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episode6
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「このような格好ですまない。ニーナ姫。」
通路から姿を見せたカミル殿下は、武具を見に纏い、とても疲れた様子で椅子に座った。
「2人で話せるか?」
「では人払いを…。」
チトが手をスッと上げると、
殿下と私以外はみな部屋から出て行き、あたりを見回すと最後にチトも扉から出ていった。
「堅苦しい話は無しで、君に忠告をひとつさせてほしい。」
カミル殿下は少し寂しげな表情を見せ、小声で言った。
(何かある前に、ご自分で城を出たほうがいい)
この城から出て行く…ということは、正妃にはなれないということ。困惑し、複雑な気持ちになった。
(カミル殿下。それは…私が正妃として相応しくないと…そう受け取ってよろしいでしょうか?)
元は敵国。冷遇されることは覚悟の上だった。
けれど、この状況は想定外。
突き放したのはカミル殿下…なのに、カミル殿下の方が、今にも涙を溢しそうに顔を歪め、申し訳なさそうな佇まいを見せている。
(…何かご事情がおありの様ですが…私も、国に帰るわけにはいかないのです。殿下。)
カミル殿下は何か言いたげにすこし唇を動かしたけれど、そのまま下を向いた。
そして、また私を見つめると抱きしめられるかと勘違いしてしまうほどに近くに寄り、耳元で囁いた。
(他の姫は殺された。次はニーナ姫。君だ。)
カミル殿下の言葉に恐怖と驚きで耳を押さえて後ろに思い切り下がると、カミル殿下は先程と様子が急に変わり、和かに話し始めた。
「それでは姫。私はこのあと、遠征の報告に行かねばならないので、明日の朝…もし叶うならば、貴方と朝食をとりたいと願っています。では、失礼いたします。」
踵を返し、謁見の間の扉を開けると、チトが片膝をついて控えていた。
カミル殿下はチトと数人の衛兵を従えて奥の通路へと戻っていった。
私が殺される?一体誰が…。いや、サーバスも言っていた。今までに正妃候補は何人もいたのだ。
ただ、ここにとどまっている姫がいない。帰った…そう言っていたけど、もし誰かに殺されていたのだとしたら…。いいえ…そんな事が実際に起こっていたら国際問題になる…。
カミル殿下とサーバスの言葉が頭の中で反響している。
でも、それでも私は帰るわけにはいかない。
同盟を結ぶためには私が正妃にならなくては…。
私がもし国に帰れば、条約破棄だってあり得る。
お父様が病に伏せっている今、お母様が皇太后として国の執政を任され、気丈に振る舞っているけれど、隣国から攻められるかもしれないと毎日怯えている。
私は、ロードレスがどんな国であっても、カミル殿下がどんな方であっても、正妃なると決めて覚悟してここにいるんだから。
通路から姿を見せたカミル殿下は、武具を見に纏い、とても疲れた様子で椅子に座った。
「2人で話せるか?」
「では人払いを…。」
チトが手をスッと上げると、
殿下と私以外はみな部屋から出て行き、あたりを見回すと最後にチトも扉から出ていった。
「堅苦しい話は無しで、君に忠告をひとつさせてほしい。」
カミル殿下は少し寂しげな表情を見せ、小声で言った。
(何かある前に、ご自分で城を出たほうがいい)
この城から出て行く…ということは、正妃にはなれないということ。困惑し、複雑な気持ちになった。
(カミル殿下。それは…私が正妃として相応しくないと…そう受け取ってよろしいでしょうか?)
元は敵国。冷遇されることは覚悟の上だった。
けれど、この状況は想定外。
突き放したのはカミル殿下…なのに、カミル殿下の方が、今にも涙を溢しそうに顔を歪め、申し訳なさそうな佇まいを見せている。
(…何かご事情がおありの様ですが…私も、国に帰るわけにはいかないのです。殿下。)
カミル殿下は何か言いたげにすこし唇を動かしたけれど、そのまま下を向いた。
そして、また私を見つめると抱きしめられるかと勘違いしてしまうほどに近くに寄り、耳元で囁いた。
(他の姫は殺された。次はニーナ姫。君だ。)
カミル殿下の言葉に恐怖と驚きで耳を押さえて後ろに思い切り下がると、カミル殿下は先程と様子が急に変わり、和かに話し始めた。
「それでは姫。私はこのあと、遠征の報告に行かねばならないので、明日の朝…もし叶うならば、貴方と朝食をとりたいと願っています。では、失礼いたします。」
踵を返し、謁見の間の扉を開けると、チトが片膝をついて控えていた。
カミル殿下はチトと数人の衛兵を従えて奥の通路へと戻っていった。
私が殺される?一体誰が…。いや、サーバスも言っていた。今までに正妃候補は何人もいたのだ。
ただ、ここにとどまっている姫がいない。帰った…そう言っていたけど、もし誰かに殺されていたのだとしたら…。いいえ…そんな事が実際に起こっていたら国際問題になる…。
カミル殿下とサーバスの言葉が頭の中で反響している。
でも、それでも私は帰るわけにはいかない。
同盟を結ぶためには私が正妃にならなくては…。
私がもし国に帰れば、条約破棄だってあり得る。
お父様が病に伏せっている今、お母様が皇太后として国の執政を任され、気丈に振る舞っているけれど、隣国から攻められるかもしれないと毎日怯えている。
私は、ロードレスがどんな国であっても、カミル殿下がどんな方であっても、正妃なると決めて覚悟してここにいるんだから。
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