俺の悪役チートは獣人殿下には通じない

空飛ぶひよこ

文字の大きさ
上 下
21 / 311

アディ(偽名)くん、13歳の無双②

しおりを挟む
「ブーリ魚の食べ頃なもの、一匹譲ってもらえませんか? もちろんお金は払いますから」

「そんな! アディ様からお代はいただけませんよ!」

「経営者であっても、そういうところはきちんとしておきたいんです。その分ちゃんと利益は得てますから」

 あんまこの辺ゆるゆるにすると、養殖場の職員はブーリ魚をタダで食えるみたいに捉えられるかもしれないしな。
 こっそり一、二匹がめるくらいなら目こぼししてやるが、横領レベルまで発展されたら困る。

「正規の値段で良いです。あ、でもあなた達が購入する時は従業員価格で3割引きで良いですからね。ちゃんと伝票さえ残していただければ」

 締める所は締める、緩める所は緩める。これが経営には大切……だと思う。前世での仕事に関する記憶が一切思い出せんから特に根拠はないけど。……もしかしたら思い出したら辛くなるから、女神が記憶を封印してくれたのか? だとしたら感謝だな。

「……本当にアディ様は13歳とは思えないほどしっかりしたお方だ」

「いえいえ、いつも、あまり現場に足を運べなくて本当に申し訳ありません。養殖場がこうして成り立っているのは全てディックさんのおかげです。いつも本当にありがとうございます」

「……アディ様……」

 厳つい体を震わせて、じわりと涙目になるディック。
 ディックはよく言えば実直、悪く言えば単純な男なので言動に裏がなくてとても助かる。
 事業を委任するには、こういう男に限るな。笑顔で化かし合いするのは、クリストファー殿下だけで十分だ。
 問題があれば、転移魔法を付与した封筒に手紙を入れて即相談・報告してくれるから、俺の知らないとこで勝手に陥れられてる心配もないし。

「まだ時間ありますか、アディ様? せめてお茶くらいは飲んでください! 試作品としてニックが新しいデザートを持ってきてくれたんです」

「ニックの新デザートですか。それは楽しみです」 

 ニックはブーリ魚の餌となる柑橘類の皮を無償で譲ってくれた、ジュース業者の男だ。
 ブーリ魚で利益が出ることがわかったんで、それ以降は有償で譲ってもらうことにしようとしたんだけど、ニックは代わりに新商品のアイデアを求めて来た。
 すぐに思いついたのは豆乳デザートだけど、ようやく豆腐が浸透したばかりの状況では時期尚早かと保留。代わりに思いついたのが、ゼリー的なデザートだ。
 ゼリーに使われるゼラチンは、動物の骨や皮からコラーゲンを抽出して作られることは知識として知ってはいたけど、製法自体は知らなかった。妹が読ませた転生チートの話ではスライムをゼラチン代わりに利用する方法が書かれていた覚えがあったので、この世界でも適応されるのではとも思ったのだが、この世界のスライムは強酸を吐き出す中ボス級の魔物でとても食用にはならなそうだった。(そう言えば前世妹は昔、どこからか買った古いゲームをプレイして、『スライムは昔は雑魚キャラでなかったんだ!』と感動してたのを思い出した)
 ので、思いついたのは浄化魔法を応用して、コラーゲンのみを抽出する方法。浄化魔法で消失する「汚れ」を、「コラーゲン以外の不純物」に置き換えて魔方陣に書きくわえた後に、食用動物の骨や皮を対象にして発動させたら、ちゃんと骨や皮があった場所にコラーゲンが抽出されて。水分と混ぜて加熱したら、見事ゼリーができました! ……うっかり対象を人間にしたら恐ろしい殺人魔法が出来上がることに気づき、恐れ慄いたのはここだけの話。怖すぎるわ。
 そんでそれを果物の皮のお代がわりにニックに提供した結果、リシス王国初のゼリーデザートが完成したわけです! 以前もコラーゲン多いものを煮て煮凝り的なやつにする料理はあったんだけどね。どうしても臭みが出るから、デザートとしては初。
 そして骨や皮を安く卸してくれる肉屋には、コロッケをはじめとした肉を使った前世レシピを提供して……と、連鎖的に地域活性化に繋がるよう暗躍してます。自分とこばかり儲かると、どうしても敵を作るからな。味方づくりは大切です。
しおりを挟む
感想 160

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた

マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。 主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。 しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。 平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。 タイトルを変えました。 前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。 急に変えてしまい、すみません。  

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜 ・話の流れが遅い ・作者が話の進行悩み過ぎてる

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

愛する人

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
「ああ、もう限界だ......なんでこんなことに!!」 応接室の隙間から、頭を抱える夫、ルドルフの姿が見えた。リオンの帰りが遅いことを知っていたから気が緩み、屋敷で愚痴を溢してしまったのだろう。 三年前、ルドルフの家からの申し出により、リオンは彼と政略的な婚姻関係を結んだ。けれどルドルフには愛する男性がいたのだ。 『限界』という言葉に悩んだリオンはやがてひとつの決断をする。

処理中です...