49 / 311
黒い狼③
しおりを挟む
……そういや、狼獣人は番が一人しか持てないとかそういう設定あったね。原作に。いや、お前が番何人持とうが、俺には関係ない話だけども。
ん? だとしたら何で、過去に番を亡くした原作アストルディアが主人公と番になれたんだ? 番が死んだ時は例外とか、そういうの?
エドワードに育てられた主人公視点で物語進んでたし、父親の狼獣人当主は家ではただエドワードの名前しか呼ばない傀儡で詳しい説明とかしないしで、原作は狼獣人の生態について、結構謎残したままだったんだよなあ。前世妹にその点突っ込んでも「例外の裏設定があってね……」と、キモかわいい笑み浮かべるだけだったし。
「っ」
「はっはー! いい動きだなァ、エドワード!」
容赦なく迫ってきた拳を、華麗に避ける。……いや、何だかんだで、これ手加減されてるな。ぜってぇ、こいつ俺のこと舐めてやがる。
再び繰り出される攻撃に舌打ちしながら、次の一手を考えていた、その時だった。
「……何をしている、ヴィダルス」
突如背後から現れたアストルディアの姿に、ドキンと心臓が跳ねた。
……ぜ、全然接近に気づかなかった。何でだ。俺、魔力感知できるのに。まさか、アストルディア、自分の魔力の気配も消せるのか? 魔法にも魔法具にも頼らずに?
どこまでも最強なアストルディアに内心戦いていると、攻撃を止めたヴィダルスが心底不愉快そうに舌打ちをした。
「入ってくんじゃねぇ。アストルディア。俺の女を口説いている最中だ」
「口説いている? 攻撃しているようにしか見えなかったが」
「これがエドワードが望んだ口説き方なんだよ。そうだろう、エドワード? お前は自分より強い男に抱かれたいんだもんなァ」
ヴィダルスの言葉に、一瞬アストルディアの尻尾の毛が逆立った。
「……エドワード・ネルドゥース。お前はこの男に、そんなことを言ったのか」
「私より弱い男に抱かれる趣味はないと言っただけです」
「馬鹿なことを……」
怜悧な金色の瞳に本気の怒りが浮かび、思わず体がこわばった。お犬様だと判明したアストルディアから、こんな冷たい目を向けられるだなんて、想像もしていなかったから。
「お前達が本気で戦ったら、他の生徒や校舎に被害が出る。強さを証明したいなら、正式な試合の場で示せ。セネーバ王家第二王子の名のもとに、お前達の私闘は禁じさせてもらう」
「……ふん。お硬いこって。まあ、いい」
すっかり興を削がれたらしいヴィダルスが、鼻を鳴らしてアストルディアを睨みつけた。
「アストルディア……俺はお前が王になろうが、カーディンクルが王になろうが、どっちでも構わねぇ。好きに争えばいいさ。だが、お前がエドワードを狙うっつーなら、話は別だ。そん時はどんな手を使おうと、お前をぶっ殺す。こいつは俺の獲物だ」
「……肝に銘じておこう」
睨みあう二人の姿を前にして、ようやくアストルディアの魔力の気配に気づかなかった理由がわかった。
二人の魔力の性質が、すごく似ているんだ。ヴィダルスの魔力に包まれていると、接近がわからないくらいに。
前々から似ているとは思ってたけど、今まで二人同時に魔力を感じたことはなかったから、ここまで酷似しているとは思わなかった。
「またな。エドワード。……次は絶対抱く」
不吉な言葉を残して去っていくヴィダルスの背中を見送ると、当然ながら俺とアストルディアが二人きりで残されるわけで。
……き、気まずい。さっき激オコな目を見ちゃっただけに、アストルディアと話すのがとても怖い。何かめちゃくちゃ怒られそうで。
暫くの沈黙の後、深々とため息を吐かれて、びくりと肩が跳ねる。
やっぱ怒ってる? でもさ、あの時はあれが最善だと思ったんだよ~……。
「……エドワード・ネルドゥース」
「は、はいっ」
「あれに目をつけられるとは、災難だったな」
思いの外優しい声色で肩を叩かれ、ほっと安堵のため息を吐く。
え、アストルディア、意外に怒ってな……って、肩に置かれた手、めちゃくちゃ力こもってて痛えぇぇ!!!
やっぱ、めっちゃ怒ってらっしゃる!
ん? だとしたら何で、過去に番を亡くした原作アストルディアが主人公と番になれたんだ? 番が死んだ時は例外とか、そういうの?
エドワードに育てられた主人公視点で物語進んでたし、父親の狼獣人当主は家ではただエドワードの名前しか呼ばない傀儡で詳しい説明とかしないしで、原作は狼獣人の生態について、結構謎残したままだったんだよなあ。前世妹にその点突っ込んでも「例外の裏設定があってね……」と、キモかわいい笑み浮かべるだけだったし。
「っ」
「はっはー! いい動きだなァ、エドワード!」
容赦なく迫ってきた拳を、華麗に避ける。……いや、何だかんだで、これ手加減されてるな。ぜってぇ、こいつ俺のこと舐めてやがる。
再び繰り出される攻撃に舌打ちしながら、次の一手を考えていた、その時だった。
「……何をしている、ヴィダルス」
突如背後から現れたアストルディアの姿に、ドキンと心臓が跳ねた。
……ぜ、全然接近に気づかなかった。何でだ。俺、魔力感知できるのに。まさか、アストルディア、自分の魔力の気配も消せるのか? 魔法にも魔法具にも頼らずに?
どこまでも最強なアストルディアに内心戦いていると、攻撃を止めたヴィダルスが心底不愉快そうに舌打ちをした。
「入ってくんじゃねぇ。アストルディア。俺の女を口説いている最中だ」
「口説いている? 攻撃しているようにしか見えなかったが」
「これがエドワードが望んだ口説き方なんだよ。そうだろう、エドワード? お前は自分より強い男に抱かれたいんだもんなァ」
ヴィダルスの言葉に、一瞬アストルディアの尻尾の毛が逆立った。
「……エドワード・ネルドゥース。お前はこの男に、そんなことを言ったのか」
「私より弱い男に抱かれる趣味はないと言っただけです」
「馬鹿なことを……」
怜悧な金色の瞳に本気の怒りが浮かび、思わず体がこわばった。お犬様だと判明したアストルディアから、こんな冷たい目を向けられるだなんて、想像もしていなかったから。
「お前達が本気で戦ったら、他の生徒や校舎に被害が出る。強さを証明したいなら、正式な試合の場で示せ。セネーバ王家第二王子の名のもとに、お前達の私闘は禁じさせてもらう」
「……ふん。お硬いこって。まあ、いい」
すっかり興を削がれたらしいヴィダルスが、鼻を鳴らしてアストルディアを睨みつけた。
「アストルディア……俺はお前が王になろうが、カーディンクルが王になろうが、どっちでも構わねぇ。好きに争えばいいさ。だが、お前がエドワードを狙うっつーなら、話は別だ。そん時はどんな手を使おうと、お前をぶっ殺す。こいつは俺の獲物だ」
「……肝に銘じておこう」
睨みあう二人の姿を前にして、ようやくアストルディアの魔力の気配に気づかなかった理由がわかった。
二人の魔力の性質が、すごく似ているんだ。ヴィダルスの魔力に包まれていると、接近がわからないくらいに。
前々から似ているとは思ってたけど、今まで二人同時に魔力を感じたことはなかったから、ここまで酷似しているとは思わなかった。
「またな。エドワード。……次は絶対抱く」
不吉な言葉を残して去っていくヴィダルスの背中を見送ると、当然ながら俺とアストルディアが二人きりで残されるわけで。
……き、気まずい。さっき激オコな目を見ちゃっただけに、アストルディアと話すのがとても怖い。何かめちゃくちゃ怒られそうで。
暫くの沈黙の後、深々とため息を吐かれて、びくりと肩が跳ねる。
やっぱ怒ってる? でもさ、あの時はあれが最善だと思ったんだよ~……。
「……エドワード・ネルドゥース」
「は、はいっ」
「あれに目をつけられるとは、災難だったな」
思いの外優しい声色で肩を叩かれ、ほっと安堵のため息を吐く。
え、アストルディア、意外に怒ってな……って、肩に置かれた手、めちゃくちゃ力こもってて痛えぇぇ!!!
やっぱ、めっちゃ怒ってらっしゃる!
295
お気に入りに追加
2,092
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼第2章2025年1月18日より投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~
さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。
そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。
姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。
だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。
その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。
女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。
もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。
周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか?
侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます
猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」
「いや、するわけないだろ!」
相川優也(25)
主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。
碧スバル(21)
指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。
「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」
「スバル、お前なにいってんの……?」
冗談? 本気? 二人の結末は?
美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる