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仕返し
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この四年間、いつも、このぬいぐるみに慰められてきた。
どうすればお犬様の激プリな愛らしさを再現できるか、試行錯誤針を動かす日々は、お犬様に会えない淋しさを束の間忘れさせてくれたし。
体温を分けたり、自分から動いたりはしてくれないけど、いつだってこの子は俺に寄り添って話を聞いてくれたし、抱きしめさせてくれた。
そんな、そんな俺の愛しいお犬様ぬいぐるみが……なんて無惨な姿に……!
「……お前のお犬様は俺だろう」
アストルディアから奪い取った元お犬様ぬいを抱えてさめざめ泣いてた俺の体が、不意に宙に浮いた。
「ほら、泣き止め。……こうすると落ち着くんだろう」
固まる俺の体を自分の膝の上に置いて、後ろから抱きしめてくる全裸のアストルディア。
大事なことなので繰り返します。この男、全裸です。
あまりの事態に、流れていた涙も即引っ込みました。
「え……ええと、あの……」
「お前が泣いている時は、いつもこうやって慰めていただろう」
そうだけど……そうだけど違くて!
俺が求めていたのはモフモフの毛皮が与えてくれるぬくもりで!
ムキムキ筋肉から伝わる体温は、ノーセンキューで!
「本当に、お前はよく泣く」
ペロリと涙の跡を舐められ、魂が口から飛び出しそうになった。
いつもお犬様にやられていた行為なのに、相手が人型になった途端にめちゃくちゃヤバい行為になってしまうのは何故か。
てか、さっきから尻に硬いご立派なブツが当たっているんですが。もしかしなくても勃……いや、イヌ科のチンコは骨が入ってて、勃たなくても硬いんでしたっけね。前世妹が叫んでました。……世界一いらねぇ無駄知識だな。おい!
……しかし、アストルディアの匂いも魔力も、マジお犬様と同じだな……こんな状況なのにも関わらずパブロフの犬的に安心してしまう。ヤバい、ヤバいぞ……うっかりいつもの調子で蕩けそうだ。正気になれ。俺。こいつは俺の宿敵ショタコンアストルディアだぞ?
「…………少し落ち着いたようだな」
やめて! 無表情で見下ろしながらも、めちゃくちゃ優しく頭を撫でないで! 既視感ありすぎて、お犬様とアストルディアの境目なくなっちゃうから! 堕ちちゃうから!
「……あの……その……えと……」
「積もる話をしたいと思っていたが、その調子だと今日は難しそうだな」
そう言って、そっと俺を膝から降ろすアストルディア……え、離れちゃうの。いや、全然残念だなんて思ってないけど……もう?
中途半端に伸ばしてしまった手を、どうすればいいかわからずわきわきしていると、立ち上がったアストルディアが再び頭を撫でてきた。
「他国とは言え同じ王族であるクリスはともかく、異国の一貴族、それも我が国との国境である辺境伯領の嫡男と親しくすると色々うるさい奴らがいてな。残念だが日中はクリスを通して声をかけることになると思う」
「え……ああ」
リシス王国では王族>公爵>侯爵>辺境伯>伯爵>子爵>男爵という順で貴族の上下があり、辺境伯家嫡男である俺が王族であるクリスと親しくしていても表立って文句を言うものはいない。ブラッドリーみたいに公爵家であっても、公爵位を継がない子どもは下の立場の貴族に婿入りすることが珍しくないからな。そうなれば辺境伯家を継ぐ俺の方が、将来的に上の立場になることも十分あり得るというわけだ。
現在クリスの同年代では公爵家嫡男も侯爵家嫡男もいない為、寧ろ俺は他の誰よりもクリスの学友としては適任の地位にいると言える。俺自身も既に様々な功績を残していることもあり、羨まれはしても、身分をわきまえろなんて言える生徒はいないのだ。
しかし、それでも異国の王族であるアストルディアと表立って仲良くできるかと言えば、微妙な立場だ。ただでさえ獣人と人間の関係が微妙な状況で、他国の格下貴族が自国の王子に馴れ馴れしいとなれば、そりゃ排除しようとする奴が出て当然だろう。
アストルディアの気遣いには、逆に感謝しなければならない。
「だから……また、明日の夜。獣化してこの部屋を訪ねるとしよう」
「……へ」
「お前の大切なぬいぐるみを壊してしまったしな。お前が望むなら、獣姿で添い寝もしてやろう」
……何ヲオッシャラレテルンダ、コノ獣人殿下ハ。
固まる俺をよそに、再びお犬様の姿になって窓へ向かったアストルディアだったが、何故かすぐにまた人型になって戻ってきた。
「……忘れる所だった」
「え? え? え?」
ぐいと引き寄せられ、何が起こっているかわからないままに唇に伝わってきた、ふにっと柔らかい感触。
「あの時は俺ばかり動揺させられて、悔しかったからな。ちなみにこれは俺のセカンドキスだ」
無表情でそう言い放ったアストルディアは、すぐにお犬様の姿に戻ると、ご機嫌そうに尻尾をふりふりベランダから飛び出して行った。
「……なああああ~~~~???」
防音魔法が効いた部屋で、一人奇声をあげ続ける俺を残して。
どうすればお犬様の激プリな愛らしさを再現できるか、試行錯誤針を動かす日々は、お犬様に会えない淋しさを束の間忘れさせてくれたし。
体温を分けたり、自分から動いたりはしてくれないけど、いつだってこの子は俺に寄り添って話を聞いてくれたし、抱きしめさせてくれた。
そんな、そんな俺の愛しいお犬様ぬいぐるみが……なんて無惨な姿に……!
「……お前のお犬様は俺だろう」
アストルディアから奪い取った元お犬様ぬいを抱えてさめざめ泣いてた俺の体が、不意に宙に浮いた。
「ほら、泣き止め。……こうすると落ち着くんだろう」
固まる俺の体を自分の膝の上に置いて、後ろから抱きしめてくる全裸のアストルディア。
大事なことなので繰り返します。この男、全裸です。
あまりの事態に、流れていた涙も即引っ込みました。
「え……ええと、あの……」
「お前が泣いている時は、いつもこうやって慰めていただろう」
そうだけど……そうだけど違くて!
俺が求めていたのはモフモフの毛皮が与えてくれるぬくもりで!
ムキムキ筋肉から伝わる体温は、ノーセンキューで!
「本当に、お前はよく泣く」
ペロリと涙の跡を舐められ、魂が口から飛び出しそうになった。
いつもお犬様にやられていた行為なのに、相手が人型になった途端にめちゃくちゃヤバい行為になってしまうのは何故か。
てか、さっきから尻に硬いご立派なブツが当たっているんですが。もしかしなくても勃……いや、イヌ科のチンコは骨が入ってて、勃たなくても硬いんでしたっけね。前世妹が叫んでました。……世界一いらねぇ無駄知識だな。おい!
……しかし、アストルディアの匂いも魔力も、マジお犬様と同じだな……こんな状況なのにも関わらずパブロフの犬的に安心してしまう。ヤバい、ヤバいぞ……うっかりいつもの調子で蕩けそうだ。正気になれ。俺。こいつは俺の宿敵ショタコンアストルディアだぞ?
「…………少し落ち着いたようだな」
やめて! 無表情で見下ろしながらも、めちゃくちゃ優しく頭を撫でないで! 既視感ありすぎて、お犬様とアストルディアの境目なくなっちゃうから! 堕ちちゃうから!
「……あの……その……えと……」
「積もる話をしたいと思っていたが、その調子だと今日は難しそうだな」
そう言って、そっと俺を膝から降ろすアストルディア……え、離れちゃうの。いや、全然残念だなんて思ってないけど……もう?
中途半端に伸ばしてしまった手を、どうすればいいかわからずわきわきしていると、立ち上がったアストルディアが再び頭を撫でてきた。
「他国とは言え同じ王族であるクリスはともかく、異国の一貴族、それも我が国との国境である辺境伯領の嫡男と親しくすると色々うるさい奴らがいてな。残念だが日中はクリスを通して声をかけることになると思う」
「え……ああ」
リシス王国では王族>公爵>侯爵>辺境伯>伯爵>子爵>男爵という順で貴族の上下があり、辺境伯家嫡男である俺が王族であるクリスと親しくしていても表立って文句を言うものはいない。ブラッドリーみたいに公爵家であっても、公爵位を継がない子どもは下の立場の貴族に婿入りすることが珍しくないからな。そうなれば辺境伯家を継ぐ俺の方が、将来的に上の立場になることも十分あり得るというわけだ。
現在クリスの同年代では公爵家嫡男も侯爵家嫡男もいない為、寧ろ俺は他の誰よりもクリスの学友としては適任の地位にいると言える。俺自身も既に様々な功績を残していることもあり、羨まれはしても、身分をわきまえろなんて言える生徒はいないのだ。
しかし、それでも異国の王族であるアストルディアと表立って仲良くできるかと言えば、微妙な立場だ。ただでさえ獣人と人間の関係が微妙な状況で、他国の格下貴族が自国の王子に馴れ馴れしいとなれば、そりゃ排除しようとする奴が出て当然だろう。
アストルディアの気遣いには、逆に感謝しなければならない。
「だから……また、明日の夜。獣化してこの部屋を訪ねるとしよう」
「……へ」
「お前の大切なぬいぐるみを壊してしまったしな。お前が望むなら、獣姿で添い寝もしてやろう」
……何ヲオッシャラレテルンダ、コノ獣人殿下ハ。
固まる俺をよそに、再びお犬様の姿になって窓へ向かったアストルディアだったが、何故かすぐにまた人型になって戻ってきた。
「……忘れる所だった」
「え? え? え?」
ぐいと引き寄せられ、何が起こっているかわからないままに唇に伝わってきた、ふにっと柔らかい感触。
「あの時は俺ばかり動揺させられて、悔しかったからな。ちなみにこれは俺のセカンドキスだ」
無表情でそう言い放ったアストルディアは、すぐにお犬様の姿に戻ると、ご機嫌そうに尻尾をふりふりベランダから飛び出して行った。
「……なああああ~~~~???」
防音魔法が効いた部屋で、一人奇声をあげ続ける俺を残して。
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