9 / 311
山登りは過酷②
しおりを挟む
亜空間効果でまだ湯気が立っているコーヒーで、ネルドゥース家自慢のコックが作ったチキンのサンドイッチを流し込む。ハーブが効いててなかなか美味いが、チキンはもも肉であるはずなのに、むねや肉ささみのように脂が少ない。土地が痩せているので、家畜の餌も十分じゃないのだ。
ちなみにコーヒーとは言ってるけども、原材料は豆ではなく、植物の根っこを干して煎じたもの。前世の感覚ではタンポポコーヒーに近い。鑑定によるとノンカフェインのタンポポコーヒーとは違い、ちゃんとカフェインと似た効果はあるようだけど、やや土臭くて香りはいまいちだ。前世はコーヒー党で、豆からコーヒーを挽いて妹に振舞ってた俺からすると、ちと不満は残る。
辺境伯の食事事情でさえこれなことを考えると、領民の食事がますます心配になってくる。やはり、なんとしてでもミラクル植物は発見しなければなるまい。……できればちゃんとした香りのいいコーヒー豆も。
数口でサンドイッチを頬ばり、できるだけゆっくりコーヒーを飲み干した後、亜空間から【スタミナ回復ポーション】を取り出して一気に煽る。ちなみにこれは、安い下級ポーションに、事前に俺が聖魔法を付与して自作したものだ。一瞬にしてなくなる疲労感にホッとすると共に、苦いものが込みあがってくる。
「……魔法効果付与のスキルがあることはクソ親父には内緒にしておこう」
何せ俺は全属性持ちなうえに、魔力量もとんでもないというチート野郎。無償労働でポーションやら魔道具やらを大量生産させられて、死ぬ未来しか見えない。既存の技師や薬師の仕事を奪うことにもなりかねんし、よっぽど必要に駆られない限り秘匿しとこう。
戦争回避が目標なのに、俺自身が戦争を後押しするような便利グッズを量産するわけにはいかんし。
飲んだ瓶を亜空間にしまうと、再び山頂を目指す。
冬山エリアに近づくに連れて、段々気温が下がっていく。辺境伯領では最新の防寒具を纏ってるし、やけどしない絶妙な加減で調整した火魔法を付与した石をホッカイロ代わりにたくさん用意してあるけど、正直本当にこんなもので耐えられるか不安だ。南極でもばっちり耐えられる防寒具を生み出した前世の技術力が恋しい。
「……く、雪が……」
気温が下がるに連れてに連れて、風も吹いてきた。
最初は柔らかかった雪は段々雹に代わり、強風に乗って鋭く肌を突きさすようになってきたので結界を常時張り巡らせて前に進む。
視界が真っ白で、だんだんどっちが山頂なのかわからなくなって来る。
「ええと……風魔法で、前方の雪をモーセ的に散らして……ぎゃ! こんなとこで襲ってくんじゃねぇよ! 白熊!」
真っ白な視界から、突如襲い掛かって来る真っ白な保護色の魔物たち。正直魔力感知のスキルがなければ死んでたと思う。
「くっそぉ! 腹減ってなら、こんなエリアいないで下のエリア行けよ! なんでわざわざこんな生きにくい所で生息して、めったに来ない獲物待ってるんだよ! くうっ……結界と身体強化と風魔法同時に展開したまま、攻撃魔法行使したり、剣ふるうのきっつぅ! いやあ、よい修行だわ。ははははははは!!!!」
半分壊れながらも必死に魔物を倒していく。襲い掛かってくる魔物は後を絶たないし、戦闘に集中すればするほど道がわからなくなってきた。
やばいやばいやばい……後、魔力の残量どれくらいだ?
最悪転移魔法で引き返す必要があるけど、ちゃんとその分の魔力は残ってるでろうか。
MPがわからないステータスの仕様の残念さを痛感する。
いや、万が一に備えてMP回復ポーションも持ってきているから最悪の状況は防げる……でも、ここまで来て戻るのか?
冬山エリアは常に吹雪いていて、今より良い状況になることはない。だったらまた出直したとしても、一緒だ。だったら、今頑張った方が……
「っうがあああああああ!!!!」
よけいなことを考えたせいで、一瞬結界が揺らいだことにきづかなかった。結界の隙間をくぐって襲い掛かってきた真っ白な豹みたいな魔物から肩を噛みつかれ、視界が真っ赤に染まる。
……だめだ。落ち着け。ここで完全に結界を解いてしまったら、他の魔物が襲い掛かって来る。結界の強化を最優先して、何とか肩の豹を引きはがそうとするが思いのほか牙が深く食い込んでくるうえに、近距離から爪で攻撃してくるのを身体強化で威力を軽減させるので精いっぱいだ。
まずい……まずいぞ。こうなったら、もうこいつごと転移して……。
あふれ出す血で朦朧としかけながら、必死に転移魔法を展開しようとした、その時だった。
「っ!?」
すさまじい魔力が接近する気配と共に、周囲にいた魔物が一瞬にして逃げていった。俺の肩に牙を食い込ませていた豹も、慌てたように牙を抜いて情けない声をあげて去って行った。
すぐさま回復魔法を唱えて傷口を塞いだ俺は、亜空間から取り出したMP回復ポーションを飲んで結界を強化した。
次の瞬間、真っ白な視界の中から現れたのは。
「……子、いぬ……」
ちなみにコーヒーとは言ってるけども、原材料は豆ではなく、植物の根っこを干して煎じたもの。前世の感覚ではタンポポコーヒーに近い。鑑定によるとノンカフェインのタンポポコーヒーとは違い、ちゃんとカフェインと似た効果はあるようだけど、やや土臭くて香りはいまいちだ。前世はコーヒー党で、豆からコーヒーを挽いて妹に振舞ってた俺からすると、ちと不満は残る。
辺境伯の食事事情でさえこれなことを考えると、領民の食事がますます心配になってくる。やはり、なんとしてでもミラクル植物は発見しなければなるまい。……できればちゃんとした香りのいいコーヒー豆も。
数口でサンドイッチを頬ばり、できるだけゆっくりコーヒーを飲み干した後、亜空間から【スタミナ回復ポーション】を取り出して一気に煽る。ちなみにこれは、安い下級ポーションに、事前に俺が聖魔法を付与して自作したものだ。一瞬にしてなくなる疲労感にホッとすると共に、苦いものが込みあがってくる。
「……魔法効果付与のスキルがあることはクソ親父には内緒にしておこう」
何せ俺は全属性持ちなうえに、魔力量もとんでもないというチート野郎。無償労働でポーションやら魔道具やらを大量生産させられて、死ぬ未来しか見えない。既存の技師や薬師の仕事を奪うことにもなりかねんし、よっぽど必要に駆られない限り秘匿しとこう。
戦争回避が目標なのに、俺自身が戦争を後押しするような便利グッズを量産するわけにはいかんし。
飲んだ瓶を亜空間にしまうと、再び山頂を目指す。
冬山エリアに近づくに連れて、段々気温が下がっていく。辺境伯領では最新の防寒具を纏ってるし、やけどしない絶妙な加減で調整した火魔法を付与した石をホッカイロ代わりにたくさん用意してあるけど、正直本当にこんなもので耐えられるか不安だ。南極でもばっちり耐えられる防寒具を生み出した前世の技術力が恋しい。
「……く、雪が……」
気温が下がるに連れてに連れて、風も吹いてきた。
最初は柔らかかった雪は段々雹に代わり、強風に乗って鋭く肌を突きさすようになってきたので結界を常時張り巡らせて前に進む。
視界が真っ白で、だんだんどっちが山頂なのかわからなくなって来る。
「ええと……風魔法で、前方の雪をモーセ的に散らして……ぎゃ! こんなとこで襲ってくんじゃねぇよ! 白熊!」
真っ白な視界から、突如襲い掛かって来る真っ白な保護色の魔物たち。正直魔力感知のスキルがなければ死んでたと思う。
「くっそぉ! 腹減ってなら、こんなエリアいないで下のエリア行けよ! なんでわざわざこんな生きにくい所で生息して、めったに来ない獲物待ってるんだよ! くうっ……結界と身体強化と風魔法同時に展開したまま、攻撃魔法行使したり、剣ふるうのきっつぅ! いやあ、よい修行だわ。ははははははは!!!!」
半分壊れながらも必死に魔物を倒していく。襲い掛かってくる魔物は後を絶たないし、戦闘に集中すればするほど道がわからなくなってきた。
やばいやばいやばい……後、魔力の残量どれくらいだ?
最悪転移魔法で引き返す必要があるけど、ちゃんとその分の魔力は残ってるでろうか。
MPがわからないステータスの仕様の残念さを痛感する。
いや、万が一に備えてMP回復ポーションも持ってきているから最悪の状況は防げる……でも、ここまで来て戻るのか?
冬山エリアは常に吹雪いていて、今より良い状況になることはない。だったらまた出直したとしても、一緒だ。だったら、今頑張った方が……
「っうがあああああああ!!!!」
よけいなことを考えたせいで、一瞬結界が揺らいだことにきづかなかった。結界の隙間をくぐって襲い掛かってきた真っ白な豹みたいな魔物から肩を噛みつかれ、視界が真っ赤に染まる。
……だめだ。落ち着け。ここで完全に結界を解いてしまったら、他の魔物が襲い掛かって来る。結界の強化を最優先して、何とか肩の豹を引きはがそうとするが思いのほか牙が深く食い込んでくるうえに、近距離から爪で攻撃してくるのを身体強化で威力を軽減させるので精いっぱいだ。
まずい……まずいぞ。こうなったら、もうこいつごと転移して……。
あふれ出す血で朦朧としかけながら、必死に転移魔法を展開しようとした、その時だった。
「っ!?」
すさまじい魔力が接近する気配と共に、周囲にいた魔物が一瞬にして逃げていった。俺の肩に牙を食い込ませていた豹も、慌てたように牙を抜いて情けない声をあげて去って行った。
すぐさま回復魔法を唱えて傷口を塞いだ俺は、亜空間から取り出したMP回復ポーションを飲んで結界を強化した。
次の瞬間、真っ白な視界の中から現れたのは。
「……子、いぬ……」
283
お気に入りに追加
2,172
あなたにおすすめの小説
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?
下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。
そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。
アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。
公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。
アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。
一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。
これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。
小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!
八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。
『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。
魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。
しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も…
そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。
しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。
…はたして主人公の運命やいかに…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる