺と街へ行こう」
「え……でも人間である俺と、王族のアストルディアなんて組み合わせ、目立って仕方ないんじゃ……」
下手したら、ヴィダルスに知られて面倒臭い事態を引き起こしてしまう。
躊躇う俺を安心させるように、アストルディアは俺の頬を舐めた。
「次の休日なら、大丈夫だ。何せ、一年に一度の建国祭だからな」
「へ?」
「あ"ー! お犬様の白銀の美しい毛皮が! あ"ー!」
待ちに待った、休日。
俺はお犬様モードのアストルディアが、灰色の粉を満たしたデカい容器の上でゴロゴロ転がりながら毛皮を汚していくのを、涙目で眺めていた。
普通ならまだらに付着しそうなものなのに、中の粉はアストルディアの毛皮にまんべんなくくっついて、白銀の毛を灰色に染めていく。恐らく、何らかの魔力がこもっている粉なのだろう。
「……よし。こんなものか」
のそのそと容器から抜け出したアストルディアが人化すると、あら不思議。耳と尻尾はもちろん、髪や眉毛、睫毛に至るまで灰色に染まったイケメンが立っていた。
顔は変わってないけど、アストルディアの白銀の色はかなり目を引くので、結構印象が変わる。
「便利だなー。この粉。簡単に髪の色が変えられるうえに、洗えばすぐ落ちるんだろう? これ、リシス王国に出荷できないかなあ」
気になったので、出来心で鑑定。……して、後悔した。
【ソカタナの灰】
ネーバ山のみ生息する、ソカタナという虫を焼いて粉にしたもの。
ソカタナは魔力を駆使して生き物の毛に強力密着して吸血する習性を持っており、焼いた灰も同じ魔力を保持している為、セネーバでは染め粉として使われることもある。
……原材料、虫。
しかもこの虫、俺覚えあるわ。いつだかお犬様の毛のあちこちにくっついてたのを発見して、聖魔法使って必死に駆除した虫の名前、鑑定したら確かソカタナだったもん。俺は最初から魔法で虫除けしてたから被害なかったけど、お犬様の体にはブツブツできてんの発見して泣いて、以後お犬様と会うたび即虫除け魔法をかけるようになったんだっけ。
俺のお犬様の血を吸うなんて、クソ虫め、駆逐してやるー! と当時は復讐に燃えたものだけど……まさかの形での再会。
え、あんなクソ虫の死骸で、綺麗なお毛々染めていーの? アストルディア、平然としてるけど。 え?
「人化した状態の顔は学園の生徒しか知らないし、学園の生徒も色が違えば俺だとは特定できないだろう。人間の顔の違いは、基本的に獣人には判別しづらいからな」
「……でも、獣人なら魔力でわかるんじゃ」
「問題ない。これを使う」
「だが俺からすれば、獣人に対する認識に相違があるように思う。……もっともそれは俺の願望の可能性もあるがな」
「……それはどういう意味?」
「説明するのは簡単だが、先入観のないエディの意見も聞きたい。元々誘うつもりだったしな。次の休日は、何か予定はあるか」
「特に予定はないけど……」
基本的にクリスからの要請がない限り、休日は転移魔法でネーバ山にこもって鍛錬をしている。
転移魔法を使って辺境伯領で色々動くことも考えたが、セネーバの許可なしに頻繁に国を出入りするのは問題だし、かと言って許可を取ったら取ったで痛くもない腹を探られることになる。クリスからも、リシス王国に戻る時は必ず自分の許可を取ってからと釘を刺された。
セネーバ国内の現状を調査するにしても、人間である俺は目立ち過ぎて、学校外を歩き回ることを歓迎されていない。クリスは学校内でできた伝手をうまく使って、色々調査しているようだけど……あ、なんかまた、自分の能力の低さが浮き彫りになってきた気がする。
結果、俺の休日は基本的に修行三昧。あとはせいぜい学校の図書館の本を片っ端から読み込んで、情報収集するくらいのことしかしていない。だから、予定を合わせようと思えば、いくらでも合わせられる。
「良かった。なら、次の休日は俺と街へ行こう」
「え……でも人間である俺と、王族のアストルディアなんて組み合わせ、目立って仕方ないんじゃ……」
下手したら、ヴィダルスに知られて面倒臭い事態を引き起こしてしまう。
躊躇う俺を安心させるように、アストルディアは俺の頬を舐めた。
「次の休日なら、大丈夫だ。何せ、一年に一度の建国祭だからな」
「へ?」
「あ"ー! お犬様の白銀の美しい毛皮が! あ"ー!」
待ちに待った、休日。
俺はお犬様モードのアストルディアが、灰色の粉を満たしたデカい容器の上でゴロゴロ転がりながら毛皮を汚していくのを、涙目で眺めていた。
普通ならまだらに付着しそうなものなのに、中の粉はアストルディアの毛皮にまんべんなくくっついて、白銀の毛を灰色に染めていく。恐らく、何らかの魔力がこもっている粉なのだろう。
「……よし。こんなものか」
のそのそと容器から抜け出したアストルディアが人化すると、あら不思議。耳と尻尾はもちろん、髪や眉毛、睫毛に至るまで灰色に染まったイケメンが立っていた。
顔は変わってないけど、アストルディアの白銀の色はかなり目を引くので、結構印象が変わる。
「便利だなー。この粉。簡単に髪の色が変えられるうえに、洗えばすぐ落ちるんだろう? これ、リシス王国に出荷できないかなあ」
気になったので、出来心で鑑定。……して、後悔した。
【ソカタナの灰】
ネーバ山のみ生息する、ソカタナという虫を焼いて粉にしたもの。
ソカタナは魔力を駆使して生き物の毛に強力密着して吸血する習性を持っており、焼いた灰も同じ魔力を保持している為、セネーバでは染め粉として使われることもある。
……原材料、虫。
しかもこの虫、俺覚えあるわ。いつだかお犬様の毛のあちこちにくっついてたのを発見して、聖魔法使って必死に駆除した虫の名前、鑑定したら確かソカタナだったもん。俺は最初から魔法で虫除けしてたから被害なかったけど、お犬様の体にはブツブツできてんの発見して泣いて、以後お犬様と会うたび即虫除け魔法をかけるようになったんだっけ。
俺のお犬様の血を吸うなんて、クソ虫め、駆逐してやるー! と当時は復讐に燃えたものだけど……まさかの形での再会。
え、あんなクソ虫の死骸で、綺麗なお毛々染めていーの? アストルディア、平然としてるけど。 え?
「人化した状態の顔は学園の生徒しか知らないし、学園の生徒も色が違えば俺だとは特定できないだろう。人間の顔の違いは、基本的に獣人には判別しづらいからな」
「……でも、獣人なら魔力でわかるんじゃ」
「問題ない。これを使う」
252
お気に入りに追加
2,130
あなたにおすすめの小説
【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜
N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。
表紙絵
⇨元素 様 X(@10loveeeyy)
※独自設定、ご都合主義です。
※ハーレム要素を予定しています。
王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜
・不定期
信じて送り出した養い子が、魔王の首を手柄に俺へ迫ってくるんだが……
鳥羽ミワ
BL
ミルはとある貴族の家で使用人として働いていた。そこの末息子・レオンは、不吉な赤目や強い黒魔力を持つことで忌み嫌われている。それを見かねたミルは、レオンを離れへ隔離するという名目で、彼の面倒を見ていた。
そんなある日、魔王復活の知らせが届く。レオンは勇者候補として戦地へ向かうこととなった。心配でたまらないミルだが、レオンはあっさり魔王を討ち取った。
これでレオンの将来は安泰だ! と喜んだのも束の間、レオンはミルに求婚する。
「俺はずっと、ミルのことが好きだった」
そんなこと聞いてないが!? だけどうるうるの瞳(※ミル視点)で迫るレオンを、ミルは拒み切れなくて……。
お人よしでほだされやすい鈍感使用人と、彼をずっと恋い慕い続けた令息。長年の執着の粘り勝ちを見届けろ!
※エブリスタ様、カクヨム様、pixiv様にも掲載しています
僕だけの番
五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。
その中の獣人族にだけ存在する番。
でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。
僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。
それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。
出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。
そのうえ、彼には恋人もいて……。
後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。
男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~
さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。
そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。
姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。
だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。
その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。
女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。
もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。
周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか?
侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?
光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる