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国交の為の取引材料は⑤

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 小さく鼻を鳴らしながら、アストルディアはため息を吐く。

「だが俺からすれば、獣人に対する認識に相違があるように思う。……もっともそれは俺の願望の可能性もあるがな」

「……それはどういう意味?」

「説明するのは簡単だが、先入観のないエディの意見も聞きたい。元々誘うつもりだったしな。次の休日は、何か予定はあるか」

「特に予定はないけど……」

 基本的にクリスからの要請がない限り、休日は転移魔法でネーバ山にこもって鍛錬をしている。
 転移魔法を使って辺境伯領で色々動くことも考えたが、セネーバの許可なしに頻繁に国を出入りするのは問題だし、かと言って許可を取ったら取ったで痛くもない腹を探られることになる。クリスからも、リシス王国に戻る時は必ず自分の許可を取ってからと釘を刺された。
 セネーバ国内の現状を調査するにしても、人間である俺は目立ち過ぎて、学校外を歩き回ることを歓迎されていない。クリスは学校内でできた伝手をうまく使って、色々調査しているようだけど……あ、なんかまた、自分の能力の低さが浮き彫りになってきた気がする。
 結果、俺の休日は基本的に修行三昧。あとはせいぜい学校の図書館の本を片っ端から読み込んで、情報収集するくらいのことしかしていない。だから、予定を合わせようと思えば、いくらでも合わせられる。

「良かった。なら、次の休日は俺と街へ行こう」

「え……でも人間である俺と、王族のアストルディアなんて組み合わせ、目立って仕方ないんじゃ……」

 下手したら、ヴィダルスに知られて面倒臭い事態を引き起こしてしまう。
 躊躇う俺を安心させるように、アストルディアは俺の頬を舐めた。

「次の休日なら、大丈夫だ。何せ、一年に一度の建国祭だからな」

「へ?」




「あ"ー! お犬様の白銀の美しい毛皮が! あ"ー!」

 待ちに待った、休日。
 俺はお犬様モードのアストルディアが、灰色の粉を満たしたデカい容器の上でゴロゴロ転がりながら毛皮を汚していくのを、涙目で眺めていた。
 普通ならまだらに付着しそうなものなのに、中の粉はアストルディアの毛皮にまんべんなくくっついて、白銀の毛を灰色に染めていく。恐らく、何らかの魔力がこもっている粉なのだろう。

「……よし。こんなものか」

 のそのそと容器から抜け出したアストルディアが人化すると、あら不思議。耳と尻尾はもちろん、髪や眉毛、睫毛に至るまで灰色に染まったイケメンが立っていた。
 顔は変わってないけど、アストルディアの白銀の色はかなり目を引くので、結構印象が変わる。

「便利だなー。この粉。簡単に髪の色が変えられるうえに、洗えばすぐ落ちるんだろう? これ、リシス王国に出荷できないかなあ」

 気になったので、出来心で鑑定。……して、後悔した。


【ソカタナの灰】
 ネーバ山のみ生息する、ソカタナという虫を焼いて粉にしたもの。
 ソカタナは魔力を駆使して生き物の毛に強力密着して吸血する習性を持っており、焼いた灰も同じ魔力を保持している為、セネーバでは染め粉として使われることもある。

 ……原材料、虫。
 しかもこの虫、俺覚えあるわ。いつだかお犬様の毛のあちこちにくっついてたのを発見して、聖魔法使って必死に駆除した虫の名前、鑑定したら確かソカタナだったもん。俺は最初から魔法で虫除けしてたから被害なかったけど、お犬様の体にはブツブツできてんの発見して泣いて、以後お犬様と会うたび即虫除け魔法をかけるようになったんだっけ。
 俺のお犬様の血を吸うなんて、クソ虫め、駆逐してやるー! と当時は復讐に燃えたものだけど……まさかの形での再会。
 え、あんなクソ虫の死骸で、綺麗なお毛々染めていーの? アストルディア、平然としてるけど。 え?

「人化した状態の顔は学園の生徒しか知らないし、学園の生徒も色が違えば俺だとは特定できないだろう。人間の顔の違いは、基本的に獣人には判別しづらいからな」

「……でも、獣人なら魔力でわかるんじゃ」

「問題ない。これを使う」

 
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