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あったかもしれない未来
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無表情のまま、耳をペシッと倒して落ち込むアストルディアの姿に乾いた笑いが漏れる。
番の噛み跡を隠すのが、そんなに嫌か。自分で提案したことなのに。
「……聖魔法を解けば、また出てくるから」
これからは毎朝忘れずに消臭魔法と一緒に唱えなきゃならないなー、と思いながらベッドの血を浄化魔法で消し去る。……これ、見ようによっては処女喪失の血みたいだな。って、あ。
「番になるなら、うなじを噛まなきゃならないんだろ? 俺がアストルディアのうなじを噛まなくてもいいのか?」
俺の問いに、わんこアストルディアが少しだけバツが悪そうに視線を逸らした。
「……噛み跡をつけられるのは、その……子を産む側なんだ」
……つまりこれで、俺が抱かれる側なのが確定したわけね。
前々から何故か獣人は皆人間側が産む前提で話してくるから、そうじゃないかとは思っていたが、いざその事実を突き付けられるとしょっぺえな。
「獣人同士で生殖する場合は性別に関わらずどちらが産む側でも問題がないんだが……獣人と他種族が番った場合、獣人側が女性でない限り、基本的には他種族側が子を産む必要があるんだ」
「……つまり、可愛らしい猫耳少年と、人間のガチムチ兵士が番ったとしても、子を産むのは人間の方だと」
「子を諦めるなら、その限りではないぞ。どれほど魔力相性が良くても可能性がかなり低くなるだけで、奇跡的に子が生まれることもあるしな」
……そういう事情なら、仕方ないか。
わかってたけど、俺は遅かれ早かれケツ処女とお別れしないといけないんだな。童貞なのに……。
アストルディア、俺が娼館で童貞捨てることだけは許してくれんかな。許してくれんよね。……一生童貞決定か……。
「……それじゃあ、エディ」
「うぐっ」
再びベッドに押し倒され、のしかかられる。
……え、まさか、早速処女喪失とか言わんよね。しかもアストルディアお犬様状態なんだが……え、初めてが獣姦?
ガチガチと怯える俺の頬をペロリと舐め、アストルディアは俺を包み込むように丸くなった。
「今日は色々あって疲れただろう。エディ。もう、休もう」
「え? その……いいの?」
「闇魔法の後遺症が残っているお前に、手は出さない」
……あ、つまり、後遺症抜けたらその限りじゃないと。
俺の処女……一体いつまで維持できるんだろう。
「お休み、エディ。……俺の番」
優しくマズルちゅーを落とされ、まあいっかという気分になった。
明日のことは、明日悩もう。
「お休み。アスティ」
アストルディアが来るまではちっとも眠れなかったのに、優しい体温に誘われるように、俺は眠りの淵に落ちて行った。
「……エディ。俺の番。俺は絶対お前を離さないぞ……」
ーー今日でいよいよ、卒業だなあ。アスティ。
話したいことがある? ちょうど良かった。俺もお前に言わなきゃいけないことがあったんだ。……え、先に言ってくれ? 何だよ、お前から振った話なのに。
まあ、いいや。……あのさ、俺達卒業したら、お前はセネーバで、俺は辺境伯領で生きるわけじゃん? そんで、お互いに戦争回避の為に頑張ろうって、ずっと話してきただろ。
でも、どれだけ俺達やクリスが頑張っても、戦争が避けられないこともある。その時、最初に兵を率いて戦うことになるのは、俺とお前かもしれない。
俺は、親友であるお前が相手であっても、全力で戦うつもりだ。だって俺は【国境の守護者】で、愛するレオや辺境伯領の民の為に、英雄にならなければいけないから。
だからお前もセネーバの王族として、俺に遠慮なんかしないで、全力で戦ってくれ。
……それでもし。それで、もしもな。お前が勝って、それでもなお俺が生きてたら。お前に頼みたいことがあるんだ。
その時はアスティーーお前が俺を、殺してくれ。
繁殖の為の性奴隷にされるくらいなら、俺は英雄として、死にたい。いや、死ななきゃならないんだ。
頼むよ。アスティ。きっと俺が捕虜にでもなれば、ヴィダルスあたりが嬉々として犯しにくる。男なのに、子どもを孕まされるかもしれない。……そんな惨めな人生は嫌なんだ。
たとえどれだけ惨めでも、生き延びてチャンスを伺うべきかもしれないけど、きっと俺は耐えられない。最悪、絶望から闇魔法を暴走させて、罪もない人まで巻き込む災厄になってしまうかもしれない。
だから、どうか、お願いだ。こんなこと、親友であるお前にしか頼めないんだよ。アストルディア。
……そうか、ありがとう。
セネーバに留学して、お前の親友になれて本当に良かった。
たとえ殺し合う未来が来ても、俺はお前のこと、死ぬまで親友だと思ってるからな。
お前のことが、大好きだよ。……最愛の弟の、次にな。
……それで、お前の話って? え、もういい? もしかして、お前も俺と同じ気持ちだったのか?
だったら、安心してくれ。もし人間側が勝って、お前が捕虜として惨めな扱いをされそうになったら、たとえ処罰されることになっても、俺が必ずお前を殺してやるからさ。
…………アスティ?
もしかして、お前、泣いているのか?
番の噛み跡を隠すのが、そんなに嫌か。自分で提案したことなのに。
「……聖魔法を解けば、また出てくるから」
これからは毎朝忘れずに消臭魔法と一緒に唱えなきゃならないなー、と思いながらベッドの血を浄化魔法で消し去る。……これ、見ようによっては処女喪失の血みたいだな。って、あ。
「番になるなら、うなじを噛まなきゃならないんだろ? 俺がアストルディアのうなじを噛まなくてもいいのか?」
俺の問いに、わんこアストルディアが少しだけバツが悪そうに視線を逸らした。
「……噛み跡をつけられるのは、その……子を産む側なんだ」
……つまりこれで、俺が抱かれる側なのが確定したわけね。
前々から何故か獣人は皆人間側が産む前提で話してくるから、そうじゃないかとは思っていたが、いざその事実を突き付けられるとしょっぺえな。
「獣人同士で生殖する場合は性別に関わらずどちらが産む側でも問題がないんだが……獣人と他種族が番った場合、獣人側が女性でない限り、基本的には他種族側が子を産む必要があるんだ」
「……つまり、可愛らしい猫耳少年と、人間のガチムチ兵士が番ったとしても、子を産むのは人間の方だと」
「子を諦めるなら、その限りではないぞ。どれほど魔力相性が良くても可能性がかなり低くなるだけで、奇跡的に子が生まれることもあるしな」
……そういう事情なら、仕方ないか。
わかってたけど、俺は遅かれ早かれケツ処女とお別れしないといけないんだな。童貞なのに……。
アストルディア、俺が娼館で童貞捨てることだけは許してくれんかな。許してくれんよね。……一生童貞決定か……。
「……それじゃあ、エディ」
「うぐっ」
再びベッドに押し倒され、のしかかられる。
……え、まさか、早速処女喪失とか言わんよね。しかもアストルディアお犬様状態なんだが……え、初めてが獣姦?
ガチガチと怯える俺の頬をペロリと舐め、アストルディアは俺を包み込むように丸くなった。
「今日は色々あって疲れただろう。エディ。もう、休もう」
「え? その……いいの?」
「闇魔法の後遺症が残っているお前に、手は出さない」
……あ、つまり、後遺症抜けたらその限りじゃないと。
俺の処女……一体いつまで維持できるんだろう。
「お休み、エディ。……俺の番」
優しくマズルちゅーを落とされ、まあいっかという気分になった。
明日のことは、明日悩もう。
「お休み。アスティ」
アストルディアが来るまではちっとも眠れなかったのに、優しい体温に誘われるように、俺は眠りの淵に落ちて行った。
「……エディ。俺の番。俺は絶対お前を離さないぞ……」
ーー今日でいよいよ、卒業だなあ。アスティ。
話したいことがある? ちょうど良かった。俺もお前に言わなきゃいけないことがあったんだ。……え、先に言ってくれ? 何だよ、お前から振った話なのに。
まあ、いいや。……あのさ、俺達卒業したら、お前はセネーバで、俺は辺境伯領で生きるわけじゃん? そんで、お互いに戦争回避の為に頑張ろうって、ずっと話してきただろ。
でも、どれだけ俺達やクリスが頑張っても、戦争が避けられないこともある。その時、最初に兵を率いて戦うことになるのは、俺とお前かもしれない。
俺は、親友であるお前が相手であっても、全力で戦うつもりだ。だって俺は【国境の守護者】で、愛するレオや辺境伯領の民の為に、英雄にならなければいけないから。
だからお前もセネーバの王族として、俺に遠慮なんかしないで、全力で戦ってくれ。
……それでもし。それで、もしもな。お前が勝って、それでもなお俺が生きてたら。お前に頼みたいことがあるんだ。
その時はアスティーーお前が俺を、殺してくれ。
繁殖の為の性奴隷にされるくらいなら、俺は英雄として、死にたい。いや、死ななきゃならないんだ。
頼むよ。アスティ。きっと俺が捕虜にでもなれば、ヴィダルスあたりが嬉々として犯しにくる。男なのに、子どもを孕まされるかもしれない。……そんな惨めな人生は嫌なんだ。
たとえどれだけ惨めでも、生き延びてチャンスを伺うべきかもしれないけど、きっと俺は耐えられない。最悪、絶望から闇魔法を暴走させて、罪もない人まで巻き込む災厄になってしまうかもしれない。
だから、どうか、お願いだ。こんなこと、親友であるお前にしか頼めないんだよ。アストルディア。
……そうか、ありがとう。
セネーバに留学して、お前の親友になれて本当に良かった。
たとえ殺し合う未来が来ても、俺はお前のこと、死ぬまで親友だと思ってるからな。
お前のことが、大好きだよ。……最愛の弟の、次にな。
……それで、お前の話って? え、もういい? もしかして、お前も俺と同じ気持ちだったのか?
だったら、安心してくれ。もし人間側が勝って、お前が捕虜として惨めな扱いをされそうになったら、たとえ処罰されることになっても、俺が必ずお前を殺してやるからさ。
…………アスティ?
もしかして、お前、泣いているのか?
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