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最強のセラピスト
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「ちょ、ちょっと時間がないので、そろそろ帰りますね。ゼリーごちそう様でした!」
特に問題はないとはいえ、ここで認めるのも何かアレだと思ったので、とりあえずウヤムヤにすべく速やかにブーリ魚を受け取ってこの場を去ることにした。
生温いディックの視線が、地味に心をえぐる。
「ブーリ魚は捌きましょうか?」
「いえ。自分でやるので大丈夫です」
「そんなことまでできるんですね。さすがだ」
やめて。副音声で『さすが辺境伯家嫡男様』って伝えてくんのやめて。なんかとてもいたたまれないから!
「では、ディックさん。後はよろしくお願いします」
「あ、その前に一つだけ良いですか?」
急いでるって言ってるのに、まだ言うかー。いい加減、顔から火が出そうなんだよー。
「辺境伯家嫡男にして、【国境の守護者】エドワード様。俺達領民はみんな、あなたに感謝してますよ。あなたのおかげで明るい未来を信じることができるようになった……どうかそれだけは忘れないでください」
キラキラした瞳で、まっすぐに感謝を述べるディックの姿に、ぐっと胸のあたりが締め付けられる。
……ああ、俺自分でも自覚なかったけど、正体隠した理由の一つは領民からこんなふうに感謝されたくなかったってのもあるのかも。「辺境伯嫡男」でとして感謝されたら……ますます荷物が重くなるから。
内心で自嘲しながら頭を下げ、養殖場を後にする。
……ちょっとだけ暗い気持ちになっちまったな。でも、大丈夫。
にっこり笑って転移魔法を展開し、拳を握る。設定した座標は、もちろんネーバ山の山頂。
だって俺は今から、最強のセラピストであるお犬様に会いに行くのだからあああ!
転移魔法で頂上に一飛びすると、花畑の中に白銀の天使がいらっしゃった。
「お犬様ああああああああ!!!」
子犬から超大型犬へと変貌してなおきゃわわなモフモフにダッシュで飛びつき、くんかくんかにおいを嗅ぐ。んふー、お日様のにおいがする。
ふふふふふ……この五年間で少しずつ距離感縮めて慣らしたからな。今では、かつては肉球スタンプで拒否だったちゅーも思いのまま、あだっ。
「……すみません。お犬様。調子乗り過ぎました」
呆れきった眼差しで肩をカプカプ甘噛みをされ、渋々とお犬様から顔を離す。うう……表情とは裏腹に尻尾は嬉しそうに揺れてるのにぃ! お犬様のいけず。
「それじゃ、モフモフタイムが終わったので、持ってきたブーリ魚でお昼にしよっか」
さて、今日ともお犬様を喜ばせるため、不肖エドワード、めいっぱい腕を奮いますぞー。
五年前はいきなり姿を消してもう二度と会えないのではと枕を涙で濡らさせたお犬様だが、何度も何度も諦め悪く山頂に通っているうちに意外とあっさり再会した。どうもお犬様のホーム自体は山頂ではないけど、定期的に通ってはいる模様。
だからといって、またいつ会えるかわからないままなのは嫌だ! と言うわけで、スーパー賢いお犬様に次来るのはいつか聞いて、それにあわせて俺も山頂にやってくることにした。鳴き声で、ちゃんと何日後に来るか教えてくれたのよ……お犬様本当にかちこい。
交流を重ねるうちにタメ口でも怒らないし、お犬様と呼んでも呆れたような顔をするだけだと気づいたので、最近は遠慮なく距離を縮めまくってる次第です。寛大で優しいお犬様……ビッグラブ。ちょっと不機嫌になっても、俺のご飯さえ食べさせたらすぐに尻尾ふりふりしてくれるし。単純? いえ、きゃわいいのです。やっぱお犬様は天使。異論は認めない。
「えーと、ブーリ魚のカルパッチョと、アラで塩味ぶりかぶら作ろうかなー。それだけじゃ足りないから、お犬様が好きなコロッケパンも」
まずはブーリ魚のウロコを取ります。面倒なので、これも浄化魔法の応用で汚れをウロコに変換して、ウロコを全部消失させてしまいましょう。ついでに内臓も取っちゃいます。
魔法処理したブーリ魚を、三枚に卸します。前世で魚まで捌いてた記憶はないけど、【剣術】スキルがあるので余裕です。
そんで身は刺身にして。ぶつ切りにしたアラは魔法で沸かしたお湯で霜降りに。
皮を剥いて切ったカブっぽいのとにんじんっぽいの、しょうがっぽいのと、干した昆布と一緒に塩味で煮込みます。残念ながらこの国には醤油はないし、お酒はワインとビールくらいしかないので使えません。……いや、ビール煮はありか? まあ、うちのブーリ魚は臭みがないので、取り敢えず砂糖足して甘み出せばいいか。料理のさしすせそ守ってない後入れだけど。
醤油や日本酒はウィ◯ペディア見たくらいの前世の記憶じゃ再現できないし、何よりこの国には麹も米もない。早々に諦めて、今はいつか別大陸から入ってくる可能性を密かに願ってる次第です。他力本願上等。
三脚とたき火でぶりかぶらを煮てる間に、カルパッチョを作りますか。
ぶりかぶらのあまりのカブっぽいのとにんじんっぽいのを薄くスライスして塩揉みしてから皿に敷いて、上に刺身を並べます。その上に切った青トマトことネルの実をちらして。これに柑橘類の果物の汁と塩、ワインビネガー、すりおろした玉ねぎっぽいの&にんにくっぽいのを風魔法でよーくシャッフルしたドレッシングをかけたら……あ、お犬様玉ねぎもにんにくも問題なかったっぽいです。さすが神獣。
「よし、カルパッチョでーきた。後はコロッケパンだな」
特に問題はないとはいえ、ここで認めるのも何かアレだと思ったので、とりあえずウヤムヤにすべく速やかにブーリ魚を受け取ってこの場を去ることにした。
生温いディックの視線が、地味に心をえぐる。
「ブーリ魚は捌きましょうか?」
「いえ。自分でやるので大丈夫です」
「そんなことまでできるんですね。さすがだ」
やめて。副音声で『さすが辺境伯家嫡男様』って伝えてくんのやめて。なんかとてもいたたまれないから!
「では、ディックさん。後はよろしくお願いします」
「あ、その前に一つだけ良いですか?」
急いでるって言ってるのに、まだ言うかー。いい加減、顔から火が出そうなんだよー。
「辺境伯家嫡男にして、【国境の守護者】エドワード様。俺達領民はみんな、あなたに感謝してますよ。あなたのおかげで明るい未来を信じることができるようになった……どうかそれだけは忘れないでください」
キラキラした瞳で、まっすぐに感謝を述べるディックの姿に、ぐっと胸のあたりが締め付けられる。
……ああ、俺自分でも自覚なかったけど、正体隠した理由の一つは領民からこんなふうに感謝されたくなかったってのもあるのかも。「辺境伯嫡男」でとして感謝されたら……ますます荷物が重くなるから。
内心で自嘲しながら頭を下げ、養殖場を後にする。
……ちょっとだけ暗い気持ちになっちまったな。でも、大丈夫。
にっこり笑って転移魔法を展開し、拳を握る。設定した座標は、もちろんネーバ山の山頂。
だって俺は今から、最強のセラピストであるお犬様に会いに行くのだからあああ!
転移魔法で頂上に一飛びすると、花畑の中に白銀の天使がいらっしゃった。
「お犬様ああああああああ!!!」
子犬から超大型犬へと変貌してなおきゃわわなモフモフにダッシュで飛びつき、くんかくんかにおいを嗅ぐ。んふー、お日様のにおいがする。
ふふふふふ……この五年間で少しずつ距離感縮めて慣らしたからな。今では、かつては肉球スタンプで拒否だったちゅーも思いのまま、あだっ。
「……すみません。お犬様。調子乗り過ぎました」
呆れきった眼差しで肩をカプカプ甘噛みをされ、渋々とお犬様から顔を離す。うう……表情とは裏腹に尻尾は嬉しそうに揺れてるのにぃ! お犬様のいけず。
「それじゃ、モフモフタイムが終わったので、持ってきたブーリ魚でお昼にしよっか」
さて、今日ともお犬様を喜ばせるため、不肖エドワード、めいっぱい腕を奮いますぞー。
五年前はいきなり姿を消してもう二度と会えないのではと枕を涙で濡らさせたお犬様だが、何度も何度も諦め悪く山頂に通っているうちに意外とあっさり再会した。どうもお犬様のホーム自体は山頂ではないけど、定期的に通ってはいる模様。
だからといって、またいつ会えるかわからないままなのは嫌だ! と言うわけで、スーパー賢いお犬様に次来るのはいつか聞いて、それにあわせて俺も山頂にやってくることにした。鳴き声で、ちゃんと何日後に来るか教えてくれたのよ……お犬様本当にかちこい。
交流を重ねるうちにタメ口でも怒らないし、お犬様と呼んでも呆れたような顔をするだけだと気づいたので、最近は遠慮なく距離を縮めまくってる次第です。寛大で優しいお犬様……ビッグラブ。ちょっと不機嫌になっても、俺のご飯さえ食べさせたらすぐに尻尾ふりふりしてくれるし。単純? いえ、きゃわいいのです。やっぱお犬様は天使。異論は認めない。
「えーと、ブーリ魚のカルパッチョと、アラで塩味ぶりかぶら作ろうかなー。それだけじゃ足りないから、お犬様が好きなコロッケパンも」
まずはブーリ魚のウロコを取ります。面倒なので、これも浄化魔法の応用で汚れをウロコに変換して、ウロコを全部消失させてしまいましょう。ついでに内臓も取っちゃいます。
魔法処理したブーリ魚を、三枚に卸します。前世で魚まで捌いてた記憶はないけど、【剣術】スキルがあるので余裕です。
そんで身は刺身にして。ぶつ切りにしたアラは魔法で沸かしたお湯で霜降りに。
皮を剥いて切ったカブっぽいのとにんじんっぽいの、しょうがっぽいのと、干した昆布と一緒に塩味で煮込みます。残念ながらこの国には醤油はないし、お酒はワインとビールくらいしかないので使えません。……いや、ビール煮はありか? まあ、うちのブーリ魚は臭みがないので、取り敢えず砂糖足して甘み出せばいいか。料理のさしすせそ守ってない後入れだけど。
醤油や日本酒はウィ◯ペディア見たくらいの前世の記憶じゃ再現できないし、何よりこの国には麹も米もない。早々に諦めて、今はいつか別大陸から入ってくる可能性を密かに願ってる次第です。他力本願上等。
三脚とたき火でぶりかぶらを煮てる間に、カルパッチョを作りますか。
ぶりかぶらのあまりのカブっぽいのとにんじんっぽいのを薄くスライスして塩揉みしてから皿に敷いて、上に刺身を並べます。その上に切った青トマトことネルの実をちらして。これに柑橘類の果物の汁と塩、ワインビネガー、すりおろした玉ねぎっぽいの&にんにくっぽいのを風魔法でよーくシャッフルしたドレッシングをかけたら……あ、お犬様玉ねぎもにんにくも問題なかったっぽいです。さすが神獣。
「よし、カルパッチョでーきた。後はコロッケパンだな」
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