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五公演目――瑠璃とエンジェルズシング
零曲目:???
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「……ええ。では、ごきげんようマァム……おっと、いらっしゃい。ええ? いやいや。マンマのことではないよ。今のはパン屋のマダムさ。仕入れの話でちょっとね」
受話器を置き、店主はやや気恥ずかしそうに笑う。カウンターにちらりと目をやれば、《秋の新メニュー候補:何かしら秋の味覚のペストリー? 栗? スイートポテト? やっぱりかぼちゃ?》と書かれたメモがあった。それなりに難航しているようだ。
「まだ早いといえば早いんだけどね。人気のマダムだから先約を取り付けておかないと。ほら、コーヒーと一緒にビスコッティを出してるだろう? あれを焼いてくれてるのも彼女なんだ。リトル・イタリーに店を構えてて……そうだ、今日はあの曲にしよう」
頼むよりも早く、店主はシェーカーにエスプレッソと砂糖、氷を入れリズミカルに振り始める。徐々に音が変わっていき、やがてそれはグラスに注がれた。そして今日も、彼はレコードにピンをさす。
「お待たせ致しました。イタリアで夏によく飲まれるカフェ・シェケラートを味わいながら、演奏に耳を傾けてくださいませ……別にイタリアっぽい曲ではないんだけどね。収録したメンバーがそれっぽいってだけ」
グラスの中で泡が歌う。甘く冷たいそれを喉に迎え入れれば、そこは小さなイタリアと化した。
受話器を置き、店主はやや気恥ずかしそうに笑う。カウンターにちらりと目をやれば、《秋の新メニュー候補:何かしら秋の味覚のペストリー? 栗? スイートポテト? やっぱりかぼちゃ?》と書かれたメモがあった。それなりに難航しているようだ。
「まだ早いといえば早いんだけどね。人気のマダムだから先約を取り付けておかないと。ほら、コーヒーと一緒にビスコッティを出してるだろう? あれを焼いてくれてるのも彼女なんだ。リトル・イタリーに店を構えてて……そうだ、今日はあの曲にしよう」
頼むよりも早く、店主はシェーカーにエスプレッソと砂糖、氷を入れリズミカルに振り始める。徐々に音が変わっていき、やがてそれはグラスに注がれた。そして今日も、彼はレコードにピンをさす。
「お待たせ致しました。イタリアで夏によく飲まれるカフェ・シェケラートを味わいながら、演奏に耳を傾けてくださいませ……別にイタリアっぽい曲ではないんだけどね。収録したメンバーがそれっぽいってだけ」
グラスの中で泡が歌う。甘く冷たいそれを喉に迎え入れれば、そこは小さなイタリアと化した。
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