クロスドツインズ

💙藍棺織海⚰️アイカンオリミ🫒

文字の大きさ
上 下
40 / 45
七公演目――チャイナブラザーズ

三曲目:チャーリー・セイラー

しおりを挟む
「シェシェニードゥイウォションディダバンジュウ! センキュヴェリマッチ!」

「しぇしぇ!」

「もうはぐれるなよ。……最後、何か言ってたか?」

「アばよ兄馬鹿、だとよオ」

「絶対もっと長かっただろ」

「はは。弟を助けてくれてありがとうございました、だって」

「全然違うじゃないか」

「ア、言ウなよボニー」

 結局、こどもが兄と離れた場所はそこまで遠くじゃなかった。徒歩十分かかるかどうかの、チャイナタウンの南端。ただブロードウェイ沿いだったから、交通量を考えると多少危なかったかもしれない。兄のほうも言葉では半分も通じ合えなかったが。ボニーと同い歳かもう少し上か、ぐらいの青年がこどもを視界に入れたとき。罪悪感と焦りで酷い顔だったのが、安心と感謝になったのを見て、こいつが兄だなとすぐに分かった。兄の過失なのは確かだが、うっかり目を離してしまうのも、その隙に居なくなられたときの息が詰まる感情も理解できる。だから責めはしなかった。どうせ自分の口からじゃ伝えられやしない。そう、そうだ。

「……で、どうしてベルに英語を教えることになったんだって?」

「ひへっ!? わ、忘れてくれたと思ったのに」

「別にイ、チャーリーが知る必要はねエだろオ?」

「いや? 俺はお前らの雇用主だからな。使えるスキルは把握しておきたいだろ」

「アー、そウイウことかよオ。マジで弟しか興味ねエなア」

 ま、事実そうだが。ウィリアムさえ護り抜ければ、あとはどうだっていい。が、流石にボニーが多言語話者というのは驚いたし、興味……というよりむしろ、若干警戒すらしている。そもそもギャングとやらの噂の情報源も聞いていない。本当は、こいつがウィリアムを狙ってるんじゃないか? 今まではこいつに限って、と視野から外していたが。答えによっては。

「スキルってほどじゃないって! 中国語は片言でしか話せないよ」

「〝は〟?」

「あっ。え、あ~……」

「オイ、アんまボニーイじめんなよオ」

「いじめてはないだろ」

 おいおい、他にも話せるのか? いや、母親を失った年齢によってはあり得なくもない……か? 雇いはじめたのは三年前。ボニーは十四だったはず。もし学校に通ったことがあるのなら……中国語も? 習うのか?

「でっでも本当に、英語以外は大して話せないんだ! スペイン語もフランス語もイタリア語も、本当に簡単な自己紹介ぐらいしか……!」

「多いな。それに、さっきベルたちの会話もかなり聞き取れてたように思えたが?」

「えーっと、ほら! 中国語はベルから! 教わったっていうか!」

「英語も碌に喋れなかった奴から何を教わるんだ」

 時々看板に頭をぶつけそうになりながら無駄に慌ただしく歩くボニーの隣で。ベルは前髪の下に表情を隠して、黙ってボニーの顔を見上げてる。その様子に、どこか既視感があった。……ああ、そうだ。

「そういや、ベルはボニーが連れて来たんだったか。いつから知り合いだったんだ?」

 そうだ、それによっては。ベルもまとめて怪しくなる。……いや、それなら寮で幾らでもチャンスはあったか? そもそも三年前のベルはハローとグッモーニンとセンキューとグッナイしか話せなかったし。口には出してやらないが、三年にしてはまあまあ話せるようになったほう、だと思う。他の言語なんか覚えようとしたこともないから、なんとも言えないが。よくやるよ。

「えっと……それは……」

 助けを求めるように、もしくは確かめるように。ボニーがベルのほうを見て、隠れてさえなければ目が合う体勢になる。

「……ほらア、寮まで着イたぞオ。ボニー、行こウぜエ。先週の続き、教エてくれてる途中だろオ」

 それともオ、中まで送らねェと不安でちゅかア? とかなんとか言ってくるベルに重ねて、ボニーが苦笑いで首を縮ませる。……話したがらないか。無理に問い詰めて壁役が減るのも面倒だ。それにいずれまた、ボニーがうっかり口を滑らせるだろう。

「……さっきの兄弟の件で借りもあるしな」

「なんだア? オ。オ前の可愛イ弟もどオか行くみてエだなア」

 言われて目を向ければ、確かにウィリアムとアーティーが出掛けるところだった。今度似たようなことがあったらまずはボニーを呼び戻そう。それだけ決めて、俺は寮の入り口へ向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

後宮の棘

香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。 ☆完結しました☆ スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。 第13回ファンタジー大賞特別賞受賞! ありがとうございました!!

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

ひきこもり瑞祥妃は黒龍帝の寵愛を受ける

緋村燐
キャラ文芸
天に御座す黄龍帝が創りし中つ国には、白、黒、赤、青の四龍が治める国がある。 中でも特に広く豊かな大地を持つ龍湖国は、白黒対の龍が治める国だ。 龍帝と婚姻し地上に恵みをもたらす瑞祥の娘として生まれた李紅玉は、その力を抑えるためまじないを掛けた状態で入宮する。 だが事情を知らぬ白龍帝は呪われていると言い紅玉を下級妃とした。 それから二年が経ちまじないが消えたが、すっかり白龍帝の皇后になる気を無くしてしまった紅玉は他の方法で使命を果たそうと行動を起こす。 そう、この国には白龍帝の対となる黒龍帝もいるのだ。 黒龍帝の皇后となるため、位を上げるよう奮闘する中で紅玉は自身にまじないを掛けた道士の名を聞く。 道士と龍帝、瑞祥の娘の因果が絡み合う!

処理中です...