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思い出した記憶②

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『おい、この悪役の名前。「エドワード・ネルドゥース」なのか?「エドガード・ネルドゥース」なのか? 「エドワード・ヌルドゥース」なのか?』

『あ、やべ。どれでもいいけど、「エドワード・ネルドゥース」で統一してよ。それが一番多い気がする』

 確かそれは妹が書いた、三作目の小説だった気がする。
 人間との戦争に勝利した、狼獣人の王が統治する獣人の国の物語。戦争で番を亡くして以降、どれほど美しい獣人が輿入れしても一切興味を示さなかった王の後宮へ、愛らしい狼獣人の少年がやって来る。
 彼に亡くした番の面影を見た王は、少年を何かと気にかけて乞われるままに寝所を共にするが、実は少年は王位を狙う貴族から差し向けられた暗殺者だった。
 結局暗殺は未遂に終わり、少年は牢屋で拘束。牢番やらに、ずっこんばっこん凌辱される。
 少年のことが忘れられなかった王が、その現場を目撃して救出。夜な夜な少年のいる牢に通って、結局こいつもずっこんばっこんするようになる。
 王を篭絡して殺すように、実の父親から性的虐待されながら育った少年は、初めて向けられる王の愛情(俺には性欲に負けたようにしか見えなんだが……)に戸惑い、絆され、ついには王を愛するようになるが、そんな彼のもとに父親がやって来て……という、どこかで聞いたような話。
 虐待で自分を支配し王を殺すように命令する父親に逆らい、少年が生まれて初めて反抗して父親を殺そうとして、返り討ちに遭いそうになったところを王が駆けつけて、代わりに少年の父親を殺してハッピーエンド。二人は元暗殺者と王という立場ながらも結ばれて、獣人の特殊生殖能力で子どもを産んで幸せになりましたとさ。ちゃんちゃん。

 ……で、この息子に性的虐待をして暗殺者に仕立てあげ、最後は殺される父親が俺というわけです。いや過ぎる!

『ちなみに、このエドワード、モデルお兄だからね!』

『は? お前には俺が実の息子性的虐待するクソ親父みたいに見えてるわけ? こんなにお前を愛しかわいがってきたのに? さすがに殴っていいか? いいよな?』

『ちがう、ちがうのよー。実はこのエドワード、獣人王とは学生時代に交流があって。国をまたいだ親友で、お兄みたいに何気に面倒見がよいネアカイケメンキャラだったの! で、戦争の時に王と剣を交わすことになって負けるんだけど、王がどうしてもとどめを刺せなくてー。重症を負って生き延びるけど、守りたかった故郷は滅ぼされるし、結局その後獣人に囚われて性奴隷にされて望まぬ獣人との子を産むことになるしで、狂っちゃったのよ! その結果こんな鬼畜親父に……』

『……そんなん、本文に一言も書いてないんだけど。つか、え? 父親って書いてあるけど、実は主人公産んだのエドワードなの?』

『私の中ではね! 実際はもっとどぎつい裏設定あるけど、BL小説初心者のお兄には刺激強すぎるから内緒―。でもさ、ほらここ見て。【アストルディアは、痛みを耐えるような表情でエドワードの死体を見下ろしながら、剣に付着した血を払った。】って書いてるでしょ? これは王が思い出の中のエドワードの幻影を追い払っている場面なんだよ』

『行間読ませ過ぎにも、ほどがあるだろ』

「……くっそ、あいつが俺のことを悪役のモデルになんかするから、こんなことに!」

 何故か名前を思い出すことができない妹に毒づきながら、頭を抱える。 
 かわいそうなのが可愛いから、好きなキャラこそいじめたいんだとのたまった妹を「そんなに俺が好きなら仕方ない」と許してしまった前世の俺を全力で殴りたい。妹に甘すぎだ。お前の妹は間違いなく変態だぞ。それでいいのか。
 まずい、まずいぞ。……このままだと、俺は戦争に負けたうえに性奴隷にされ、息子に性的虐待を加える最悪な人生を迎えることになるのか!? 絶対にごめんなんだが!? 完全ノンケな俺がBL小説に転生したってだけで既に悪夢なのに……今世の俺の人生ハード過ぎねぇ!? 無駄に与えられまくったチートがあったとしても!

「……いや、待てよ。ここが妹の書いた小説の世界ならば、もしかしたら」

 妹が考えた物語の世界ならば、現実にはあり得ないと思えるようなことでも、妹の脳内設定次第で使えるかもしれん。たとえそれが、小説に書かれていない事象でも。
 それを活用して、さらに俺の盛りすぎチートがあれば、原作の運命も改変できるかも……?

「……【ステータス・オープン】!」

 この世界では一般的に知られていない呪文を叫ぶ。

『次は異世界転生の近親相姦物書こうかなー。はやりの悪役転生で。異世界転生といえば、やっぱ【ステータス・オープン】と【鑑定】は必須だよねー。それで現状把握しながら、必死に悪役の運命改変に励んで、憎みあう設定だった兄弟から襲われるの』

『……すまんが、お前の言っていること、何一つわからん』

『そんなお兄に、私お勧めの近親相姦悪役転生小説―。絶対読んでね。感想聞かせてね。読まなかったら、拗ねて三日くらい口利かなくなるかもよ』

『……俺は、お前以外の小説まで読まないといけないのか……』

 ……最悪な思い出だけど、読んでてよかった妹のお勧め小説―! ざっと流し見だけしてエロは完全に読み飛ばしたのは内緒だけどなー! あらすじさえ把握すれば、いくらでも感想なんかひねりだせるからな。妹が書いてない話まで読み込んでられるかっつーの。

「よしよし……ちゃんと空中に文字が出たな。あ、文字日本語じゃん。……ふうん。HPとかMPとかレベルとかは出ないのな。まあそういうの実際は数値化しにくそうだもんな。……ん?」


エドワード・ネルドゥース 8歳

辺境伯家嫡男

種族:人族

属性:火 風 水 土 雷 氷 聖 闇 空間 重力

スキル:【剣術】【身体強化】【亜空間収納】【鑑定】【ステータス表記(自身のみ)】【魔力感知】【魔法効果付与】【女神の愛の呪い】

 そうそうたるステータスではあるけど、貴族は生まれた時に属性判別の水晶で検査するのを義務付けられているから全属性なのは知ってたし、ステータス・オープンが出来た時点で鑑定と亜空間収納が出てくるのは予想してた。
 【魔力感知】も、なんとなく昔から魔力の流れが読めたから驚く必要ない。【魔法効果付与】は……知らなかったけど、たまにそういうスキル持ちがいることは知っていたのでまあいい。

 問題はそのあとだ。

「【女神の愛の呪い】……? なんだこのスキル」
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