俺の悪役チートは獣人殿下には通じない

空飛ぶひよこ

文字の大きさ
上 下
56 / 311

親善試合①

しおりを挟む
「まあ、そうなるだろうね。既に僕は出ない前提なのか、試合で攻撃魔法が発動された時に、周囲の被害を防ぐ為結界を張るように頼まれたし」

 戯けたようにペロリと舌を出しながら、クリスが肩を竦める。

「戦争から50年経って、人間と戦った記憶がある獣人もどんどん減ってきてるからね。加えてこの50年で、人間の魔法も進歩した。現在の人間側の戦力がどれくらいなのか、セネーバ側も確かめたいんだと思うよ。エディが【国境の守護者】と讃えられるくらい強いことは、セネーバ側にも知られているし」

『逆に考えれば、こちらからとしても獣人の戦力を測る良い機会だよね。体術の授業では、身体強化以外の魔法は禁じられているし』

 ジェフがホワイトボードに書いた通り、魔法に対して獣人の身体強化がどの程度抵抗できるのかを測る、良い機会ではある。魔力譲渡で、どれだけ身体強化を解除できるかも、実戦を通じて確認できるし。

「……とは言っても、体術の授業では身体強化だけで十分対抗できたからな。ダンテが言っていた『獣人の身体強化は魔法すら弾く』ってこと自体、本当なのか怪しくねぇか?」

 身体強化以外の魔法を禁じられた俺を、クラスの奴らは完全に舐め腐っていた。それを徹底的にボコボコにして、今後二度と俺を舐めないよう再教育してやったことは記憶に新しい。どいつもこいつも国境の魔物と同レベルで、魔力譲渡を使うまでもなかった。
 それ以来、今まで向けられていた胡散臭そうなクラスメイトの視線がなくなり、俺の学生生活は一気に快適に。
 獣人は本当に強さ史上主義なのだな、と思ったら、いっそ初日の時点でクラスメイト全員ボコボコにすべきだったかとなんて密かに後悔したりした。いや、国際問題になりかねんから、さすがにできなかったとは思うけど。

「甘い、甘いよ。エディ。うちのクラスの奴らなんて、みんな魔力も大したことのない、戦闘の素人ばっかだよ? そんなんに勝って油断してて、どうするのさ」

「クラスによって、そんなに戦闘能力に偏りがあるのか?」

「クラスと言うより、所属する生徒の身分だね。セネーバは、強さがそのまま地位に直結する国だ。そして親が強ければ、その魔力を受け継ぐ子どもも同じように強いことが多い。王族であるアストルディアが、その最たる例だね。うちのクラスには高位貴族の家の子がいないから、あまりあてにならないよ」

「だから、アストルディアと戦えって? ……俺は呪いで絶対にあいつには勝てねぇんだぞ。それこそ参考になんねぇ」

「残念。今回はアストルディアも審判側だから、どっちにしろ戦えないよ。暴走する生徒がいても、彼なら教師よりもよほど上手に抑え込めるからね。あくまで親善試合だから、死人を出すわけにはいかないんだ」

 そう言ってクリスは、にぃっと見慣れたいつもの嫌な笑みを浮かべた。

「なあに。アストルディアが試合に出なくとも、エディにはちょうどいい対戦相手がいるじゃないか。ヴィダルス・ランドルーク。王家に次ぐ権力を持つランドルーク家の嫡男にして、12歳の時に単独でネーバ山登頂を果たして王族と認められた男がさ。親善試合の話をするなり、参加表明したって聞いたよ。強さを示して、君に相応しい男であることを証明する為に。愛されてるね~。エディ」

 ……ああ、やっぱりぃ。
 ここで先日のやらかしのツケを払わないといけなくなるわけね。知ってた。

「……あいつ、王族なのか」

「直系の王族はまだ少ないからね。傍系でも、単独でネーバ山を登頂できれば、王族として認められるんだって。そうでもしないと、アストルディアとアストルディアのお兄さんが二人まとめて亡くなったりしたら、王位継承者がいなくなっちゃうから」

 12歳で単独登頂か……俺は10歳だから、勝ったな。最初こそお犬様のサポート付だったけど、確か一年以内に転移魔法なしでネーバ山の山頂まで行ったことあったもん。少なくとも、12歳にはなってなかったもん。確か!

「それにしても、魔力の臭いを隠したエディが、こんな大物釣り上げるとは思わなかったな~。いいよ、別にエディがその気なら、ヴィダルスと番になってくれても。自国の貴族がランドルーク次期当主夫人になれば、色々交渉もしやすくなるから」

「俺としては無理やり孕まされでもしない限り、御免こうむる未来だな」


しおりを挟む
感想 160

あなたにおすすめの小説

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた

マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。 主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。 しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。 平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。 タイトルを変えました。 前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。 急に変えてしまい、すみません。  

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜 ・話の流れが遅い ・作者が話の進行悩み過ぎてる

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

愛する人

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
「ああ、もう限界だ......なんでこんなことに!!」 応接室の隙間から、頭を抱える夫、ルドルフの姿が見えた。リオンの帰りが遅いことを知っていたから気が緩み、屋敷で愚痴を溢してしまったのだろう。 三年前、ルドルフの家からの申し出により、リオンは彼と政略的な婚姻関係を結んだ。けれどルドルフには愛する男性がいたのだ。 『限界』という言葉に悩んだリオンはやがてひとつの決断をする。

告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした

雨宮里玖
BL
《あらすじ》 昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。 その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。 その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。 早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。 乃木(18)普通の高校三年生。 波田野(17)早坂の友人。 蓑島(17)早坂の友人。 石井(18)乃木の友人。

処理中です...