星聖エステレア皇国

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世界救済編

汝はいまだ■の中

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「世界中にアザーが蔓延った原因が判明した今、各国へもう一度、終戦へ向けて会談を打診してはいかがでしょうか。今度は……わたしが直接向かいます」

 エレヅの隠れ里から一度帰城したわたし達は、両陛下へ里での件を報告した後、重臣達を交えて次の手を話し合っていた。

「エイコ殿。そなたの申し出はありがたい。しかし、船も飛竜もアザー崇拝教の邪魔が入る可能性は高いぞ」

 陛下が危惧しておられるのは、また他国の重鎮が被害に遭うこと。今はまだエステレアを信じてくれている国々も、再び同じ事が起きればどうなるか……。

「はい。ですから、星詠みの力を使い赴きます」

 わたしの発言に場がどよめいた。

「それはーー危険だ。どこまで訪ねるつもりだ? まさか」

 陛下の険しい表情から、察しがついておられるだろうとうかがえた。だから頷く。

「全ての国です。……もちろんエレヅも」
「どんな目に遭うか分からぬ。危険過ぎる。ましてエレヅなど、敵の本陣ではないか」
「実は、それがそうとも言い切れなくなったのです」
「何……?」

 訝しむ陛下にわたしとウラヌスは謁見の間の入り口へ向く。動揺のせいか、少しぎこちない動作で兵士が扉を開き、シゼルと共に現れたのは……。

「ローダー皇子!?」

 騒然となる間。その関心を一身に受けてローダーは、毅然と立っていた。
 一歩踏み出した彼に構えた騎士達をウラヌスが制する。ローダーは堂々とした振る舞いでわたしとウラヌスの一歩前へ出ると、陛下の前へ膝を突きこうべを垂れた。

「ローダーが拝謁いたします」

 物言いたげにウラヌスを見下ろす陛下。説明を求められた彼は、わたしに代わって話し始めた。

「ご報告が遅くなり申し訳ありません。実は現在、ローダー殿は我々と協力関係にあります」
「何だと? いつからだ?」
「開戦の少し前からです。かの会談、エレヅ皇帝から承諾が得られたのは、彼のご協力あってこそ」
「…何故言わなかった」
「陛下がご納得なさる成果を挙げてからと、決めておりました。彼は里への道を共にしてくださった。終戦への想いは同じです。彼と星詠みが戦争終結へ向けて各国を回っているとなれば、エレヅも強硬姿勢はとれないでしょう」

 ウラヌスの話を聞いて陛下はしばしお考えになる。
 一緒の時を過ごしたわたし達以外にとっては、まだ敵国の皇子でしかない。慎重になられるのはもっともで、臣下達もそれぞれ思うところがある様子だった。
 場が膠着しかけた時、声を上げたのは騎士団長であるアギルルフ。彼は発言の許しを得ると異を唱えた。

「陛下。私は賛同いたしかねます。尊き御身をお守りする立場としては、わずかでも火種となりかねないものは避けるべきかと存じます」

 彼の立場としては当然の意見だ。彼に同意する者ばかりなのか、わたし達を肯定してくれる者がいない。
 悩ましげに考え込まれていた陛下は、おもむろにたった一人に意見をお求めになる。
 それは皇室の相談役。平民出身でありながら、ウラヌスの祖父代わりとまでなった、信頼の厚い方。

「……おそれながら私は、ウラヌス皇子のご慧眼に間違いはないと思っております。皆々様ご存知の通り、皇子は幼き頃より聡明なお方であられた。エステレアの為とならぬ選択は、なさりますまい」

 この形勢でイスカヤは、臆することなく述べてくれた。
 密かにウラヌスと視線を通わせた彼はニッと笑う。ウラヌスは感謝と、敵わないといった様子で笑い返した。
 これにはアギルルフも誰も反論せず、騎士団長本人が言った通り<立場上>の意見を、考えられるリスクを述べたに過ぎないのだと感じる。

「良い。これまでの献身には疑いようがない。信じよう。ーーローダー皇子、長らくすまなかった。そなたの協力には心より感謝申し上げる。どうか頭を上げてくれ」

 ようやく許しを得て、ローダーはこうべを上げた。彼にとっては憎い国の皇帝のはず。でもローダーはそれをおくびにも出さず、努めて誠実に振る舞った。

「発言をお許しいただきたく存じます」
「許す」
「此度の戦、私の力及ばず開戦となってしまい、まことに申し訳なく存じます。…しかしながら、我が国内も主戦派ばかりではありません。これよりは終戦へ向けて、貴国の皇子ウラヌス殿、そして星詠み殿に、我が全力を持ってお力添えいたすことをお許しください」

 下手したら捕まりかねない状況なのに……流石だと感じた。この真摯な姿勢に誰かが口を挟むわけもなく。そもそもが、ローダーは陛下の亡き妹姫様の忘れ形見。国同士の確執さえなければ、この国は彼をそれは大切にしただろう。
 陛下や古株の家臣達のローダーへ向ける眼差し。そこには在りし日を懐かしむ色が、確かに見えた。

 

「現在、主要な国は七ヶ国。エステレアを除けば六ヶ国だが、バハル自治区を加える」

 エステレア城の広大な庭。サンサンと降り注ぐ日光の下で、ウラヌスの話すこれからの予定に耳を傾ける。

「まずはバハル自治区へ。どこにも肩入れしない、中立の地が会談の開催地だ。エイコ、おれ達は平和の使者となる君に付き従う」
「うん」

 ウラヌスと反対側に立つのはローダー。不測の事態への対処を考えて、たったの三人だ。
 つまりはウラヌスとローダーが、確実にわたしの安全へ意識を割けるようにと。

「案ずるな。そなた一人くらい、守ってやろう」
「…ありがとう、ローダー」

 頼もしい言葉に緊張が少し和らいだ。逆側からウラヌスが、わたし越しにローダーの肩を抱く。

「……おれ達の仲の良さを見せてやりに行こう」
「……フッ」

 頭上で交わされる何となくピリピリしたもの。ここも心から平和に戻れたら、良いのだけど。

(でも……二人がいてくれたら、わたし、頑張れる。異界の星詠みとしてきっと、堂々と立てる)

 後ろから見守ってくれているのなら。どんな苦難でも立ち向かえる気がする。

「ーー行こう」

 ウラヌスとローダー。二人と視線を通わせて、わたしは飛ぶ。
 見送ってくれるみんなに良い報告を持ち帰れることを、願いながら。
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