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黒い狼③

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 ……そういや、狼獣人は番が一人しか持てないとかそういう設定あったね。原作に。いや、お前が番何人持とうが、俺には関係ない話だけども。
 ん? だとしたら何で、過去に番を亡くした原作アストルディアが主人公と番になれたんだ? 番が死んだ時は例外とか、そういうの? 
 エドワードに育てられた主人公視点で物語進んでたし、父親の狼獣人当主は家ではただエドワードの名前しか呼ばない傀儡で詳しい説明とかしないしで、原作は狼獣人の生態について、結構謎残したままだったんだよなあ。前世妹にその点突っ込んでも「例外の裏設定があってね……」と、キモかわいい笑み浮かべるだけだったし。

「っ」

「はっはー! いい動きだなァ、エドワード!」

 容赦なく迫ってきた拳を、華麗に避ける。……いや、何だかんだで、これ手加減されてるな。ぜってぇ、こいつ俺のこと舐めてやがる。
 再び繰り出される攻撃に舌打ちしながら、次の一手を考えていた、その時だった。

「……何をしている、ヴィダルス」

 突如背後から現れたアストルディアの姿に、ドキンと心臓が跳ねた。
 ……ぜ、全然接近に気づかなかった。何でだ。俺、魔力感知できるのに。まさか、アストルディア、自分の魔力の気配も消せるのか? 魔法にも魔法具にも頼らずに?
 どこまでも最強なアストルディアに内心戦いていると、攻撃を止めたヴィダルスが心底不愉快そうに舌打ちをした。

「入ってくんじゃねぇ。アストルディア。俺の女を口説いている最中だ」

「口説いている? 攻撃しているようにしか見えなかったが」

「これがエドワードが望んだ口説き方なんだよ。そうだろう、エドワード? お前は自分より強い男に抱かれたいんだもんなァ」

 ヴィダルスの言葉に、一瞬アストルディアの尻尾の毛が逆立った。

「……エドワード・ネルドゥース。お前はこの男に、そんなことを言ったのか」

「私より弱い男に抱かれる趣味はないと言っただけです」

「馬鹿なことを……」

 怜悧な金色の瞳に本気の怒りが浮かび、思わず体がこわばった。お犬様だと判明したアストルディアから、こんな冷たい目を向けられるだなんて、想像もしていなかったから。

「お前達が本気で戦ったら、他の生徒や校舎に被害が出る。強さを証明したいなら、正式な試合の場で示せ。セネーバ王家第二王子の名のもとに、お前達の私闘は禁じさせてもらう」

「……ふん。お硬いこって。まあ、いい」

 すっかり興を削がれたらしいヴィダルスが、鼻を鳴らしてアストルディアを睨みつけた。

「アストルディア……俺はお前が王になろうが、カーディンクルが王になろうが、どっちでも構わねぇ。好きに争えばいいさ。だが、お前がエドワードを狙うっつーなら、話は別だ。そん時はどんな手を使おうと、お前をぶっ殺す。こいつは俺の獲物だ」

「……肝に銘じておこう」

 睨みあう二人の姿を前にして、ようやくアストルディアの魔力の気配に気づかなかった理由がわかった。
 二人の魔力の性質が、すごく似ているんだ。ヴィダルスの魔力に包まれていると、接近がわからないくらいに。
 前々から似ているとは思ってたけど、今まで二人同時に魔力を感じたことはなかったから、ここまで酷似しているとは思わなかった。

「またな。エドワード。……次は絶対抱く」

 不吉な言葉を残して去っていくヴィダルスの背中を見送ると、当然ながら俺とアストルディアが二人きりで残されるわけで。
 ……き、気まずい。さっき激オコな目を見ちゃっただけに、アストルディアと話すのがとても怖い。何かめちゃくちゃ怒られそうで。
 暫くの沈黙の後、深々とため息を吐かれて、びくりと肩が跳ねる。
 やっぱ怒ってる? でもさ、あの時はあれが最善だと思ったんだよ~……。

「……エドワード・ネルドゥース」

「は、はいっ」

「あれに目をつけられるとは、災難だったな」

 思いの外優しい声色で肩を叩かれ、ほっと安堵のため息を吐く。
 え、アストルディア、意外に怒ってな……って、肩に置かれた手、めちゃくちゃ力こもってて痛えぇぇ!!!
 やっぱ、めっちゃ怒ってらっしゃる!
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