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アストルディアのプレゼン③

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 金色の目を微笑むように細めながら、アストルディアが優しく囁く。

「俺はセネーバで、エディは辺境伯領で、戦争を回避すべく共に戦うこともできるだろう。だが、戦争はあくまで国対国で起こることだ。王家が戦うことを決めたら、お前はその決定に従うしかない」

「……国を裏切ってセネーバ側に着くという手段も、あるっちゃあるけどな」

 だが、恐らくはそうはならないだろう。
 辺境伯領の民は、クソ親父の影響か、「生き恥を晒すよりは、誇り高い死を」と思っている節がある。
 俺が民を救う為に国を裏切る決断をしても、恐らく誰もついてこない。

「そんな決断がお前にできるならいいが、そうでないならば国の中心部で情勢を見定め、手遅れになる前に動ける状態にしておいた方がいい。それがリシス王国であっても、セネーバであってもな」

「でも中心部には、アスティとクリスが……」

「クリスは、国民の為なら辺境伯領を切り捨てられる男だぞ。そして俺も、今後も王族として生きるならば、同じようであらねばならない。たとえお前が親友であっても、私情を優先するわけにはいかないんだ。現状では『戦争回避』という目的が一致しているから協力関係を結べているが、いつどうなるかわからない以上、俺達のことはあまりあてにしない方がいい」

 それはまさに、俺がクリスとの協力関係を結ぶに当たって考えていたことで。
 最初からわかりきっていたはずの話なのに、いざその事実を突き付けられると、どうしようもなく胸のあたりが痛んだ。
 俺だっていざとなれば辺境伯領の為に友人だって切り捨てるだろうから、完全にお互い様なはずなのに、我ながら勝手な話だ。

「国と友情ならば、国を取らねばならないのが王族だ。……だがしかし、番の場合は事情が違う」

 そう言ってアストルディアは、そっと指先で俺のうなじを撫でた。

「獣人にとって、番は最優先で尊ぶべきもの。種族による重みの差はあっても、この価値観自体は共通認識として根付いている。だからこそ、人間でありながらも番の為に国を裏切ったエレナ姫が、今もなお国民から愛されているんだ」

「…………」

「お前が俺の番になれば、俺がお前の故郷である辺境伯領を共に守る大義名分ができる。セネーバのもっとも中心の地で、リシス王国との関係について最新の情報を得ながら、共に辺境伯領を守る為に戦うことができるんだ。ーーお前はもう、一人で戦わなくていい」

 とろりと、心が蕩かされるような言葉だった。

「エディ、お前は強い。お前が言う『お犬様』の姿で、俺は何度もお前の弱音や泣言を聞いてきたが、それでもお前は最後は必ず笑顔を浮かべて立ち上がり、一人辺境伯領へ戻って行った。過酷な境遇であっても、一度も逃げ出すことはなかった。お前が一人でも戦えるような強い人間であることは、俺が誰よりも知っている。……だけどもう、いいんだ。エディ。お前には、俺がいる」

「アストル、ディア……」

「何もかも一人で、背負おうとするな。一人で、泣いたりするな。俺が一緒に背負う。俺がお前の涙を拭う。俺達は親友なんだろう、エディ? 共に戦わせてくれ。お前とならば、俺は地獄にだって共に行こう。だからその大義名分の為に、俺の番になってくれ」

 アストルディアの言葉も態度も、すごく真摯なのに、何故か美しい悪魔に誘惑されているような気分になった。
 この手を取ればもう二度と戻ってこれない所まで沈んでしまう気がするのに、俺の視線は縫い付けられたようにアストルディアの美しい金色の瞳から離せない。

「……本当に、地獄、でも?」

「ああ」

「たとえそれが……運命に逆らうことであっても、お前は俺と共に戦ってくれるのか……?」

 吐き出した問いは、ひどく震えていた。

「お前と共に生きられない運命なら、いらない」







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