俺の悪役チートは獣人殿下には通じない

空飛ぶひよこ

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出ばるダサメガネの正体は②

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「……参ったな」

 深々と溜め息を吐くと、ダンテは猫背をピンと伸ばして瓶底眼鏡を外した。
 現れた素顔は当然美形ではあるが、思ってたよりも目つきが悪い。ワイルド系美形と言ったところか。なるほど、この目つきを隠して人畜無害に見せかけるための瓶底眼鏡というわけね。理解した。

「どれほど聡明であっても子どもは子どもと侮ってましたが、エドワード様は私が思っていた以上に聡明のようだ。まさかクリストファー様以外に、そんな方がいらっしゃるとは」

「……と、いうことは?」

「お察しの通り、私はクリストファー様直属の【影】です」

 王家の【影】とは、仕える王族の為に暗躍する裏組織。暗殺から情報収集に至るまで、秘密裏に動いて主に尽くす。変装中でも互いに仲間であることを認識できるように、主ごとに同じ紋がついたアイテムを所有している。……と、別作品に出てきた脇役の裏設定として前世妹が切々と語っていた記憶はあるし、リシス王国にもそういう組織があると噂もあったけど、ダンテの言い分を鵜呑みにすることはできない。
 やけにあっさり顔を見せたことといい、ブラフの可能性はあるからな。

「王家の【影】は仕える王族ごとに専用の紋を持つと聞く。お前が第一王子の影である証明に、それを確認させてくれるか?」

「構いませんよ。……まあ、紋を第三者に見せた時点で、複製防止のために紋のデザインはすぐに変更することになりますけどね。俺も今回の件が終わったら、顔を変えますし」

 ……さらっと顔を変えるとか言ってるよ。この人。
 どうやって変えるのかは、聞かんどこ。物理でだったら、色々恐ろしい。
 俺も闇魔法を顔に付与して、見た人の認識を干渉することはできるし。……なんてか、ひっそり見た人のSAN値奪ってそうで怖くて使ったことないけど。闇魔法の認識干渉は、うまく行使しないと相手を発狂させることもあるって本に書いてたしな……。

 差し出された短剣の紋を確かめるふりをしてこっそり鑑定魔法をかける。まあ、これで第一王子の影の紋と出たとしてもちゃんと本人のものとは限らないのだけどな。第二王子の影が第一王子の影から奪った可能性もあるし。……て、鑑定結果に第一王子の影に支給される短剣ってこと以外にも、ちゃんと本人のものとまで書かれてるじゃん。鑑定さん、ぱねぇ。すごいのはお犬様とか言ってごめんよ。お犬様の次にすごいっす。

「……間違いなく、第一王子の影の紋のようだな」

「エドワード様は何故この紋が第一王子の影のものだと思われたのですか? 先ほども言いましたが、紋のデザインは第三者に知られた時点で変更されるのに」

「黙秘させてもらおう。俺の虎の子の秘密なんでね」

 敢えて視線を彷徨わせて返したが、ハッタリと思ってくれはしないだろうか。鑑定魔法が使えることがバレたら利用されそうで厄介だ。
 ダンテは探るように俺を見つめていたが、ややあって溜め息と共に短剣をしまった。

「……まあ、いいでしょう。それで? さっきの植物はどこで手に入れられたんですか? 私が立場を明確にしたら教えてくれるんでしょう」

「ああ……あれはネーバ山の山頂で手に入れたものだ」

「っ!? ネーバ山に入ったのですか!? セネーバの許可なく!?」

「悪いか? あの山は国境とされているが、どこが境なのかという明確な取り決めはない。あそこが獣人達にとっていかに神聖な山といえど、立ち入りを禁じられる筋合いはないぞ」

 元々は半世紀前の敗戦の時に、ネーバ山を越えたら獣人が追って来なかったというだけで、国境について国同士の明確な取り決めはしていないらしい。だからネーバ山が国境だというのも結果論なのだ。
 ネーバ山に入れるような人間がめったにいないから、ネーバ山の手前までがリシス王国の領土扱いされているだけで、別にあの山がセネーバのものというわけじゃない。
 胸を張って堂々と持論を述べてやると、ダンテは呆れたように溜め息を吐いた。

「……だからってあんな危険な山一人で入りますか。普通。八歳の子どもが」

「吹雪いている所で魔物に結界を突破されて危ない場面はあったが、それ以外は特に問題ない山登りだったぞ。神獣からも助けられたしな」

「……神獣?」

「ああ、ネーバ山の山頂に住んでいるんだろう? 白銀の小さな犬の姿をしていた。今回の収穫物が生えていた場所を教えてくれたのも、その神獣なんだ」



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