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さよなら、大好きな親友

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 次の瞬間、お犬様の尻尾がぼわっと膨らんで直立した。
 ……うわ、これ猫だけじゃなくて、犬もなんのか。お犬様と出会って五年経つけど、これだけびっくりしたお犬様見んの初めてだわ。いいもん見た。

「ごめん、ごめん。びっくりさせちゃったねー。そこにお犬様のかわいいマズルがあったから、ついね」

 ヘラヘラ笑いながら、宥めるようにその毛を撫でる。
 俺がいなくなっても、お犬様の人生?犬生?は続いていくし、神獣とかめちゃくちゃ長生きそうだから、お犬様にとっては俺と過ごした時間なんてすぐ忘れてしまうような些細な時間なんだろう。
 だけど少しでもお犬様に「勝手にキスした変な人間がいた」と俺のことを覚えていて欲しくて、ずっと肉球拒否されていたマズルの先にキスをしてやった。

「ちなみに今の、俺のファーストキスだから」

 再びお犬様の尻尾がぼわっと膨らんで、思わず声をあげて笑ってしまった。
 あー、もう、かわいいなあ。こんなかわいい生き物、他にいねーわ。
 首根っこのあたりをぎゅっと抱きしめて、ぐりぐりと頬ずりをする。

「ねえ、お犬様……お犬様が俺のことどう思ってるかわからないけど、俺にとってお犬様は生まれて初めてできた友達なんだ」

「…………」

「生まれて初めての友達で、多分最初で最後の親友」

 多分こんなふうに心を許せる相手は他に現れない。
 原作エドワードはアストルディアと親友になったと前世妹は言っていたけど、将来故郷を滅ぼされたり、片腕を斬られたり、果ては殺される可能性が高いとわかっている相手と、そこまで打ち解けられるとは思えない。
 アストルディア以外の人間だって無理だ。俺は原作が始まる頃になるまで、他の誰かに心を許せるようになるとは思えないから。
 原作始まる頃って、40前くらいか? その年になったら、多分そこから心許せる親友見つけるってなかなか難しいよな。その時点で原作通りメンヘラ拗らせてる可能性大ならなおさら。
 やっぱお犬様だけだ。神獣という、色んなしがらみを超越した特別な種族だから、俺はこんなに素直になれた。一緒にいて、こんなに幸せだと思えた。
 お犬様にとっては大したことがないかもしれないこの五年間が、俺にとってはどうしようもないくらい宝物なんだ。

「お犬様が俺のことを忘れちゃっても……俺は一生お犬様のこと忘れない。お犬様のことが大大大好きだから」

「…………」

「……お犬様?」

 抗議するように唸ったお犬様は、俺と同じくらいまで成長した体躯で俺を押し倒すと、そのままベロリと俺の唇を舐めた。
 ……何これ、仕返しのつもり? 激スーパーきゃわわなんですが。
 してやったりな感じで、尻尾めちゃくちゃふりふりしてるし!

「あー、もう、お犬様! 愛してる!」

 マズルにはもうしないけど、ぎゅうとその体を抱きしめてあちこちにキスを落とす。

 大好き。大好き。大好き。愛してる。
 ……でも、ばいばい。

 春まではまだ少し時間はあるけど、俺はもう次の約束はできないだろう。もう、お犬様とは二度と会わない。
 だって、もし次会ったら、俺はきっとお犬様をさらっちゃう。俺のろくでもねえ悪役人生に付き合わせちゃう。
 お犬様には、今まで通り伸び伸び自由に過ごして欲しいから。すごくすごく嫌だけど、ここでさよならするしかないんだ。

 ……それでも。
 たとえ、何十年先だとしても、全てのフラグを折ることかできた俺が、もう一度お犬様に会うことができたとしたら。

「その時はまた……友達になってね。お犬様」

 お犬様と一緒に生きられる未来があるって、信じてもいいかな?
 俺はそれだけを希望に、ろくでもねえ悪役人生を必死に生き抜くからさ。



 
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