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邂逅②
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現れたのは長い白銀の髪を持つ、金色の瞳の美しい男。
2メートル近い立派な体躯に似合わず、その頭に髪と同色のかわいらしい三角の耳が生えていて、背中ではふさふさの尻尾がゆっくりとした歩みに合わせて静かに揺れている。
離れた距離からでも伝わる、強すぎる魔力を浴びた瞬間、ざわりと全身に鳥肌が立った。
「……お犬……さま?……」
「アストルディア!? まさか、君アストルディアなのかい!?」
興奮したようなクリスの声に、ハッと我に返った。
……ちょっと待て、ちょっと待て。いくら四年ぶりだからといって、この男の魔力とお犬様の魔力を間違えるなんて、我ながらどうかしてる。
クリスの言葉を信じるなら、この男こそが、俺の宿敵であるアストルディア・セネバだと言うのに。
「それ以外に誰がいる? 先月ぶりだな、クリス」
「誰がいるって……君、ずいぶん顔が違うじゃないか! 先月までは君、周りの皆と同じ感じだったよ?」
そう言えば、今まで見かけた獣人は皆獣面であったのに、アストルディアだけは人に近い姿をしている。
小説では主人公もアストルディアも人に近い姿だったので、何も気にしてなかったが、よくよく考えればおかしな話だ。
「ああ。お前達が来ると聞いたから、歓迎の意を示す為にできる限り人に近づけてみた。そうすれば、第二王子である俺は人間の留学生に対して友好的だと、周囲に知らしめることができるだろう?」
「その度合いって、可変式なのかい!? いや、本当に獣人について知らないことばかりだ。せっかく同じ学校に通うことになったんだ。これからも色々教えて欲しいな」
「勿論だ。……それで、彼は」
金色の瞳がこちらに向けられた途端、どきりと心臓が跳ねた。
「ああ、紹介がまだだったね。ジェフはもう知っているだろう? もう一人の彼が、以前話したエドワードだよ。【国境の守護者】と呼ばれる、未来の我が国の英雄さ。いや、もう既に英雄かな?」
「……リシス王国辺境伯家嫡男、エドワード・ネルドゥースです。アストルディア殿下。お会いできて光栄です」
貴族として完璧な礼をとって、頭をさげる。ドキドキと心臓がうるさい。
戦争を止める為には、何としてでも俺は彼と仲良くならなければならない。……既に他の獣人に嫌われまくっている俺にできるのだろうか。
恐る恐る顔を上げると……そこには嫌そうに鼻の付け根に皺を寄せたアストルディアの顔が。
「……本当にお前は、獣人と友好関係を築く気があるのか」
「…………え」
「とてもそうは思えんな。……不愉快だ」
「ーーうわあーん!!! 俺が一体何をしたって言うんだよおおおお!!!」
その後去って行く背中を呆然と見送った俺は、さすがにもう普段の演技を維持することができず、引きつった笑みでクリスに先に退席する旨だけ伝えて部屋に戻って来た。
即亜空間からお犬様ぬいぐるみを取り出し、部屋に防音魔法をかけ、今に至る。
「俺、失敗したの? もう、駄目なの? 今まで、あんなに頑張ってきたのに? なんで? なんで? 何が悪かったの?」
ぐずぐずと泣きながら、お犬様ぬいぐるみを抱きしめる。どうしよう、完全に折れそうだ。まさか、こんなことになるだなんて。
人間だからと嫌われる覚悟はあった……でも、俺が俺だからと言う理由で全ての獣人からあれほど嫌われるだなんて、想像もしていなかった。
「初対面なのに、アストルディアに嫌われた……もうこれ、戦争待ったなしじゃん。原作より最悪じゃん」
頭の中に「THE END」の文字がぐるぐる回る。息が苦しい。死にそうだ。……いや、もう死んでしまいたい。
最悪の未来が避けられないことが確定したなら、いっそ今すぐ。
「そうだ死のう……もう楽になっちゃおう……でも最後にお犬様に会いたかったな……ん?」
不意にコツコツと窓を叩く音がした。
一体何なのか。クリスが俺の様子を見る為に、ベランダから襲撃してきたのか。だとしたら今は放っておいて欲しい。
お犬様ぬいぐるみをベッドに置いて、泣いてた顔をこすってできるだけ誤魔化しながらベランダに向かい、カーテンを開く。
そこに、いたのは。
「嘘……」
カーテンを開いた窓の向こうで。
2メートルくらいまで成長したお犬様が、狭苦しそうに体を丸めながら、前足でコツコツガラスを叩いていた。
2メートル近い立派な体躯に似合わず、その頭に髪と同色のかわいらしい三角の耳が生えていて、背中ではふさふさの尻尾がゆっくりとした歩みに合わせて静かに揺れている。
離れた距離からでも伝わる、強すぎる魔力を浴びた瞬間、ざわりと全身に鳥肌が立った。
「……お犬……さま?……」
「アストルディア!? まさか、君アストルディアなのかい!?」
興奮したようなクリスの声に、ハッと我に返った。
……ちょっと待て、ちょっと待て。いくら四年ぶりだからといって、この男の魔力とお犬様の魔力を間違えるなんて、我ながらどうかしてる。
クリスの言葉を信じるなら、この男こそが、俺の宿敵であるアストルディア・セネバだと言うのに。
「それ以外に誰がいる? 先月ぶりだな、クリス」
「誰がいるって……君、ずいぶん顔が違うじゃないか! 先月までは君、周りの皆と同じ感じだったよ?」
そう言えば、今まで見かけた獣人は皆獣面であったのに、アストルディアだけは人に近い姿をしている。
小説では主人公もアストルディアも人に近い姿だったので、何も気にしてなかったが、よくよく考えればおかしな話だ。
「ああ。お前達が来ると聞いたから、歓迎の意を示す為にできる限り人に近づけてみた。そうすれば、第二王子である俺は人間の留学生に対して友好的だと、周囲に知らしめることができるだろう?」
「その度合いって、可変式なのかい!? いや、本当に獣人について知らないことばかりだ。せっかく同じ学校に通うことになったんだ。これからも色々教えて欲しいな」
「勿論だ。……それで、彼は」
金色の瞳がこちらに向けられた途端、どきりと心臓が跳ねた。
「ああ、紹介がまだだったね。ジェフはもう知っているだろう? もう一人の彼が、以前話したエドワードだよ。【国境の守護者】と呼ばれる、未来の我が国の英雄さ。いや、もう既に英雄かな?」
「……リシス王国辺境伯家嫡男、エドワード・ネルドゥースです。アストルディア殿下。お会いできて光栄です」
貴族として完璧な礼をとって、頭をさげる。ドキドキと心臓がうるさい。
戦争を止める為には、何としてでも俺は彼と仲良くならなければならない。……既に他の獣人に嫌われまくっている俺にできるのだろうか。
恐る恐る顔を上げると……そこには嫌そうに鼻の付け根に皺を寄せたアストルディアの顔が。
「……本当にお前は、獣人と友好関係を築く気があるのか」
「…………え」
「とてもそうは思えんな。……不愉快だ」
「ーーうわあーん!!! 俺が一体何をしたって言うんだよおおおお!!!」
その後去って行く背中を呆然と見送った俺は、さすがにもう普段の演技を維持することができず、引きつった笑みでクリスに先に退席する旨だけ伝えて部屋に戻って来た。
即亜空間からお犬様ぬいぐるみを取り出し、部屋に防音魔法をかけ、今に至る。
「俺、失敗したの? もう、駄目なの? 今まで、あんなに頑張ってきたのに? なんで? なんで? 何が悪かったの?」
ぐずぐずと泣きながら、お犬様ぬいぐるみを抱きしめる。どうしよう、完全に折れそうだ。まさか、こんなことになるだなんて。
人間だからと嫌われる覚悟はあった……でも、俺が俺だからと言う理由で全ての獣人からあれほど嫌われるだなんて、想像もしていなかった。
「初対面なのに、アストルディアに嫌われた……もうこれ、戦争待ったなしじゃん。原作より最悪じゃん」
頭の中に「THE END」の文字がぐるぐる回る。息が苦しい。死にそうだ。……いや、もう死んでしまいたい。
最悪の未来が避けられないことが確定したなら、いっそ今すぐ。
「そうだ死のう……もう楽になっちゃおう……でも最後にお犬様に会いたかったな……ん?」
不意にコツコツと窓を叩く音がした。
一体何なのか。クリスが俺の様子を見る為に、ベランダから襲撃してきたのか。だとしたら今は放っておいて欲しい。
お犬様ぬいぐるみをベッドに置いて、泣いてた顔をこすってできるだけ誤魔化しながらベランダに向かい、カーテンを開く。
そこに、いたのは。
「嘘……」
カーテンを開いた窓の向こうで。
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