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なんて煌びやかなんだろう…国が傾いているというのに、妃候補としてロードレス帝国に入国するためだけに誂えられたドレスには高価な生地に沢山の宝石が散りばめられ、美しい手織細工が施されている。
(この宝石一つで、何人の民が空腹を満たせるかな…。)
皇太子カミルは噂では冷酷非道な人間だと聞いている…そんな氷の様な心の人間が、自分のために着飾ってくる女性に心を動かされたりするのだろうか…
戦果を上げるために虫も残らぬほど町を焼き尽くす
ような人間が、細やかな細工に美しさを感じたりするだろうか…
「ロードレスはとても裕福な国だわ。昨日抜け出してこの目で見た街は、ハンガルドとは正反対だった。活気もあるし、道は美しく整地され、人々が笑って暮らしている。」
「ニーナ様。ロードレス帝国はいまや世界統一を果たす勢いですもの。その帝国の主要都市カバルナは自由貿易のお陰で他国からの移民も増えているとか。そのかわり税は高いようですが、都市中央部には身分に関わらず子どもなら誰でも無償で使える学舎があると聞いております。それらすべて、皇太子カミル様がお考えになったそうですよ。」
「ねぇ、セナ。私はこの国で、皇太子の妃となることに不満はない。同盟を結び、ロードレスの下について国を立て直す為に、妃としての勤めを立派に果たして見せるわ。」
セナは優しい笑顔を浮かべ、鏡越しに目を合わせると、ドレスの裾の流れを直しながら言った。
「ニーナ様がロードレスで幸せに暮らす事。それが私達の願いです。民の為を思ってくださるニーナ様にお使いする事を私も、ほかの臣下たちもとても幸せに感じているのです。ロードレスの皇太子カミル様は確かに、良くないお噂が沢山お有りです。ですが、国が大きくなればなるほど、勝手な噂は流れる物ですわ。だれかを陥れる為の策として噂を流す輩もおりますもの。ですから、ニーナ様はご自分で見て感じたことを大切になされば良いのです。さぁ、参りましょうか。」
セナに手を引かれ、外に出るとそこには豪華絢爛な輿が準備され、正装した兵士たちが整然と並んでいた。
輿に乗り込むとすぐにラッパの大きな音が鳴り響き、盛大な音楽が街中に響き渡る。音楽隊のメロディに合わせて行進する兵と舞い踊る踊り子たち。広場に集まった民衆たちは手を叩き、大人も子供もみな、楽しんでいる様子だった。
(チトは…)
群衆の中にチトはいないか探したけれど、姿は見当たらなかった。
格好からして、カバルナに住んでいる民ではない、もしくわ奴隷なのかもしれない。あんなに小さいのに…
パレードはカバルナの外れまで続き、城の城壁まで来ると、輿から降りて数人の分隊長、側近や女官セナと一緒に正面の扉まで歩き、門番兵の前で立ち止まった。
誰にも気づかれないように、小さく深呼吸をする。
今にも胸を突き破りそうな勢いで鼓動が早鐘を打ち、緊張から舌が乾くのを感じる。
右手指の震えを止める為に重ねた左手指もカタカタと一緒に震え、もう一度小さく深呼吸をした。
(心臓よ鎮まりなさい。ハンガルドの命運がかかっているのです。)
祈るように自分の心に言い聞かせ、今度はしっかりと深呼吸をして息を整えた。
(いざ!参ります!)
城門がゆっくりと重厚な音を轟かせながら開くと、
しっかりと先を見つめ、臣下の後について城内へと進んだ。
(この宝石一つで、何人の民が空腹を満たせるかな…。)
皇太子カミルは噂では冷酷非道な人間だと聞いている…そんな氷の様な心の人間が、自分のために着飾ってくる女性に心を動かされたりするのだろうか…
戦果を上げるために虫も残らぬほど町を焼き尽くす
ような人間が、細やかな細工に美しさを感じたりするだろうか…
「ロードレスはとても裕福な国だわ。昨日抜け出してこの目で見た街は、ハンガルドとは正反対だった。活気もあるし、道は美しく整地され、人々が笑って暮らしている。」
「ニーナ様。ロードレス帝国はいまや世界統一を果たす勢いですもの。その帝国の主要都市カバルナは自由貿易のお陰で他国からの移民も増えているとか。そのかわり税は高いようですが、都市中央部には身分に関わらず子どもなら誰でも無償で使える学舎があると聞いております。それらすべて、皇太子カミル様がお考えになったそうですよ。」
「ねぇ、セナ。私はこの国で、皇太子の妃となることに不満はない。同盟を結び、ロードレスの下について国を立て直す為に、妃としての勤めを立派に果たして見せるわ。」
セナは優しい笑顔を浮かべ、鏡越しに目を合わせると、ドレスの裾の流れを直しながら言った。
「ニーナ様がロードレスで幸せに暮らす事。それが私達の願いです。民の為を思ってくださるニーナ様にお使いする事を私も、ほかの臣下たちもとても幸せに感じているのです。ロードレスの皇太子カミル様は確かに、良くないお噂が沢山お有りです。ですが、国が大きくなればなるほど、勝手な噂は流れる物ですわ。だれかを陥れる為の策として噂を流す輩もおりますもの。ですから、ニーナ様はご自分で見て感じたことを大切になされば良いのです。さぁ、参りましょうか。」
セナに手を引かれ、外に出るとそこには豪華絢爛な輿が準備され、正装した兵士たちが整然と並んでいた。
輿に乗り込むとすぐにラッパの大きな音が鳴り響き、盛大な音楽が街中に響き渡る。音楽隊のメロディに合わせて行進する兵と舞い踊る踊り子たち。広場に集まった民衆たちは手を叩き、大人も子供もみな、楽しんでいる様子だった。
(チトは…)
群衆の中にチトはいないか探したけれど、姿は見当たらなかった。
格好からして、カバルナに住んでいる民ではない、もしくわ奴隷なのかもしれない。あんなに小さいのに…
パレードはカバルナの外れまで続き、城の城壁まで来ると、輿から降りて数人の分隊長、側近や女官セナと一緒に正面の扉まで歩き、門番兵の前で立ち止まった。
誰にも気づかれないように、小さく深呼吸をする。
今にも胸を突き破りそうな勢いで鼓動が早鐘を打ち、緊張から舌が乾くのを感じる。
右手指の震えを止める為に重ねた左手指もカタカタと一緒に震え、もう一度小さく深呼吸をした。
(心臓よ鎮まりなさい。ハンガルドの命運がかかっているのです。)
祈るように自分の心に言い聞かせ、今度はしっかりと深呼吸をして息を整えた。
(いざ!参ります!)
城門がゆっくりと重厚な音を轟かせながら開くと、
しっかりと先を見つめ、臣下の後について城内へと進んだ。
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