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新兵になる

7話 食堂で姉と兄ができました

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部屋の小窓から風が入り込み、冷たい風で目が覚めた。目覚まし時計を見ると夜中の2時。まだいつも起きる1時間前だ。
二度寝してしまうと起きられない可能性があるので起きる。
ベットから降りクローゼットの中にある制服を着る。昨日の訓練所?のあとに部屋に戻ると部屋にはいつの間にか置いてあった兵士の制服。ルディル達とは服のデザインが違うので新兵用なのだろう。ランクが上がっていけばちゃんとした服になるだろう。
何故だろう。何故ぶかぶかしていないのだろう…ピッタリだ。体のサイズなんて喋った覚えはない。ルディルかヨハン…または総隊長のコルグ隊長だろうか?大体の身長を教えれば服をピッタリに出来るのだろうか?
そんなことを思いながらテキパキ動く。
昼食は配布されるだろうが全員大柄の男用だろう。自分にとっては多すぎる。体力も付けるためにタンパク質が多いだろう。エプロンを付けて料理を作りながら手際良く調理していき、弁当へ野菜と肉をバランスよく入れる。おにぎりには昆布を入れる。これで完成。お弁当用の風呂敷におかずのお弁当に小さめなおにぎり1つ。余ったおかずは今日の朝食に少し入れる。お弁当と全てが同じおかずでは飽きてしまうので、魚を焼く。お吸い物も作る。朝食に入れなかったお弁当に作り余ったおかずはラップをかけて冷蔵庫に入れる。
テーブルに朝食を並べてエプロンを付けたまま椅子に座り食べる。
「おかずは少し濃いめに作って良かったな。動いたあとは濃いめじゃないと物足りなく感じてしまうからな。お吸い物もいい感じだな。夜の分もまだあるし、おかずだけ作ればいい感じだな」
食べ終えて皿を洗い片付ける。朝日が登り始めた。そろそろ外に出た方がいいと思いエプロンを外し長い髪を梳かし結び身だしなみをチェックして弁当を異空間に入れて部屋を出た。
「確か制服と共に置いてあった紙に書いてあった集合場所は…こっちだな」
ポケットから紙を取り出して書いてある地図を見ながら道を進む。
何やら騒がしい場所が集合場所らしい。
時間指定は一般人が朝食を食べるぐらいの時間より少し早めの時間だ。
「集合場所は食堂か…」
扉を開けると沢山の人が長い机に座りながら椅子を集めてグループで食べているようだった。入口にいつまでいても邪魔なだけなので中に入り自分と同じ服を来ている新兵達を探した。
「あら!可愛い子がいるわ!」
そう聞こえた瞬間後ろへ振り返ようとするとそんな余裕もなく抱きつかれる。
衝撃で踏ん張れずによろよろと前に足が進む。
「こら、サーナ。シュオナ君が驚いてしまってるよ」
そう言いながらサーナの肩を軽く叩くコルグ。
熟年夫婦みたいだ。
「ごめんなさい。可愛い子がいるとつい…
こんなむさ苦しい場所に一輪の花がいるのよ?癒しよ?癒し!ほんと小さくて可愛い!!肌すべすべ!もっちりしてる!目もくりくりしてて可愛いわ!」
大騒ぎの大興奮中のサーナ…元い、副総隊長がシュオナの顔をぺたぺた触り抱きつく。
混乱気味のシュオナはついていけずにいた。
「おはようシュオナ。サーナ副隊長に遊ばれてるな」
「シュオナ、おはようございます。やはりこうなりましたね…」
ルディルとヨハンがいつの間にか横にいた。
「2人ともおはよう。これは一体なんだ…??」
「「ストレスと疲労が溜まってシュオナで癒され中(だな)(です)」」
「いや、だからな?なんで僕なんだよ?それに大丈夫なのか?僕のどこが可愛いんだよ?1度医者に確認してもらった方がいいぞ?ストレスや疲労があまりにもひどい場合、可愛くない奴でも誰でも可愛く見えるかもしれないしな。
というかさ、なんでそんな顔してるんだよ?」
周りはなんの騒ぎかとこちらをチラチラ見る。ヒソヒソと話もしている。
興味ありません。という顔をしながらも聞き耳立てながら話を盗み聞きしている奴もいるだろう。
そんな中でルディルとヨハンとサーナは僕の顔を見ながらこちらを見つめる。
訳が分からず首を傾げる。
何故かサーナは「はうっ!!」という謎の声を出す。その場で悶え始める。
さらに謎が増える。
「サーナ副総隊長?どうしたんですか?やはり体調が?」
なんだか分からずなにか特殊な発作か?!など考えていた。
だが、周りからはシュオナのしたことは可愛い仕草に見えていた。
シュオナは自覚を全くしていないが男装していても女の子の特徴的な体格に顔つきをしている。そして何より顔が可愛い系、愛され系の顔をしているが故に可愛い男子という風に見えるのだ。言葉遣いと態度さえちゃんとしていればちゃんとした女の子という扱いをされていただろう。身長も135cmだがもう少しすればどんどん背が大きくなり、今よりももっと女性特有の胸やくびれが出てくるだろう。
「ルディル、ヨハン…僕はサーナ副総隊長をどうしたらいいんだ?」
もうお手上げな状態で自分がどう対処すればいいか分からずに助けを求めた。
「いや…うん。まず、お前がいかに自分のことをどう思っているか聞かせてくれ」
急に何言ってるんだこいつ?まぁ、それでサーナ副総隊長が治るのならいいか。
「口の悪い新兵?」
兵士としてと思い回答する。だが、ヨハンは首を横に振りながら答えた。
「そうじゃないよ。自分の性格とか自分自身どういう風に思ってるかって事だよ」
ヨハンが補足してくれたおかげでルディルが言っている意味がちゃんと理解した。
「なんだ、そういうことか。僕自身のことなんて考えてなかったからな…
んー、師匠からは生意気小僧とか言われてたから、性格は我儘じゃないか?自身をどう思っていると言われてもな…別に何もって感じだな」
腕を組みながら考えたがやはり何も思わなかった。感じ方は人それぞれだし、自信が可愛いわけでもないし、美人なわけでもない。普通だしな。
「分かった。シュオナは自分に無頓着ということはよく分かった。はぁ…色々と大変そうだよ」
「何わけのわからないことを言ってるんだ?」
周りにいる人達は一斉にため息をつく。
周りがため息をつくのにびっくりして見回す。
「…そう言えば、キョロキョロしていたけどどうかした?」
「ああ、集合場所が食堂になっていてな、来たんだがどこに座ればいいのか分からずにいたんだ。とにかく新兵達がいるところにいればいいかと思い同じ服を着ている人を探してたんだ。ここの食堂広すぎて探すのが一苦労だ」
「確かに広いね。どこも自由席だから余計にね。ペスタルティア王国は世界一の大国だからね。国民全体で約3億人。兵士もざっと数えて600万は超えてるからね。一人一人覚えるのも大変だよ」
「…600万もの名前と顔覚えなくてよくね?」
「これも必要なことなんだよ」
「俺たちは2、3年経てばSSランクの試験受けるから、全体のことを知っとかないといけない。お前もいずれ覚えるハメになる」
「うげっ」
嫌そうな声が出てルディルとヨハンに苦笑される。
「シュオナはすぐに俺たちに追いつくさ!なんたって俺に勝ったんだからな。コルグ総隊長とサーナ副隊長だってお前のこと期待してるんだからな」
「もう!本人がいる前でそれ言っちゃいけないのよ?!」
復活したサーナはルディルの頭を軽く叩く。
「サーナ副総隊長ありがとうございます。期待にお答えできるよう精進します」
「ねぇ、シュオナ君。ルディル達から聞いたのだけれど、女の子ってほんと?」
サーナの言葉で周りが凍りつく。
「そうですよ?何か問題ありますか?」
さらなる爆弾。兵士歴で2人目の女性兵士が出来たことに周りは驚く。ましてや幼い男の子と思っていた周囲はまさかの幼い女の子だったことに驚愕。
驚きの声を出したくても驚きが強過ぎて食堂にいる者達は声がでない。
「なんで男の子の振りなんてしているのかしら?」
「別に振りはしていませんよ。師匠には男として育てられたので自然とこうなりました。今更女に戻るつもりもありません。女の格好をした自分など想像もしたくもありません」
「あら?なんでかしら?」
「自分が言うのもなんですが、女装しているみたいで違和感しかありませんし、動きにくい格好も可愛い物も綺麗な物も自分には似合わない代物だからです。自分には男物が1番自分にあってます」
「そう?私は似合うと思うのだけど…」
「お世辞はよしてください」
「はぁ、しょうがないから今日はここまでにしましょう。それと、食堂の集合場所なら私が知っているから案内してあげる。五番隊長達が今日シュオナちゃん達の当番だったはずだから」
「ご迷惑をかけます。よろしくお願いします」
「楽しそうだけど私はこれで失礼するよ。サーナ、早く戻ってきてくれよ?」
「分かってるわよ!」
コルグとルディルとヨハンとはここで別れてサーナが案内してくれた。自分のことはちゃん付けで呼ばないで欲しいと言ったが聞いてもらえなかった。
5分ほど歩いていると自分と同じ服を着た人達が食事をしていた。
「サーナ副総隊長。ありがとうございました。おかげでこれから同僚となる人達の所までこれました」
「……」
「サーナ副総隊長?」
何故かムッとした顔でこちらを見る。なにか自分が不満になるようなことをやっただろうか?
「…サーナお姉ちゃん」
ムッとした顔でそういう。
「え?」
予想外なことに相当サーナ副総隊長に気に入られてしまったようだ。同じ女が自分を入れても2人しかいないのだから仕方がないっていえば仕方がないのかもしれない。
だが…何故お姉ちゃん?
「……言わなきゃダメですか?」
「これから私のことはどんな時でも…いや、公式の場以外サーナお姉ちゃんと言うこと!」
「…サ……ん」
「ん?」
聞こえませんよ?とでも言いそうなゼスチャーをする。
こっちはこっちでなんだか恥ずかしい。
周りは視線をこちらに向けるな!
そして羨ましそうにするんじゃない!!
「『サーナねぇ』じゃ…だめですか?」
恥ずかしいのかだんだんと声が小さくなって言った。多分、少し顔が赤くなっている。
「ううん!それでいいよ!!サーナねぇだよ!あーもう、すごく可愛い!!妹にしたい!!」
また抱きつかれる。もう、なるようになれと諦め始めたシュオナ。
そんな中に近づく2人がいた。
「サーナ副隊長。そいつが例の男の子供ですか?」
「ケン、例の男の実の子ではないよ。育て親だよ」
例の男とはきっと師匠のことだろう。メガネをかけた青年と綺麗なダークブラウンの髪をした青年がこちらを観察する。
「あら、ハヨクとケンじゃない。まだ集合時間は来ていないはずだけど?」
「俺たちは例の男の子供…シュオナって子供に話がしたくて早く来た」
「探してもいないから食堂は広いから迷っていると思って探していたんです。そしたらサーナ副総隊長の声が聞こえたのでまさかだと思い来たら当たりでした」
「僕にようなのですか?」
こちらを見つめる2人は抱きつかれているシュオナを見る。
「…ほんとに小さいな」
「喧嘩打ってるんですか?」
「ケン、それはあまり言わない方がいいみたいだよ?
シュオナ君ごめんね。私はハヨク。宜しく」
手を出してくるハヨクと名乗るエルフ。
思わず握り返す。
はて?誰かに似ている。そしてそれが誰か分かった。
「あ、もしかしてヨハンのお兄さん?」
「ヨハンを知っているのかい?」
「はい。ヨハンはルディルと一緒にいたので友達?になりました。ハヨクさんと口調も似ていますし、纏っている雰囲気も似ています。流石ご兄弟ですね」
「口調はよく言われるよ。でも纏っている雰囲気はあまり似ているとは言われたことがなかったかな」
「そうですか?こんなにも似ていらっしゃるのに」
「ふふふ、ありがとうございます。ケンが拗ねる前にケンも紹介しませんとね」
「誰も拗ねてない。変な事言うな」
「私の自慢のパートナーのケンです。兵になってから共に苦楽をした友です。仲良くしあげててください」
「…ケンだ。五番隊隊長している。あの男の子供だと聞いた。技術も継いだことも聞いた。だからといっても差別はしないから安心しろ」
「はい。ハヨクさんケンさん、お二人共今後ともよろしくお願いします」
頭を下げて挨拶をする。頭を上げようとするとガシガシと乱雑だが温かみを感じる撫で方を誰かがした。
撫で終わり見上げるとケンがいた。
「すまん、撫で心地が良さそうで…弟がいたらこんな感じかと思っていたらつい手が出た」
耳を少し赤らめて照れくさそうな顔をする。
可愛いってこのことなんだな…
「ケンさん、残念ながら弟にはなれません」
「…そうか」
残念そうに顔を暗くする。
ものすごく表情豊かな人だな。…なんか罪悪感がある……仕方ない。
「弟は無理ですが妹ならできます」
「「は?」」
「シューちゃん?!」
…サーナ副総隊長、いつから僕はシューちゃんになったのですか?
「お二人は僕が女だと聞いていなかったのですね」
「シュオナ、ちゃん?女の子だったんですね…大変失礼しました」
「ふふふふ…失礼。ハヨクさんを笑った訳では無いんです。ヨハンとほとんど同じことを言うものですからつい」
「ふふふふ。そうですか。ヨハンも私と同じでしたか」
「ちょっと待て、シュオナが女だと?
可愛い系の男の子じゃないのか?
…でも確かに体格が女性特有に近いがまだ成長途中で中性的に見えてしまっていたのか…しかも自分のことを僕と言っているせいで男と勘違いをしたのか」
「そうですね。普段の格好から男ものしか持っていませんから。男としても育てられましたから気にしないでください」
「それで…妹ならいいと言ったが…どういうことだ?」
「そうよ!私だけの妹じゃないの?!」
サーナ副総隊長…僕はそんなことを言った覚えはありません。
「ケンさん…いえ、妹になると言ったのですから公式の場並びにその場の空気を考えた場所はケンさんと呼びますが、普段はケンにぃと呼ばせていただけないでしょうか?」
「いいのか?」
「二言はありません」
「こっちのわがままを叶えてくれたんだ。砕けた話し方でもいいぞ?」
「それは流石に失礼です…
入りたての新兵がタメ口など…。兄呼びする時点で本来はとても失礼だとは思うのですが…」
「俺がいいというのだから構わない」
「…わかりました。それではケンにぃ、これから宜しく」
ニッと笑って手を前に出す。
それを見て手を掴みニカッと笑うケン。
…だからケンにぃさん、その笑顔は可愛すぎます。
「サーナねぇは仕事を行かなくて大丈夫なのですか?」
「「サーナねぇ?!?」」
「ふふん!お姉ちゃん呼びは私が先なんだから!
そうね、そろそろコルグの所に戻らないと仕事が大変かしら?名残惜しいけど戻るとするわ。シューちゃん!また後でね!」
別れだからとギューッと抱きしめる。
満足したサーナは食堂から去っていった。
「サーナ副総隊長は抱きつくの好きなんですね」
「これほどの愛情はシュオナちゃんだけですよ?」
「ハヨクさんも僕のことは『ちゃん』付けで呼ばず呼び捨てで呼んでください」
「そうですか?ではシュオナと呼ばさせていただきますね。よろしくお願いします」
「はい!!」
「では、そろそろ戻りましょうか」
ハヨクがエスコートしてくれたので、そのまま新兵たちが群がる場所へ3人は足を運んだ。
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