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VSヴィダルス②

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「まあ、身体の使い方もろくにわかってねぇ雑魚には、通じるかもしんねぇが。そこそこ鍛えている奴にんなことしても、喜ばれるだけだ。まさかお前、俺以外にもしてねぇだろうな?」

 はい、さっきナナークにもしましたー!
 じゃあナナークに通じたのも、いきなり求婚されたことに対する混乱効果があったから?
 くそっ、対獣人の戦略、練り直しだ。

「っ」

 振り下ろされた模造槍を寸での所で避けると、先ほどまで俺がいた所に氷の山ができていた。
 さっきのナナークの攻撃と同じ? こいつは武器を通じても、属性の効果が発動できるのか?
 だが、ヴィダルスに氷属性が強いなら、話は簡単だ。ナナーク同様に、火魔法で対応できる。さっき身体強化を崩してなお、氷の最上級魔法が効かなかった訳もわかるし。
 念の為再び魔力譲渡魔法も展開し、わずかな時間差で最上級火魔法と共に放つ。
 しかし俺が発動した火魔法は、すぐにヴィダルスが振るった模造槍によって無効化された。

「ふぅん。今度は火か。おらよっと!」

「!?」

 突き出されるヴィダルスの模造槍の先から噴出される、真っ赤な炎。
 バク転して避け、その勢いのまま足で槍の持ち手の部分を蹴ったが、残念ながら槍を取り落とさせることはできなかった。
 今度は火? 氷属性とは相性が悪いから、中和する水属性も持ってない限り、火属性と両立はできないと言われてるが……こいつは、火、氷、水の三属性持ちなのか?
 ちょっと待て。何か大事なことを見逃してる気がする。
 俺が最上級の氷魔法を展開したら、槍の攻撃に氷属性が付与された。次に俺が最上級の火魔法を展開したら、今度は火属性が付与された。
 まさかまさかまさか!

「面白いなァ。お前の魔力。まだまだ色々出せんのか? 試させてみろよ」

 遊ぶように槍を操りながら、火と氷を放出する姿に、疑惑が確信に変わった。

「ーー【無属性】か……!」

 リシス王国やレンリネドでは、既に消滅したと言われている、幻の属性。
 相手の魔力を吸収し、使い手の任意のタイミングで放出することで、敵と同じ属性で攻撃が可能になる、鏡のような属性だ。
 ……道理で全属性持ちの俺とは、似てないのに魔力相性が良いはずだよ! 遺伝的に劣勢で消えやすい属性だけど、俺みたいな全属性持ちとの交配に限って、50%の確率で子どもに遺伝するらしいからなあ!
 全属性持ち自体が希少だから、人間社会では滅んだみたいだが、同じ無属性同士で交配しまくってた獣人社会では残ったのか。
 納得はしたものの、何も事態は解決できてない。対魔法戦に関しては敵なしとも言える全属性の、唯一の弱点が無属性なのだから。

「くそ……魔力譲渡しても、攻撃しても、逆に魔力を吸収されてあいつの攻撃力が高くなる」

 救いなのは、ヴィダルスが属性付与状態での攻撃に慣れてないのか、付与属性での攻撃が単調で芸がないこと。
 だが、槍さばき自体がかなりの腕前な分、それでも十分な脅威だ。

「……攻撃力は増すかもしれねぇが、近接戦な獣化状態のがまだ戦いやすいか」

 雷魔法で模造槍の柄の部分を狙い、二つに割る。
 体勢が崩れた隙を狙って、身体強化で効果マシマシにした模造刀で切りかかったが、片腕一本で弾かれた。
やはり物理攻撃は分が悪い。

「獣化状態がお望みかァ?」

 すぐさま巨大な狼に変じたヴィダルスが飛びかかってきたのを、結界で弾く。
 しかし一度弾いただけで、結界も同時に弾け飛んでしまった。

「くそが……っ!」

「戦っている時のエドワードは、口が悪ぃんだなァ。俺はそっちの口調のが好きだぜ。普段から、それでいろよ」

「黙れ、くそ野郎!」

 物理戦では、そのうち押し負ける。
 かといって、魔法をつかえば魔力が吸収されヴィダルスの攻撃力が増してしまう。
 何か、何かないか。何かいい策は。

「くっ…………」

 爪から発せられた炎を風でヴィダルスの方に吹き飛ばしたら、憎憎しい狼の顔が一瞬苦痛に歪んだ。……あいつ自身が発した付与属性の効果なら、効くのか?
 いや、近くで見れば、ヴィダルスの体のあちこちに、火傷や凍傷の跡が見える。無属性かつ身体強化の効果があっても、魔法が全く通じてないわけではないのか。 

「そうか……魔力譲渡で身体強化がつかの間揺らぐのと一緒で、無属性の作用で他人の魔力を出入りさせている時も身体強化は揺らぐのか」
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