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七公演目――チャイナブラザーズ
二曲目:コルダ・グローリア
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「……あれ? 誰か足りないね」
土曜日で学校がないし、チケットも完売。アルコやアーノルドくんも含め、メンバー全員が揃う豪華な日! ……の、はずなのに。初回公演一時間前、ステージに集まったみんなを数えてみたら、どうも一人足りなかった。僕ら含めシンガー四人、サックス四人、トランペット四人、トロンボーン三人に、ピアノ、ベース、ドラムが各一人。バンドマスターの父さんは勿論いる。
「タップ含め、ダンサーは全員揃っております。バンドのどなたかかと」
「だよね。まずサックスが……あれ、三人? あと一人……あっ!」
欠員の正体に気付いて、父さんが僅かに目を見開く。
「ボリス……」
「フォーゲル博士、ですね」
父さんが名を呟くと同時に、アルコも神妙な面持ちで姓を口にした。ざわめきだすメンバーたちの中で、アーノルドくんだけは不思議そうに様子を窺ってる。そっか、そういえば。
「アーノルドくんは博士と会うの今日が初めてだっけ?」
「ええ。お名前だけは伺っておりましたが、恥ずかしながらどのような方かは存じ上げず」
「無理もない! 俺だってまだ三回ぐらいしか会ってないぞ」
加入して五年目のトランぺッターくんがアーノルドくんの肩を抱く。歌もうたえる頼もしい彼はほぼ毎日出演してくれてる。それでも三回しか会ったことがないんだから、新人のアーノルドくんが知らないのも当然。
「普段はなんていうのかな、世界中でトレジャーハントしてる学者さんなんだ」
「トレジャーハンター! 夢がありますね。財宝の処遇にお困りの際は是非我が社にご相談頂きたいものです」
「どうなんでしょう。フォーゲル博士、得たお金は大体うちのために使ってくださるので。ディモンズに売ったら、巡り巡ってアーノルドさんにお金が戻ってくることになりません? 税金関係が面倒なことになりそうな」
「ふふふ、そのあたりは得意分野ですのでお任せを」
実際、今回も何かしら成果があったから帰ってきたんだろうけど。遅刻するような人じゃないし、何事もなければ昨日の時点でニューヨークに着いてるはず。……何事も、なければ。
「父さん、昨日博士と電話とかしてないの?」
「家は売り払ったと言っていたからな。昨晩は大学に泊まっているはずだから、電話しようにも……」
『諸君!! 待たせたね!』
カーテンの向こう、よく響くテノール。父さんやアルコも含め、みんなの表情がパァっと明るくなった。真っ先に駆け出してカーテンを勢い良く開けた父さん。その視線の先、客席の最後方に。
「いやあ、迷子探しを手伝っていたら遅れてしまったよ。ん? おお、ジュリオ! 中に犬を入れても構わんかね?」
「あおん!」
「……ボリス!!」
開け放たれた扉から後光が射す。ウルフアイとグラウコーピス。二色の瞳とグレーヘアが、犬の鳴き声と共にきらめいた。
土曜日で学校がないし、チケットも完売。アルコやアーノルドくんも含め、メンバー全員が揃う豪華な日! ……の、はずなのに。初回公演一時間前、ステージに集まったみんなを数えてみたら、どうも一人足りなかった。僕ら含めシンガー四人、サックス四人、トランペット四人、トロンボーン三人に、ピアノ、ベース、ドラムが各一人。バンドマスターの父さんは勿論いる。
「タップ含め、ダンサーは全員揃っております。バンドのどなたかかと」
「だよね。まずサックスが……あれ、三人? あと一人……あっ!」
欠員の正体に気付いて、父さんが僅かに目を見開く。
「ボリス……」
「フォーゲル博士、ですね」
父さんが名を呟くと同時に、アルコも神妙な面持ちで姓を口にした。ざわめきだすメンバーたちの中で、アーノルドくんだけは不思議そうに様子を窺ってる。そっか、そういえば。
「アーノルドくんは博士と会うの今日が初めてだっけ?」
「ええ。お名前だけは伺っておりましたが、恥ずかしながらどのような方かは存じ上げず」
「無理もない! 俺だってまだ三回ぐらいしか会ってないぞ」
加入して五年目のトランぺッターくんがアーノルドくんの肩を抱く。歌もうたえる頼もしい彼はほぼ毎日出演してくれてる。それでも三回しか会ったことがないんだから、新人のアーノルドくんが知らないのも当然。
「普段はなんていうのかな、世界中でトレジャーハントしてる学者さんなんだ」
「トレジャーハンター! 夢がありますね。財宝の処遇にお困りの際は是非我が社にご相談頂きたいものです」
「どうなんでしょう。フォーゲル博士、得たお金は大体うちのために使ってくださるので。ディモンズに売ったら、巡り巡ってアーノルドさんにお金が戻ってくることになりません? 税金関係が面倒なことになりそうな」
「ふふふ、そのあたりは得意分野ですのでお任せを」
実際、今回も何かしら成果があったから帰ってきたんだろうけど。遅刻するような人じゃないし、何事もなければ昨日の時点でニューヨークに着いてるはず。……何事も、なければ。
「父さん、昨日博士と電話とかしてないの?」
「家は売り払ったと言っていたからな。昨晩は大学に泊まっているはずだから、電話しようにも……」
『諸君!! 待たせたね!』
カーテンの向こう、よく響くテノール。父さんやアルコも含め、みんなの表情がパァっと明るくなった。真っ先に駆け出してカーテンを勢い良く開けた父さん。その視線の先、客席の最後方に。
「いやあ、迷子探しを手伝っていたら遅れてしまったよ。ん? おお、ジュリオ! 中に犬を入れても構わんかね?」
「あおん!」
「……ボリス!!」
開け放たれた扉から後光が射す。ウルフアイとグラウコーピス。二色の瞳とグレーヘアが、犬の鳴き声と共にきらめいた。
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