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俺が俺でいれる時間①
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それは俺が盲目的なドリフィス教徒に対して思っているのと、同じ評価で。
本来なら、賛同すべき台詞だと言うことはわかっていた。
それなのに、クリスの言葉は、隠しているはずの俺の柔らかい部分にどうしようもなく突き刺さって。
「……お前と一緒にするなよ。クリス。俺は女神を愛している」
咄嗟にそう口にしてしまってから、すぐにキャラではないと思い直し軌道修正した。
「金で信者の女神への愛を量る、業突く張りの教皇様よりよほどな」
一瞬怪訝そうな表情をしたクリスも、どうやら無事にレンリネドの教皇への皮肉だと解釈してくれたらしい。
「そう言うことなら、僕も女神様を愛してると言えるかな。くそったれな運命とセットで特別な能力を与えてくれた、愛しの女神様に乾杯だ!」
グラスを合わせる代わりに、差し出されたタバコを自分のそれと合わせると、伸びた灰がポロリと落ちた。
床に落ちる前に、素早く灰皿でキャッチしたジェフの規格外な運動能力を目の当たりにし、乾いた笑いが漏れる。
きっとこいつも俺とクリスと同じくらい、ろくでもない運命を抱えているんだろう。
「女神は愛する僕らに、乗り越えられない試練は与えない……そうであることを祈ろう。エディ。愛したものの破滅を喜ぶ女が世界を支配しているんじゃ、どの道ろくな未来は待ってないだろうからさ」
そう言ってまだ火のついたタバコを握り潰したクリスは、その後二、三の必要最低限の連絡事項だけ話して、ジェフを伴って去って行った。
その背中を見送り、扉が閉まるのを確認して、深々とため息を吐いた。
「……よし、行ったな」
盗聴用の魔道具が設置されていないのを確認して、鍵のついたベッド脇のクローゼットへと向かう。
ここからは、俺が俺に戻る大事な時間。
厳重に二重ロックしたクローゼットを開け、目的のものを引きずりだすと、それごとベッドに身を投げた。
「ーーうわーん! お犬様ぁ! 疲れた、疲れたよお~もう、俺、あいつやだあ~」
ぎゅっと全身で抱きしめて、お腹に顔を埋めて泣きついたのは、俺特製のお犬様ぬいぐるみ(等身大)。
毛質や肉球の感触などを完璧に再現すべく、素材にこだわり、試作を重ねて俺が直々に丁寧に縫い上げた自慢の一品です! 俺以外の誰にも見せたことないけどさ!
「女神にとって俺は玩具も同然みたいなことさあ、別に言わんでも良くない? ドリフィス教を批判したいなら、別にわざわざ俺のスキル持出さなくても良くない? 俺、無駄に傷つけられたんだけどぉ!」
グスグスと鼻を鳴らしながら、お犬様ぬいぐるみを抱えて、ベッドに転げ回る。
考えなかった、わけじゃない。でも、敢えて考えないようにした。
「だって……もしも女神が前世の妹だったら……俺、あいつから、自分の愉しみのためならどれだけ酷い目に遭わせてもいいって思われてるってことじゃないか……」
ここは、前世の妹が書いた物語の世界。ならば世界の創造主である女神が、前世の妹であったとしても何もおかしくはない。
そんなの、前世を思い出した時から、ずっと想定していた。ただ、そうでなければいいと思っていただけで。
思い出せる前世の記憶はわずかだけど、それでも前世の俺が心から妹を愛していたことだけは確信できる。
だからこそ、妹が自分の愉しみの為に、自分をモデルにしたキャラクターを小説の中で悲惨な目に遭わせても、呆れながらも仕方ないって許せた。許してしまうくらいに、妹が可愛かった。
けれど、そんな悲惨な目に遭うのが現実の俺だとしても、妹は萌えだなんだと言って楽しめるのだとしたら。
……愛していた記憶があるからこそ、裏切られた気分になる。
お前にとって俺は、その程度の存在だったのか、と。
「もちろん女神が別人である可能性もあるけど……鑑定の文章とか、すごく前世妹が書いた感じが滲んでるんだよなぁ……」
そして、前世の記憶を思い出せば思い出すほど、裏設定が露見すればするほど、実感せざるを得ない前世妹の変態嗜好を考えたら、あいつが今の俺の状況を楽しんでないと言いきれないのが、悲しい。
前世での俺は、家族に関しては恵まれていたと思っていたのだが、全て幻想だったのだろうか。
「ううう……お犬様、会いたいよぉ……」
本来なら、賛同すべき台詞だと言うことはわかっていた。
それなのに、クリスの言葉は、隠しているはずの俺の柔らかい部分にどうしようもなく突き刺さって。
「……お前と一緒にするなよ。クリス。俺は女神を愛している」
咄嗟にそう口にしてしまってから、すぐにキャラではないと思い直し軌道修正した。
「金で信者の女神への愛を量る、業突く張りの教皇様よりよほどな」
一瞬怪訝そうな表情をしたクリスも、どうやら無事にレンリネドの教皇への皮肉だと解釈してくれたらしい。
「そう言うことなら、僕も女神様を愛してると言えるかな。くそったれな運命とセットで特別な能力を与えてくれた、愛しの女神様に乾杯だ!」
グラスを合わせる代わりに、差し出されたタバコを自分のそれと合わせると、伸びた灰がポロリと落ちた。
床に落ちる前に、素早く灰皿でキャッチしたジェフの規格外な運動能力を目の当たりにし、乾いた笑いが漏れる。
きっとこいつも俺とクリスと同じくらい、ろくでもない運命を抱えているんだろう。
「女神は愛する僕らに、乗り越えられない試練は与えない……そうであることを祈ろう。エディ。愛したものの破滅を喜ぶ女が世界を支配しているんじゃ、どの道ろくな未来は待ってないだろうからさ」
そう言ってまだ火のついたタバコを握り潰したクリスは、その後二、三の必要最低限の連絡事項だけ話して、ジェフを伴って去って行った。
その背中を見送り、扉が閉まるのを確認して、深々とため息を吐いた。
「……よし、行ったな」
盗聴用の魔道具が設置されていないのを確認して、鍵のついたベッド脇のクローゼットへと向かう。
ここからは、俺が俺に戻る大事な時間。
厳重に二重ロックしたクローゼットを開け、目的のものを引きずりだすと、それごとベッドに身を投げた。
「ーーうわーん! お犬様ぁ! 疲れた、疲れたよお~もう、俺、あいつやだあ~」
ぎゅっと全身で抱きしめて、お腹に顔を埋めて泣きついたのは、俺特製のお犬様ぬいぐるみ(等身大)。
毛質や肉球の感触などを完璧に再現すべく、素材にこだわり、試作を重ねて俺が直々に丁寧に縫い上げた自慢の一品です! 俺以外の誰にも見せたことないけどさ!
「女神にとって俺は玩具も同然みたいなことさあ、別に言わんでも良くない? ドリフィス教を批判したいなら、別にわざわざ俺のスキル持出さなくても良くない? 俺、無駄に傷つけられたんだけどぉ!」
グスグスと鼻を鳴らしながら、お犬様ぬいぐるみを抱えて、ベッドに転げ回る。
考えなかった、わけじゃない。でも、敢えて考えないようにした。
「だって……もしも女神が前世の妹だったら……俺、あいつから、自分の愉しみのためならどれだけ酷い目に遭わせてもいいって思われてるってことじゃないか……」
ここは、前世の妹が書いた物語の世界。ならば世界の創造主である女神が、前世の妹であったとしても何もおかしくはない。
そんなの、前世を思い出した時から、ずっと想定していた。ただ、そうでなければいいと思っていただけで。
思い出せる前世の記憶はわずかだけど、それでも前世の俺が心から妹を愛していたことだけは確信できる。
だからこそ、妹が自分の愉しみの為に、自分をモデルにしたキャラクターを小説の中で悲惨な目に遭わせても、呆れながらも仕方ないって許せた。許してしまうくらいに、妹が可愛かった。
けれど、そんな悲惨な目に遭うのが現実の俺だとしても、妹は萌えだなんだと言って楽しめるのだとしたら。
……愛していた記憶があるからこそ、裏切られた気分になる。
お前にとって俺は、その程度の存在だったのか、と。
「もちろん女神が別人である可能性もあるけど……鑑定の文章とか、すごく前世妹が書いた感じが滲んでるんだよなぁ……」
そして、前世の記憶を思い出せば思い出すほど、裏設定が露見すればするほど、実感せざるを得ない前世妹の変態嗜好を考えたら、あいつが今の俺の状況を楽しんでないと言いきれないのが、悲しい。
前世での俺は、家族に関しては恵まれていたと思っていたのだが、全て幻想だったのだろうか。
「ううう……お犬様、会いたいよぉ……」
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