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国交の為の取引材料は③
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「ちょっと色々あってさ。……てか、当然のように部屋で待ってないで」
俺が報告会で遅くなっても、必ず寝るタイミングでやって来ていたアストルディアは、番になったせいか勝手に部屋にあがりこんで待機するまでにレベルアップ? した。
予想をしていたので特別驚きはしないけど、少しくらいは罪悪感を抱いて欲しい。この為に、わざと鍵壊したまんまにしてるんじゃないかと思っちゃうし。
お犬様状態で待機していたアストルディアをベッドに招いて、ぎゅうぎゅうに抱き締める。温かなモフモフと、慣れたアストルディアの魔力が荒んだ心に沁みる。
「……今日は、しないの」
「疲れているだろう。一日くらい空けたところで、そう簡単には戻らない」
「ふうん……」
拡張が終わるまではできるだけ間を空けない方がいいということで、あれから毎日アストルディアから尻に指を突っ込まれてはアンアン喘いでいた。
今日は休みと聞いて、ホッとしたようなつまらないような複雑な気分になり、アストルディアの胸のモフモフにぐりぐりと額を擦りつける。
アストルディアは、肉球がついた手で、俺の後頭部を優しくポンポンしてくれた。
「……で、何があったんだ」
「……そんなに俺、落ち込んで見える?」
「見えるというか……そう言う臭いがする」
「え、臭いで感情までわかっちゃうの!?」
獣人が臭いで魔力を感知できるのは知ってはいたけど、感情までバレバレだとは……対獣人とのコミュニケーションは特に気をつける必要がありそうだ。
「安心しろ。俺が特別鼻が利くだけで、隠そうとしている感情まで臭いで見抜けるものは少ない」
「そうなの? 注視しなくとも、相手の感情を見抜けるなら便利な特技だな」
「そうでもないぞ。知りたくない相手の感情すら、全て伝わってきてしまうからな。……こうやって、お前が押し殺そうとしている感情を拾いあげることができることは、僥倖だと思うが」
……あ、話変えても誤魔化されてくれないのね。知ってた。
まるで臭いで全てをお見通しなことをアピールするかのように、マズルをすりすりしてくるアストルディアに、俺は話を逸らすことを諦めた。
「ちょっとクリスに色々言われてね。……アスティはさ、信用できる手駒っている?」
「信用?」
少しだけ黙り込むアストルディアの姿に、あれ、もしかしてアストルディアも俺と同類? なんて期待が湧いてくる。
難しいよね。クリスみたいに生きるのは。たとえ同じ王族でもさ。
「……信用の定義によるな」
「定義?」
「心を預けて本音を晒せることを信用というならば、いない。俺の命令を忠実に聞き、求めた通りの成果を期待できることを信用というなら、複数名当てがある。使うか? エディの頼みならば、いつでも貸すぞ」
「…………イイデス」
……期待した分、少しがっかりしたけど、まあそりゃそうだよな。俺が甘ちゃん過ぎるだけで。
王族というか、人を束ねる立場にいる人間なら、それくらいいて当然だ。
「何故そこでますます落ち込むんだ。エディ……お前には、俺がいるのに」
「え?」
「番の願いを叶えるのは、獣人の甲斐性だ。お前が望むのなら、俺はいつでもお前の手駒になるぞ。信用はしてくれないのか?」
さらりと告げられた言葉に、絶句する。
「……俺は、アストルディアを手駒になんて、する気はない」
……いや、違うな。
「手駒だなんて、思えないんだ。……思うべきだとは理解していても」
俺の言葉に、アストルディアはその金色の目を細めた。
「……お前は本当に可愛いな。エディ」
揶揄されるようなその言葉が、胸に刺さる。
「……甘ちゃんだって、言いたいんだろ。わかっているよ。クリスみたいに、もっと上手く立ち回るべきだって」
もし、クリスが俺の立場だったら。
アストルディアはもちろん、ヴィダルスやブラッドリーも同時並行で誑かして、手駒にできていただろう。
アストルディアとヴィダルスは共にセネーバの王族だし、ブラッドリーは敵対公爵が溺愛する子ども。この三人を同時に掌握することができれば、戦争回避の未来がより現実的なものになる。
それなのに、俺はブラッドリーは特別今後交流する気もないまま別れを告げ、ヴィダルスは遠ざけたうえで狂気的な執着までされて、アストルディアに対しても全く主導権を握れていない。
……そりゃあクリスだって、もう自発的には何もすんなって思うわけだ。
俺が報告会で遅くなっても、必ず寝るタイミングでやって来ていたアストルディアは、番になったせいか勝手に部屋にあがりこんで待機するまでにレベルアップ? した。
予想をしていたので特別驚きはしないけど、少しくらいは罪悪感を抱いて欲しい。この為に、わざと鍵壊したまんまにしてるんじゃないかと思っちゃうし。
お犬様状態で待機していたアストルディアをベッドに招いて、ぎゅうぎゅうに抱き締める。温かなモフモフと、慣れたアストルディアの魔力が荒んだ心に沁みる。
「……今日は、しないの」
「疲れているだろう。一日くらい空けたところで、そう簡単には戻らない」
「ふうん……」
拡張が終わるまではできるだけ間を空けない方がいいということで、あれから毎日アストルディアから尻に指を突っ込まれてはアンアン喘いでいた。
今日は休みと聞いて、ホッとしたようなつまらないような複雑な気分になり、アストルディアの胸のモフモフにぐりぐりと額を擦りつける。
アストルディアは、肉球がついた手で、俺の後頭部を優しくポンポンしてくれた。
「……で、何があったんだ」
「……そんなに俺、落ち込んで見える?」
「見えるというか……そう言う臭いがする」
「え、臭いで感情までわかっちゃうの!?」
獣人が臭いで魔力を感知できるのは知ってはいたけど、感情までバレバレだとは……対獣人とのコミュニケーションは特に気をつける必要がありそうだ。
「安心しろ。俺が特別鼻が利くだけで、隠そうとしている感情まで臭いで見抜けるものは少ない」
「そうなの? 注視しなくとも、相手の感情を見抜けるなら便利な特技だな」
「そうでもないぞ。知りたくない相手の感情すら、全て伝わってきてしまうからな。……こうやって、お前が押し殺そうとしている感情を拾いあげることができることは、僥倖だと思うが」
……あ、話変えても誤魔化されてくれないのね。知ってた。
まるで臭いで全てをお見通しなことをアピールするかのように、マズルをすりすりしてくるアストルディアに、俺は話を逸らすことを諦めた。
「ちょっとクリスに色々言われてね。……アスティはさ、信用できる手駒っている?」
「信用?」
少しだけ黙り込むアストルディアの姿に、あれ、もしかしてアストルディアも俺と同類? なんて期待が湧いてくる。
難しいよね。クリスみたいに生きるのは。たとえ同じ王族でもさ。
「……信用の定義によるな」
「定義?」
「心を預けて本音を晒せることを信用というならば、いない。俺の命令を忠実に聞き、求めた通りの成果を期待できることを信用というなら、複数名当てがある。使うか? エディの頼みならば、いつでも貸すぞ」
「…………イイデス」
……期待した分、少しがっかりしたけど、まあそりゃそうだよな。俺が甘ちゃん過ぎるだけで。
王族というか、人を束ねる立場にいる人間なら、それくらいいて当然だ。
「何故そこでますます落ち込むんだ。エディ……お前には、俺がいるのに」
「え?」
「番の願いを叶えるのは、獣人の甲斐性だ。お前が望むのなら、俺はいつでもお前の手駒になるぞ。信用はしてくれないのか?」
さらりと告げられた言葉に、絶句する。
「……俺は、アストルディアを手駒になんて、する気はない」
……いや、違うな。
「手駒だなんて、思えないんだ。……思うべきだとは理解していても」
俺の言葉に、アストルディアはその金色の目を細めた。
「……お前は本当に可愛いな。エディ」
揶揄されるようなその言葉が、胸に刺さる。
「……甘ちゃんだって、言いたいんだろ。わかっているよ。クリスみたいに、もっと上手く立ち回るべきだって」
もし、クリスが俺の立場だったら。
アストルディアはもちろん、ヴィダルスやブラッドリーも同時並行で誑かして、手駒にできていただろう。
アストルディアとヴィダルスは共にセネーバの王族だし、ブラッドリーは敵対公爵が溺愛する子ども。この三人を同時に掌握することができれば、戦争回避の未来がより現実的なものになる。
それなのに、俺はブラッドリーは特別今後交流する気もないまま別れを告げ、ヴィダルスは遠ざけたうえで狂気的な執着までされて、アストルディアに対しても全く主導権を握れていない。
……そりゃあクリスだって、もう自発的には何もすんなって思うわけだ。
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