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第一章

皇帝陛下は最強魔術師を黙らせたい☆

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「お前。今なんと言った?」

「だーかーらー?その捕らえた騎士を殺さないで保護してほしいんだけどぉ?」

私はエルハド。
このサウジスカル帝国の皇帝である。
そして、その私の前で無礼にもテーブルにうつ伏せ、顔だけこちらに向けているこの男。コイツは我が国最強の魔術師
名をデズロ・マスカーシャと言う。

全ての発端はこの男のこの一言から始まった。

「ティファちゃん捕まえたんでしょ?あの子帰っても居場所ないからこの国に貰っちゃおう。そんで美味しいものいっぱい作ってもらおうよ」

ビキリ。
私の額にまた、青筋が増えた。

お分かりだろうか?このデズロという男。いい歳こいて子供の様なこの喋り方に、舐めた態度。そして、自己中心的思考の持ち主で、いつも思い付きで周りを振り回すとても厄介な輩なのであるが、彼の言う事を無視出来ない理由が私にはあった。

「だってさ~僕ぅ。この国から一歩も出れないんだよぉ?他の国のご飯食べたいよぉう」

そうなのだ。この男デズロは、類稀なる魔力を持っており、その力を我が国に留め置く為、私達は彼の望みを出来るだけ叶えて来た。きっと今回も何かの気まぐれだろう。そう思っていたのだが。

「僕。あの子にちょっと前に助けられたんだよねぇ?ほらぁお前達が無理矢理僕に巨大ゴーレム倒しに行かせたアレ」

ちゃんと説明しておくが、私達は無理矢理、化け物の巣にこの男を送り出した訳ではない。
そもそも、その巨大ゴーレムを創り出したのがこの男なのだ。しかもその理由がただ暇だったから、だ。ふざけやがって。

よって責任を取らせただけであって、決して無理矢理ではない!

しかも他国と戦争真っ只中の大変な時期に、あれだけ護衛を付けてやったにも関わらず、その全ての護衛を放り出し勝手に行動したのもコイツである。
つまり、行き倒れたのも、自業自得なのだ。
帰って来なければ良かったのに。

「あの子のお弁当。最高だったぁ~。しかもよく見たら美人だったし!殺しちゃうなんて勿体無いし敵国に送り返すのもなし!向こうは彼女の貴重さに全く気付いてないからね?失って初めて気付く事もあるだろ?人間は失敗して学ぶものだろ?」

つまり。あの女騎士にそこまでの価値がある、と、この男は言いたいらしい。

それはそれは。コイツは余程新しいオモチャが欲しい様だが・・・・。

「デズロ。国の問題には口を出さない約束だろう?いくらお前の頼みでも今回は聞けない」

「えーーーーーーーー!?そんなぁ!酷い!エルハドのケチ!ハゲェーーー!!」

禿げてない!!まだ禿げてないぞ!?貴様。私が気にしてる所をダイレクトに突いてくるな!子供か!

「私はまだ彼女に会っていない。彼女をどうするかは、私が決める。分かったな?」

反抗的な目だな。やっぱ行方不明だと言われた時、探さなければ良かったか・・・もう別にコイツいない方が平和な気がするのだが。

「じゃあ殺さなければいいよ。だって彼女。好きで騎士になった訳じゃないんだ。本当は小さな料理店を開きたかったんだって」

なんだそれは。そんな娘がなんで一国の最強騎士になるんだ。訳が分からないぞ。

「才能とやりたい事が必ずしも合致するとは限らない。僕みたいにね?」

いや、お前は合致してるだろ?殆ど働かずニート生活万々歳だろ?汗水流して働く人間の気持ちマジ分からんとか、ほざいてたのは、どこのどいつだ?

「・・・・殺さなければ、良いんだな?」

腹立つ顔だな。何だその笑顔。確信犯だなコイツ。

しかし、困った。
私がいくらデズロをいらんと言ったとしても周りが許さんだろうしな。かと言って全てコイツの言う通りにするのも癪に触る。ん?確か料理が上手いと、言っていたな?

ふふん?そうか、ではこうしよう。

「ギャド。騎士の宿舎の管理を任せられる者が欲しいと言っていただろう?それをこの前捕らえた捕虜にやらせて欲しい」

あそこは大きな厨房があるはずだ。
何も言わなくても彼女はそこで料理を作るはず。

「は?捕虜に?だけど敵国の騎士なんだろ?俺はあの宿舎には殆ど帰らないし、危険なんじゃねぇか?」

「そうだな。暫くは監視を付け見張って貰うが、恐らく大丈夫だろう。勿論私も直接会って話し、それでもデズロの話と相違なければ、の話だ」

デズロは勝手に街には降りられない。
厳重な警備と首輪が付いている。
つまり、彼女が料理を作ったとしても、デズロはそれを食べることが出来ない。それをいつも我儘を言って振り回している騎士達が食べるのだ。さぞかし悔しがるに違いない。ハッ!!ザマァミロ。

私の性格がこんなに歪んだのも元々はお前の所為だからな?身から出た錆だぞ?
さて?問題の彼女は実際どんな人物なのか。

その人物は遠くから見ると一見そこら辺の男性騎士と変わらない背の高い出で立ちで、しかしその顔は年頃の女性特有の愛らしい顔をしていた。

その瞳が不思議そうにこちらを見ている。
きっと何故自分がここに連れて来られたのか分からないのだ。捕まえられ、そのまま殺されると思っていたのだろう。

「お前は何故騎士になったのだ?この国が憎かったのか?」

基本我が国から戦争を仕掛けることはあまり無い。
大体は攻め込まれそれを迎え撃っている。
だが、逆恨みはあるだろう。

「いいえ?特には」

何だろうな。この娘から何やらデズロと似たような雰囲気を感じるのだが・・・・気のせいだろうか?

「では、何故ここへ攻めて来た?」

「何故、と、言われましても。私の国の王がこの国を攻め落とせと言ったので。雇われてる私はそれに従ったのですが?そこに理由など必要なのですか?」

そうだな。王が攻めろと言ったら攻めるだろうな。確かに。質問の仕方が悪かったか?

「騎士になったのは。気付いたら昇格していたので。あの国実力第一主義なので。とりあえず強い人間がドンドン出世するらしいです。頭の良し悪しは関係ないとか?」

ほう?君は中々自己分析能力はあると見た。
つまり君は頭が良くないだろう?

「余程弱い人間が多かったんですね?私が最強騎士なんて言われてしまうくらいですからねぇ?挙げ句の果てに仲間の私を騙して崖から突き落とすなんて酷い国ですよ」

え?君もしかして倒れてた近くの崖から落ちて来たのか?あんな絶壁から?よく助かったな?

「全く。足の自由がきかなかったら死んでましたよぉ?あ、でも今から死ぬかも知れないので関係なかったですか?」

なんだろうな。この局面での能天気さ。やはり、この娘
デズロを彷彿とさせる。

私は結局、彼女をこの国に留める事に決めた。
これで暫くはあの阿保も大人しくなるだろう。

「あーーーーお腹すきましたぁ」

・・・・・・とりあえず。さっさとギャドに彼女を回収して貰おう。
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