31 / 311
エドワード17歳、二重猫かぶり王子期③
しおりを挟む
そう叫んで泣きながら走り去って行くブラッドリーの背中を、呆然と見送る。
……あいつ、今、すげぇカミングアウトしたなあ。おい。つまりは、自分も男を妊娠させられればって思ってるってことだろ。
別に俺自身に偏見はないが、ドリフィス教徒にとってはかなり致命的な告白だ。
リシス王国は、ドリフィス教と一応同じ女神を信仰しているのだけど、その信仰の仕方は非常に緩い。教典も決まりも何もなく、ただ気が向いた時に各地にある神殿に祈って捧げ物をするくらいの軽さだから、生理的に同性愛者に対して嫌悪感を抱くものはいても、表立って迫害されることはない。
だががちがちに厳格な教典で信者を縛るドリフィス教が国教であるレンリネドでは、同性愛者は獣人と同じレベルの迫害対象だ。非生産的な同性愛者は、男と女を作り、繁殖するようにさせた女神の意図に反すると見なされるらしい。ちなみにレンリネドでは、先に男が作られたという理由から、男尊女卑思考も一般的である。仰ぐ神自体が女であることを考えれば、ずいぶん都合のよい解釈だと思う。
そんなドリフィス教に入信しているブラッドリーの立場を考えれば、人前での先程の発言はかなり致命的な失態なわけで。まあどうせ公爵が「若気の至り」とか何とか言い訳して、もみ消すんだろうが。本当にあの甘ちゃん駄犬は、自分の立場理解してねぇなとは思う。
……いや、だからこそあいつは冒険者志望だったのか。同性愛者としてありのままに生きる為に、貴族の立場を捨てる気だったんだと思うと、途端にちょっとかわいそうになる。
……これから色々大変だろうが頑張れよ。ブラッドリー。俺はお前が甘ちゃん脱して、ありのままのお前のまま愛する相手と生きられるようになることを祈ってるよ。応援してる。
まあ、それを友人としてアシストしてやる余裕は、辺境伯領の未来を背負ってる俺には、とてもないわけだが。
「ーーあ~あ。パトリオットの三男坊、これで完全に反獣人派になっちゃったねぇ?」
不意に舐めるような甘ったるい声が耳元で響き、ぞわりと鳥肌が立った。
気配……今、気配完全になかったぞ! 殺気なしとは言え、魔力感知はもちろん、気配を感知する訓練も散々積んできた俺に気づかせないでここまで密着するって、どれだけ高性能な魔道具使ってんだこいつ。絶対国宝勝手に持ち出しているだろ。
「これは完全にエディの失態だねぇ。どうやって責任取ってもらおうか。ねぇ、ジェフ?」
「うんうん」って……わざわざんなもん、ホワイトボードに書くなや、ジェフリー! 頷けばいいだけの話だろうが!
引き攣りそうになる顔に、必死にいつも通りの余裕の笑みを浮べて、小首を傾げながら目の前のアーモンド色の瞳を見据える。
「失態って……冗談がきついですよ。クリス。ブラッドはもともと、獣人を好ましくは思っていなかったではないですか」
おかっぱのように切り揃えた栗色の髪に、小動物を思わせるつぶらなアーモンド色の瞳。
160に届くか届かないかくらいの身長。筋肉が皆無な折れそうなくらいに細い手足。
少女と見紛う愛らしい姿をしている彼は、かといって絶世の美貌の持ち主というわけではない。前世妹が何作目かで書いてた王道?現在全寮制学園の、親衛隊員Aと言ったらわかりやすいだろうが。(この記憶は正直何の役にも立たないので、別に思い出したくなかった。ちなみに前世妹は双子生徒会役員の近親相姦をメインに書いていたが、本当に思い出したくなかった)
つまりは村一番のかわいい村娘レベルという、凡庸とも言える容姿なわけだが、それで彼を侮ったら痛い目に遭う。
リシス王国第一王子クリストファー・リシス。わずか8歳にして、正妃から繰り返し送られる暗殺者を魔法で返り討ちして、王宮を掌握すべく暗躍していた本物の天才。(しかも転生特典とかはなしという半端なさ)
現段階では、俺が世界で一番敵に回したくない男だ。
「エディなら、やり方次第でいくらでも思想操作できたでしょう? 僕はてっきりそのつもりであれを弄んでたんだと思ってんだけど、もしかして無自覚だった? エディは僕と同じくらい聡いと思ってたんだけど、意外とかわいらしいところもあるんだね」
「弄んでたなんて、人聞きが悪い。ブラッドがどのような嗜好の持ち主であれ、私と彼はただの友人ですよ」
「ただの友人、ねえ?」
……あいつ、今、すげぇカミングアウトしたなあ。おい。つまりは、自分も男を妊娠させられればって思ってるってことだろ。
別に俺自身に偏見はないが、ドリフィス教徒にとってはかなり致命的な告白だ。
リシス王国は、ドリフィス教と一応同じ女神を信仰しているのだけど、その信仰の仕方は非常に緩い。教典も決まりも何もなく、ただ気が向いた時に各地にある神殿に祈って捧げ物をするくらいの軽さだから、生理的に同性愛者に対して嫌悪感を抱くものはいても、表立って迫害されることはない。
だががちがちに厳格な教典で信者を縛るドリフィス教が国教であるレンリネドでは、同性愛者は獣人と同じレベルの迫害対象だ。非生産的な同性愛者は、男と女を作り、繁殖するようにさせた女神の意図に反すると見なされるらしい。ちなみにレンリネドでは、先に男が作られたという理由から、男尊女卑思考も一般的である。仰ぐ神自体が女であることを考えれば、ずいぶん都合のよい解釈だと思う。
そんなドリフィス教に入信しているブラッドリーの立場を考えれば、人前での先程の発言はかなり致命的な失態なわけで。まあどうせ公爵が「若気の至り」とか何とか言い訳して、もみ消すんだろうが。本当にあの甘ちゃん駄犬は、自分の立場理解してねぇなとは思う。
……いや、だからこそあいつは冒険者志望だったのか。同性愛者としてありのままに生きる為に、貴族の立場を捨てる気だったんだと思うと、途端にちょっとかわいそうになる。
……これから色々大変だろうが頑張れよ。ブラッドリー。俺はお前が甘ちゃん脱して、ありのままのお前のまま愛する相手と生きられるようになることを祈ってるよ。応援してる。
まあ、それを友人としてアシストしてやる余裕は、辺境伯領の未来を背負ってる俺には、とてもないわけだが。
「ーーあ~あ。パトリオットの三男坊、これで完全に反獣人派になっちゃったねぇ?」
不意に舐めるような甘ったるい声が耳元で響き、ぞわりと鳥肌が立った。
気配……今、気配完全になかったぞ! 殺気なしとは言え、魔力感知はもちろん、気配を感知する訓練も散々積んできた俺に気づかせないでここまで密着するって、どれだけ高性能な魔道具使ってんだこいつ。絶対国宝勝手に持ち出しているだろ。
「これは完全にエディの失態だねぇ。どうやって責任取ってもらおうか。ねぇ、ジェフ?」
「うんうん」って……わざわざんなもん、ホワイトボードに書くなや、ジェフリー! 頷けばいいだけの話だろうが!
引き攣りそうになる顔に、必死にいつも通りの余裕の笑みを浮べて、小首を傾げながら目の前のアーモンド色の瞳を見据える。
「失態って……冗談がきついですよ。クリス。ブラッドはもともと、獣人を好ましくは思っていなかったではないですか」
おかっぱのように切り揃えた栗色の髪に、小動物を思わせるつぶらなアーモンド色の瞳。
160に届くか届かないかくらいの身長。筋肉が皆無な折れそうなくらいに細い手足。
少女と見紛う愛らしい姿をしている彼は、かといって絶世の美貌の持ち主というわけではない。前世妹が何作目かで書いてた王道?現在全寮制学園の、親衛隊員Aと言ったらわかりやすいだろうが。(この記憶は正直何の役にも立たないので、別に思い出したくなかった。ちなみに前世妹は双子生徒会役員の近親相姦をメインに書いていたが、本当に思い出したくなかった)
つまりは村一番のかわいい村娘レベルという、凡庸とも言える容姿なわけだが、それで彼を侮ったら痛い目に遭う。
リシス王国第一王子クリストファー・リシス。わずか8歳にして、正妃から繰り返し送られる暗殺者を魔法で返り討ちして、王宮を掌握すべく暗躍していた本物の天才。(しかも転生特典とかはなしという半端なさ)
現段階では、俺が世界で一番敵に回したくない男だ。
「エディなら、やり方次第でいくらでも思想操作できたでしょう? 僕はてっきりそのつもりであれを弄んでたんだと思ってんだけど、もしかして無自覚だった? エディは僕と同じくらい聡いと思ってたんだけど、意外とかわいらしいところもあるんだね」
「弄んでたなんて、人聞きが悪い。ブラッドがどのような嗜好の持ち主であれ、私と彼はただの友人ですよ」
「ただの友人、ねえ?」
271
お気に入りに追加
2,160
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い

その捕虜は牢屋から離れたくない
さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。
というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。
男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~
さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。
そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。
姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。
だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。
その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。
女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。
もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。
周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか?
侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた
マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。
主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。
しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。
平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。
タイトルを変えました。
前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。
急に変えてしまい、すみません。
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる