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気持ちを落ち着けるためにしばらく繁華街を歩き、ようやく『正』へと帰ってきた。でも明かりのついていない『正』に帰ってくるのは初めてのことだ。
この四ヶ月のあいだに彼は数回だけ店を休んだけれど、考えてみればこうして外からそれを確かめたことは一度もなかった。
「静かだな……」
彼が店を開けていないと、こんなにも通りが静かになるのか。
普段は軒先にかかっている暖簾が引き戸の井桁格子のガラスを通して店内にあるのが見え、洸太が引っぱり出す看板も壁際の定位置でひっそりとしていた。
臨時休業、と三十路の男性にしてはとてもきれいな字で書かれた張り紙が彼の澪さんへの意志を表わしているようで、洸太は大きくため息をつきながら家の玄関へと向かう。そして昨日寝る前にもらった銀色の合鍵で玄関を開け、明かりが消えて静まり返った家の中へと入った。
やっぱりこの時間に彼が店にいないと変な感じがする。
洸太はひとりで二階の部屋にいる気にはならなくて、そのまま廊下を進んで店へとつながるドアを開けた。そして高さのある上がり框を下り、三和土に置いてある下履きへと履きかえた。
そのとき引き戸に大きく人影が映ったが、臨時休業の張り紙を見てどこかへ行ってしまったようだ。
「急に休むんだもん、お客さんもびっくりするよね」
そうひとりごち着ていた濃紺のダッフルコートを脱ぐと、掃除の行き届いた調理台の横のスペースにカバンと一緒に置いて店の明かりを半分だけつけた。
「まだ七時半か……。今日は四限しか講義がなかったから、終わるの早かったもんな」
のどが渇いたのでなにか飲もうとカウンター内の業務用冷蔵庫を開けると、そこには数品のおかずが乗った皿がラップにくるまれて用意されていた。
今日はマサさんの晩ご飯が食べられないと思っていたので、こんなときまで自分を気づかってくれる彼がとても愛しい。でもさっきまでの彼と澪さんのことを思い出すと、お腹なんて空かなかった。
ちいさくため息をついて冷蔵庫をパタンと閉める。そしてカウンターを客席のほうへぐるりと回りこむと、いつも澪さんが座る真ん中の椅子に腰掛けた。
「このまま待ってようかな……」
もしかしたら朝まで帰ってこないかもしれない人を待つのは久しぶりだ。
最初はお父さんだった。何日待っても洸太のところには帰ってきてくれなくて、二度と逢えないとわかったときの辛さをまだ憶えている。その次が母親で、三人目は母親と交際をしていたころの高瀬だった。
自分のそばにいてくれると約束したわけじゃないこの店の主人を、四人目と数えていいものか洸太にはわからなかったけれど。
客席のカウンターの上に腕を乗せて、そこに顔を突っ伏す。結局どうしてたってシンボルツリーの前の幸せそうな澪さんの顔を思い出してしまうのだ。
「澪さん、きれいだった……」
一見すると女の人にも見えるその容姿を本人は気に入らないのだそうだが、でもああやって街の中にいても澪さんがいちばん美人だと思う。
なにより反則なのは彼のほうだったけれど。
「なんだ、こんなところにいたのか洸太」
突然聞こえた声にハッとして、カウンターから顔を上げた。
「なん、で……」
声のほうにゆっくりと視線をやると、さっき洸太が通ってきた調理場の後ろの三和土の前で、土足でコートのポケットに両手を突っ込んだ高瀬が立っていた。
以前に澪さんと一緒に家へ帰ったときに比べれば身なりは整っていたが、憔悴しきったその顔はどこか異常さを感じさせる。
「なんだ、その信じられないって顔は。まるで幽霊でも見てるみたいだな」
吐き捨てるようにそう言ってゆっくりと靴音を立て、洸太に近づいてくる。
そんな高瀬にあわせるように、洸太も椅子から立ち上がって後ずさりをした。
「なっ、なんで……ここに……っ」
突然の出来事に恐怖で身体がふるえ、うまく足が動かなかった。それでも引きずるように後退すると、店の引き戸の横壁に背中があたった。
高瀬との距離は七人がけのカウンターの端から端まで、といったところだ。ちいさな店なのでそれ以上近づいて欲しくはなかったが、そうはいかないだろう。
「お前のあとをつけてきたんだよ。気がつかなかっただろう?」
「つけて……」
「見失ったと思ったら、お前が店に出てきたのがそこの入口のガラスから見えたんだ。家の玄関、鍵が開いてたぜ。お前、ここでアルバイトでもしてるのか」
彼が帰ってきたときのためにと思って、鍵を開けたままにしておいたのが徒となった。そしてさっき引き戸に映ったあの人影は、お客さんではなく高瀬のものだったのだ。
高瀬は口角を上げてニヤリと笑い、ポケットに手を入れたまま洸太に一歩近づいた。これで距離は六席分だ。
「このあいだのあの医者、ちゃんと男がいるんじゃないか。お前、騙されてるんだよ」
「医者って……まさか、あのツリーの場所から……」
押し殺した笑い声が高瀬から聞こえる。
「なにが洸太を帰さないだ。猿芝居しやがって」
また一歩、靴音とともに距離が縮まる。
「こんなところに一人でいないで、俺と一緒に行こうぜ洸太」
「い……行くって、どこへ……」
「誰も俺たちを知らないところへさ。二人で行って、今度は誰にも邪魔されずに仲良く暮らそう」
なんだ、この常軌を逸した高瀬の目は。ただ単に自分を連れ戻しにきたのではないのか。
「二人……なんて、母さんはどうするの?」
「あぁ? あんな女、最初から必要なかったんだよ。俺はお前さえ手に入ればどうでもよかったんだからな」
高瀬はゆっくりと距離を詰めてきて、とうとう洸太にあと二歩のところまで近づいた。
早く逃げなければと思うが、ふるえる身体は思うように動いてくれそうにもない。あたりを見回しても武器になりそうなものはなにもないが、引き戸がすぐ横にあるので鍵さえ開ける時間があれば逃げられるかもしれない。
どうにか時間を持たせて引き戸に近づきたかったが洸太の視線でそれを悟られたらしく、高瀬はその方向へと移動をし、洸太と引き戸のあいだに立ちふさがった。
「お前……まだ俺から逃げられると思ってんのかよッ!」
「ぁう……っ!」
急に叫んだ高瀬に胸ぐらをつかまれ、壁に背中を打ちつけられた。高瀬といたときにはよく覚えのあった痛みに耐えていると、冷たい金属のようなものが左頬にあたる。
「ひっ……」
ずっとポケットに手を入れていたのは、これを隠していたためだったのか。
「おっと、動くと切れるぞ。可愛い顔に傷はつけたくないんだけどなぁ」
「ゆう、じさん……」
「久しぶりに聞くねえ、お前のその裕二さんっての。やっぱり洸太は可愛くていい子だよな。抵抗はしないし、やりたいことやらせてくれるし」
高瀬は卑しい笑顔を洸太に近づけ、その頬をピタピタと大振りのナイフで叩く。
「一緒に行くよな、洸太。……俺と逃げよう」
なにかがおかしい。高瀬には逃げなければいけない理由があるのか。
「い、行かない……」
「……なんだって?」
「行かないよ、おれ。行くなら裕二さん一人で行ってよ」
まっすぐ高瀬に視線を送る。
「このあいだ言ったとおりだよ。裕二さんも……母さんも、好きにすればいい。もうおれを巻き込まないで……っ」
「んだとォッ! 口答えするんじゃねえぞコラァ──ッ!」
激昂した高瀬が叫び声を上げた瞬間、頬に張りついていたナイフが店の照明に反射してきらめきを帯び、頭上から洸太に向かって振り下ろされるのがコマ送りになって見えた。
このままここで高瀬に殺されるのかな……それとも傷つけられるだけで終わるのだろうか……ナイフが刺されば痛いんだろうな……こんなところで死んだら彼に迷惑がかかるのに……と、刹那にいろんなことが脳裏をよぎった。
傷つけられるのはとても嫌なことだけれど、洸太に向けられたこの高瀬の狂気は、結局洸太が受け止めるしかないのだろう。
それが洸太に課せられた業というものなのかもしれなかった。
「高瀬ェ──ッ!!」
突然聞き覚えのある叫び声が聞こえたかと思うと同時にひどく鈍い音がして、洸太に向かってきていたナイフが宙へ舞った。そして目の前にいたはずの高瀬自身も、洸太の視界から消えた。
「あ……」
カメラの連続撮影を見ているような世界から通常の光景を取り戻すために、洸太は何度か瞬きをする。そしてゆっくりと視線を上から下へ落とすと、身体を折り曲げて床に転がる高瀬の上にのしかかり、その腕を後ろ手にねじ伏せる彼の背中が見えた。
「大丈夫か洸太! ちょっと待ってろ……。よし、これでいい」
そのわずかな時間の出来事に、頭で考えるより先に首を何度も縦に振った。
目の前で起こったことに脳の処理が追いついていない。まだなにがどうなったのかよくわからずに、頭がボーッとするばかりだ。
「店の鍵を持ったままでよかった……クソッ、心臓に悪いな……」
彼は大きく深呼吸して高瀬から離れると、うっすらと浮かんだ額の汗を拭った。
「……マサさ……?」
「怪我はないか、見せてみろ」
彼は洸太の許可も取らずに勝手に身体のあちこちを確かめてくるが、どうにも違和感がぬぐえない。
「とりあえず傷はつけられていないようだな」
安堵の表情を浮かべる彼に対する、それはとても大きな違和感だ。
「なっ……なんでっ!?」
「なにがだ」
「なんでヒゲ生やしてそんな格好してるんだよ!」
そうだ。さっき見た彼とはずいぶん違う。
「なんでと言われても……普段と同じだぞ」
「だからだよ! さっきまで髪ちゃんとセットしてスーツ着てたじゃん! ヒゲだってなかったし……か、カッコイイとか思ったのにっ……なんでおれのときだけジーンズにダウンジャケットなんだよ!」
「スーツって……お前、気は確かか。夢でも見たか、それともコイツになにかされたんじゃないだろうな」
そう言われたところで高瀬に目をやれば、いつの間にか両手に梱包用の粘着テープをグルグルと巻きつけられ、ものの見事に気を失っていた。
それを見て、ようやく彼に助けられた現実に気づく。彼が帰ってこなければ、洸太は間違いなく高瀬に傷つけられていたのだ。
「あの……ありがと」
「いや、無事でよかった」
言うと同時に彼に抱きしめられて、そのぬくもりに安心したのか急に身体から力が抜けていく。彼も洸太の状態をわかっているのか、抱きかかえるように力を込めてくれた。
やっぱり彼の腕の中は、とても安心できる場所だ。
「ごめんね……マサさん」
「洸太はなにも悪くない」
そうじゃない。洸太が謝ったのは恋人のいる彼の背中に手を回し、彼に抱きついているこの行為だ。でも少しだけなら澪さんだって許してくれるだろう。
すこし落ち着いたころに、彼は警察へ電話をかけてくると言って洸太を腕から解放し、カウンターの中へ向かった。
しかしのびて床に転がっているとはいえ、高瀬の前でひとりになるのは堪えられなかった。
「や、だ……ひとりにしないで……」
洸太に背を向けて歩いていく彼が、そのままどこか遠いところへ行ってしまうんじゃないかと思った。
「マサさ……やだ、はなれるの、やだっ……!」
子供じみていると自分でもわかっている。彼に甘えてもどうにもならないこともわかっている。でもこの感情は止めることができなかった。
数歩しか離れていない彼の背中に言葉をぶつけると、彼が踵を返してこちらへやって来る。
「来い、洸太」
目の前でさしだされた両腕の中に飛び込むともう一度しっかりと抱きしめられ、それから洸太の足が床から離れた。
「うわっ」
「目、閉じておけ」
「……うん」
彼の首に両腕を回してしがみつき、抱きかかえられたまま店内を移動する。目を閉じろというのは、高瀬を見ないようにするためだろう。
彼が歩くたびに心地よい振動が洸太にも伝わってくる。ちいさいころお父さんに抱っこされていたときのような、こんな甘い感覚は久しぶりだ。
目を閉じていてもカウンターを回り込んだのがわかり、もうすぐ下ろされてしまうのが残念だなと思う。
すると彼が洸太を抱いたままどこかへ腰掛けたので恐る恐る目を開けると、そこは三和土を上がったところにある、昔ながらの高めの上がり框だった。
そこへ座った彼の膝の上へ横向きに乗せられて、そのまま彼が電話をかけはじめる。それを見ていると彼と出逢ってから今日までのいろいろな出来事が思い出されて、洸太はそのたわいの無い思い出に心が押しつぶされてしまいそうだった。
彼はどうして洸太を拾ってくれたのだろう。そして自分はどうしてこの人に惹かれるのか。きれいな恋人がいる、店の名前と同じ呼び名しか知らない人なのに。
でももうすぐここを出ていく前に、彼とのもっと密接な思い出が欲しいと願ってしまうのも事実だ。
「……俺だ」
その怒声にも似た低い第一声に、まだ彼に抱きついていた洸太は驚いた。彼のこんな声は今まで聞いたことがなかったからだ。
それに警察に「俺」で通じる知り合いでもいるのだろうか。通報の常連ということはないとは思うけれど。
彼の膝の上で不安げにそんなことを考えている洸太の髪を、大きな手はいつだってやさしく撫でてくれる。
「ヤツが現れたぞ……いや、店の床に転がしてある。胸クソ悪いから早く回収しに来い」
ヤツというのは高瀬のことだろうか。そういえば彼は高瀬の名を叫んでいた。でもどうして彼が、逢ったこともない高瀬の顔を知っているのだろう。
「言ってる意味がわからんな。だったらどうして俺がお前に連絡する羽目になってるんだ……お前の部下は役たたずか」
それにこの彼の口調。警察に電話しているとはとても思えなかった。
「……ああ、今回ばかりは俺も腹が立ってるんでな。一緒にいるんなら澪川も連れてすぐに来い。……え、なんだって?」
洸太の髪をなでていた彼の手がピタリと止まる。
「そんなもの今すぐ引き払ってさっさと来い、この税金ドロボーが!」
電話口にそう怒鳴りつけると、さっさと電話を切ってしまった。
澪さんを……連れて?
「どうして……? また澪さんが来るの? マサさん、澪さんを送ってから帰ってきたんじゃないの?」
「……俺がアイツをどこまで送るって?」
「え……おうち、とか?」
洸太の言葉を聞いた彼は、少ししかめっ面を見せた。
「ごめん……二人の邪魔してるのはよくわかってるんだけど……なんていうかおれ、マサさんが好きなんだ」
「洸……太」
言ってはいけないと思っていた言葉を、なんとナチュラルに言ってしまったのだろうか。
「あっ、ごめん! 言いかた間違えた……! か、家族って意味でだよ?」
彼の顔があまりにも真剣になったので、洸太は彼の膝から下りて今言った好きの意味を必死に説明する。うっかりと告白したために、こんなところで嫌われたくはなかったからだ。
「おれが家族なんて言うと笑っちゃうけど、でも……マサさんはおれにとってすごく大切なひとだし。……あ、もちろん澪さんもだよ。だから二人のこと……ちゃんと……お祝いしてあげられる、し……」
「……お前、絶対に勘違いしてるぞ」
彼は大きなため息をつくと上がり框からゆっくりと立ち上がり、言いよどむ洸太の髪をクシャクシャとなで回す。
「なに……を?」
「なにって……クソッ」
そう言い放ったあとにせつなそうな彼の顔が洸太に近づいてきて、気がつけば彼にくちびるを奪われていた。
「え……」
どうしてこんなことになっているのだろう。
驚いて目を開けたまま彼の顔を見ていると、一旦くちびるを離した彼に、こういうときには目を閉じるものだと諭された。
「そ、そんなのしらない……っ、キス……なんて、したことないもん」
「したことない?」
「う、うん……。裕二さんとは、しなかったから……」
洸太が真っ赤になって頷くと、彼はなぜだかうれしそうに笑った。
「そうか、初めてか」
「むうっ、どうせおれなんて恋愛経験なしのお子様だもんっ……澪さんみたいに大人じゃないし……」
「だからなんでそこで澪が出るんだ」
「なんでって……つきあってるんでしょ、澪さんと」
「澪と誰が付き合ってるって?」
「マ……サさん……」
二人からはっきり聞いたわけではないけれど、遠慮がちにそう答えたら彼はなんでこうなるんだとまたため息をついた。
「俺は澪なんかと付き合ってないぞ」
「……うそつかなくてもいいよ。おれ、しってるし」
「うそじゃなくて本当だ。まあ、もうすぐわかるだろうが」
彼は意味深な言葉を口にすると、洸太の後頭部に手を添えた。
「目、閉じろ。もう一度やり直しだ」
ファーストキスにやり直しがきくのかよくわからないけれど、彼とのキスはもう二度とないチャンスだとばかりに、言われるまま目を閉じる。すると再びやわらかなくちびるが洸太のそれと重なった。
でもそれ以上どうすればいいのかわからないでいると、洸太のくちびるに彼の舌が強引に割って入ってきた。
「あ……」
思わず声を上げて反応すると、ねじ込まれた舌が歯列の隙間を縫って、洸太の舌をやさしく絡めとっていく。
「ふぁ……」
彼のタバコの香りを直に感じ、同時にピリリとした刺激が舌に走った。お互いの舌を絡めているだけなのにゾクゾクとした快感が全身を這い、やがて洸太をうっとりととろけさせる。
もっとそのやさしいキスがいっぱい欲しくて、彼の厚い胸にそっと手をついたときだった。
「鍵もかけないままイチャつくとはいい根性だな、正」
突然見知らぬ人の声が聞こえて洸太はハッと我に返ると、キスをやめて隠れるように身を縮こまらせ彼にしがみついた。
誰だか知らない人に自分のキスシーンを見られていたのかと思うと、恥ずかしいどころの騒ぎではない。それも記念すべきファーストキスのやり直しだったのに。
「お前が遅いからだ」
彼はその人物の視線からかばうように、洸太を自分の腕の中に閉じ込めてくれた。
「うわー、予想以上の転がされっぷりだね。しょうさんったらホント手加減なしなんだから」
「ちょっと腕ひねって腹に蹴り入れただけだ」
「あ……澪さん」
聞き覚えのある明るいその声に思わず反応して、彼の腕の中から後ろを振り返った。
そこにいたのはあのツリーのあった場所で見たときと同じ格好の澪さんと、そして。
「蹴り入れただけだって……ん? おい、正。その子はまだ中学生じゃないのか。ついでにお前までしょっぴくとか勘弁だぞ」
あのとき澪さんの隣にいた人だった。
「なに言ってるんだ。これは洸太だぞ」
「高瀬の息子の?」
「ま、マサさんが二人いる……っ!」
今自分を腕で閉じ込めている彼と、目の前の黒のロングコートを羽織ったスーツ姿が素敵な彼。
「え、ふたご……?」
上目で彼を見上げると、やっぱりなと言ってまた大きくため息をついた。
「失礼いたします! 参事官、高瀬裕二確保に参りました!」
そこに数名の警察官がやってきてスーツの彼に敬礼をし、そこから休日のちいさな店はしばらくのあいだとてもにぎやかになった。
実況見分と称して数人の警察関係者が店の中に入り、侵入経路である家の玄関や廊下、それから店内の写真を数枚撮り、凶器のナイフを回収していく。
外では音もなくやって来た二台のパトカーの赤いランプがくるくると光り、野次馬の対応をしている警察官もいた。
高瀬は彼から余程強い打撃をくらったのかまだ意識が朦朧としているようで、両脇を警察官に抱えられ、洸太を振り返りもせずに連行されていった。
それらを見届けてから澪さんが店の引き戸を閉めると、再び店に静けさが戻った。
彼はそこでようやく腕を外して洸太を自由にしてから、目の前の人物を紹介してくれた。
「これは神月紫白。ひとつ上の俺の兄だ」
「お兄……さん?」
そういって紹介された人物は洸太に向かってやわらかく、そして爽やかに微笑んだ。
「紫に白と書いて紫白です。よろしく洸太くん。ひとつと言っても実際には十ヶ月しか離れていなくてね。まったく我が親父様には脱帽するよ」
「洸太に余計なこと言うんじゃない」
「はいっ……こちらこそ……っ。いつもマサさんと澪さんにはお世話になっていますっ」
洸太は自然と頬が赤くなるのをごまかすように、深々と紫白さんに向かっておじぎをした。お兄さんだと頭では理解したものの、本当に彼とよく似た顔立ちをしていてやっぱり直視できないほどカッコよかった。
「さっきは悪かったね。高瀬の義理の息子さんは大学生だと聞いていたので、君の可憐な容姿を見て別人と勘違いしてしまった」
「おっ……おれ、かわいくなんてないですから……っ」
見ているだけでドキドキする。兄弟だけに彼と同じフェロモンが垂れ流されているからだろうか。
「おい、口説くな! 洸太の目がハートになってるだろうが!」
「人のものとっちゃダメですよ紫白先輩!」
彼と澪さんが同時に声を上げる。
「失礼だな。正も玲も、私が初対面の人物をいきなり口説く人間だと思っているのか?」
「前例が多くて話にならん」
「洸太くんはダメですからね!」
また同時に二人の言葉を聞いた紫白さんは額に手をあて、やれやれと首を横に振った。
「何を言っているんだ。正のものは私のもの、私のものは私のもの、ついでに言うと正は私のものじゃないか」
「何がついでだお前は黙れ」
「先輩、相変わらずひどいブラコン……」
三人の会話を聞いていてなにかがかみ合っていない、と洸太は思う。
「洸太には指一本触れさせん! それから電話で俺は腹が立っていると言ったよな。洸太が俺と澪とのことを勘違いしてるのは、澪、お前のせいじゃないのか」
「えっ、やめて! なんで僕がしょうさんと勘違いされるんだよ」
彼にそう言われた澪さんは、おもいっきり否定をしてすごく嫌そうな顔をした。
「……僕、洸太くんに誤解されるようなことなんか言ったっけなぁ」
うーん、と考えこむ澪さんに、洸太がおずおずとそれに答える。
「せ……先輩がもっと好きになってくれるように、催眠術かけるって……」
「催眠術?」
澪さんはその言葉に、そういえばとポンと手を打つ。
「あー、先輩のこと好きなのかって聞かれた、あのときだね。そっか……。僕はしょうさんが自分の家族のことを、もう洸太くんに話してると思ってたから。あのときはああいう言いかたになったけど、僕が好きなのはこの紫白先輩だから」
「えっ、じゃあなんでマサさんに催眠術かけるって……」
「紫白先輩ってそりゃあもう年季の入ったブラコンでね、しょうさんの言うことだとわりと素直に聞くんだよね。だからしょうさんにお願いしてもらえば僕のこともっと好きになってくれるかなー……なんて、ちょっとした思いつきだったんだけど。勘違いさせてごめんね」
澪さんはそう言いながら紫白さんの腕をとり、そこに自分の腕を絡めて頬を寄せた。
「でも先輩見てびっくりしたでしょ。ホントにしょうさんと顔だけは瓜二つなんだよねー」
「だからって、相手間違えて告白してくるヤツは初めてだったがな」
「そっ、その話はやめて……!」
彼はため息をひとつついてから、洸太の肩をやさしく抱き寄せた。
「前に洸太が俺に聞いてきたことがあったんだ。最初に澪から告白されたのはいつなのかってな」
そのときに彼はおかしいと思ったらしい。澪さんがその話を自分からするはずがないことを知っていたからだ。
「ああ、あれか。私が修学旅行に行っているあいだに、私と間違えて正に告白したというあの前代未聞の事件か」
「事件なの?」
「ああっ、もういい! 紫白先輩帰りますよ!」
顔を真っ赤にして腕を引っ張る澪さんを軽々と制し、紫白さんはうきうきと語りだす。
「朝礼時に公衆の面前でマイク越しに正に告白した勇気ある男子生徒として、玲が卒業するまで校内で語り継がれたというあの事件のことだな」
「当時は俺と紫白が似ているなんて、誰も思うやつはいなかったんだがな」
「もー、僕には当時から二人の雰囲気がそっくりだったんだってば。今でもしょうさんの顔見ると先輩に逢えたような気がするから、店に顔を出すんだ。しょうさんのご飯も美味しいしね」
澪さんは諦めた口調でそう言うと、恥ずかしそうに笑った。
「ねえ、告白されたときマサさんは……澪さんになんて答えたの?」
「……『それは俺じゃない。修学旅行中の生徒会長の神月紫白のほうだ』」
低い声で彼が教えてくれた。
「じゃあ……澪さんとおれの家に行ったあと、居間で澪さんが泣いてたのはなんで……」
「なんでと言われても、澪はしょっちゅう俺に紫白の愚痴をこぼしに来て泣いてるぞ。仕事柄二人とも日常が落ち着かないし、ましてやコイツがこんな調子だからな。来るもの拒まず、振り向かないものは追いかける。いい加減に澪川もこんな男やめればいいんだ」
そんな風には見えないのだけれど、酷い男なのだと彼は言う。
「言ってくれるね、正。お前も子供の頃はその瞳を輝かせ、私のあとをよく追いかけてきたじゃないか」
「三十年も前の話をするな」
「一緒の布団に入って眠り、時には秘密のくちづけを交わし、将来は私のお嫁さんになると約束をしたというのにお前ってやつは……」
「えっ、なにそれ! 僕そんな話聞いてないよ!」
「お前らもういいからとっとと帰れ! 澪との誤解は解けたが、今度は洸太に紫白との仲を誤解されそうだ!」
彼は洸太のそばから離れると、カウンターを回って二人を無理やり外へ追い出しにかかった。
「正が怒っているので今日は帰るとするが、近いうちにまた来るよ。洸太くんに高瀬の件で聴取をお願いしにね」
すると彼は真剣な表情になって、紫白さんにわかったと頷いた。
「正、お前から高瀬のことを洸太くんに話してやってくれ」
「しょうさん……洸太くんのこと、くれぐれもお願いね」
引き戸を開けて紫白さんと澪さんが外へ出ると、冷たい夜の空気が店内に吹き込んだ。
「そうだ洸太くん! しょうさんってばね、こう見えてちっちゃくてかわい~モノが大好きなんだよ。がんばってね!」
意味深にそう言って楽しそうに笑った澪さんに、わけもわからないまま手を振ると、彼は「早く行け!」と二人を追い立てるように引戸を閉め、すぐに鍵をかけた。
チラリと見えた紫白さんと澪さんの後ろ姿は、腕を組んでとても仲睦まじげだった。
「ようやく静かになった……」
今日は珍しく彼のため息が多い日だ。普段は寡黙な人だけに、騒々しいのが疲れるのだろう。
時計を見ると九時を少し過ぎたところだった。
「ちょっと片づけるから、洸太は先に風呂へ入れ」
彼はそう言ってから、調理台の上に置いていたコートと鞄を洸太に差し出した。
「うん」
もういつもの彼に戻ったのか、さっきまでの饒舌さはなかった。
洸太は三和土から家に入り、廊下を見て明日はとりあえず掃除だなと考える。
今は高瀬が土足で通った跡を、全て消し去ってしまいたかった。
この四ヶ月のあいだに彼は数回だけ店を休んだけれど、考えてみればこうして外からそれを確かめたことは一度もなかった。
「静かだな……」
彼が店を開けていないと、こんなにも通りが静かになるのか。
普段は軒先にかかっている暖簾が引き戸の井桁格子のガラスを通して店内にあるのが見え、洸太が引っぱり出す看板も壁際の定位置でひっそりとしていた。
臨時休業、と三十路の男性にしてはとてもきれいな字で書かれた張り紙が彼の澪さんへの意志を表わしているようで、洸太は大きくため息をつきながら家の玄関へと向かう。そして昨日寝る前にもらった銀色の合鍵で玄関を開け、明かりが消えて静まり返った家の中へと入った。
やっぱりこの時間に彼が店にいないと変な感じがする。
洸太はひとりで二階の部屋にいる気にはならなくて、そのまま廊下を進んで店へとつながるドアを開けた。そして高さのある上がり框を下り、三和土に置いてある下履きへと履きかえた。
そのとき引き戸に大きく人影が映ったが、臨時休業の張り紙を見てどこかへ行ってしまったようだ。
「急に休むんだもん、お客さんもびっくりするよね」
そうひとりごち着ていた濃紺のダッフルコートを脱ぐと、掃除の行き届いた調理台の横のスペースにカバンと一緒に置いて店の明かりを半分だけつけた。
「まだ七時半か……。今日は四限しか講義がなかったから、終わるの早かったもんな」
のどが渇いたのでなにか飲もうとカウンター内の業務用冷蔵庫を開けると、そこには数品のおかずが乗った皿がラップにくるまれて用意されていた。
今日はマサさんの晩ご飯が食べられないと思っていたので、こんなときまで自分を気づかってくれる彼がとても愛しい。でもさっきまでの彼と澪さんのことを思い出すと、お腹なんて空かなかった。
ちいさくため息をついて冷蔵庫をパタンと閉める。そしてカウンターを客席のほうへぐるりと回りこむと、いつも澪さんが座る真ん中の椅子に腰掛けた。
「このまま待ってようかな……」
もしかしたら朝まで帰ってこないかもしれない人を待つのは久しぶりだ。
最初はお父さんだった。何日待っても洸太のところには帰ってきてくれなくて、二度と逢えないとわかったときの辛さをまだ憶えている。その次が母親で、三人目は母親と交際をしていたころの高瀬だった。
自分のそばにいてくれると約束したわけじゃないこの店の主人を、四人目と数えていいものか洸太にはわからなかったけれど。
客席のカウンターの上に腕を乗せて、そこに顔を突っ伏す。結局どうしてたってシンボルツリーの前の幸せそうな澪さんの顔を思い出してしまうのだ。
「澪さん、きれいだった……」
一見すると女の人にも見えるその容姿を本人は気に入らないのだそうだが、でもああやって街の中にいても澪さんがいちばん美人だと思う。
なにより反則なのは彼のほうだったけれど。
「なんだ、こんなところにいたのか洸太」
突然聞こえた声にハッとして、カウンターから顔を上げた。
「なん、で……」
声のほうにゆっくりと視線をやると、さっき洸太が通ってきた調理場の後ろの三和土の前で、土足でコートのポケットに両手を突っ込んだ高瀬が立っていた。
以前に澪さんと一緒に家へ帰ったときに比べれば身なりは整っていたが、憔悴しきったその顔はどこか異常さを感じさせる。
「なんだ、その信じられないって顔は。まるで幽霊でも見てるみたいだな」
吐き捨てるようにそう言ってゆっくりと靴音を立て、洸太に近づいてくる。
そんな高瀬にあわせるように、洸太も椅子から立ち上がって後ずさりをした。
「なっ、なんで……ここに……っ」
突然の出来事に恐怖で身体がふるえ、うまく足が動かなかった。それでも引きずるように後退すると、店の引き戸の横壁に背中があたった。
高瀬との距離は七人がけのカウンターの端から端まで、といったところだ。ちいさな店なのでそれ以上近づいて欲しくはなかったが、そうはいかないだろう。
「お前のあとをつけてきたんだよ。気がつかなかっただろう?」
「つけて……」
「見失ったと思ったら、お前が店に出てきたのがそこの入口のガラスから見えたんだ。家の玄関、鍵が開いてたぜ。お前、ここでアルバイトでもしてるのか」
彼が帰ってきたときのためにと思って、鍵を開けたままにしておいたのが徒となった。そしてさっき引き戸に映ったあの人影は、お客さんではなく高瀬のものだったのだ。
高瀬は口角を上げてニヤリと笑い、ポケットに手を入れたまま洸太に一歩近づいた。これで距離は六席分だ。
「このあいだのあの医者、ちゃんと男がいるんじゃないか。お前、騙されてるんだよ」
「医者って……まさか、あのツリーの場所から……」
押し殺した笑い声が高瀬から聞こえる。
「なにが洸太を帰さないだ。猿芝居しやがって」
また一歩、靴音とともに距離が縮まる。
「こんなところに一人でいないで、俺と一緒に行こうぜ洸太」
「い……行くって、どこへ……」
「誰も俺たちを知らないところへさ。二人で行って、今度は誰にも邪魔されずに仲良く暮らそう」
なんだ、この常軌を逸した高瀬の目は。ただ単に自分を連れ戻しにきたのではないのか。
「二人……なんて、母さんはどうするの?」
「あぁ? あんな女、最初から必要なかったんだよ。俺はお前さえ手に入ればどうでもよかったんだからな」
高瀬はゆっくりと距離を詰めてきて、とうとう洸太にあと二歩のところまで近づいた。
早く逃げなければと思うが、ふるえる身体は思うように動いてくれそうにもない。あたりを見回しても武器になりそうなものはなにもないが、引き戸がすぐ横にあるので鍵さえ開ける時間があれば逃げられるかもしれない。
どうにか時間を持たせて引き戸に近づきたかったが洸太の視線でそれを悟られたらしく、高瀬はその方向へと移動をし、洸太と引き戸のあいだに立ちふさがった。
「お前……まだ俺から逃げられると思ってんのかよッ!」
「ぁう……っ!」
急に叫んだ高瀬に胸ぐらをつかまれ、壁に背中を打ちつけられた。高瀬といたときにはよく覚えのあった痛みに耐えていると、冷たい金属のようなものが左頬にあたる。
「ひっ……」
ずっとポケットに手を入れていたのは、これを隠していたためだったのか。
「おっと、動くと切れるぞ。可愛い顔に傷はつけたくないんだけどなぁ」
「ゆう、じさん……」
「久しぶりに聞くねえ、お前のその裕二さんっての。やっぱり洸太は可愛くていい子だよな。抵抗はしないし、やりたいことやらせてくれるし」
高瀬は卑しい笑顔を洸太に近づけ、その頬をピタピタと大振りのナイフで叩く。
「一緒に行くよな、洸太。……俺と逃げよう」
なにかがおかしい。高瀬には逃げなければいけない理由があるのか。
「い、行かない……」
「……なんだって?」
「行かないよ、おれ。行くなら裕二さん一人で行ってよ」
まっすぐ高瀬に視線を送る。
「このあいだ言ったとおりだよ。裕二さんも……母さんも、好きにすればいい。もうおれを巻き込まないで……っ」
「んだとォッ! 口答えするんじゃねえぞコラァ──ッ!」
激昂した高瀬が叫び声を上げた瞬間、頬に張りついていたナイフが店の照明に反射してきらめきを帯び、頭上から洸太に向かって振り下ろされるのがコマ送りになって見えた。
このままここで高瀬に殺されるのかな……それとも傷つけられるだけで終わるのだろうか……ナイフが刺されば痛いんだろうな……こんなところで死んだら彼に迷惑がかかるのに……と、刹那にいろんなことが脳裏をよぎった。
傷つけられるのはとても嫌なことだけれど、洸太に向けられたこの高瀬の狂気は、結局洸太が受け止めるしかないのだろう。
それが洸太に課せられた業というものなのかもしれなかった。
「高瀬ェ──ッ!!」
突然聞き覚えのある叫び声が聞こえたかと思うと同時にひどく鈍い音がして、洸太に向かってきていたナイフが宙へ舞った。そして目の前にいたはずの高瀬自身も、洸太の視界から消えた。
「あ……」
カメラの連続撮影を見ているような世界から通常の光景を取り戻すために、洸太は何度か瞬きをする。そしてゆっくりと視線を上から下へ落とすと、身体を折り曲げて床に転がる高瀬の上にのしかかり、その腕を後ろ手にねじ伏せる彼の背中が見えた。
「大丈夫か洸太! ちょっと待ってろ……。よし、これでいい」
そのわずかな時間の出来事に、頭で考えるより先に首を何度も縦に振った。
目の前で起こったことに脳の処理が追いついていない。まだなにがどうなったのかよくわからずに、頭がボーッとするばかりだ。
「店の鍵を持ったままでよかった……クソッ、心臓に悪いな……」
彼は大きく深呼吸して高瀬から離れると、うっすらと浮かんだ額の汗を拭った。
「……マサさ……?」
「怪我はないか、見せてみろ」
彼は洸太の許可も取らずに勝手に身体のあちこちを確かめてくるが、どうにも違和感がぬぐえない。
「とりあえず傷はつけられていないようだな」
安堵の表情を浮かべる彼に対する、それはとても大きな違和感だ。
「なっ……なんでっ!?」
「なにがだ」
「なんでヒゲ生やしてそんな格好してるんだよ!」
そうだ。さっき見た彼とはずいぶん違う。
「なんでと言われても……普段と同じだぞ」
「だからだよ! さっきまで髪ちゃんとセットしてスーツ着てたじゃん! ヒゲだってなかったし……か、カッコイイとか思ったのにっ……なんでおれのときだけジーンズにダウンジャケットなんだよ!」
「スーツって……お前、気は確かか。夢でも見たか、それともコイツになにかされたんじゃないだろうな」
そう言われたところで高瀬に目をやれば、いつの間にか両手に梱包用の粘着テープをグルグルと巻きつけられ、ものの見事に気を失っていた。
それを見て、ようやく彼に助けられた現実に気づく。彼が帰ってこなければ、洸太は間違いなく高瀬に傷つけられていたのだ。
「あの……ありがと」
「いや、無事でよかった」
言うと同時に彼に抱きしめられて、そのぬくもりに安心したのか急に身体から力が抜けていく。彼も洸太の状態をわかっているのか、抱きかかえるように力を込めてくれた。
やっぱり彼の腕の中は、とても安心できる場所だ。
「ごめんね……マサさん」
「洸太はなにも悪くない」
そうじゃない。洸太が謝ったのは恋人のいる彼の背中に手を回し、彼に抱きついているこの行為だ。でも少しだけなら澪さんだって許してくれるだろう。
すこし落ち着いたころに、彼は警察へ電話をかけてくると言って洸太を腕から解放し、カウンターの中へ向かった。
しかしのびて床に転がっているとはいえ、高瀬の前でひとりになるのは堪えられなかった。
「や、だ……ひとりにしないで……」
洸太に背を向けて歩いていく彼が、そのままどこか遠いところへ行ってしまうんじゃないかと思った。
「マサさ……やだ、はなれるの、やだっ……!」
子供じみていると自分でもわかっている。彼に甘えてもどうにもならないこともわかっている。でもこの感情は止めることができなかった。
数歩しか離れていない彼の背中に言葉をぶつけると、彼が踵を返してこちらへやって来る。
「来い、洸太」
目の前でさしだされた両腕の中に飛び込むともう一度しっかりと抱きしめられ、それから洸太の足が床から離れた。
「うわっ」
「目、閉じておけ」
「……うん」
彼の首に両腕を回してしがみつき、抱きかかえられたまま店内を移動する。目を閉じろというのは、高瀬を見ないようにするためだろう。
彼が歩くたびに心地よい振動が洸太にも伝わってくる。ちいさいころお父さんに抱っこされていたときのような、こんな甘い感覚は久しぶりだ。
目を閉じていてもカウンターを回り込んだのがわかり、もうすぐ下ろされてしまうのが残念だなと思う。
すると彼が洸太を抱いたままどこかへ腰掛けたので恐る恐る目を開けると、そこは三和土を上がったところにある、昔ながらの高めの上がり框だった。
そこへ座った彼の膝の上へ横向きに乗せられて、そのまま彼が電話をかけはじめる。それを見ていると彼と出逢ってから今日までのいろいろな出来事が思い出されて、洸太はそのたわいの無い思い出に心が押しつぶされてしまいそうだった。
彼はどうして洸太を拾ってくれたのだろう。そして自分はどうしてこの人に惹かれるのか。きれいな恋人がいる、店の名前と同じ呼び名しか知らない人なのに。
でももうすぐここを出ていく前に、彼とのもっと密接な思い出が欲しいと願ってしまうのも事実だ。
「……俺だ」
その怒声にも似た低い第一声に、まだ彼に抱きついていた洸太は驚いた。彼のこんな声は今まで聞いたことがなかったからだ。
それに警察に「俺」で通じる知り合いでもいるのだろうか。通報の常連ということはないとは思うけれど。
彼の膝の上で不安げにそんなことを考えている洸太の髪を、大きな手はいつだってやさしく撫でてくれる。
「ヤツが現れたぞ……いや、店の床に転がしてある。胸クソ悪いから早く回収しに来い」
ヤツというのは高瀬のことだろうか。そういえば彼は高瀬の名を叫んでいた。でもどうして彼が、逢ったこともない高瀬の顔を知っているのだろう。
「言ってる意味がわからんな。だったらどうして俺がお前に連絡する羽目になってるんだ……お前の部下は役たたずか」
それにこの彼の口調。警察に電話しているとはとても思えなかった。
「……ああ、今回ばかりは俺も腹が立ってるんでな。一緒にいるんなら澪川も連れてすぐに来い。……え、なんだって?」
洸太の髪をなでていた彼の手がピタリと止まる。
「そんなもの今すぐ引き払ってさっさと来い、この税金ドロボーが!」
電話口にそう怒鳴りつけると、さっさと電話を切ってしまった。
澪さんを……連れて?
「どうして……? また澪さんが来るの? マサさん、澪さんを送ってから帰ってきたんじゃないの?」
「……俺がアイツをどこまで送るって?」
「え……おうち、とか?」
洸太の言葉を聞いた彼は、少ししかめっ面を見せた。
「ごめん……二人の邪魔してるのはよくわかってるんだけど……なんていうかおれ、マサさんが好きなんだ」
「洸……太」
言ってはいけないと思っていた言葉を、なんとナチュラルに言ってしまったのだろうか。
「あっ、ごめん! 言いかた間違えた……! か、家族って意味でだよ?」
彼の顔があまりにも真剣になったので、洸太は彼の膝から下りて今言った好きの意味を必死に説明する。うっかりと告白したために、こんなところで嫌われたくはなかったからだ。
「おれが家族なんて言うと笑っちゃうけど、でも……マサさんはおれにとってすごく大切なひとだし。……あ、もちろん澪さんもだよ。だから二人のこと……ちゃんと……お祝いしてあげられる、し……」
「……お前、絶対に勘違いしてるぞ」
彼は大きなため息をつくと上がり框からゆっくりと立ち上がり、言いよどむ洸太の髪をクシャクシャとなで回す。
「なに……を?」
「なにって……クソッ」
そう言い放ったあとにせつなそうな彼の顔が洸太に近づいてきて、気がつけば彼にくちびるを奪われていた。
「え……」
どうしてこんなことになっているのだろう。
驚いて目を開けたまま彼の顔を見ていると、一旦くちびるを離した彼に、こういうときには目を閉じるものだと諭された。
「そ、そんなのしらない……っ、キス……なんて、したことないもん」
「したことない?」
「う、うん……。裕二さんとは、しなかったから……」
洸太が真っ赤になって頷くと、彼はなぜだかうれしそうに笑った。
「そうか、初めてか」
「むうっ、どうせおれなんて恋愛経験なしのお子様だもんっ……澪さんみたいに大人じゃないし……」
「だからなんでそこで澪が出るんだ」
「なんでって……つきあってるんでしょ、澪さんと」
「澪と誰が付き合ってるって?」
「マ……サさん……」
二人からはっきり聞いたわけではないけれど、遠慮がちにそう答えたら彼はなんでこうなるんだとまたため息をついた。
「俺は澪なんかと付き合ってないぞ」
「……うそつかなくてもいいよ。おれ、しってるし」
「うそじゃなくて本当だ。まあ、もうすぐわかるだろうが」
彼は意味深な言葉を口にすると、洸太の後頭部に手を添えた。
「目、閉じろ。もう一度やり直しだ」
ファーストキスにやり直しがきくのかよくわからないけれど、彼とのキスはもう二度とないチャンスだとばかりに、言われるまま目を閉じる。すると再びやわらかなくちびるが洸太のそれと重なった。
でもそれ以上どうすればいいのかわからないでいると、洸太のくちびるに彼の舌が強引に割って入ってきた。
「あ……」
思わず声を上げて反応すると、ねじ込まれた舌が歯列の隙間を縫って、洸太の舌をやさしく絡めとっていく。
「ふぁ……」
彼のタバコの香りを直に感じ、同時にピリリとした刺激が舌に走った。お互いの舌を絡めているだけなのにゾクゾクとした快感が全身を這い、やがて洸太をうっとりととろけさせる。
もっとそのやさしいキスがいっぱい欲しくて、彼の厚い胸にそっと手をついたときだった。
「鍵もかけないままイチャつくとはいい根性だな、正」
突然見知らぬ人の声が聞こえて洸太はハッと我に返ると、キスをやめて隠れるように身を縮こまらせ彼にしがみついた。
誰だか知らない人に自分のキスシーンを見られていたのかと思うと、恥ずかしいどころの騒ぎではない。それも記念すべきファーストキスのやり直しだったのに。
「お前が遅いからだ」
彼はその人物の視線からかばうように、洸太を自分の腕の中に閉じ込めてくれた。
「うわー、予想以上の転がされっぷりだね。しょうさんったらホント手加減なしなんだから」
「ちょっと腕ひねって腹に蹴り入れただけだ」
「あ……澪さん」
聞き覚えのある明るいその声に思わず反応して、彼の腕の中から後ろを振り返った。
そこにいたのはあのツリーのあった場所で見たときと同じ格好の澪さんと、そして。
「蹴り入れただけだって……ん? おい、正。その子はまだ中学生じゃないのか。ついでにお前までしょっぴくとか勘弁だぞ」
あのとき澪さんの隣にいた人だった。
「なに言ってるんだ。これは洸太だぞ」
「高瀬の息子の?」
「ま、マサさんが二人いる……っ!」
今自分を腕で閉じ込めている彼と、目の前の黒のロングコートを羽織ったスーツ姿が素敵な彼。
「え、ふたご……?」
上目で彼を見上げると、やっぱりなと言ってまた大きくため息をついた。
「失礼いたします! 参事官、高瀬裕二確保に参りました!」
そこに数名の警察官がやってきてスーツの彼に敬礼をし、そこから休日のちいさな店はしばらくのあいだとてもにぎやかになった。
実況見分と称して数人の警察関係者が店の中に入り、侵入経路である家の玄関や廊下、それから店内の写真を数枚撮り、凶器のナイフを回収していく。
外では音もなくやって来た二台のパトカーの赤いランプがくるくると光り、野次馬の対応をしている警察官もいた。
高瀬は彼から余程強い打撃をくらったのかまだ意識が朦朧としているようで、両脇を警察官に抱えられ、洸太を振り返りもせずに連行されていった。
それらを見届けてから澪さんが店の引き戸を閉めると、再び店に静けさが戻った。
彼はそこでようやく腕を外して洸太を自由にしてから、目の前の人物を紹介してくれた。
「これは神月紫白。ひとつ上の俺の兄だ」
「お兄……さん?」
そういって紹介された人物は洸太に向かってやわらかく、そして爽やかに微笑んだ。
「紫に白と書いて紫白です。よろしく洸太くん。ひとつと言っても実際には十ヶ月しか離れていなくてね。まったく我が親父様には脱帽するよ」
「洸太に余計なこと言うんじゃない」
「はいっ……こちらこそ……っ。いつもマサさんと澪さんにはお世話になっていますっ」
洸太は自然と頬が赤くなるのをごまかすように、深々と紫白さんに向かっておじぎをした。お兄さんだと頭では理解したものの、本当に彼とよく似た顔立ちをしていてやっぱり直視できないほどカッコよかった。
「さっきは悪かったね。高瀬の義理の息子さんは大学生だと聞いていたので、君の可憐な容姿を見て別人と勘違いしてしまった」
「おっ……おれ、かわいくなんてないですから……っ」
見ているだけでドキドキする。兄弟だけに彼と同じフェロモンが垂れ流されているからだろうか。
「おい、口説くな! 洸太の目がハートになってるだろうが!」
「人のものとっちゃダメですよ紫白先輩!」
彼と澪さんが同時に声を上げる。
「失礼だな。正も玲も、私が初対面の人物をいきなり口説く人間だと思っているのか?」
「前例が多くて話にならん」
「洸太くんはダメですからね!」
また同時に二人の言葉を聞いた紫白さんは額に手をあて、やれやれと首を横に振った。
「何を言っているんだ。正のものは私のもの、私のものは私のもの、ついでに言うと正は私のものじゃないか」
「何がついでだお前は黙れ」
「先輩、相変わらずひどいブラコン……」
三人の会話を聞いていてなにかがかみ合っていない、と洸太は思う。
「洸太には指一本触れさせん! それから電話で俺は腹が立っていると言ったよな。洸太が俺と澪とのことを勘違いしてるのは、澪、お前のせいじゃないのか」
「えっ、やめて! なんで僕がしょうさんと勘違いされるんだよ」
彼にそう言われた澪さんは、おもいっきり否定をしてすごく嫌そうな顔をした。
「……僕、洸太くんに誤解されるようなことなんか言ったっけなぁ」
うーん、と考えこむ澪さんに、洸太がおずおずとそれに答える。
「せ……先輩がもっと好きになってくれるように、催眠術かけるって……」
「催眠術?」
澪さんはその言葉に、そういえばとポンと手を打つ。
「あー、先輩のこと好きなのかって聞かれた、あのときだね。そっか……。僕はしょうさんが自分の家族のことを、もう洸太くんに話してると思ってたから。あのときはああいう言いかたになったけど、僕が好きなのはこの紫白先輩だから」
「えっ、じゃあなんでマサさんに催眠術かけるって……」
「紫白先輩ってそりゃあもう年季の入ったブラコンでね、しょうさんの言うことだとわりと素直に聞くんだよね。だからしょうさんにお願いしてもらえば僕のこともっと好きになってくれるかなー……なんて、ちょっとした思いつきだったんだけど。勘違いさせてごめんね」
澪さんはそう言いながら紫白さんの腕をとり、そこに自分の腕を絡めて頬を寄せた。
「でも先輩見てびっくりしたでしょ。ホントにしょうさんと顔だけは瓜二つなんだよねー」
「だからって、相手間違えて告白してくるヤツは初めてだったがな」
「そっ、その話はやめて……!」
彼はため息をひとつついてから、洸太の肩をやさしく抱き寄せた。
「前に洸太が俺に聞いてきたことがあったんだ。最初に澪から告白されたのはいつなのかってな」
そのときに彼はおかしいと思ったらしい。澪さんがその話を自分からするはずがないことを知っていたからだ。
「ああ、あれか。私が修学旅行に行っているあいだに、私と間違えて正に告白したというあの前代未聞の事件か」
「事件なの?」
「ああっ、もういい! 紫白先輩帰りますよ!」
顔を真っ赤にして腕を引っ張る澪さんを軽々と制し、紫白さんはうきうきと語りだす。
「朝礼時に公衆の面前でマイク越しに正に告白した勇気ある男子生徒として、玲が卒業するまで校内で語り継がれたというあの事件のことだな」
「当時は俺と紫白が似ているなんて、誰も思うやつはいなかったんだがな」
「もー、僕には当時から二人の雰囲気がそっくりだったんだってば。今でもしょうさんの顔見ると先輩に逢えたような気がするから、店に顔を出すんだ。しょうさんのご飯も美味しいしね」
澪さんは諦めた口調でそう言うと、恥ずかしそうに笑った。
「ねえ、告白されたときマサさんは……澪さんになんて答えたの?」
「……『それは俺じゃない。修学旅行中の生徒会長の神月紫白のほうだ』」
低い声で彼が教えてくれた。
「じゃあ……澪さんとおれの家に行ったあと、居間で澪さんが泣いてたのはなんで……」
「なんでと言われても、澪はしょっちゅう俺に紫白の愚痴をこぼしに来て泣いてるぞ。仕事柄二人とも日常が落ち着かないし、ましてやコイツがこんな調子だからな。来るもの拒まず、振り向かないものは追いかける。いい加減に澪川もこんな男やめればいいんだ」
そんな風には見えないのだけれど、酷い男なのだと彼は言う。
「言ってくれるね、正。お前も子供の頃はその瞳を輝かせ、私のあとをよく追いかけてきたじゃないか」
「三十年も前の話をするな」
「一緒の布団に入って眠り、時には秘密のくちづけを交わし、将来は私のお嫁さんになると約束をしたというのにお前ってやつは……」
「えっ、なにそれ! 僕そんな話聞いてないよ!」
「お前らもういいからとっとと帰れ! 澪との誤解は解けたが、今度は洸太に紫白との仲を誤解されそうだ!」
彼は洸太のそばから離れると、カウンターを回って二人を無理やり外へ追い出しにかかった。
「正が怒っているので今日は帰るとするが、近いうちにまた来るよ。洸太くんに高瀬の件で聴取をお願いしにね」
すると彼は真剣な表情になって、紫白さんにわかったと頷いた。
「正、お前から高瀬のことを洸太くんに話してやってくれ」
「しょうさん……洸太くんのこと、くれぐれもお願いね」
引き戸を開けて紫白さんと澪さんが外へ出ると、冷たい夜の空気が店内に吹き込んだ。
「そうだ洸太くん! しょうさんってばね、こう見えてちっちゃくてかわい~モノが大好きなんだよ。がんばってね!」
意味深にそう言って楽しそうに笑った澪さんに、わけもわからないまま手を振ると、彼は「早く行け!」と二人を追い立てるように引戸を閉め、すぐに鍵をかけた。
チラリと見えた紫白さんと澪さんの後ろ姿は、腕を組んでとても仲睦まじげだった。
「ようやく静かになった……」
今日は珍しく彼のため息が多い日だ。普段は寡黙な人だけに、騒々しいのが疲れるのだろう。
時計を見ると九時を少し過ぎたところだった。
「ちょっと片づけるから、洸太は先に風呂へ入れ」
彼はそう言ってから、調理台の上に置いていたコートと鞄を洸太に差し出した。
「うん」
もういつもの彼に戻ったのか、さっきまでの饒舌さはなかった。
洸太は三和土から家に入り、廊下を見て明日はとりあえず掃除だなと考える。
今は高瀬が土足で通った跡を、全て消し去ってしまいたかった。
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