星聖エステレア皇国

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世界救済編

ーーー

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 バウシュカの死を見届け、仲間と合流した後、わたしはウラヌスと一緒に山頂へ降り立っていた。
 教祖と幹部を倒したことでアザー崇拝教は事実上の壊滅を迎えた。だけど空の色は晴れず、それは地上の混乱がまだ収まっていないことを示していて。
 本来、聖地であるここから星の力を全世界へ届けられないかと模索していた。

「だめ……全然だめだ……」

 浄化しても、浄化しても。まるで焼け石に水で世界は何も変わらなかった。それどころか空はいっそう暗くなるばかり。

(結局わたしは、無力なの!? どうして……!!)

 わたしが異界の星詠みなのに。
 過去の星詠み達はどうやって世界を救ってきたのか。答えを求めても誰も知らない。伝承はひどく曖昧だ。
 焦燥感に揺れ始めたわたしの肩を、黙って成り行きを見守っていたウラヌスが抱く。

「エイコ……そう自分を責めるな」
「いいや! 鎮めてみせる。だってわたしは、星詠みなんだから…!!」

 諦めるわけにはいかない。その思いでもう一度力を放った。何度も、何度も。
 それでも奇跡が起こることは、なく。

「人の闇がーー膨れ過ぎたんだ」

 やがてウラヌスが静かにこぼす。

(アザー崇拝教の暴挙を、許してしまったから……)

 だから人々は不安になってしまったんだ。追い詰められた教団の放った、あの砲撃が、人の負を強く強く揺さぶった。

「……手遅れ……なの……?」

 ここまできたのに。
 これまでの全てが、無駄になるのか。
 途方もない虚無感に呑まれそうで、弱音が口を突いて出る。停滞した状況。それを打破したのはウラヌスの思いがけない言葉だった。

「いや……まだ道は、あるかもしれない」

 ーー道が、ある?
 耳を疑う思いで傍らの彼を見た。
 ウラヌスは地上を見ていた。こんな状況だっていうのに、その瞳は光を放っている。それは決して折れない強固な意志か。ーーこわいくらいに、煌めいている。

「星に浄化してもらうんだ」

 星に……。

「バウシュカとの戦いで、おれの剣に星の力が宿っただろう? あれがもう一度叶えば、大地に直接星の力を注げる可能性がある」
「…でもそれって、星に星の力をぶつけることに……ならないの」
「なるかもしれない。元は自分の力だ。消滅することはなくとも、ダメージを受け眠る……封印状態になることは考えられるだろう」
「封印……」

 そんなことになって、世界は大丈夫なの? だってこの世界は星と共に歩んできたのに。

「だが、アザーも共に封印出来れば破滅は避けられる」
「もし…星が眠ったら、アザーは生まれないのかな。生まれても、浄化出来なかったら。星術だって使えないかもしれないよ」
「……おれ達は知っているな? 人の闇は消せるものでも、まして消していいものでもない。アザーはおれ達の鏡さ。アザーの歴史は、人と共にある」

 ウラヌスがわたしを見た。覚悟の決まった眼差しを受けて、もう……選べる余裕なんてないのだと悟る。

「これからも、きっと共に在るのさ」

 それは悲観じゃない。諦めじゃない。まして、自暴自棄なんてもってのほか。ただ……あるがままを受け入れるのだ。長い時を歩んできたアザーと、これからも歩んでいくと。
 一つの選択肢に無数の可能性。
 この選択がどう転ぶとしても、もはや他に手は思い浮かばない。迷っている内にも状況は悪化していく。

『異界の星詠みさまは、元の世界へ帰れるのです。お役目さえ終われば、望めば星が帰してくださる』

 ふと、よみがえるエウティミオの話。そうだ、わたしは帰れるんだ。星さえ、健在であれば。
 星が眠ればーー。

「……やろう」

 渦巻きそうになった思考に、ざわめきかけた心に蓋をした。
 これで、いい。

「いくよ」
「ああ」

 今度は自分の意思で、ウラヌスの剣に力を宿らせる。剣を媒介に全てが癒されることを願って。
 わたしから溢れた光が剣に集っていく。それは驚くほどに上手くいき、白刃は青い光を纏う星剣となった。
 その輝きたるやバウシュカの時の比じゃない。
 暗い世界に抗う、たった一つの地上の光。

(彼だけに負わせない……)

 どうなるか分からない未来の責任を。
 そっとウラヌスに寄り添うと、片手で抱き寄せられた。わたしも彼の背に手を回して、彼が握る剣を、共に握る。

「何が、起きても……一緒だ」
「うん」

 一緒なら、乗り越えられる。
 振り上げた剣をーー大地に突き立てた。




………

次回最終話。
今日から完結&おまけ編完結まで毎日更新します。
土日は何時になるか未定ですが、一日二回更新予定です。

※完結までにタイトル多分変更します。
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