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VSヴィダルス③

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 必死にヴィダルスの攻撃を避けながら、頭の中で知り得た情報を整理する。

・獣人も人間同様様々な属性の魔力を持っているが、大半はどんな属性であっても魔力は生殖と身体強化(あと、人化や獣化?)にのみ費される。

・たまに、ナナークのように属性が物理攻撃の付与効果として現れるものもいる。(魔力の余剰分が効果として現れる?)ヴィダルスのように武器に効果を付与することも可能な様子。

・魔力譲渡によって体内魔力バランスを崩せば身体強化効果は弱まるが、腕が立つ獣人はすぐに自力で体内魔力バランスを整えることができる。

・セネーバの王族には、人間社会で滅んだ無属性の特性を持つものもいる。(ヴィダルスは確定。アストルディアは疑惑)

・無属性のヴィダルスは、相手の魔力を吸収し、放出することで相手の属性の効果を物理攻撃に付与できる。

 ……よしよし。獣人の身体強化と、属性の関係性が見えて来たぞ。
 恐らく最初の魔力譲渡後の最上級氷魔法がヴィダルスにあまり効いてなかったのは、ヴィダルスが無属性であるが故に、他者の魔力を吸収することに慣れていたからだ。
 他の属性の獣人ならば、意識して体内魔力バランスを整えないといけないところを、無属性のヴィダルスは無意識でもある程度までは体内魔力バランスを整えることができるのだろう。そして体内魔力バランスさえ整えば、獣人は無意識でも身体強化を発動できるのだ。
 しかし、他者の魔力を物理攻撃の付与効果として放出している時は、状況が違う。魔法を使えないはずの獣人が、他者の魔力を使って魔法のような効果を発動させているのだ。どうしたって、魔力吸収時以上に体内魔力バランスが崩れ、身体強化が弱まるはず。ナナークのように自分の属性の魔力を放出しているわけじゃないなら、なおさら。そこに勝機がある。

「考えごとかあ? エドワード。ずいぶんと余裕こいてんなァ!」

 迫り来るヴィダルスの爪と、そこから発せられた雷撃を魔法陣で展開した結界で弾くと同時に、最上級の水魔法を詠唱で発動させた。
 鉄砲水のように噴射された水は、ヴィダルス自身が放出した雷撃を纏ってヴィダルスに襲いかかる。

「……ぐぁっ!」

 咄嗟に避けて直撃こそ免れたようだが、掠った場所から雷のダメージが伝わったらしいヴィダルスが、苦痛の叫びをあげた。
 明らかに、効いてる……これは、いけるぞ。

 そこからは圧倒的に俺の優勢だった。
 俺はヴィダルスの攻撃を仕掛けるタイミングを狙って、発動された付与効果に合わせた魔法で反撃した。
 火なら風と火。雷なら風と水。水なら風と雷。氷なら、風と氷。というように、追い風と合わせれば、付与効果が逆にヴィダルスを攻撃する際にバフになるような魔法を選んで。
 吸収した魔力がなくなったのか、付与効果が出なくなった時は、敢えて魔力譲渡で魔力を吸収させた。何が魔力譲渡は無意味だ。めっちゃ使えるじゃねーか。ばーか、ばーか!
 弱体化させてなお、ヴィダルスの身体強化は強力でなかなか決定打にならなかったが、それでも少しずつ確実にヴィダルスが弱っていくのがわかる。
 それに対して俺は、ほぼ無傷。ふははは、【国境の守護者】様を舐めんなー! 獣人達よ、見て怯えてるか!? これが人類最強のポテンシャルを持った俺様の実力だぞー!

 ……恐らく俺は、半ば調子に乗っていたのだと思う。やっぱり俺が敵わないのはアストルディアなのだけだと。そう、油断してしまった。

「っ!?」

 ヴィダルスの火の付与効果を、火と風魔法で増幅して反撃した直後。
 煌々と燃え上った炎の向こうから、毛皮に炎を纏ったヴィダルスが飛びかかってきた。

「……つーかーまーえーたァ」

 咄嗟に張った結界も、ヴィダルスの突進によって割られ、奴の毛皮についた火を消しただけだった。

「っ!」

 次の瞬間俺は地面に強く叩きつけられ、黒い狼に馬乗りにされていた。

「……ハァ。お前はどこまで最高なんだァ。エドワード。興奮し過ぎてイッちまいそうだったぜ」

 息を荒げながら、興奮しきった眼差しで俺を見下ろすヴィダルスを弾き飛ばすべく、すぐさま指で風魔法の魔法陣を描こうとした。
 だが、ヴィダルスの動きの方が速かった。

「っぐがあああああ!」

「……この期に及んで、旦那様の求愛を拒むなんて、イケナイ手だなァ。ああ、舌もか」

 人間のように指を動かせないはずの狼の手に、どこまで力があるのか。
 ヴィダルスは両手の圧迫だけで、俺の手首を折って魔法陣を描けないようにすると、鋭い爪を俺の口の中にねじ込んだ。
 鋭利な爪の先が口内の粘膜を傷つけ、血の味が広がる。

「今すぐ突っ込みてぇくらいに興奮しちゃいるが……まずは番にしねぇとなァ。俺のもんだって証を、その首に刻みつけてやるよ」


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