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エドワード17歳、二重猫かぶり王子期③

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 そう叫んで泣きながら走り去って行くブラッドリーの背中を、呆然と見送る。
 ……あいつ、今、すげぇカミングアウトしたなあ。おい。つまりは、自分も男を妊娠させられればって思ってるってことだろ。
 別に俺自身に偏見はないが、ドリフィス教徒にとってはかなり致命的な告白だ。
 リシス王国は、ドリフィス教と一応同じ女神を信仰しているのだけど、その信仰の仕方は非常に緩い。教典も決まりも何もなく、ただ気が向いた時に各地にある神殿に祈って捧げ物をするくらいの軽さだから、生理的に同性愛者に対して嫌悪感を抱くものはいても、表立って迫害されることはない。
 だががちがちに厳格な教典で信者を縛るドリフィス教が国教であるレンリネドでは、同性愛者は獣人と同じレベルの迫害対象だ。非生産的な同性愛者は、男と女を作り、繁殖するようにさせた女神の意図に反すると見なされるらしい。ちなみにレンリネドでは、先に男が作られたという理由から、男尊女卑思考も一般的である。仰ぐ神自体が女であることを考えれば、ずいぶん都合のよい解釈だと思う。
 そんなドリフィス教に入信しているブラッドリーの立場を考えれば、人前での先程の発言はかなり致命的な失態なわけで。まあどうせ公爵が「若気の至り」とか何とか言い訳して、もみ消すんだろうが。本当にあの甘ちゃん駄犬は、自分の立場理解してねぇなとは思う。
 ……いや、だからこそあいつは冒険者志望だったのか。同性愛者としてありのままに生きる為に、貴族の立場を捨てる気だったんだと思うと、途端にちょっとかわいそうになる。
 ……これから色々大変だろうが頑張れよ。ブラッドリー。俺はお前が甘ちゃん脱して、ありのままのお前のまま愛する相手と生きられるようになることを祈ってるよ。応援してる。
 まあ、それを友人としてアシストしてやる余裕は、辺境伯領の未来を背負ってる俺には、とてもないわけだが。

「ーーあ~あ。パトリオットの三男坊、これで完全に反獣人派になっちゃったねぇ?」

 不意に舐めるような甘ったるい声が耳元で響き、ぞわりと鳥肌が立った。
 気配……今、気配完全になかったぞ! 殺気なしとは言え、魔力感知はもちろん、気配を感知する訓練も散々積んできた俺に気づかせないでここまで密着するって、どれだけ高性能な魔道具使ってんだこいつ。絶対国宝勝手に持ち出しているだろ。

「これは完全にエディの失態だねぇ。どうやって責任取ってもらおうか。ねぇ、ジェフ?」

 「うんうん」って……わざわざんなもん、ホワイトボードに書くなや、ジェフリー! 頷けばいいだけの話だろうが!
 引き攣りそうになる顔に、必死にいつも通りの余裕の笑みを浮べて、小首を傾げながら目の前のアーモンド色の瞳を見据える。

「失態って……冗談がきついですよ。クリス。ブラッドはもともと、獣人を好ましくは思っていなかったではないですか」

 おかっぱのように切り揃えた栗色の髪に、小動物を思わせるつぶらなアーモンド色の瞳。
 160に届くか届かないかくらいの身長。筋肉が皆無な折れそうなくらいに細い手足。
 少女と見紛う愛らしい姿をしている彼は、かといって絶世の美貌の持ち主というわけではない。前世妹が何作目かで書いてた王道?現在全寮制学園の、親衛隊員Aと言ったらわかりやすいだろうが。(この記憶は正直何の役にも立たないので、別に思い出したくなかった。ちなみに前世妹は双子生徒会役員の近親相姦をメインに書いていたが、本当に思い出したくなかった)
 つまりは村一番のかわいい村娘レベルという、凡庸とも言える容姿なわけだが、それで彼を侮ったら痛い目に遭う。
 リシス王国第一王子クリストファー・リシス。わずか8歳にして、正妃から繰り返し送られる暗殺者を魔法で返り討ちして、王宮を掌握すべく暗躍していた本物の天才。(しかも転生特典とかはなしという半端なさ)
 現段階では、俺が世界で一番敵に回したくない男だ。

「エディなら、やり方次第でいくらでも思想操作できたでしょう? 僕はてっきりそのつもりであれを弄んでたんだと思ってんだけど、もしかして無自覚だった? エディは僕と同じくらい聡いと思ってたんだけど、意外とかわいらしいところもあるんだね」

「弄んでたなんて、人聞きが悪い。ブラッドがどのような嗜好の持ち主であれ、私と彼はただの友人ですよ」

「ただの友人、ねえ?」

 
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