俺の悪役チートは獣人殿下には通じない

空飛ぶひよこ

文字の大きさ
上 下
40 / 311

邂逅④

しおりを挟む
 何か言わなきゃと思うのに唇はハクハク動くだけだし、息を吸うように被ってた猫は、宇宙の彼方に吹き飛んで仕事を放棄している。
 落ち着け……落ち着け、俺。落ち着いて冷静に考えてみれば、リカバリーできるかもしれない。実は全然大したことじゃないかもしれない。
 ……アストルディアを、お犬様だなんて言って、大好きちゅっちゅっして抱きつきまくっていた過去の俺なんて。
 奪っちゃっただなんて言って、ファーストキス強奪したことなんて。
 会えないのが淋し過ぎて、そっくりに作ったぬいぐるみを毎夜抱きしめてメンヘラムーブしてたことなんて、大したことない……わけあるかー!! 俺、ヤバ過ぎだろ! 変質者過ぎだろ! わんこだから許されたけど、対獣人なら完全にアウトだわっ!

「……あれは、俺のつもりか?」

 うぎゃあー!!! ベッドに置いてたお犬様ぬいぐるみまで見つかった! やめて、俺のライフはもう0よ!
 二十年待たなくていいから、アストルディア、今すぐ俺を殺してくれ!!

「あ……あう……」

 言い訳、言い訳、何か言い訳をするんだ……! 俺の過去の変態行為を正当化するような、何かを……あれ?
 ……よくよく考えて見れば、おかしいよな。お犬様とアストルディアは色合い全く同じで、犬と狼が似てることも知ってたのに、この可能性思いつきもしないなんて。
 だって獣人が獣化できるなんて、ファンタジーではお約束じゃん。
 それなのに何故俺がこのことを考えすらしなかったかというと……ダンテが獣人が獣化できること教えてくれなかったというのもあるけど、一番は前世妹の小説が原因なわけで。
 原作小説では主人公もアストルディアも獣化するシーンなんか一切なかったから、自然と、この世界の獣人は犬耳と尻尾があって特殊な身体・生殖能力を持っているだけだと認識してたんだよな。
 にも関わらず……さっきから雨後の竹の子のように生えできている「存在しなかったはずの記憶」。主人公が狼姿で父であるエドワードと戦ったり、その場に狼姿で現れるアストルディアの描写。
 あ、うん。俺が忘れてただけかー……なんて思うかよ! エロ描写までばっちり無駄に思い出させられてんのに!
 あのクソ女神ぃ……この展開狙って俺の記憶操作してやがった!!

「……待て、もしかしてあれも」

 アストルディアがいつの間にかお犬様ぬいぐるみを手に取り、しげしげと眺めているのを見ないふりをして(やめて、くんくん臭いを嗅がないで。ずっと抱きしめて寝てたのがバレるうえ、煙草効果でくっさい顔されるのが地味に傷つく)残っていた煙草に鑑定魔法をかける。途端、ピキリとこめかみに血管が浮いた。 


ネルドゥース煙草(アロマ)
 ネルドゥース辺境伯領特産の生産量が少ない特殊な草を、煙草状に加工したもの。
 火をつけて吸引すると、普通の煙草同様のリラックス効果があるが、依存性はカフェイン程度。体にも害はない。
 アロマのような爽やかな香りがあり、繰り返し吸っているうちに香りが体内に蓄積されて体臭になるので、苦手な香りの場合は注意が必要。
 ネルドゥース辺境伯領では成人儀礼としてこの煙草を吸う風習があり、辺境伯家嫡男はこれを毎日吸うことが義務付けられている。


















 なお、獣人は総じてこの香りが苦手なので、獣人と対峙する場合は吸っていた期間と同じだけの期間を空けることを推奨する。

「何なんだ、このスクロールしないとわからない、よけいな空白はあっ……!!」

 案の定、煙草の件も計られていた模様。
 女神殴る……たとえ前世妹だろうと、一発くらいは絶対に殴る……手のひらで。

「考えごとは終わったか?」

 一人女神への呪詛をブツブツつぶやいていたが、アストルディアに声をかけられて我に返る。
 そうだ、今はまずアストルディアの対応を……て、え、俺のお犬様ぬいぐるみどこ? 綿が飛びだしたボロ布しか見えないんだけど。え?

「すまん……俺の爪には耐えられなかったようだ」

「俺のお犬様があああああ!!!」
しおりを挟む
感想 160

あなたにおすすめの小説

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜 ・話の流れが遅い

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた

マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。 主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。 しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。 平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。 タイトルを変えました。 前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。 急に変えてしまい、すみません。  

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

処理中です...