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原始の女神と二番目の女神
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「呪い?」
「生まれ備わっている魔力の相性がよほど良くない限り、獣人が繁殖できないようにした。このままでは獣人が滅んでしまうと、二番目の女神が慌てて獣人は性別・種族問わず魔力相性さえ良ければ繁殖できるようにして、原始の女神の呪いを緩和したのだと言われている」
「なるほど……現実に即してはいるね」
「獣人に伝わる神話で語られているのは、ここまでだ。しかし、原始の女神が、自分の創り出した人間に獣人を従わせる為に、人間と交わらなければ発展した魔力を持つ子どもが生まれないような呪いもかけたのだと言うものも、最近出てきてな。女神の呪いを打ち破る為にも、戦争をはじめて人間を奴隷化すべきだと、彼らは主張している」
「……人間側からすれば受け入れたくない主張だが、気持ちはわかるな。アスティは女神の存在を信じてはいるのか?」
アストルディアは少しの沈黙の後、目を伏せた。
「……女神は存在するだろうな。以前神託を受けたのが、何よりの証明だ。だがその存在は、神話や教典で語られているようなものではないのだろう。女神は興味本位で気に入った者に手を出して、後は観察して楽しむだけ。恐らく種としての人間を、獣人という種より気に入っているわけではないだろう」
「何故そう思う?」
「じゃなければお前に、俺に勝てない運命なぞ授けるはずがない」
ひやりと、冷たい液体が背中に伝ったような感覚がした。
……そういや、俺、お犬様に涙の別れを告げた時、呪いのことも話してたね。
アストルディアが何も触れないから、今の今まで忘れてたよ。
いや……敢えて思い出さないようにしてたのかもしれない。
だって思い出したら、今まで通りの距離感では接することができなくなるだろうから。
「女神が完全に人間の味方なら、英雄になれるだけの特別な力と同時にそのような呪いをお前に与える理由がない。恐らくセネーバとリシス王国が戦争をして、獣人が人間を繁殖用の奴隷にしたところで、神罰がくだることはないだろう」
「……まあ、そうだろうね」
寧ろ、神罰がくだるのは俺だ。
戦争に負け全てを失った結果、復讐に囚われ子どもを虐げた。その報いを、二十年後、俺は受けることになる。
物語の後のセネーバがどうなるかはわからないが、それでも女神の怒りでセネーバが滅びることはないだろう。
だって未来の俺の息子でアストルディアの番は、物語の主人公で。アストルディアは、ヒーローなのだから。
……しまったなあ。こんなこと、お犬様に話さなければ良かった。神罰がないのならって、アストルディアが戦争に踏み切ったらどうしよう。
頭の中も、胸のうちも、急速に冷えていくのがわかった。
すぐ近くにいるはずのアストルディアが、すごく遠く感じる。
「……なあ、アスティ」
発した声は、自分が思った以上に温度がなかった。
嫌だな。聞きたくないな。なかったことにして、今のままの関係のままで、いたいな。
……でも、聞かないと。
「俺がお前をけして倒せない宿命を持っていると知って、お前はどう思った?」
もし俺がお犬様がアストルディアだと知っていたなら、けして告げることはなかっただろう真実。
アストルディアは一体それを、どんな気持ちで聞いていたのか、ちゃんと聞いておかないと。
「いつか敵になるかもしれない運命を知っていてなお、お犬様だったことを明かしてまで側にいてくれているのは、何故だ?」
金色の瞳をまっすぐ見据えて、問いかける。
アストルディアの真意を、けして見逃すことがないように。
「お前は俺をーー憐れんだのか」
向けられる感情がただの同情だとしたら、きっと俺はもう、心の底からアストルディアを親友だと思えないだろうから。
争い破滅する運命を知ってながらも、依存した。裏切られても構わないと思った。
でもそれは、アストルディアが俺を親友だと言ってくれたからで。
もしアストルディアが俺に向けてくれている感情が、友情ではないのなら。俺は……。
「生まれ備わっている魔力の相性がよほど良くない限り、獣人が繁殖できないようにした。このままでは獣人が滅んでしまうと、二番目の女神が慌てて獣人は性別・種族問わず魔力相性さえ良ければ繁殖できるようにして、原始の女神の呪いを緩和したのだと言われている」
「なるほど……現実に即してはいるね」
「獣人に伝わる神話で語られているのは、ここまでだ。しかし、原始の女神が、自分の創り出した人間に獣人を従わせる為に、人間と交わらなければ発展した魔力を持つ子どもが生まれないような呪いもかけたのだと言うものも、最近出てきてな。女神の呪いを打ち破る為にも、戦争をはじめて人間を奴隷化すべきだと、彼らは主張している」
「……人間側からすれば受け入れたくない主張だが、気持ちはわかるな。アスティは女神の存在を信じてはいるのか?」
アストルディアは少しの沈黙の後、目を伏せた。
「……女神は存在するだろうな。以前神託を受けたのが、何よりの証明だ。だがその存在は、神話や教典で語られているようなものではないのだろう。女神は興味本位で気に入った者に手を出して、後は観察して楽しむだけ。恐らく種としての人間を、獣人という種より気に入っているわけではないだろう」
「何故そう思う?」
「じゃなければお前に、俺に勝てない運命なぞ授けるはずがない」
ひやりと、冷たい液体が背中に伝ったような感覚がした。
……そういや、俺、お犬様に涙の別れを告げた時、呪いのことも話してたね。
アストルディアが何も触れないから、今の今まで忘れてたよ。
いや……敢えて思い出さないようにしてたのかもしれない。
だって思い出したら、今まで通りの距離感では接することができなくなるだろうから。
「女神が完全に人間の味方なら、英雄になれるだけの特別な力と同時にそのような呪いをお前に与える理由がない。恐らくセネーバとリシス王国が戦争をして、獣人が人間を繁殖用の奴隷にしたところで、神罰がくだることはないだろう」
「……まあ、そうだろうね」
寧ろ、神罰がくだるのは俺だ。
戦争に負け全てを失った結果、復讐に囚われ子どもを虐げた。その報いを、二十年後、俺は受けることになる。
物語の後のセネーバがどうなるかはわからないが、それでも女神の怒りでセネーバが滅びることはないだろう。
だって未来の俺の息子でアストルディアの番は、物語の主人公で。アストルディアは、ヒーローなのだから。
……しまったなあ。こんなこと、お犬様に話さなければ良かった。神罰がないのならって、アストルディアが戦争に踏み切ったらどうしよう。
頭の中も、胸のうちも、急速に冷えていくのがわかった。
すぐ近くにいるはずのアストルディアが、すごく遠く感じる。
「……なあ、アスティ」
発した声は、自分が思った以上に温度がなかった。
嫌だな。聞きたくないな。なかったことにして、今のままの関係のままで、いたいな。
……でも、聞かないと。
「俺がお前をけして倒せない宿命を持っていると知って、お前はどう思った?」
もし俺がお犬様がアストルディアだと知っていたなら、けして告げることはなかっただろう真実。
アストルディアは一体それを、どんな気持ちで聞いていたのか、ちゃんと聞いておかないと。
「いつか敵になるかもしれない運命を知っていてなお、お犬様だったことを明かしてまで側にいてくれているのは、何故だ?」
金色の瞳をまっすぐ見据えて、問いかける。
アストルディアの真意を、けして見逃すことがないように。
「お前は俺をーー憐れんだのか」
向けられる感情がただの同情だとしたら、きっと俺はもう、心の底からアストルディアを親友だと思えないだろうから。
争い破滅する運命を知ってながらも、依存した。裏切られても構わないと思った。
でもそれは、アストルディアが俺を親友だと言ってくれたからで。
もしアストルディアが俺に向けてくれている感情が、友情ではないのなら。俺は……。
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