クロスドツインズ

💙藍棺織海⚰️アイカンオリミ🫒

文字の大きさ
上 下
26 / 45
五公演目――瑠璃とエンジェルズシング

一曲目:ウィリアム・セイラー

しおりを挟む
「天使の左腕?」

 聞き返したオレに、アーティーは困り顔で頷いた。沢山ある二段ベッドのひとつ、オレが座ってるベッドの向かい。下の段に座るアーティーの右手には、白い石で出来た小さな天使が握られてる。そう、一目で天使だって分かるぐらいにはよくできてた。教会なんてよっぽど困った時にご飯貰いに行くだけだし、でっかい天使像があってもあんまジロジロ見ないけど。小さい頃も、うちはそこまで熱心な家じゃなかったし。それでもすぐに天使、それも大天使ぐらいの立派な天使だろうなって理解できるぐらいには綺麗だった。ただひとつ、左腕がありそうな部分に何もないってとこ以外は。

「……そういうやつなんじゃないの? ほら、首から上しかない像とか、逆にめちゃくちゃいっぱい羽はえてるのとかあるし」

「それならいいんだけど……でも右腕はあるみたいだし、断面がでこぼこしてて……」

「どれ? ……ああ~、これは折れたっぽいな確かに。この像自体手のひらに乗っかるサイズだし、どっかに転がってても気付かれなさそう」

 そっかあ……って、アーティーはしょんぼり肩を落とした。アーティーも、特別信心深いってわけじゃなかった気がする。だからきっとこれが犬のぬいぐるみでも生きてる小鳥でも、同じ反応だったんだろうなと思うと。なんとかしてあげたいな、って気持ちになるまで時間はかからなかった。見つかる可能性はすごく低いって、考えなくても分かったけど。

「いいよ、行こう! 陽が暮れるまでまだ時間あるし」

「ほんと? ありがとう……すごく、嬉しい」

「一人よりは二人、二人よりは三人! 人数は多いほうがいいしさ。で、どこで拾ったんだっけ」

「えっと……そう、リトル・イタリーの方」

 それなら、ここから歩いて十分ぐらい。イタリア語はそれなりに話せるし、左腕を探しながら歩くぐらいなら問題ないはず。チャーリー……は、通勤時間のピークを過ぎても売れなかった新聞をちょっと遠くの地区まで売りに行ってくれてるんだった。数部だけだから寮に戻ってろ、って言われたっきり二時間ぐらい経ってる。

「ついでにチャーリーの様子も見に行こうぜ。よっぽど売れないんだよ今日」

「そんなにつまんなかったっけ、今日」

「っていうかほら、万博でタイムカプセル埋めるとか書いてあったしさ、仕事だった奴も休んでるんじゃない?」

「なんだア? どォか行くのかァオ前らア」

 向かいのベッド上段から、長めの前髪が垂れる。覗き込まれる形になったアーティーから、あれえ、と間延びした声がでる。

「ベルの目、初めて見た。綺麗だね」

「んな、今そんな話してねェだろオ!?」

「え、そうなの? オレも見たい!」

「ッッ、イイから答エろオ!!」

 頭からシーツを被って、ベルの顔が見えなくなる。恥ずかしかったのかな。でもアーティーは綺麗って言ってたけど。まあ無理に見ることもないか。

「リトル・イタリーの方。ベルも行く?」

「……行かねェ」

「そっか。じゃあチャーリーに会ったら、日没までには帰るって言っといてくれる?」

「……覚エてたらなア」

 ぶっきらぼうに言われたけど、多分ちゃんと伝えてくれるはず。シーツが丸く縮こまっていくのを見届けて、オレたちは昼下がりの寮を出た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

後宮の棘

香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。 ☆完結しました☆ スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。 第13回ファンタジー大賞特別賞受賞! ありがとうございました!!

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

後宮物語〜身代わり宮女は皇帝に溺愛されます⁉︎〜

菰野るり
キャラ文芸
寵愛なんていりません!身代わり宮女は3食昼寝付きで勉強がしたい。 私は北峰で商家を営む白(パイ)家の長女雲泪(ユンルイ) 白(パイ)家第一夫人だった母は私が小さい頃に亡くなり、家では第二夫人の娘である璃華(リーファ)だけが可愛がられている。 妹の後宮入りの用意する為に、両親は金持ちの薬屋へ第五夫人の縁談を準備した。爺さんに嫁ぐ為に生まれてきたんじゃない!逃げ出そうとする私が出会ったのは、後宮入りする予定の御令嬢が逃亡してしまい責任をとって首を吊る直前の宦官だった。 利害が一致したので、わたくし銀蓮(インリェン)として後宮入りをいたします。 雲泪(ユンレイ)の物語は完結しました。続きのお話は、堯舜(ヤオシュン)の物語として別に連載を始めます。近日中に始めますので、是非、お気に入りに登録いただき読みにきてください。お願いします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...