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煙草の効能②
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「もしかして……ダンテさんが単身でセネーバに渡って、歓迎されたのも……」
「ああ、うん。ダンテも魔力が高いからね。出会った獣人に、貴重なお嫁さん候補として丁重に扱われたってわけ。ダンテは聡いから、そうとわかった途端に迫ってくる獣人を片っ端から誑かして互いに牽制させて、利用するだけ利用して帰国したみたいだけど」
うぉう……ワイルド系長身男前の悪女ムーヴ。
ダンテは【影】として色んなキャラを演じ慣れている分楽勝だったろうと思う半面、しょっぱい気分にもなる。クリスがやったんなら、何の違和感もないけども。
「貴族はともかく、セネーバの平民の多くは過去の遺恨とか関係なしに我が国と友好関係を結ぶことを望んでるって聞いた時は嬉しかったんだけど、こういう事情だったら手放しに喜んでられないよね~……獣人が魔力が高い人間を誘拐する事件が頻繁に起きるようになったら、それこそ戦争待ったなしだし。そう考えると、国民がリシス王国に干渉することを禁じたセネーバ女王の判断は正しかった気もしてくるよね」
「ーーしかし、最近ではそうも言ってられなくてな」
不意に割って入った声に振り返ると、そこには昼食のトレイを持ったアストルディアの姿が。……いや、ずっと魔力感じてたから、近づいてきてんのは気づいてたけど。
「同席してもいいか、クリス」
「ああ、もちろんだとも。それより、最近はそうも言ってられないってどういうことだい?」
昨日宣言した通り、俺に一瞥することなくクリスの許可を取ったアストルディアは、クリスの目の前の席……つまりは俺の隣に腰を下ろし、トレイを置いた。
……今、一瞬足に尻尾が当たったぞ。わざとか?
昨日の今日だけにどうしてもキョドりそうになるが、必死に分厚い猫を貼り付けて微笑みを保った。
「この半世紀、何とか獣人同士の交配だけで種を保ってきたものの、やはり出生率の低下と弱体化は避けられなくてな。女王である母上はそれでも獣人は獣人だけで生きていくべきだと言い続けているのだが、最近では戦争を起こして人間を従わせ、子どもを産ませるべきだと言う意見が活発になってきている」
「あれ? 女王陛下は確か……」
「そう、狼獣人である祖父アルデフィアと人間の娘の間に生まれた子どもだ。だからどれほど獣人同士で番うべきと主張したところで、説得力に欠ける」
獣人を人間の奴隷から解放し、国を興したセネーバの英雄アルデフィア。彼の妻が人間だったという衝撃の事実に、思わず目を見開く。
「ああ、そうか。エディにはまだ教えてなかったね。アルデフィアの妻だったエレナ姫は、れっきとしたリシス王国の姫君でね。奴隷だったアルデフィアに手を貸して国を敗戦に導いた裏切り者として、我が国の歴史から抹消されたのさ。元々体が弱い姫君で、女王を産んで数年後に身罷られたと聞いているけど」
「ああ。だから俺は肖像画以外で祖母のことを知らない。もっとも祖父アルデフィアのことも知らないがな。俺が物心がつく前に亡くなったから」
一瞬だけその鋭い金色の瞳を向けたアストルディアだが、すぐにまたクリスの方に向き直った。
「つまり、リシス王国がリシス王国なりの戦争をしたい理由があるのと同時に、セネーバもセネーバで別に戦争をしたい理由があると言うことだ。ある意味では希望が一致しているわけだが、俺としては女王である母の意思を尊重し、できれば戦争を回避したい。だからお前達には昨日のような不用意な行動をされると困るんだ」
昨日のーー煙草のことだ。
そう気づいた瞬間、慌てて立ち上がり深々と頭を下げた。
「申し訳ありませんでした、アストルディア殿下! まさか辺境伯領で普段遣いしていたものの臭いが、あれほど獣人の方々を不快にさせるとは思わず……全ては私の失態です」
「ああ、うん。ダンテも魔力が高いからね。出会った獣人に、貴重なお嫁さん候補として丁重に扱われたってわけ。ダンテは聡いから、そうとわかった途端に迫ってくる獣人を片っ端から誑かして互いに牽制させて、利用するだけ利用して帰国したみたいだけど」
うぉう……ワイルド系長身男前の悪女ムーヴ。
ダンテは【影】として色んなキャラを演じ慣れている分楽勝だったろうと思う半面、しょっぱい気分にもなる。クリスがやったんなら、何の違和感もないけども。
「貴族はともかく、セネーバの平民の多くは過去の遺恨とか関係なしに我が国と友好関係を結ぶことを望んでるって聞いた時は嬉しかったんだけど、こういう事情だったら手放しに喜んでられないよね~……獣人が魔力が高い人間を誘拐する事件が頻繁に起きるようになったら、それこそ戦争待ったなしだし。そう考えると、国民がリシス王国に干渉することを禁じたセネーバ女王の判断は正しかった気もしてくるよね」
「ーーしかし、最近ではそうも言ってられなくてな」
不意に割って入った声に振り返ると、そこには昼食のトレイを持ったアストルディアの姿が。……いや、ずっと魔力感じてたから、近づいてきてんのは気づいてたけど。
「同席してもいいか、クリス」
「ああ、もちろんだとも。それより、最近はそうも言ってられないってどういうことだい?」
昨日宣言した通り、俺に一瞥することなくクリスの許可を取ったアストルディアは、クリスの目の前の席……つまりは俺の隣に腰を下ろし、トレイを置いた。
……今、一瞬足に尻尾が当たったぞ。わざとか?
昨日の今日だけにどうしてもキョドりそうになるが、必死に分厚い猫を貼り付けて微笑みを保った。
「この半世紀、何とか獣人同士の交配だけで種を保ってきたものの、やはり出生率の低下と弱体化は避けられなくてな。女王である母上はそれでも獣人は獣人だけで生きていくべきだと言い続けているのだが、最近では戦争を起こして人間を従わせ、子どもを産ませるべきだと言う意見が活発になってきている」
「あれ? 女王陛下は確か……」
「そう、狼獣人である祖父アルデフィアと人間の娘の間に生まれた子どもだ。だからどれほど獣人同士で番うべきと主張したところで、説得力に欠ける」
獣人を人間の奴隷から解放し、国を興したセネーバの英雄アルデフィア。彼の妻が人間だったという衝撃の事実に、思わず目を見開く。
「ああ、そうか。エディにはまだ教えてなかったね。アルデフィアの妻だったエレナ姫は、れっきとしたリシス王国の姫君でね。奴隷だったアルデフィアに手を貸して国を敗戦に導いた裏切り者として、我が国の歴史から抹消されたのさ。元々体が弱い姫君で、女王を産んで数年後に身罷られたと聞いているけど」
「ああ。だから俺は肖像画以外で祖母のことを知らない。もっとも祖父アルデフィアのことも知らないがな。俺が物心がつく前に亡くなったから」
一瞬だけその鋭い金色の瞳を向けたアストルディアだが、すぐにまたクリスの方に向き直った。
「つまり、リシス王国がリシス王国なりの戦争をしたい理由があるのと同時に、セネーバもセネーバで別に戦争をしたい理由があると言うことだ。ある意味では希望が一致しているわけだが、俺としては女王である母の意思を尊重し、できれば戦争を回避したい。だからお前達には昨日のような不用意な行動をされると困るんだ」
昨日のーー煙草のことだ。
そう気づいた瞬間、慌てて立ち上がり深々と頭を下げた。
「申し訳ありませんでした、アストルディア殿下! まさか辺境伯領で普段遣いしていたものの臭いが、あれほど獣人の方々を不快にさせるとは思わず……全ては私の失態です」
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