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世界救済編
我に■の未来を聴くのです
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「……わ、わたしはまだ帰れないよ。まだ世界を救っていないのに」
動揺して、自分の返答が合ってるか分からない。
その件はあくまで帰れる、であって、帰らなきゃいけないわけじゃない。
ただ、こんな状態の世界を前にして、帰る帰らないを考える余裕はなかった。
だから、帰郷を望むのならあなただけ先にーーそう思った。レンは策略に巻き込まれただけだ。彼女の都合を優先して欲しいと思って。
でもレンは<あら>なんて日常みたいに穏やかな声を出して、わたしの腕を掴んだ。
「帰るのよ、貴方は。今から私と一緒に帰るの」
「……は!?」
「さぁ、行きましょう。早くしないと連れ戻されてしまうわ。これ以上巻き込まれる前に、平和な世界へ戻らなくちゃ」
「ま、待って。わたし帰れないってば! 使命を果たさなきゃ!」
「使命? もう終わったでしょう。異世界は長年虐げられてきた黒が勝ちました。星詠みは白を救えませんでした。役に立てませんでした。おしまい。……ね?」
「……」
……こ、この人……正気じゃない!
「まだ終わってないわ! 誰も諦めてない。続きがあるの!!」
必死に訴えた。細腕からは信じられない力がわたしを掴んで、仲間から引き離そうとする。
「私は本物のお姫様になれないのに、貴方はまだこの世界に居座ってお姫様扱いされるの? 皇子様と結ばれるの? いつまでもいつまでも愛されるの? ……そんなの」
一級品のお化粧で彩られたかんばせが近付いてくる。女でさえ眩みそうな甘い声が、吐息が、耳をくすぐる。
「だ ぁ め。わたし……許さないから」
恐怖と不快、少しの憐憫を煮詰めて濾したような悪寒が、とろりと背筋を流れていった。
「……い、嫌……。わたしがどうするかは、わたしが決める」
「大丈夫よ。ご両親のいない可哀想な女の子一人、うちが支援してあげる。私のお父さまにお願いすれば、うちのグループ会社で雇ってあげることも出来るわ」
「そんなの、いらない」
「残念ね。私はこれから資産家の令嬢に戻るけれど、貴方はお姫様になり損ねてみじめに暮らすのだから」
「なんでそこまで…? あなた、自分が星乃家の本当の娘じゃないって知っても、何も言わなかったじゃない! 私に居場所を返す気、なかったじゃない! なら帰って勝手に幸せになれば良いでしょ!! ーー痛!!」
上品に取り繕われていた仮面が割れて、激情を剥き出しにした顔がわたしを睨む。空いた手に髪を引っ張り上げられた。
「知っていたの…? でも誰も信じないわ。私が勝つの。全部私が手に入れるの。貴方は一生、私の日陰で暮らしていくのよ!!」
「あっ……!!」
痛みで目が潤む。レンの腕を掴んでも力は緩まなかった。
こんなことをしている場合じゃないのに。でも仲間はみんな教団と戦っているから、助けは期待出来ない。相手はただの女の子だから、反撃も出来ない。
わたしの根源を揺さぶられて思考も乱されていく。頭が真っ白になりかけた時、予想外の声が場を静めた。
「その手を離してくれないか」
……この声は。
「ローダー殿下……」
ローダーが、来てくれた?
強く握り締められていた手が解かれる。痛みから解放されて姿勢を正すと、彼がレンの腕を取っているのが見えた。
ローダーはそのまま、背後から襲い掛かってくる教団員の制圧を続ける。周囲にいた者達を片付け、ここが戦場の熱気から切り離されたわずかの間に、彼はーー頭を下げた。
あの誇り高いローダーが。
「すまなかった」
予想外過ぎる出来事にわたしだけじゃなくて、レンも言葉を失くす。
再び敵がやって来たけれど、ローダーは戦いながらも話すのをやめなかった。
「そなたを喚んだのは我が国。エステレアにも、ましてやエイコにも責はない。こちらの事情で翻弄し、辛い思いをさせてしまった」
「……今さらですわ」
「その通りだ。せめて、私に出来る限り、そなたの望みを叶えよう。帰郷でも、姫君の座でも。だからもう……己の真の幸福へ目を向けろ。レン」
彼がレンの名を呼んだ時、最後の教団員が他に伏せた。少しだけ離れてしまっていたみんなが戻ってくる。
駆けてくるウラヌスを見て、レンは眩しそうに目を細め……背を向け何かを呟いた。
「……みじめね……」
誰にも聞こえる必要がない。そんな風で、聞き取れなかった。
そして彼女は深い一息を吐く。まるで己を掻き乱す全てを出すようだった。それから美しく背筋を伸ばすと、凛と提案を退けた。
「結構です。私が欲しいのは、貴方からの贖いではありませんもの」
「……送ろう」
「いいえ、里へは一本道。自分で戻れますわ」
レンはわたしとローダーだけを見て、別れを告げる。
「ごきげんよう」
それは吹っ切れた声色だった。お嬢様育ちらしい品のある姿を最後に、去って行く。
この世界にいても、欲しいものは手に入らないから。
だから元の世界へ帰って探すのだろう。彼女の<本当>を。
(誰だって、幸せになりたいだけ)
幸せになりたいから、頑張る。幸せを掴むために藻掻く。
でも彼女のやり方は少し強引過ぎた。わたしや周りのことは考えず、自分の欲ばかり目立っていたように感じる。
ただ……必死だったんだとも感じる。待っているのじゃ、降ってくるか分からない幸福に焦って。自ら掴みにいったんだ。
(次は、上手く掴めると良いね……)
異界の星詠みじゃなかったら、レンの姿はわたしだったかもしれない。もっと酷い醜態を晒していたかもしれない。
自分の危うさを胸に刻みながら、仲間達を振り返った。わたしを心配してくれていた顔に、鼻の奥がツンと痛んで。
今ある幸せに深く感謝した。
………
執筆出来ていたので更新しました。
次回も書けていたら一週間後、書けていなかったら二週間後になります。
動揺して、自分の返答が合ってるか分からない。
その件はあくまで帰れる、であって、帰らなきゃいけないわけじゃない。
ただ、こんな状態の世界を前にして、帰る帰らないを考える余裕はなかった。
だから、帰郷を望むのならあなただけ先にーーそう思った。レンは策略に巻き込まれただけだ。彼女の都合を優先して欲しいと思って。
でもレンは<あら>なんて日常みたいに穏やかな声を出して、わたしの腕を掴んだ。
「帰るのよ、貴方は。今から私と一緒に帰るの」
「……は!?」
「さぁ、行きましょう。早くしないと連れ戻されてしまうわ。これ以上巻き込まれる前に、平和な世界へ戻らなくちゃ」
「ま、待って。わたし帰れないってば! 使命を果たさなきゃ!」
「使命? もう終わったでしょう。異世界は長年虐げられてきた黒が勝ちました。星詠みは白を救えませんでした。役に立てませんでした。おしまい。……ね?」
「……」
……こ、この人……正気じゃない!
「まだ終わってないわ! 誰も諦めてない。続きがあるの!!」
必死に訴えた。細腕からは信じられない力がわたしを掴んで、仲間から引き離そうとする。
「私は本物のお姫様になれないのに、貴方はまだこの世界に居座ってお姫様扱いされるの? 皇子様と結ばれるの? いつまでもいつまでも愛されるの? ……そんなの」
一級品のお化粧で彩られたかんばせが近付いてくる。女でさえ眩みそうな甘い声が、吐息が、耳をくすぐる。
「だ ぁ め。わたし……許さないから」
恐怖と不快、少しの憐憫を煮詰めて濾したような悪寒が、とろりと背筋を流れていった。
「……い、嫌……。わたしがどうするかは、わたしが決める」
「大丈夫よ。ご両親のいない可哀想な女の子一人、うちが支援してあげる。私のお父さまにお願いすれば、うちのグループ会社で雇ってあげることも出来るわ」
「そんなの、いらない」
「残念ね。私はこれから資産家の令嬢に戻るけれど、貴方はお姫様になり損ねてみじめに暮らすのだから」
「なんでそこまで…? あなた、自分が星乃家の本当の娘じゃないって知っても、何も言わなかったじゃない! 私に居場所を返す気、なかったじゃない! なら帰って勝手に幸せになれば良いでしょ!! ーー痛!!」
上品に取り繕われていた仮面が割れて、激情を剥き出しにした顔がわたしを睨む。空いた手に髪を引っ張り上げられた。
「知っていたの…? でも誰も信じないわ。私が勝つの。全部私が手に入れるの。貴方は一生、私の日陰で暮らしていくのよ!!」
「あっ……!!」
痛みで目が潤む。レンの腕を掴んでも力は緩まなかった。
こんなことをしている場合じゃないのに。でも仲間はみんな教団と戦っているから、助けは期待出来ない。相手はただの女の子だから、反撃も出来ない。
わたしの根源を揺さぶられて思考も乱されていく。頭が真っ白になりかけた時、予想外の声が場を静めた。
「その手を離してくれないか」
……この声は。
「ローダー殿下……」
ローダーが、来てくれた?
強く握り締められていた手が解かれる。痛みから解放されて姿勢を正すと、彼がレンの腕を取っているのが見えた。
ローダーはそのまま、背後から襲い掛かってくる教団員の制圧を続ける。周囲にいた者達を片付け、ここが戦場の熱気から切り離されたわずかの間に、彼はーー頭を下げた。
あの誇り高いローダーが。
「すまなかった」
予想外過ぎる出来事にわたしだけじゃなくて、レンも言葉を失くす。
再び敵がやって来たけれど、ローダーは戦いながらも話すのをやめなかった。
「そなたを喚んだのは我が国。エステレアにも、ましてやエイコにも責はない。こちらの事情で翻弄し、辛い思いをさせてしまった」
「……今さらですわ」
「その通りだ。せめて、私に出来る限り、そなたの望みを叶えよう。帰郷でも、姫君の座でも。だからもう……己の真の幸福へ目を向けろ。レン」
彼がレンの名を呼んだ時、最後の教団員が他に伏せた。少しだけ離れてしまっていたみんなが戻ってくる。
駆けてくるウラヌスを見て、レンは眩しそうに目を細め……背を向け何かを呟いた。
「……みじめね……」
誰にも聞こえる必要がない。そんな風で、聞き取れなかった。
そして彼女は深い一息を吐く。まるで己を掻き乱す全てを出すようだった。それから美しく背筋を伸ばすと、凛と提案を退けた。
「結構です。私が欲しいのは、貴方からの贖いではありませんもの」
「……送ろう」
「いいえ、里へは一本道。自分で戻れますわ」
レンはわたしとローダーだけを見て、別れを告げる。
「ごきげんよう」
それは吹っ切れた声色だった。お嬢様育ちらしい品のある姿を最後に、去って行く。
この世界にいても、欲しいものは手に入らないから。
だから元の世界へ帰って探すのだろう。彼女の<本当>を。
(誰だって、幸せになりたいだけ)
幸せになりたいから、頑張る。幸せを掴むために藻掻く。
でも彼女のやり方は少し強引過ぎた。わたしや周りのことは考えず、自分の欲ばかり目立っていたように感じる。
ただ……必死だったんだとも感じる。待っているのじゃ、降ってくるか分からない幸福に焦って。自ら掴みにいったんだ。
(次は、上手く掴めると良いね……)
異界の星詠みじゃなかったら、レンの姿はわたしだったかもしれない。もっと酷い醜態を晒していたかもしれない。
自分の危うさを胸に刻みながら、仲間達を振り返った。わたしを心配してくれていた顔に、鼻の奥がツンと痛んで。
今ある幸せに深く感謝した。
………
執筆出来ていたので更新しました。
次回も書けていたら一週間後、書けていなかったら二週間後になります。
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