40 / 311
邂逅④
しおりを挟む
何か言わなきゃと思うのに唇はハクハク動くだけだし、息を吸うように被ってた猫は、宇宙の彼方に吹き飛んで仕事を放棄している。
落ち着け……落ち着け、俺。落ち着いて冷静に考えてみれば、リカバリーできるかもしれない。実は全然大したことじゃないかもしれない。
……アストルディアを、お犬様だなんて言って、大好きちゅっちゅっして抱きつきまくっていた過去の俺なんて。
奪っちゃっただなんて言って、ファーストキス強奪したことなんて。
会えないのが淋し過ぎて、そっくりに作ったぬいぐるみを毎夜抱きしめてメンヘラムーブしてたことなんて、大したことない……わけあるかー!! 俺、ヤバ過ぎだろ! 変質者過ぎだろ! わんこだから許されたけど、対獣人なら完全にアウトだわっ!
「……あれは、俺のつもりか?」
うぎゃあー!!! ベッドに置いてたお犬様ぬいぐるみまで見つかった! やめて、俺のライフはもう0よ!
二十年待たなくていいから、アストルディア、今すぐ俺を殺してくれ!!
「あ……あう……」
言い訳、言い訳、何か言い訳をするんだ……! 俺の過去の変態行為を正当化するような、何かを……あれ?
……よくよく考えて見れば、おかしいよな。お犬様とアストルディアは色合い全く同じで、犬と狼が似てることも知ってたのに、この可能性思いつきもしないなんて。
だって獣人が獣化できるなんて、ファンタジーではお約束じゃん。
それなのに何故俺がこのことを考えすらしなかったかというと……ダンテが獣人が獣化できること教えてくれなかったというのもあるけど、一番は前世妹の小説が原因なわけで。
原作小説では主人公もアストルディアも獣化するシーンなんか一切なかったから、自然と、この世界の獣人は犬耳と尻尾があって特殊な身体・生殖能力を持っているだけだと認識してたんだよな。
にも関わらず……さっきから雨後の竹の子のように生えできている「存在しなかったはずの記憶」。主人公が狼姿で父であるエドワードと戦ったり、その場に狼姿で現れるアストルディアの描写。
あ、うん。俺が忘れてただけかー……なんて思うかよ! エロ描写までばっちり無駄に思い出させられてんのに!
あのクソ女神ぃ……この展開狙って俺の記憶操作してやがった!!
「……待て、もしかしてあれも」
アストルディアがいつの間にかお犬様ぬいぐるみを手に取り、しげしげと眺めているのを見ないふりをして(やめて、くんくん臭いを嗅がないで。ずっと抱きしめて寝てたのがバレるうえ、煙草効果でくっさい顔されるのが地味に傷つく)残っていた煙草に鑑定魔法をかける。途端、ピキリとこめかみに血管が浮いた。
ネルドゥース煙草(アロマ)
ネルドゥース辺境伯領特産の生産量が少ない特殊な草を、煙草状に加工したもの。
火をつけて吸引すると、普通の煙草同様のリラックス効果があるが、依存性はカフェイン程度。体にも害はない。
アロマのような爽やかな香りがあり、繰り返し吸っているうちに香りが体内に蓄積されて体臭になるので、苦手な香りの場合は注意が必要。
ネルドゥース辺境伯領では成人儀礼としてこの煙草を吸う風習があり、辺境伯家嫡男はこれを毎日吸うことが義務付けられている。
なお、獣人は総じてこの香りが苦手なので、獣人と対峙する場合は吸っていた期間と同じだけの期間を空けることを推奨する。
「何なんだ、このスクロールしないとわからない、よけいな空白はあっ……!!」
案の定、煙草の件も計られていた模様。
女神殴る……たとえ前世妹だろうと、一発くらいは絶対に殴る……手のひらで。
「考えごとは終わったか?」
一人女神への呪詛をブツブツつぶやいていたが、アストルディアに声をかけられて我に返る。
そうだ、今はまずアストルディアの対応を……て、え、俺のお犬様ぬいぐるみどこ? 綿が飛びだしたボロ布しか見えないんだけど。え?
「すまん……俺の爪には耐えられなかったようだ」
「俺のお犬様があああああ!!!」
落ち着け……落ち着け、俺。落ち着いて冷静に考えてみれば、リカバリーできるかもしれない。実は全然大したことじゃないかもしれない。
……アストルディアを、お犬様だなんて言って、大好きちゅっちゅっして抱きつきまくっていた過去の俺なんて。
奪っちゃっただなんて言って、ファーストキス強奪したことなんて。
会えないのが淋し過ぎて、そっくりに作ったぬいぐるみを毎夜抱きしめてメンヘラムーブしてたことなんて、大したことない……わけあるかー!! 俺、ヤバ過ぎだろ! 変質者過ぎだろ! わんこだから許されたけど、対獣人なら完全にアウトだわっ!
「……あれは、俺のつもりか?」
うぎゃあー!!! ベッドに置いてたお犬様ぬいぐるみまで見つかった! やめて、俺のライフはもう0よ!
二十年待たなくていいから、アストルディア、今すぐ俺を殺してくれ!!
「あ……あう……」
言い訳、言い訳、何か言い訳をするんだ……! 俺の過去の変態行為を正当化するような、何かを……あれ?
……よくよく考えて見れば、おかしいよな。お犬様とアストルディアは色合い全く同じで、犬と狼が似てることも知ってたのに、この可能性思いつきもしないなんて。
だって獣人が獣化できるなんて、ファンタジーではお約束じゃん。
それなのに何故俺がこのことを考えすらしなかったかというと……ダンテが獣人が獣化できること教えてくれなかったというのもあるけど、一番は前世妹の小説が原因なわけで。
原作小説では主人公もアストルディアも獣化するシーンなんか一切なかったから、自然と、この世界の獣人は犬耳と尻尾があって特殊な身体・生殖能力を持っているだけだと認識してたんだよな。
にも関わらず……さっきから雨後の竹の子のように生えできている「存在しなかったはずの記憶」。主人公が狼姿で父であるエドワードと戦ったり、その場に狼姿で現れるアストルディアの描写。
あ、うん。俺が忘れてただけかー……なんて思うかよ! エロ描写までばっちり無駄に思い出させられてんのに!
あのクソ女神ぃ……この展開狙って俺の記憶操作してやがった!!
「……待て、もしかしてあれも」
アストルディアがいつの間にかお犬様ぬいぐるみを手に取り、しげしげと眺めているのを見ないふりをして(やめて、くんくん臭いを嗅がないで。ずっと抱きしめて寝てたのがバレるうえ、煙草効果でくっさい顔されるのが地味に傷つく)残っていた煙草に鑑定魔法をかける。途端、ピキリとこめかみに血管が浮いた。
ネルドゥース煙草(アロマ)
ネルドゥース辺境伯領特産の生産量が少ない特殊な草を、煙草状に加工したもの。
火をつけて吸引すると、普通の煙草同様のリラックス効果があるが、依存性はカフェイン程度。体にも害はない。
アロマのような爽やかな香りがあり、繰り返し吸っているうちに香りが体内に蓄積されて体臭になるので、苦手な香りの場合は注意が必要。
ネルドゥース辺境伯領では成人儀礼としてこの煙草を吸う風習があり、辺境伯家嫡男はこれを毎日吸うことが義務付けられている。
なお、獣人は総じてこの香りが苦手なので、獣人と対峙する場合は吸っていた期間と同じだけの期間を空けることを推奨する。
「何なんだ、このスクロールしないとわからない、よけいな空白はあっ……!!」
案の定、煙草の件も計られていた模様。
女神殴る……たとえ前世妹だろうと、一発くらいは絶対に殴る……手のひらで。
「考えごとは終わったか?」
一人女神への呪詛をブツブツつぶやいていたが、アストルディアに声をかけられて我に返る。
そうだ、今はまずアストルディアの対応を……て、え、俺のお犬様ぬいぐるみどこ? 綿が飛びだしたボロ布しか見えないんだけど。え?
「すまん……俺の爪には耐えられなかったようだ」
「俺のお犬様があああああ!!!」
263
お気に入りに追加
2,079
あなたにおすすめの小説
【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます
猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」
「いや、するわけないだろ!」
相川優也(25)
主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。
碧スバル(21)
指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。
「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」
「スバル、お前なにいってんの……?」
冗談? 本気? 二人の結末は?
美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....
心からの愛してる
マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。
全寮制男子校
嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります
※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる