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エドワード17歳、二重猫かぶり王子期⑥

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 途端にクリスの顔が、ぱあっと明るく輝いた。
 本当、こいつ正妃のことが大嫌いだよな。俺も嫌いだけど。

「エディが、あいつのこと正しく評価してくれて嬉しいよ~。もっちろん、顔真っ赤にして刺客送ってきたに決まってるでしょう。何度撃退しても懲りないんだから、本当馬鹿だよね。僕が上手く処理してあげなかったら、刺客を侵入させたこの学校の評判自体が落ちるのにさ~」

「刺客の依頼主が特定されなかったとしても、この学校が国立の時点で王の責任も追及されるだろうにな」

『うんうん』

 運営自体は委託しているとはいえ、この学校の最高責任者は王。王の名のもとに国中の貴族の子女を半強制的に収集しているのにも関わらず、暗殺者の侵入を許すような警備の不手際、他貴族から責任追及されないはずがない。
 特に今代の王はレンリネドに肩入れし過ぎている上に、碌な功績も残していないので、貴族・平民共に敵は多い。農業改革で国全体が豊かになってなければ、とうに貧困から各地で反乱が起こっていてもおかしくないくらいだ。農業改革の立役者が王ではなく自分(と、俺)であることも、抜け目のないクリスはきちんと周知させているから、誰も王の功績だとは思ってないし。
 王立の貴族学校で暗殺騒ぎが起これば、王を罷免して有能なクリスを王位につけたい第一王子派を活気付かせることになるのは間違いないだろうに……正妃はそこまで考えて刺客を送っているのだろうか。
 学校では魔法が封じられているとはいえ、クリスが何も対策していないわけがないので、正直暗殺者の命がもったいないと思う。

「まあ、でもその辺りの追及は留学後まではお預けかな。僕が国内にいない間に弟派の奴らが好き勝手しないよう、事前準備で忙しいし……全く、無能な父親を持つと苦労するよ」

 そう言って煙を吐き出すクリスの目は、少し悲しげではあったが、そこは多分触れてはいけない部分なのだろう。
 無能で暗殺を黙認している実の父親を、それでもなお嫌い抜けないことが、数少ないクリスの甘い所であり、人間らしい所でもある。……それでも時が来たら、クリスはけして、その命を奪うことをためらわないのだろうけど。
 …………実はこれも人身掌握の為の手段とか言わねぇよな。弱くて完璧でないとこ見せて、親近感持たせる的な。こいつならありそうで怖い。
 まあ、どっちにしろ突っ込まず、話題を変えよっと。

「……いよいよだな。ようやくこの時がやって来た」

 ようやくだ……ようやく、俺がアストルディアと対峙する時がやって来た。
 俺を打ち負かし、やがて殺す運命を持った宿敵と、生まれて初めて相対する機会が。

「さてさて、女神に愛されて呪われた君の運命は、果たしてどうなるんだろうね。エディ。例外を指定された強大な力を持つものは、必ずその例外に滅ぼされると相場は決まっているけど……げほっ」

 チェシャ猫のようににんまり笑うクリスの顔めがけて、タバコの煙を吐きかける。咳き込む姿に、少しだけ溜飲が下がった。
 クリスは生まれながらに【スキル看破】の能力を持っている。
 前世のことや原作小説のことまでは読み取れなかったようだが、俺がチート級の能力を持つ代わりにアストルディアだけは倒せないことは、既に知られているのだ。

「ごほ……エディ。僕はね。君を見ていると、ドリフィス教徒達が愚かだと実感せざるを得ないよ」

 咳き込みから脱したらしいクリスが、滲んだ生理的な涙を拭って嘲笑う。

「奴らは教典に則って敬虔に女神を信じさえすれば、女神に愛されて幸せになれると思っている。けれど神は人間の信仰なんか関係なく、勝手に人を愛して、弄ぶ。気まぐれに選んだ人間に愛と称して特別な能力を与え、同じくらい重い試練を与えて、どう動くのか楽しんでるのさ。神にとって人間なんて、その程度の存在なんだよ。それなのに教典を根拠に、人間の方が獣人より優れていると思うだなんて馬鹿げてる」





 
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